1 ほら、こっちにおいでよ。
君は壊れたロボットくん。優しい放送局。
ほら、こっちにおいでよ。
生きていると不思議なことがいっぱいおこる。今日のぼくに訪れた出来事も、きっと、そうだった。
壊れたロボット ベル
世界が崩壊してから百年後。人間がいなくなって、廃墟となった生い茂る巨大な緑色の鮮やかな世界の中で。
「あ、えっと、こんにちは。ぼくはロボットのベルです。この放送を聞いている人が誰かいたら、ポイント、○○○○まで、きてください。通信機械があるのなら、こちらになにかの電波を送信してください。そこにぼくはいます。あなたがやってきてくれることを、ずっと、ずっと、待っています。ぼくはロボットのベルです。ぼくはここにいます。ここで、ずっとあなたを待っています。この放送は、優しい放送局から世界に向かって、放送しています」
ベルは毎日の日課になっている放送をおえると、ふーと一息つきました。ベルがこんな風に、ぼろぼろの(施設がまだ使える)放送局を見つけて、『優しい放送局』という名前をつけて、放送をするようになってからもうかれこれ、一年くらいの時間がたっていました。
その間、ずっとベルは放送をしていましたが、反応はどこからもありませんでした。(相手からの放送の電波を受信することのできる機械が放送局にはありましたが、反応はまったくありませんでした)
今日の放送を終えて、とことこと歩いて、放送局の屋上にでると、今日も、太陽が眩しいくらいにきらきらと輝いていました。高い空は永遠と見渡す限り、真っ青に晴れ渡っていて、とてもよいお天気でした。(思わず、ベルは笑顔になりました)
誰もいない(人間も、ロボットも)街は巨大な緑色の植物に覆われていて、まるで深い森の中にある古代の遺跡のようでした。
ベルは屋上に咲いている花や草木にホースで水をやって、(水道施設もなんとか機能していました)きらきらと水しぶきをあげながら、小さな虹を作ったりしました。ベルは「ほぁー」と眠たそうな顔で背伸びをしながら、大きなあくびをしました。ベルはお昼寝をするために(目をこすりながら)ぼろぼろの放送局の中に戻っていきます。
エネルギーはなるべく、節約しなければいけません。いつまでも、ずっとこのまま、人間が作ってくれた施設や機械が、壊れないままで、使い続けることができるわけではないのですから。(もちろん、ロボットのベルにもちゃんと『寿命(活動可能時間)』がありました。それは今も、ちょっとずつ、でも確実に減り続けていました)