第七話 この景色を君に
あらすじ
フラクトとスフェーの最初の任務はロケットさんの付き添いだった。リコ・アルデラの捜索依頼の為、各都市に赴かなければならなくなり、ロケット、フラクト、スフェーの三人は最初の目的地である「武術都市」黎明に向かう。
「───ん、まぶし、、、。」
窓から差し込む光が俺を眠りから覚ました。
横になって寝ていた俺の隣でスフェーがいびきをかいて寝ている。
俺はほっと息を吐いた。
今回はちゃんとスフェーがいる。あの琳って人がいた『空の理想郷』っていう空間じゃない。
体を起こして周りを見ると、あの空間にはなかった俺たちの荷物がしっかりあった。時間も確実に進んでいて、恐らく陽の傾き加減的に17時くらいだろうか。
ただ、あの空間と一緒なのはロケットさんがいないということだった。
俺は席を立って、あの空間でやった行動と同じように前の車両に向かう。ロケットさんがいないというだけで、荷物はあるから、おそらく前の車両にいるだろうという予想だ。
俺は連結部のドアを開ける。すると、予想通りロケットさんはいた。
外を見ていたロケットさんだったが、俺がドアを開けた音でこっちに気づいた。
「お、フラクトくん。おはよう。今は夕乱の少し前の夜嬰だね。夕乱はもう直ぐで着くくらいかな。」
「おはようございます、ロケットさん。やっと黎明に入ったんですね。」
今のロケットさんの言葉で琳さんが言っていたことが正しかったと確認できた。
「うん、流石に大陸の反対に行くのは時間がかかるね。まあ黎明に着いたら、手厚いお迎えがあると思うから楽しみにしててよ。」
「て、手厚いお迎え、、、?」
パーティーみたいなものがあるのか?
でも聞いていた話だとロケットさんと黎明の神狩である五月雨さんって人は犬猿の仲だと言っていたはずだが、、、。
予想がつかない『手厚いお迎え』に思考を巡らせていたが、さっぱりわからない。
実際あと数十分で体験することになるだろうから今結論は出さなくてもいいだろう。
「お楽しみってとこだね。多分超スリリングだから。」
「え、、、。」
「まあ深く考えなくていいよ。なんかあっても俺が居るから。」
スリリングと聞いて心配が強かったが、ロケットさんがそう言ってくれると安心感が違う。ハンター界最強の神狩に守って貰えるのだ。
「こういう機会もそんなにないしね。フラクト君はただの遠征だと思って楽しんでよ。」
ロケットさんが微笑む。
出発前にも言われたが、ただ楽しむ。それができるのが一番俺としてもいいのだが、『空の理想郷』に巻き込まれたことといい、何かしらのイベントが起こることは覚悟しておいた方がいいだろう。
「大体今回の主な目的は『リ・ランド』の社長の娘さん、リコ・アルデラの捜索依頼。基本的には各都市の長に俺が依頼をする。多分、これ程大物の事件だから世間に広めてないとはいえ、長が知らないわけは無いと思うけど皆動かないからね。」
ロケットさんは溜め息を吐いた。やはり各国のTOPへの依頼となると面倒臭いんだろう。
「まぁ、、、そういうのは今回フラクト君には関係ないから、気にしないでいいよ。」
ロケットさんは窓の外を見る。俺はそのタイミングで少し下を向いた。
こんな暇な時にふと考えてしまう。何故自分は今こんな状況になっているのかを。
よく考えてみたらハンターとして活動を初めて一週間も経っていないのに重要なミッションに関わっているのはおかしいのでは無いか?
