第六話 『空の理想郷』
皆さんこんにちは。
あっという間に2ヶ月が経過してしまいました。申し訳ないです。
今後も投稿が開く可能性がありますが、元気に社畜していると考えていただければ結構です。
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「、、、ん、、、。」
窓から差し込む日光で目が覚める。俺はいつのまにか座席で横になって寝ていたようだ。
陽は列車に乗った時よりかは上に昇っており、寝る前は陽がほとんど出ていなかったことを考えると相当な時間寝ていたようだ。
「っ痛」
起き上がろうとしたところ、少し硬い座席で腕を枕代わりにしてしまっていたせいか、僅かに腕に圧迫による痛みがあった。
ロケットさんの貸切なんだからもう少しいい座席のある車両を用意してもいいんじゃ無いかと、この座席に横になっていて感じた。
窓の外の景色も寝る前とだいぶ変わっており、民家などの建物は見えず、草原が遥か遠くまで広がっていた。
この景色を考えると今はメカルクから抜けたかどうかぐらいだろう。ロケットさんも言っていたがメカルクは境界線がはっきり示されていないので、今電車がいる位置がメカルクを抜けたかどうかは正直な話わからない。ただ建物が見えないので、メカルクのほぼ外側、中央大陸でいうところの真ん中あたりであることは間違いではないだろう。
そうやって外の景色を見て考えに耽っていると、寝起きで気づけなかった違和感を感じる。
「あれ、、、?みんなどこ、、、?」
そう、ロケットさんとスフェーがいないのだ。
俺が寝る前にはスフェーは俺の座席の隣、ロケットさんは反対側の座席に座っていた筈だ。周りを見渡して見ても、二人が居ないどころか、持ってきていた荷物すら無いことに気がつく。
「、、、え?」
これには俺も呆然とする。寝起きというのもあるが、目を覚ましたら人が消えていたなんてことをそもそも理解できるはずがない。
一応この列車は2両編成のため、もう一つの車両に二人がいる可能性も考えられたが、ロケットさんとスフェーが二人っきりでいるなんて考えられなかった。
ただし、もしかすると俺が寝ている間に二人が仲良くなっている可能性もまだあるので、もう一つの車両を確認しにいくことにした。
「いやぁ、、、ないと思うけどなぁ、、。」
俺は車両を繋ぐ連結部のドアを開いた。
連結部は危ないからあまり近づかない方がいいって、7年前に亡くなった母親が言っていたのを思い出す。テオにあった列車はいわゆる古い形のもので、連結部の突起を嵌めることで、取れないようにするタイプだった。そのため外れた場合やアクシデントが起こった場合、連結部付近にいると危険に身を晒すことになると母親は教えてくれた。
しかし、最新型の列車はというと嵌めるタイプではないらしい。構造は詳しく知らないが、昔の列車ではよく聞こえた連結部同士の擦れるような音は聞こえない。とても静かだ。
俺は連結部を渡り、別車両の扉を開ける。
中の構造はフラクトが寝ていた車両と変わりはない。壁際に座席が設置されている、至って普通の車両だ。
こうやって中を覗いても思った通り、二人はいなかった。いや、この場合は予測が外れても二人が居て欲しかったが。
念の為車両の最後まで歩いて見たが、人が隠れられるような隙間すらなく、二人が本当に居ないのが分かってしまった。
「え、、まじか、、ほんと、どこいった、、、の、、、?」
この状況に脳の処理が追いつくはずもなく、言葉が途切れ途切れになる。
何故?が頭を埋め尽くす中、背後から声が聞こえた。
「やあ。君は一体ここで何をしているの?」
その声に俺は咄嗟に反応し、声が聞こえた方向、後ろへと振り返る。
そこには俺と身長が対して変わらないくらいの青年?が立っていた。
ぱっと見で分かる情報として、声は中性的、髪は薄紫色でショート。色白で正しくイケメン、というところだった。こんな人が街中に居たら周囲の目を奪っちゃうだろうな、と一目見て感じた。
