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湿っぽい

***


 お城に着くや否や、私達は地下牢へと向かっていました。

 この世界のお城にも、しっかり地下牢は存在するみたいです。


「……ティアさん」

「静かに」

「…………」


 前を歩くシェルディさんの背中を見ると、ぼろぼろで悲しそうに見えます。

 大切だと言っていた赤いマントは汚れ、少しだけ破れてしまっていました。


「私達、何も悪いことしていません」


 静かに、と言われてしまいましたが、耐えられずに呟きます。


「……知ってますよ」

「え?」


 ティアさんは観念したように小声で言いました。


「だから、知ってますよ。第一、私達がシェルディさんの耳を知らないと思いますか?」

「じ、じゃあ……何故このような」


 合わせるように、小さな声で聞きます。


「手っ取り早く逃がす為ですよ」

「逃がす為……?」

「あの人混みの中からシェルディさんを出すならそれが一番でしょう。あの場で助ければ私達も反逆者になり面倒臭いことになります。……反逆者になるには段取りが必要なんですよ」


 ティアさんは言いました。


「それに本気で処刑しようとしているなら、イバラと私だけでは動きません。もっと人を寄越します」


 確かに普通でしたら、騎士やその他いろんな人がいてもおかしくないです。


「……でも、本当に地下牢に行く必要あるんですか?」

「ありますよ」


 ティアさんはちらり、と外に視線を向けます。

 そこには民衆の内、数人がこちらを監視しているのが見えました。


「地下牢の場所を知ってる意味がわからない人もいるんですよ。だからこの道を通らなければ逃がしたと思われてしまう」


 およそ、以前罪人が捕まった際、地下牢がどこにあるか知った人でしょう。

 そうティアさんは説明してくれます。

 だからこの道を通り、ちゃんと捕まりましたよ。と見せつけなくてはならないのです。


 夢は無駄なことを省いてくれるのでは……?


 嘘でもこんなに虚しいことがあっていいものですか。


「――入って」


 イバラさんにそう言われて、地下牢への階段に足を踏み入れます。

 やっぱり、地下牢っていうものは薄暗くて湿っているんですね。


「てことで地下牢に着いた」

「それはわかりますよ……っ!」


 ぴちゃん、ぴちゃんと水が滴り落ちる音を聞きながら、私はこんなところでもツッコミを入れてしまいます。


 く、空気感……っ!


 て、そんなことはどうでもよくて!

 私達は拘束を解かれ、地下牢の前で四人、不思議な状態になっています。

 ある程度ここで過ごすことになりそうではありますが、シェルディさんを考えると早く落ち着ける場所に移りたいものです。


「――シェルディ」

「……はい」

「マント、直そうか」


 イバラさんはシェルディさんを心配して言いました。


「……でも、これがないと」

「すぐ直させるよ。大丈夫」

「…………」


 シェルディさんはマントを脱ぎ、イバラさんに差し出すと、「ごめん」と謝罪しました。


「なんで謝るの。シェルディは悪くないでしょ」

「そうですよ。この街がおかしいだけなんです。だから気にすることは――」

「違う、違う……っ! オレがこんなところにいるのがいけないんだっ、オレが生きてるから……」


 シェルディさんは膝を折り、泣き出してしまいます。

 私はいてもたってもいられず、隣に座り背中をさすりました。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

「大丈夫ですよ、私達がついてますから」


 ティアさんも、シェルディさんを慰めるように頭を優しくなでてあげるのが見えました。

 やはり、ティアさんはお優しい方です。


「イバラ、早くマントを直しましょう。その間にも何か布があれば用意を」

「……あぁ、そうだな」

「じゃあ、マリアさん。少しの間シェルディさんをお願いできますか」


 私は頷いて二人を見送ると、シェルディさんに声をかけました。


「シェルディさんは、とてもいい人ですよ」


 するとシェルディさんは、私に抱き着いて首を大きく振りました。


「やめてくれ……っ。オレはそんなにいい人じゃないし、なんなら、悪い“オオカミ”なんだよ」

「なんで、そんなに自分を卑下するんですか……?」


 私は抱き締め返しながら言います。

 シェルディさんの身体は大きく包み込まれるような感じですが、沈んだ表情ですがる姿はまるで小さな子供のようで、胸が苦しくなりました。

 シェルディさんは、ぎゅっと私の背中の服を掴むと、


「オレがシラユキを苦しめてるんだ」


 と答えました。

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