ロケットさん曰く、「俺らを鍛える」、「顔がバレていない」、この2つの理由で連れられているが、この条件なら俺ら以外にメカルク所属になったハンターに、俺らより強いハンターに依頼すればいいじゃ無いか。
しかし今更こんなことを考えても時すでに遅しで俺らは黎明にまで来てしまったんだ。ここまで来たならロケットさんについて行くしかないのであろう。
実際俺が正式にハンターになって未だユニムと戦っていない。それどころか遭遇すらしていないのだ、あのユニムの発生が多いメカルクで。まるで意図的にユニムと接触させないようにしているとも考えてしまう
いや、流石にそれは考えすぎか。
まだこっちにきて3日だ、偶然出現していないという方が確率は高い。もしも意図的に避けさせられているのだとしたら誰が何のためにしているのかが分からない。それをしたところで何かメリットがあるのだろうか。
俺は自問自答を繰り返し考えに耽る。
これが俺の長所でもあり短所でもあった。
「フラクト君?大丈夫かい?」
「あぁ、すみません。ちょっとまだ眠気が取れてないみたいで。」
「そうだった、今日5時くらいだったっけ起こしちゃったの。ごめんね、事前に来る時間とか何も伝えなくて。」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
全然大丈夫なわけがない。
言葉ではそう言ったが、実際は先に言って欲しかったと愚痴を漏らしたい。言えるわけないから心の中に留めておくが。
「それのお詫びと言ったら違うかもしれないけど、、、」
ロケットさんは親指を窓の方に向けて、窓の外を見るようにジェスチャーを送る。
それに応えるように窓の方を向く。
指された窓の外には、夕陽が二つあった。
「え、、、すご、、、」
思わず声が漏れた。
水平線上で真っ赤な夕陽が二つに別れて揺らめいている。 世界の終末のような破滅的な美しさが外に広がっていた。
しかし先ほどまでは窓の外にこんな景色なかったと思うが、、、。
「夕乱。その地方では一つしかないはずの夕陽が二つに見えてしまうことがあった。その景色に心を支配されてしまった者は世界の破滅を論じて自ら命を絶つ。その結果夕乱は呪われた土地と言われ、人が去っていった。」
ロケットさんは窓の外の異様な世界を眺めながら話す。
「有名な話だよ。この余りにも奇麗な光景は人々に破滅と死を直感させてしまう。なんでこう見えるのかも未だに分かっていないけどね。ロンの奴らが解明のために研究してるっぽいけど、ロマンが無くなるからやめて欲しいね。」
ロケットさんの言う通り、俺もこの景色を見て心の中では死を恐れた。今にも目の前に広がる広大な土地が割れ始め、やがては全てがなくなってしまう。そんな妄想を考えてしまった。
そう思わせてしまう力がこの景色にはある。
「この現象は空気がとても澄み切っている日に夕陽が水平線上にきた時のみ見られる。マナとかも関係しているかもって言われているけどよく分かってはないんだよね。今日急に出発って行ったのもこれを見せたかった為だったんだよ。」
「なんて言葉にしたらいいかわかんないですけど、、、本当にありがとうございます。こんな景色生まれて初めて見れたので、、、。」
涙が溢れてくる。これは自分でも感動の涙なのか、本能が死を受け入れた諦めの涙なのか分からない。
やはり自然というのは人智の範疇を軽く超えている。
「黎明はここ以外にも自然が織りなす壮大な景色が多数ある。自然と共生していく暮らしを方針に掲げた都市をこれから堪能するといいよ。」
俺は気付かぬうちに頬に流れてきた涙を拭いとる。
すると列車の連結部の扉が勢いよく開いた。
「フラクトやばいぞ!夕陽が二個に分かれてるぜ、、、あ。」
扉の向こうから出てきたのはさっきまで寝ていたスフェーだった。
スフェーは俺の奥にロケットさんが居ることに気がついた。ロケットさんの前でははしゃいでいるところを見られるのが嫌なんだろうか?
俺はこの現象についてスフェーに教えた。
教えたと言っても、さっきロケットさんから聞いたことをそのまま言っただけなので、正確にいえば教えたのではなく伝えた、の方が合っているのかもしれない。
スフェーは目を輝かせながら「すげー」とだけ言った。
スフェーのような頭の悪さでもこの景色の壮大さは本能的に理解できるのであろう。
「フラクト君、スフェー君。この世界には今見ているこの景色と同じくらい壮大で奇麗な景色が幾つもある。もちろんハンターとして過ごしていく上で過酷な戦いに望むこともあるだろうけど、君たちはこの世界の美しさも見ていって欲しい。」
ロケットさんはそういうと「少し先輩面っていうのをしたかったんだよね。」と少し恥ずかしそうにしていた。
お久しぶりです。
私事が忙しくなり投稿に時間がかかってしまいました。
次回から黎明編となります。