普段の俺なら気さくに挨拶を返すところだ。しかし今回の場合、それが正しい対応かと聞かれるとイエスとは言えない。何故なら、この列車には俺が確認した限り、俺しか乗っていなかった。まずそこの時点で意味がわからないのだが、それよりも誰もいない車両にどこからともなく急に現れたこの青年?は要するに不審者ということになる。実際に俺はこの青年?の顔を見たことがない。
「ん?聞こえてないのかな?君 は 一 体 何 を し て い る の ?」
俺の目の前にいる青年?は俺が考えている状態を、聞こえていないと判断したらしく、ゆっくり、1音ずつ発音する。これが優しさ故なのか、ただの挑発なのか、今の状態では判断ができなかった。
「す、すまない、、、。聞こえてはいるよ。ちょっと今の状況を理解できなくてね。頭が働いていないんだ、、、。」
俺は熟考の末、この不審者と会話をすることを決断した。この判断が吉と出るか凶と出るかは分からないが、同乗者が二人が消えたという不可解な出来事が少しでも進展出来れば、と考えた結果だ。
「ごめんね、、まずはさっきの質問についてだけど、今は黎明の夕乱って所に向かっていう最中さ。」
俺は出来る限り情報を与えないように気を付けながら、青年?の様子を見る。やはり視野に入れてしまうと思わず魅入ってしまうようなオーラを感じる。
「あぁ〜夕乱に向かってるんだ。いいよね、あそこ。夕日がとても綺麗なんだよね。ところでなんで列車の中をキョロキョロしてるの?探し物?」
青年?は頭を傾け、顎に手をつけて、考え事のようなポーズを取った。
「いや実は、変なことなんだけど、この電車に一緒に乗っていた連れの人達が自分が寝ている間に消えちゃって、、、。」
俺がこう言うと青年?は「何を言っているんだ?」と言わんばかりに頭を傾ける。
「ご、ごめんね。急に変なこと言っちゃってさ。俺も喋ってて意味がわかんないんだよ、、、。」
青年?の様子を見て俺は急いで謝罪をする。俺も知らない人からこんなこと言われたら「は?」となるだろう。
「あれ?君が助けを呼んだんじゃないの?」
頭を傾けていた青年?が口を開いた。
「ここは『空の理想郷』。僕が運営をしているお悩み相談所みたいなところなんだけど、、、もしかして、何も知らない?」
「『空の理想郷』?」
俺はおうむ返しで言葉を返す。『空の理想郷』と言う言葉を聞いたこと無かったためだ。
俺が答えた後、青年?はさっきよりも俯き気味に頭を傾けた。
そして何かわかったようなポーズをした。
「もしかして君、感受性高いでしょ。」
「感受性、、、?」
感受性って言葉を知らないわけではない。
今この状況に関係がなさそうに感じたので聞き返したのだ。
「うん、感受性。君が何も知らなそうだから少し説明すると、さっき僕が言った『空の理想郷』はカウンセリングの一種なんだ。普段は精神が追い込まれた人や死ぬ直前の人が自然と発するSOSのシグナルをキャッチして、カウンセリングを行うんだ。精神を安定させたり、楽に死ねるように僕が患者さんと話をするのが、君が今体験していることなんだけど、、、」
青年?が咳き込みをする。
「ただ稀に僕がキャッチするんじゃなく、迷い込んじゃう人、それを起こすのが感受性が高い人、なんだ。」
青年?が『空の理想郷』についての説明と、俺がなんでこういう状況に陥ったかを教えてくれた。
この時点で俺の悩みの種はほぼ消えた。ただ一つ分からなかったのがここが現実なのかどうかだった。今の説明を聞いた限りではスフェーとロケットさんが消えた理由が見つからなかった。
「その、、、教えてくれたのはありがたいんだけど、えっと、カウンセラーさん?が───」
「あぁ名前を教えてなかったね。僕の名前は琳、主使琳。今後は琳でも、主使でも、カウンセラーさんでも良いよ。」
