わからない
「――シラユキさん……っ」
小屋に着くや否や、開口一番にシラユキさんの名前を呼びました。
いきなり中へお邪魔するのは失礼に当たると思い、シラユキさんが普段いる木陰辺りを探してみますが、動物達含めて誰もいませんでした。
「……突然押しかけるのは、やはりよくなかったでしょうか」
そう思っていると、
「……何で来たの」
と不服そうな表情を浮かべながら、白のケープコートを揺らすシラユキさんが森の奥から現れました。
「し、シラユキさん……」
「何であんなことしたの? ……って、言いに来たの?」
「あ……っ、えっと……」
シラユキさんはいつもののんびり、ふわふわな雰囲気は持ちつつも、暗い表情を浮かべています。
私は心配でここへ来たはずなのに、シラユキさんの表情が怖くて、来てはダメだったのかもしれないとさえ思い始めました。
「私は……ただ、心配だったんです。きっと、理由があるのはわかっていましたから」
「なんで……? 心配なんて、ないでしょ。僕の何を心配するの……? 僕はシェルディを苦しめてる犯人なのに」
シラユキさんは片方の腕を握りしめるように、怒りを抑えるようにして言いました。
その時、思いました。
シラユキさんは、自分自身に怒っているのだと。
「……シラユキさんは、シェルディさんのこと……お嫌いですか?」
「どうして、そんなこと聞くの……?」
「すみません……」
シラユキさんは片手で持っていた本を抱きかかえて、小屋の方へ体を向けました。
「……嫌いじゃない。だけど、“好きになれない”。……仲間、だと思う……けど、わからない」
そう言って、シラユキさんは小屋の中へ入ってしまいました。
ガチャリ、と鍵を閉められてしまったので一旦終了です。
い、一瞬で会話が終わってしまいました……。
私はシラユキさんの言葉を聞いて、複雑な心境でした。
彼らは、互いを思っているのは間違いなくて、だけど……心と行動がズレている感じがしました。
シラユキさんの反応に嘘は見られません。
私は帰るしかなくなり、薄暗くなっている森の中を、とぼとぼ歩きながら考えます。
「マリアはどうしたい?」
そんな時、カルアさんが現れました。
「遅いですよ。何で、大事な時に来てくれないんですか?」
「……それは、オレが“部外者”だからだよ」
「どうして? お友達、でしょう……?」
「……ごめんね。それでもダメなんだ」
カルアさんは首を横に振りました。
夢なんだから、部外者とか、そんなの関係なく助けに来て下さいよ。
そんな感情が芽生えます。
「――さ、真っ暗になる前に早く戻ろ」
カルアさんは私の手を優しく握り、小道を並んで歩いてくれました。
その優しさを、二人に当てて下さい……。
私は思っても口に出せませんでした。
だけどそれでいいんです。彼は私の心の声も聞こえているのですから。
――お城へ戻ると丁度食事の時間でした。
カルアさんはいつものようにすぐ消えてしまい、私は大人しく食堂へ向かいました。
そこには無事に赤いマントを身につけたシェルディさんもいて、一応着席しているといった様子でした。
「――では、いただきます」
「いただきます」
食事に手をつけますが、上手く飲み込めません。
こんなにも美味しいお料理が並んでいるというのに、空気が重いのも何だか苦しいです。
「マリアが来てしばらく経つけど、初めてこんな静かだよ」
イバラさんは苦笑しました。
「確かに、すぐ『綺麗』、『美味しい』、『おかわり』ですからね。――ほら、シェルディさんもわかるでしょう?」
「想像つくな……」
頷きながら、ティアさんも言いました。
彼らはあくまで日常を装って、晩餐を楽しもうとしている感じがします。
ならば、私もいつものようにした方がいいでしょう。
「そうですよね。私が静かなのもおかしな話ですよね。確かにしょうに合いません……っ」
「はははっ、うん。元気なマリアを見せて」
イバラさんはそう言ってくださいます。
だけど、だけど……!
「わ、私はもうわかりません……っ!」
食事中だと言うのに、叫ぶ勢いで言葉を発してしまいました。
あぁ、心の中にしまっておくつもりが……。
「――シラユキ……、なんか言ってたか」
その時、シェルディさんがこちらを向いて言いました。
持っていたナイフとフォークを置いて、聞く姿勢に入ります。
「……えぇと」
お話したいけれど、難しくて……なんて言うのが正解なのでしょうか。
「いいよ、ゆっくりでいいから」
「喉詰まらせてもいけませんしね」
イバラさんも、ティアさんも優しく促してくださいました。ティアさんはちょっぴり違う気もしますが。
私も手にしていた物を置いて、
「……えっと、難しい……んですけど」
と紡ぎ始めました。
「単刀直入に言いますと……、シラユキさんは、『シェルディを苦しめてる』とおっしゃいました」
「………」
「一瞬で会話が途切れてしまったので、あれ、なんですけど……、自身に対して怒っているような、苦しんでいるような感じでした」
シラユキさんの反応はまさにそんな感じです。
「私には……彼自身、どうしたらいいのかわからないといった感じに見えて……、何が正しいのか、不安定な状態でした」
しんと食堂が静まり返り、シェルディさんを始め、イバラさん、ティアさんも考え込むように腕を組んだり、顎に手を置いたりしています。
私は誰かが話始めるのを待つ間、やはり、シラユキさんを一人にするのもよくないのでは? と改めて感じました。
「――“仲直り”、できるかなぁ」
少しの沈黙の後、シェルディさんは言いました。
「仲直り、ですか……?」
「うん、仲直り。……だって言ってたんだろ? オレを苦しめてるって。ははっ……なぁんだ、大した事じゃなかったな」
シェルディさんは震えながらも、どこか安心した様子も見せて笑います。
仲直りなのかはわかりませんが、私は彼らが上手くいく方法があるのなら、お手伝いしたいと思いました。
……ですが、彼らが今会ったとしてどうなるでしょうか。
話し合い、できるのでしょうか――。




