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あの命が生る頃に  作者: 青葉時雨
ハンター活動開始篇
5/7

第五話 列車は止まらない

青葉時雨です。

今回は少し短めですが、結構重要な回です。

 朝日が列車の窓を通り抜けて、暖かな光を浴びる。

 この光のせいで眠くは無いのだが、光に付随する暖かさが早起きした分の眠気を強くさせる。

 そんな矛盾した状態の中、俺は貸し切りの列車にロケットさんとスフェーと一緒に乗って、メカルクとは真反対に位置する黎明に向かっている。

 この列車は特別車両のため、黎明の夕乱という場所に行くまで止まらないらしい。


「なんか結構乗ってる感じですけど、まだまだメカルクの中なんですね。」


 出発駅が中央大陸のメカルク側で一番端に位置しているマシキルだったのもあるだろう。

 かれこれ1時間くらい乗っているが変わったのは空の明るさだけだった。


「まあメカルクは4つの都市の中で一番面積が広いからな。それに他国に比べて境界みたいなのも置いてないからね。」


 ロケットさんの説明が入る。確かにメカルクは他国とは違い、国を囲っていない。

 別に戦争があるわけではないが、今までの歴史上何度か国同士での争いが起こっていたことがきっかけで、他の都市では壁で囲ったり対策をとっている。そのため他の国は、領域がわかる。

 それに対してメカルクに壁は存在せず、来るもの拒まず状態だ。

 スクールで習った歴史では遥か昔にはあったらしいが、ここ数十年で取り壊されたらしい。それもロケットさんのやったことだろう。


 そんな会話をしていると、外の景色が少し変わった。

 今までは工場やマンションが並んで近未来感が溢れるところが多かった。ただそんなところ以外にも勿論畑が広がっていたり、森があったり、そんなに栄えてない場所も見えたが、この地帯の栄えてなさは他とは違った。

 

 道、があったと思われるところにはブルーシートが三角形に張られテントのような形をしていたり、瓶や缶がそこらじゅうに転がっている。簡単に言えば、汚い。


「え、、、ロケットさんここら辺は、、、?」


 ロケットさんは数秒間外を眺めて、哀愁を漂わせる。


「、、、この地帯は、そうだな。あまり言いにくいが仕事を失った者や人生が行き詰まった者たちが集まるところだ。朝話したと思うけど、あそこがこのメカルクのダークな面だ、あの地帯にいる人達を解放させるのが今のメカルクの課題なんだ。」


 ロケットさんは言葉を選びながら話す。

 確かに朝そういったところがあるとは説明されたが、いざ目の当たりにしてみると予想通り、いや、予想以上のダークさが垣間見えた。人々の歩き方、座り方で希望のなさが分かってしまった。


「ま、せっかくの旅だ、暗い話題はここまでにしよう。まだまだ夕乱までは時間がかかる、ここら辺で少し確認しておきたいことがあるんだ。」


 ロケットさんはそう言って、俺の横で寝ているスフェーを起こした。


「君たちの能力って何だい?」


 ロケットさんは俺と寝起きのスフェーの目を見た。

 やはり何度見ても違和感が拭えない目だ。


「自分は創造系の能力です。粗悪品しか生成できませんけど、、、。」

「うん、フラクト君はわかる。前ユニムと戦ってるところを見たからね。スフェー君がちょっとわからないんだよね。」


 確かに、スフェーの能力は俺も詳しくは知らない。そもそもスフェーが自ずとユニムと戦うことなんてなかったから。


「ぼ、僕の能力は衝撃を色んなものに与えることができるって能力です。使い方が難しくて、ハンター試験の時含めて、今まであまり使ってこなかったんです。」


 そう言いながら手をモジモジさせて少し恥ずかしそうにしているスフェーが少し気持ち悪かったが、それはそうとして驚きの情報があった。


「え、、、スフェーそれほんと?」


 ハンター試験で能力を使わずに、、受かった、、、?