「琳さん、、、ですか、それじゃあ琳さん。貴方がここにいる理由は分かったんですけど、この列車には連れも乗ってたはずですが、なんで今自分と琳さんしか居ないんですか?」
琳さんは「あぁ〜」とでも言わんばかりの頷きをする。
「それはね、私の能力が関係しているんだけど難しいから簡単に教えるね。今君がいるのは精神世界の中、単純に別世界だとふってもらっていいよ。それで、ここはさっきまで君が居た場所を反映して空間を作る。だからここは元々いた場所そっくりの別空間。」
そう言った琳さんは窓を指さす。
「君もさっきから気づいていないかい?この列車は進んでいるように見えて、ただただ同じ景色を繰り返しているということに。」
そ、そうだったのか、、、。
全然気づいていなかったが、そう言われれば同じ感覚で木、山、川がずっと繰り返されていることを観測することができた。場面が切り替わっているという感覚はないし、切り替わる瞬間にラグなどもない。
琳さんが言っていることが正しいのであれば、俺が寝ているときに黎明に入ったということだろう。こっちにいるときに現実世界の時間が進んでいないのであれば、列車に乗ってから4時間ほど経過したぐらいだろうか。
「カウンセリングってのは複数人いると邪魔になるケースが大多数。だから発信者以外の人はこの空間には居ない。」
理由を聞くと成程と感じた。確かに本人の意見が第三者によってかき消されてしまうということが
起こってしまうのが第三者を巻き込んで行うカウンセリングのデメリットというのを聞いたことがある。
「つまり、君の精神世界に僕達だけの部屋を作って、カウンセリングをしやすくするために連れの人達を入れていないだけ。現実世界にはちゃんと存在しているよ。」
俺はホッとした。初めは神隠しにでもあったのかと思ってしまったが、しっかりとした理由があって安心する。
「そして最初に言った感受性の話なんだけど、なんで感受性が高い人がここに巻き込まれると思う?」
「周りの環境に影響されやすい、、、とかですか?」
感受性、それは外からの刺激を受け入れる性質。
今まで感受性が高いなんて言われたことなかったんだが、俺がただ知らなかっただけだったんだろう。
「7割合ってるかな。」
琳さんは頷く。
「確かに感受性の高い人は刺激に影響されやすい、特にこの『空の理想郷』には街中のネガティブな空気が蔓延している。普通の人はその空気を感じ取ることはできないけど、感受性が特に高い人は境界をくぐったときに外界のネガティブな空気に刺激されて体がSOSを勝手に送っちゃうんだよ。」
「ということは、、、それが起こって今こんな状況になってるってことですか?」
「あぁざっくり言うとね。」
琳さんは見ての通り、と言わんばかりに周りの景色を手で示す。
ただ寝ていただけでこんな所に飛ばされたのは迷惑だが、なんの問題もないのだと確認できて良かった。
「それじゃあ元の世界に戻してもらうことって、、、」
「あぁ。 僕が君のSOSを処理したってことにすれば、君は現実世界で目が覚める。」
俺はほっと胸を撫で下ろす。
「ただ、最後に1つ、質問に答えて欲しい。」
「、、、質問?」
このままの展開で返して欲しかったが、どうもそうには行かないらしい。
俺を取り囲む空気が一変したのを肌で感じた。これが感受性が高いってことなのか、急に襲いかかる重苦しい雰囲気。まるで判決が下される前の裁判のようなピリッとした空気だ。
「そうだ。たった一つの質問。別に今すぐに答えて欲しいとかそういうものでは無い。君みたいな人はまたいずれ何処かで会うことがあるだろう。その時にでも聞かせて欲しい。」
「____君は神の存在を信じるか?」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
新キャラ、どうでしたか?
もしかするとまたいつか、、、いや案外すぐにまた会えるかも知れません。
続きは5年以内に出します。