どこへ行こう?
朝の日差しの眩しさにふと、私は目覚めます。
軽く目を擦り、重たい身体を起こして思いました。
「……やっぱり、夢の中なんですね」
寝て起きたら現実世界、なんて事もあるかと思ったのですが、そんなことなかったようです。
ならば夢の世界を楽しむ他ありません。
そうなればやる事はひとつ。
「街探検です!」
私はネグリジェを脱いで、普段着用しているドレスに着替えます。
「あれ……でも、流石に出かけるなら声をかけた方がいいのかしら」
「別にいいんじゃない?」
「そうですよね……! 自由にしてて構わないって言われ――」
目が飛び出ました。なんと、カルアくんが隣に立っているではありませんか。
「おはよう、マリア」
「お、おおおはおはおは……」
「あはは、びっくりしてる」
「びっくりしますよ! 昨日はバルコニーに突然…っ夢でも怖いです!」
私はそばにあった枕をぽいっとカルアくんに投げつけます。
カルアくんは「おっと」と言いながらも、それをキャッチして笑います。
「ねぇねぇ、話戻そう。今日は街探検だよね?」
一体誰のおかげで話が逸れたと思ったんです? とふくれっ面でカルアくんを見ますが、彼は気にもとめずに催促してきます。
私は話を合わせるように、街探検の話題に戻ります。
「そう……ですね。今日は街探検に出かけます! 何があるかドキドキワクワクしますねっ」
「――ならさ、海辺の方とか行ってみるのはどう?」
「? 海辺、ですか? ……って、ここには海があるんですか!?」
カルアくんの一声に、一気に目が輝くのが自分でもわかりました。
なんということでしょう。私、海が大好きなんです。
太陽に照らされてきらきら輝く海も、月明かりに照らされて不思議な感覚になる美しい海も、天候によって全く異なる顔を見せる海も、全部全部大好きです。
「どちらにあるのでしょうか!」
「あれ……。バルコニーから見えなかった? ここからなら右側に見えるはずだけどな」
そう言ってカルアくんはバルコニーへ向かって歩き出します。閉じていたカーテンを横へくくると、窓を開きました。
「あ、ほらほら。あっちの方に小さく見えない? あれが海だよ」
一歩先に出てカルアくんは指をさします。
私も言われるがまま目線をそちらへ向けると、
「わ、わぁぁっ見えますね! 昨日は気づきませんでしたが、ちゃんと見えます! ……かなり遠そうですが」
「大丈夫だよ。夢だもん」
カルアくんは問題ないよ、と呆気なく答えます。
「でも、本当に遠そうですよ……?」
「行ってみたらわかるって~。え!? もう着いた!? ってなるよ」
「本当に……?」
「本当だって」
えぇ……と思いながらカルアくんを見つめますが、カルアくんは私の肩をべしべしと叩きながら「大丈夫大丈夫」と楽しそうに言うだけです。
「夢っていうのはね、余計なところは省いちゃうの。だって面白くないでしょ?」
そう言ってウィンクをキメるカルアくんに、最終的に私は「まぁ、いっか」という気持ちにさせられました。夢ですからね。
「というわけでマリアの街探検海編開幕~!」
カルアくんは言いながらバルコニーに足をかけました。
「またねー!」
そう言うや否やバルコニーから飛び出してしまいます。
「えっ!? ちょっ、だからここ三階ですって……!」
私は心配になり下を覗きますが、既にカルアくんの姿はありません。
「もう、神出鬼没のやり方が危なっかしいんですよカルアくんは……!!」
私は口に出して叫びます。
ですがもう、カルアくんがバルコニーに現れても飛び降りても気にならないかもしれません。早くも慣れって怖いです。
「――朝っぱらからうるさいですね、貴女は」
「!?!?!?」
突然、左から声が聞こえたので驚いてしまいました。
今度はなんですか!? と振り向いたところ、隣のバルコニーからこちらを見つめるティアさんがいらっしゃいました。
柵に肘を着き、ため息を吐いています。
また呆れさせてしまった……? 私は身震いしてしまいました。
「ティアさんおはようございます! 今日もいい天気ですね」
声をかけられ、目も合ってしまったことですし、とりあえず挨拶をしてみます。
「おはようございます。貴女の騒がしさに目が覚めました」
「あ……それは、申し訳ないです……」
確かに朝っぱらから騒がし過ぎることには違いありません。私はぺこりと謝罪します。
「まぁ、冗談なんですけど」
と、ティアさんは私の部屋のバルコニーにほど近い、右側の柵へやって来ました。
私は反対に左側へ寄ると、近過ぎず遠過ぎずな距離感になります。
「もう起きてましたから」
ティアさんは小さめの声で、手を添えて囁くように言いました。
私は耳を傾けて、必死に聞き取ります。
聞き取りました。
「起きてたんですか!」
私は謝り損です! とティアさんに怒ります。しかしティアさんは知らんぷりです。
というか、昨日バルコニーには近づかないでおこうと決めたばかりだったのに、早速こんな状況になってしまっているなんて。
あたふたしながら私は立ち去ろうとします。
「で、ではっ私はこれで去りますので…! あ、今日は海に行ってきます!」
一応、行き先を伝えて。
「海……?」
ティアさんは首を傾げます。
「あ、あれ…?」
「海に行くんですか?」
ティアさんは顎に手を添えて言います。
「あ、……はい。せっかくなので」
「……そうですか。でしたら、遊び相手をしてやって下さい」
「遊び相手?」
今度は私が首を傾げます。
「行けばわかります。では」
そう言うなりティアさんは部屋へと戻ってしまいました。
「…………」
ここには神出鬼没な人しかいないんですか?
「……とりあえず、誰かに会えるってことですよね?」
でしたら会いに行くしかありません。
私も部屋へ戻ると、身支度を整えて外へ飛び出しました――。