 さりげなくスフェーの口から放たれた言葉を聞き流そうとしていたところ、脳がそれを許さなかった。

 そんな人今まで聞いたことないし、いるかどうかすら分からない。


 ハンター試験という試験はハンターに適した体力、身体能力、戦闘IQ、その他細かいところを各ハンター試験実行施設内にある仮想空間上でユニムの行動パターンを学ばせたAIと実際戦ったり、難易度の高いアスレチックのタイムアタックだったりを行うことで審査する。

 その審査結果によって配属先が変わる。優秀な成績を収めたもの程、重要性の高い都市部に配属される。ただ、本人の希望を優先するので、都市部配属じゃないハンター=弱い訳では無い。


そんな試験だが、要求されるレベルがある程度高いため、能力が使える人は基本的に使う、というか使わないと突破できないと思っていた。

それを能力を使わずに攻略したとなると、超人的な身体能力で能力分を補ったとしか考えられない。確かにスフェーは昔から人一倍、いや人十倍と言っていいぐらい運動神経は良かった。

しかし、それと相対して、絶望的な頭の悪さだった。最近は俺と雪夏と一緒に勉強していたためか、まだマシになってはいるが、5年前は結構酷かった記憶がある。

 ハンター試験では主に戦闘内容を評価されるのだが、筆記試験もあるため、あまりにも頭が悪い人は突出して戦闘内容が良くない限りは受かることはない。それで言うならスフェーは頭もそんなに良くないし、能力も使わない中、その圧倒的で暴力的な身体能力だけで乗り切ったという、さらに言うならさっきも言った通り、成績次第で配属先が決まる試験でこの倍率が毎回高いメカルクに配属されたスフェーは「とんでもない」という言葉で許容しきれない程の身体能力を持っていることになる。


 別にスフェーの身体能力の良さを知らないわけではなかった。幼い頃から運動会やスポーツ大会で必ず結果を残してきたし、ハンターズスクールになってクラスは違ったが、校内で行われた陸上大会でも2年間ずっとトップ3に入っていたのを知っていたので、全く知らないというわけではないが、まさかそれほど良いとは思わなかった。


「珍しいね、今時能力をあまり使わないってのは。衝撃を与える能力、、、使いこなせるようになったら強力な武器になるね。」


 ロケットさんは能力を使わないと言ったスフェーに珍しいと言うだけだった。

 やはりロケットさんほど戦闘に慣れている人は能力を使ってないということを聞いても驚かないのだろう。


「はい、いつか使いこなせるようになりたいなって思ってるんですけど、中々上手くいかなくて、、、」


 スフェーは自分の頭を少し撫でながら若干恥ずかしそうに笑う。何気にロケットさんの前でスフェーが笑うところを初めて見たかもしれない。それに気づいたのは俺だけじゃなくロケットさんも同じように気づいたようだ。


「うん、いずれ使いこなせるようにはなるよ。実はね、こんなことを聞いたのにも訳があって、最近、ハンターの強さ、、っていうと少し語弊が生まれるかもしれないんだけど、強さを測る指標みたいなものが設定されてね。それを次元目(じげんもく)、もしくはディメンション・アイなんて呼んでるんだけど、君たちが今どこに分類されるのかを知りたかったんだよ。」


 次元目という言葉、フラクトたちは初めて聞く言葉だった。ハンターズスクールで学んでいた間でも一度も耳にしたことがない言葉だったが故に説明がうまく入ってこない。


「次元目ですか、、そんな言葉聞いたことないんですけど、、。」


 スフェーも同じことを思っていたようで今言ったことは俺の考えていたことと一致する。


「ああ、聞いたことないのも無理はないよ。ここ最近で使われ出した言葉だからね。」


 ロケットさんは一拍置いた。


「君たちは思ったことないかい?強い、最強と言われているハンターと、それ以外のハンターの決定的な違いはなんなんだろうと。」


 ロケットさんの問いに頭の中で考える。

 でも今考えるとハンターの強さの基準が曖昧なのが理解できる。ハンターズスクールでもハンターの強さの基準は教わらなかった。ハンターの強さ=実績だと教えられた俺たちはただただより強いユニムを倒せるようになるために能力を磨いていただけだった。


