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戦争

 次の日、私は街へ出かけました。

 様子を見るためです。

 いつもの雰囲気に戻ってはいますが、こそこそと陰口を言われている気がします。

 昨日の一件で、シェルディさんを庇ったからでしょうか。

 直接何かを言われることはありませんが、きっと変な奴と思われていることでしょう。シェルディさんの耳についてもそうですが、民衆が獣人族を嫌っていることも私は知りませんでした。

 それこそ、私は部外者なのです。気にすることではありませんでした。


「パン屋さんこんにちはっ!」

「おや、マリアちゃんじゃないかい。毎日会うねぇ」


 私は周りを気にすることなく声をかけました。

 こういうのを空気が読めないと表現するか、強い心を持っていると表現するか、それは人それぞれかと思いますが、ここは私の夢です。私がへこたれたところで進まないんです。


 我が道を突き進むが勝ち! なんです。


「今日のオススメはありますか?」

「そうだねぇ、焼きたてのクロワッサンかね。……ほれ」

「わ、ほんとだ出来たてホヤホヤ……っ! それください!」

「はいよ」


 お金を支払い、私はクロワッサンを受け取りました。


「――マリアちゃん、そういえば昨日……」


 パン屋のおばさんがふと、昨日(さくじつ)の話題を振りました。

 やはり、パン屋さんにも伝わっているみたいです。


「昨日はお騒がせしてしまい、大変申し訳ありません」


 私はひとまず謝ることにしました。

 騒ぎになった事実は変わりませんし、謝って損はないでしょう。


「いや、あたしは気にしてないんだけどね……。でも、獣人族と仲良くするのは、ここでは辞めた方がいいわよ」

「……えっと、理由を伺っても?」


 おばさんは旦那さんへ店番を任せると、ちょいちょいと招かれ、屋内へと入りました。


「――何か飲むかい?」

「お気遣いありがとうございます」


 おばさんは紅茶を入れると、私に差し出しました。


「マリアちゃん、あんたはまだここへ来てそんな経ってないだろうから伝えておくよ」

「………」


 私はこくり、と頷き彼女の方をじっと見つめます。


「忘れもしない。まだつい最近の十年前のことさ――」


 おばさんは向かい側のテーブルに座ると話し始めました。


「この街と、森を挟んでどのくらいか歩いた先にある獣人族の街は争ったんだよ。……戦争だね」

「……せん、そうですか」

「あぁ、始まりは一人――一匹と言った方がわかりやすいかな。獣人族の男が此処の人間を食い殺したことから始まってね」


 おばさんの言葉に、血の気が引くのがわかりました。

 私は「それは、本能から……ですか?」と訪ねます。


「そうだね、あれは(まさ)しく本能だろうね。しかも、狼族だったよ。お嬢さんが庇った青年と同じだろう?」


 ――元々は人間と獣人族はいわゆる貿易関係にあったそうです。

 街中は、両方の種族が当たり前のように会話を交わし、活気に溢れていました。


 しかし、ある日それは起きました。


 獣人族との貿易関係は破棄され、関わりを持たなくなりましたが、獣人族は不平不満を漏らしました。


「そりゃそうなるわよね。獣人族は肉食じゃない良心的な種族も沢山いるんだから」

「だから……怒ってしまったんですか? 獣人族の皆さんが」

「……そういうことさ」


 処されるべきは狼族のそいつだけでいい、肉食だけを管理すれば問題ないだろう。そう向こうは訴えました。

 何故そこまでしたかと言うと、彼らは貿易が一番の稼ぎだったからです。

 勿論、この街の人達も似たようなものだとは思いますが……。


「……だけどね、あたし達も皆怖くなっちゃったんだよ。この街だけじゃない。周辺の国に住む人間達皆、その噂を聞いて『獣人族=危険』という認識になっちまったんだ」


 だからでしょうか。獣人族と貿易関係を結んでいた他の国達も、どんどん辞めていきました。


 でも、それのせいでヒートアップしてしまうのです。

 獣人族は手を取り合い、人間達を襲ってしまったのです。

 獣人族は本能に目覚めてしまえばとても強い生き物。人間一人で立ち向かって相手できる存在ではありません。

 だから周りの国達と手を組んで戦ったのです。


 これが戦争でした。


 獣人族一国と人間三国です。数では圧倒的に人間が有利でした。

 ですがそうもいきません。戦いはかなり難航したのでした。

 最終的に勝利を取ったのは人間でしたが、失ったものも多く存在しました。奪われた命もあれば、怪我の後遺症に苦しむ者、家を失った者……たくさん存在しました。

 ――そう、シェルディさんがワインを届けていた車椅子のおじ様は、戦争で足の機能を失った者の一人でした。


 ……それは、何とも言えない、悲しいお話でした。

 どちらが悪いとか、そういう問題ではない苦しさが襲ってきます。


 ――って、その前に、空気読めないこと言う自覚があるのですが、言わせてください。


 設定細すぎませんか……?


 びっくりな程細かい気がするんですけど……! これ、夢ですよね? 夢ならもっと大ざっぱでいいのでは……?

 だってほら、カルアさんも言ってたでしょう? 


『夢っていうのはね、余計なところは省いちゃうの。だって面白くないでしょ?』


 ――って。

 ……あぁ~、そう考えるとこの夢的にこのお話は重要ですから、やたらと細かい設定があってもおかしくはありません……っ。


 か、カルアさん~っ!


「どうしたんだいマリアちゃん」


 頭をわしゃーっとやっていた私を心配したおばさんは、首を傾げました。


「あ、すみません……。なんでもないんです」

「……そうかい。でも、この話を知らないってことは、相当遠くからやってきたんだねぇ」


 おばさんは紅茶を口に含むと、


「戦争なんて、何一ついいことなんてないね。反対にあんたが戦争を知らなくてよかったよ」


 と笑いました。


「……あたしはね、獣人族でも親切な奴がいるってことは知ってるから、あんたが庇った子も罪がないことくらいわかるさ」

「おばさん……」

「だからね、いい結果になること願ってるよ」


 おばさんは腰を上げ、私の肩をぽんぽんと叩きます。

 それが優しくて、あたたかくて……。絶対になんとかしてみせようと思いました。

 大丈夫です。ここは夢の世界なのですから、きっと私の思う通りに動きます。


「私、がんばります……っ! 絶対の絶対、彼を助けます!」

「うんうん、いいねぇ。応援してるからね」


 おばさんの応援があれば、百人力です……!


 私はおばさんに沢山お礼をし、その場を後にしました。


「……シラユキさんに会いに行こう」


 話し合いをする前の話し合いをしに――。

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