抜け道で
初めて街へやって来ました。小さく可愛らしい街並みです。
昨日はそのままお城でお世話になったので、お屋敷から見える街を少しだけ見る程度でした。自室となるお部屋も街とは反対側なので、何もかもが新鮮です。
「マルシェだわ!」
目の前に見える屋台を見ながら言いました。
周りから見たら今の私、目がキラキラに輝いているでしょう。
「おや、見慣れない顔だねぇ」
「あっ、パン屋さん」
おば様に声をかけられ、私はそちらを向きました。おば様は、トレーに何種類ものパンを乗っけたまま、手招きをして下さいます。
「美味しそうなブリオッシュですね」
「ふふふっでしょう? ――はい、よければおひとつどうぞ。今回はおばさんからのプレゼントだよ」
「え、いいんですか……?」
「いいよぉ、初めましてのかわいいお嬢さんだもの。ふふ、是非また来てちょうだいね」
包み終わったブリオッシュを差し出され、私は恐る恐る受け取ります。
おば様の優しさに触れ、夢が覚めるまでの間通い続けることを誓いました。
(そういえば夢なのに食事もできちゃうんですよね~)
食事していると錯覚している――という可能性は大いにありえるのですが、あまりにもリアルでやっぱり変な感じです。
「ふふ、パンも頂きましたし……早速海へゴー! ですね」
私はこぶしを突き上げて、やる気を十二分に出します。
「……おや。海へ行くのかい? だったらそこにある一本道を進むと近道だよ」
一部始終を見ているおば様は、指を差して教えてくれます。
指の先を見ると、抜け道になっている細い道がありました。
「わっ、本当ですか?」
「綺麗な海よ~。楽しんできなさいね」
「はい! ありがとうございます! ……あ、それと――」
私は両手でドレスを摘むと、
「私、昨日からこちらのお屋敷でお世話になっております、マリアと申します。滞在期間中はどうぞよろしくお願いいたしますね」
と丁寧にご挨拶をしました。
おば様は「まぁまぁ」と口を押さえながら、ぺこりとお辞儀を返してくれました。
なんだかかわいらしいおば様だなと、そう思いました。
「マリアってんだねぇ、素敵な名前じゃないの。ご丁寧にありがとねぇ」
「いえ、こちらこそありがとうございました!」
手を振り一旦解散です。
私は教えてもらった抜け道へ入ると、海へのワクワクから走り出してしまいました。
おば様は綺麗だとおっしゃっていましたし、期待値は高いですよね。
軽く弾みながら私は道を進みます。
……結構森が多い街、なんですかね。
今歩いてる所、結構な木々と茂みです。
「あ、合ってますかここ……!」
私は心配になって、つい、言葉が出てきてしまいました。
とはいえ、人気がなさすぎて、声に出したところで意味はないんですけれど……。
「――誰ですか」
その時、どこからが男性? の声が返ってくるのがわかりました。
私はきょろきょろ辺りを見回して答えます。
「マリアです……っ! この道は海に繋がる道で合っていますか?」
お話している相手が見当たりません!
私は「あなたは、ちなみにどちらに……?」と聞いてみます。
「俺はここです」
茂みの奥の方に手を挙げる人がいらっしゃいました。
「そちらへ行っても……?」
「いや、俺が行きます」
彼はそう言うなり、腰を上げてこちらへ向かって歩き始めます。
目の前に現れたのは、銀色の髪の毛が跳ねていて、少しばかりぼろぼろの格好を身にまとった青年でした。
「ごきげんよう、改めてマリアと言います」
「セニシエです。街外れの家で使用人をしています」
使用人……? 使用人だと、もう少ししっかりとした服装なイメージがあるような……ないような。
この見た目、もしかして【シンデレラ】……?
セニシエと名乗る彼は、土で汚れた手を軽く払いながら、少し考えるような素振りを見せました。
「海に用があるんですか?」
「あ、はい。行ってみたいなぁ……と。先程も海が綺麗だと教えて下さいましたし」
「……そうでしたか。でしたら行ってみた方がいいですね」
やはり海は皆のオススメなんですね。
「ただ俺は何があっても保証はしません」
「え?」
セニシエさんはにっこり笑うと、とんでもないことを言い出しました。
「な、何が起きるんですか……」
「別に何も? 早く行ったらどうですか。“彼”は待ってると思いますよ」
「今彼って言いましたね! やっぱ誰かいらっしゃるんですね!」
「“やっぱ”……?」
セニシエさんは首を傾げます。
「あ、えぇとっ遊び相手をしろって、お屋敷の方に言われたんです」
「なるほど……」
言われて納得したのか、手のひらに軽くこぶしを打ち付けました。
「あっセニシエさんのお仕事? 自由時間? をお邪魔し続けても悪いですし、そろそろ行きますよ」
「ん? あぁ、気にしなくてもいいんですよ。どうせ“逃げてきてるだけ”なんで」
「逃げてる……?」
「えぇ、使用人ってのは色々と面倒なんですよ。たまには“あいつら”にもわからせてやった方がいい」
なんだろう、この、ゾワッとくる感覚。
セニシエさんは笑ってるのに、笑ってないです。
「あ、あの……っ」
「なんですか?」
「何かあるのでしたら……、相談に乗りますよ」
私はセニシエさんに言いました。
「て、初対面相手に相談できるわけないですよね……っあはは」
「――そのうち頼むかも」
「あれ……?」
自分から言い出したものの、意外な返答に、私は少しだけ戸惑いました。
「ははっ、冗談ですよ。またお話しましょうね」
セニシエさんはそう返事を残し、道の先を行ってしまいました。
私はその背中を見つめて思います。
夢の世界でも悩みを持つ人達はとても多くいるということを。
カルアさんとの約束もありますし、もし自分に何かできるのであれば協力したいなと、そう感じました。