「、、、経験値ですか?」


 俺は考えた末に経験値という案を出したが恐らく違うだろう。

 

「うん、確かに経験も強さの一つではある。現に今までは経験、実績が強さの証明だったからね。」


 ロケットさんはさっきと同じように一拍置いた、俺たちが話についてこれるようにわざと間を開けているんだろう。


「ただ、経験だけでは乗り越えられない壁がある。それに戦闘結果には運もあるから完全な指標とはならない。今までは結果を出した人に対してそれに値する(くらい)を与えていたんだけど、与えられた地位に相応しくない実力を持つものだっていた。その不明確な強さの基準ってのをほぼ完全に7段階で示したのが次元目なんだ。」


 ロケットさんは続ける。


「ま、さっきの反応見た感じ、今のフラクト君、スフェー君は一次元目(ファースト・アイ)、上振れて二次元目(セカンド・アイ)かな。」


 ここまで聞いたところで気になっていたことを質問する。


「その、さっきから次元目ってのが強さの基準になるって言ってるんですけど、その段階が高いとどうなるんですか?」


「どうなるっていうのは難しいんだけど、簡単にいえば能力の威力がわかるかな。君たちは()()は知ってるかい?」


「はい、この世界に満ちているエネルギー原子で自分たちが能力を使う時にそのエナを使うっていうのは学びました。」


 エナとはこのカナンという惑星の大気に含まれている元素、というと少し意味合いが違うが説明が難しい物質のことで、学校でも「能力を使用するためのエネルギー源」っていう位しか触れられなかった。能力を使ってる身からしてもエナっていうのを消費しているって感じはしない。

 ただ架空のものとかではなく実際に存在するし、観測もされている。あまりに存在感がなく、名前だけ知っているようなものだ。


「実際、この世界で強いって言われてる人たちはエナの使い方が長けている。エナの消費量が多かったり、エナを自分の意思で動かしたり。ただエナをただ消費するだけじゃなくて、()()()()()。」


 「扱っている」。

 その最後の一言がフラクトには少し理解ができなかった。


「つまりエナを使いこなせるハンターは強いってことですか?」


 俺の横でずっと話を聞いていたスフェーが答える。この話はスフェーには難しかったようで、混乱しているようだった。

 ただ答え自体は的を得ているような、さっきまでのロケットさんの話を超ざっくりまとめたようなもので少し悔しかった。


「そうだね。まあ君たちもいずれ成長したらエナを扱うって感覚がわかると思うよ。今はまだ自分たちの能力をあまり知らないと思うけど、この感覚は戦闘で多く能力を使って、高い壁に苦しんで、試行錯誤して、過去の自分に打ち勝って、そんな長い困難の果てに掴むことができるようになるからね。」


 ロケットさんは「てな訳で」と言って、手を叩いて周りの空気を変える。


「君たちを黎明で鍛えましょう!」


 俺たちは目を丸くする。


「君たちはまだ一次元目(ファーストステージ)、次元目としては一番低い。この世界の最高は六。君たちにはそこまで行ってもらいたい。いや、その上、幻の七にまで行って欲しい。」


 ロケットはフラクトたちの方を向く。


「黎明では基本俺と君たちでは別行動だ。俺は黎明の長、五月雨(さみだれ)(りょう)と今後のことについて話す。その間君たちは特別訓練だ。」


 嬉々として話すロケットさんの顔は朝日に照らされ輝いていた。

読んでくれてありがとうございました。

ここからはメカルクの外でのお話になります。

次回の投稿お待ちください!

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