波乱
「え……っ」
私はシェルディさんを見つめます。
シェルディさんはすぐにフードを被り直しますが、後ろの通行人も、マルシェの人達も、みんなおじ様の声に反応し、こちらを見ている状態です。
彼の耳を、見てしまっていました。
「化け物よ!」
「消え失せなさい!」
先程までよくしてくれていた人達が、一斉に声を粗げます。
シェルディさんはいてもたってもいられず、走り出しました。
「シェルディさん……!!」
私は追いかけようとしますが、おじ様に手首を捕まれ止められてしまいました。
「は、離してください……っ」
「やめなさい、あれは化け物だよ」
「な、なんで……? さっきまであんな楽しく……」
おじ様は首を振りました。
「この国ではね、獣人だけは認められていない。それが半分の血だとしてもだよ」
「……っそんな」
だったら、尚更シェルディさんの元へ行かなければなりません。
彼の耳には驚きましたが、そんなの関係ないんです。
私達は友達なのですから。
「ごめんなさいっ!」
勢いよく振り解き、私は駆け出します。
「待ちなさい!」
「シェルディさん待って!」
おじ様の声が聞こえた気がしますが、気にしません。
ですが、駆け出したのも束の間、「やめてくれ!」というシェルディさんの叫び声が聞こえてきました。
街の真ん中で彼は蹲っていました。
街の人達はシェルディさんに向かって、物を投げつけます。
ゴミ、果物、卵――そして、先程売ったワイン。
「奴を捕まえろ!」
「女子供は下がっていろ!」
そんな言葉が飛び交います。
なんで酷い言葉が出てくるの?
なんで彼をいじめるの?
なん――
「……これが現実だよ」
「し、シラユキさん」
「……早く助けなきゃ、シェルディさんが大変です」
「そう、じゃあ……僕は帰る」
「え……?」
………………なんで?
「って、言ってる場合じゃありません……っ! シェルディさん!!」
男の人に押さえつけられ、地面に頬を擦り付けるシェルディさんに駆け寄ります。
「彼を離してください!」
「何言ってるんだ嬢ちゃん! こいつが何なのかわからないのか!」
「それは……“人間”ではないのですか?」
「化け物だよ!!」
「…………」
男の人は力強く言いました。
シェルディさんは小さくため息をつくと、
「いいんだよ、マリア」
と、呟きました。
「ダメですよ、貴方を助けて逃げます」
「……」
そんな時、ざわざわと声が聞こえてきます。
目の前で起きていること以外の、ざわめき声です。
「道を開けてください」
「一体なんの騒ぎです」
聞き覚えのある声が近くから聞こえ、顔を上げました。
ティアさんとイバラさんです。
ティアさんは私たちの前まで来ると、「何かと思えば貴女達ですか」と頭を抱えました。
「助けて下さい! 貴方達が頼りなんです……っ!」
私は二人の前に立つと頭を下げてお願いしました。
この二人が来たのであれば、シェルディさんも安全です。
今のように苦しむ姿から解放してあげられる。彼は別に何も悪いことなどしていないのですから。
「そう、だな……。お前達、こいつから離れろ」
「は……、ですがイバラ様」
「離したら逃げられますよ」
シェルディさんを押さえつけている男の人達は顔を見合せます。
「いいから」
イバラさんは男の人二人を制するように言うと、即座に彼らは立ち上がります。
そして、この一瞬で傷だらけになってしまったシェルディさんの前に立つと、「立って」と言って手を伸ばしました。
「そいつを庇うのかい?」
果物屋さんのおばさんは、恐ろしいと言った様子でこちらに目を向けます。
周りの人達も有り得ないといった面持ちでざわめき出します。
立ち上がったシェルディさんはイバラさんの前で申し訳なさそうに、
「ごめんイバラ、巻き込――」
「違いますよ果物屋さん。罪人は城で監視した方が都合がいい。だから」
「え――」
シェルディさんの両手首をものの数秒で拘束し、言いました。
「処刑までの間、大人しくするんだな」
「どう……、して」
私は意味がわかりませんでした。
彼が一体何をしたというんですか。
処刑って、なんなんですか。
「イバラさん……っ!」
「ティア」
「――はい」
ティアさんは私を一瞥すると、
「静かにしてて下さい」
と言いました。
町中の人に見られながら、お城までの道を罪人よろしくといった最悪の空気感の中、とぼとぼと歩きます。
罵倒が飛び交う中を歩く感覚は、もうこれっきりにしたい程です。
なんで、こういう時にカルアさんもモランゴさんも来てくれないんですか。
この世界は私が主人公で、私が主導権を握ってて、みんなを助けるんじゃなかったんですか。
ティアさんも、イバラさんも仲間なんじゃないんですか。
助けるって、こんなにも大変なんですか。
楽しい世界、じゃないんですか……?
私はもう、大混乱の渦に巻き込まれて、正直頭が追いついていませんでした。




