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第1話

 それはそれはのどかな田舎の風景。

 新緑の牧草におおわれるなだらかな丘の斜面には、ちょいと間の抜けた顔の牛たちが草をはんでいる。

 春の日はぽかぽかで、そここに黄色や白の花が咲き、花の蜜に誘われた蝶がふわふわと飛んでいた。

 そんな平和な放牧地の乾燥した道を、小さな小山のような生きものがやってきた。


 ちょっと見は、人間の子どもの女の子だった。

 身長は周辺の田舎にいる六歳の少女と同じくらいに低かったし、小柄な体系だが、細くはなくむっちり。

 つぶらな黒い瞳はアーモンドのような形で、少々離れているために間延(まの)びした顔つき。眉毛は短いわりには堂々と太かった。鼻はつんと上を向いているため鼻の穴が正面から見えているといった感じだ。

 ようするに、どこをとっても美少女ではなかった。


 しかし、しかし、何よりも特徴的なモノは他にあった。

 黒い髪の頭には動物の、いわゆるネコのような耳が存在していたのだ。そしてまたネコのように先がまるくなった手をしていた。


 春の日はぽかぽかと暖かくて、ずるずると茶色のマントを引きずる彼女には暑かったらしく、うっすらと鼻の頭と額に汗が出て光っていた。

 小さな鼻の穴はつまっているのか、呼吸をするたびに甲高いピーという音がして、口からはぜいぜいと耳障(みみざわ)りな音をひびかせながら、がんばって彼女は進んでいく。

 彼女は革でできた使い込んだ荷袋をかついでいた。袋の膨らみ具合からいってそんなに物は入っていないみたいだが、疲れ切った彼女には重いらしい。

 険しい山を登る殉教者(じゅんきょうしゃ)のようによろよろ、よろよろと歩いていた。

 別の言い方をすれば、ハエたたきに一度たたかれちゃってもめげずに逃げ出す哀れなハエのようにへれへれと。


 そんな彼女の行く先に――

 

 牧草地と道の境界を分ける突き出た柵の横木に、一人の少年が座っていた。

 麦わら色の髪は肩に少しとどく長さで、茶色の瞳はわんぱくそうな表情をし、肌は働く農村の子にありがちに日に焼けていた。

 ひょろりと伸びた肢体で、濃い灰色の服と茶色のズボンを着こみ、鹿革の短靴をはいていた。

 少年は柵にのっかり、肩に棒きれを一本かついで、牧草地の上に点在している牛たちの様子をながめている。彼の足もとには年寄りの犬がのそっと寝そべっていた。

 

 ずるずる、ずるずる、ずるずる、ピーピー、ぜいぜい、ピー。

 

 彼女は音を立てながら進む。

 引きずるマントのすそは、間違いなく土まみれだろう。

 年寄り犬は、彼女のことを先ほどから気が付いているようだが、一回たれて重そうなまぶたをちょっと上げただけで、また何事もなかったように目をつぶって寝そべっていた。

 ようやく、少年は奇妙な音に気が付き、周囲を見回した。

 そうして、土ぼこり立つ道を進む彼女を発見したのであった。

 少年はギョッとして、目をむいて言った。

「なんだありゃ!おい、ハンス気が付かなかったのか?ってまた寝てんのかよ~おまえ牧畜犬っていうプライドはないのか!」

 年寄り犬のハンスは、頭上でわめく主人を片方のまぶたをあげてちろっと見上げると、「わしゃ知らん」と言うように再び目を閉じて、起き上ろうともしなかった。

「~~~~おまえはぁ」

 仲が良い主従のやりとり、ほほえましい交流がなされている内に、とうとう彼女は足もとの小石につまずいて、ばったりと倒れた。

「あっ、倒れた」

 至極(しごく)当然のことをのたまう少年。

 彼女は力尽きたのか、倒れたまんまのかっこうで、仰向(あおむ)けにさえなれないようだった。


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