第四話 さらば、マイホーム
青葉時雨です。
今までの話も読みやすくしてみたんで、確認してみてください。
『ピンポーン』
まだ命が寝静まっている時間、そんな時間にインターホンの電子音が鳴る。
「あれ?まだ寝てるのかな?」
フラクト達が住む部屋のドアの前で立っている男、それこそ今日からフラクト達の初任務の相手、ロケットだった。
ロケットは腕時計を確認したのちにもう一度インターホンを押す。
『ピンポーン』
ドア越しにインターホンの音が聞こえる。もしかしたらインターホンが壊れているんじゃないかという心配も多少はあったが、その心配は要らなかったようだ。
実際、こんなことをしなくてもロケットはメカルクの管理人なので、勝手にドアを開けて入ることもできるのだが(メカルク全土を監視しているスペースに頼めば、遠隔操作で開けてくれるため。)、よほど重要な件でない限りはそんなことはしない。
しかし、困ったものだ。今日から各国の神狩達に話を聞きにいく用があって、一番最初は4人の中でも一番安全な、黎明の神狩のもとへ向かおうとしているのだが、このくらいから移動しないと今日中には着かないのだ。
そんなことを考えていたら、マイクが起動する音が鳴った。
『はい、、こちらフラクトです、、どちら様ですか?』
まるで寝起きのような、いや恐らく今インターホンの音で起こされたので寝起きなのだが。そんな弱々しい声でフラクトが出てきた。
「ああ、おはよう。ロケットだよ。夜明け前からごめんね。」
『え!?ロケットさん!?』
フラクトはびっくりしたような声で返事をすると、途端にマイクが切れて、ドタドタとドア越しに足音がする。そこまでびっくりしてもらわくていいのだが、こんな時間に俺が来るなんて予想外だったのだろう。
ドアが開くと、パジャマ姿のフラクトが出てきた。
「ど、どうしたんですか?ロケットさん。」
目を擦りながらフラクトは言う。そこまで眠いなら起こしたのが申し訳なくなる。
「今から駅行くよ。早く準備して。」
フラクトは擦っていた目を見開いて驚きを隠せていない。
「え、、今からですか、、?まだ4時半ですよ?」
「今から行かないと今日中に間に合わないから、早く行くよ。スフェー君も起こしてきて。俺はここで待ってるから。」
淡々と事を告げるロケットはフラクトからすると冷たく感じるだろう。
「分かりました。10分ください。」
ロケットはそれを聞いて、手でグッドサインを作った。
扉の置いて、フラクトは部屋に駆け出す。
「いや〜こんなに早く来るなら昨日言っておいて欲しかったな、、、。」
フラクトはロケットにはおおよそ聞こえないような声で愚痴を吐いた。
今回のロケットのような行為はロケットがやるから、つまり神狩がやるからまだ許されている。
「スフェー!起きろ〜!」
スフェーの部屋のドアを開けて、中でぐっすり眠っているスフェーを叩き起こす。
それでもスフェーは起きない、というか、スフェーは人の声ぐらいでは起きることはない。
普段だったら、スフェーを起こすなんてことはほぼないので、こういう時にどうすればいいのかなんてわからない。少しフラクトは考えたあと、少しにやけてスフェーの耳元で囁いた。
「ロケットさん来てるよ。」
次の瞬間、スフェーは飛び起きた。
あまりの効果に起こした張本人であるフラクトも驚く。これに関しては耳元で囁かれたことより、ロケットという言葉に反応したに違いない。
スフェーは周りを見渡す。しっかりベッドの上に乗ったまま、壁際に体をくっつけている。
「フラクト、、、本当か?」
昨日と同じような震えた声でスフェーは聞く。
「あぁ、今玄関の前にいるよ。なんか今から駅に向かうんだって。だから早く準備して。」
「あ、、あぁ。わかった。」
よし、スフェーを起こすという一番の山場を超えた。
スフェーには悪いが、困った時はこれで行こう。
そんなことを考えながら、自室へ行きパジャマから着替える。どんな服がいいのか迷ったが、結局青のポロシャツに、グレーのジーンズといった至って普通の服装にした。
そして昨日のうちに準備しておいた荷物の入ったキャリーケースを持って、忘れ物がないか確認して部屋を出る。
次にスフェーの部屋の前でスフェーが出てくるのを待つ。この時点で5分、約束の10分には間に合う。
スフェーも昨日のうちに準備していたため、急に起きたのにも関わらず準備が終わって部屋を出てきた。やっぱり事前の準備は大切だということが、今回のことで改めて理解する。
全ての準備が終わって玄関の扉を開くと、柵に寄りかかって空を見ているロケットさんがいた。
「お、もう終わったんだ。早かったね。」
ロケットさんもこんなに早く出てくるとは思ってなかったらしい。
「昨日のうちから準備していたので。」
「流石だね。」
こんなことでも褒められたことに少し嬉しさを感じる。別に愛情を受けずに育ったとかいうわけではないが、褒められることはいつだって嬉しい。
そんな俺に相反して、スフェーは昨日と同じように下を向いていた。やはり昨日言っていた通り何か感じ取っているのか?
その話を思い出した俺はロケットさんに意識を向けて、何かオーラのようなものが出ていないか確認してみるが、そんなものは微塵も感じない。
俺がスフェーのことを気にかけているのを、ロケットさんが感じ取ったのか、スフェーの方に声をかける。
「スフェー君、おはよう。昨日はごめんね、なんか怯えさせちゃったみたいで。」
その言葉を聴いたスフェーは顔を上げる。
「お、おはようございます。いえ、謝らなくていいです。き、昨日言えなかったので今言っときます。これからよろしくお願いします。」
やっぱり歯切れが悪いスフェーに少し違和感を感じるが、とりあえずロケットさんに話しかけれたのでいいと思おう。まだ目は合わせきれていないが。
「うん、よろしく。それじゃあ早速駅に行こうか。」
俺は部屋の鍵をしっかりとかけて、扉が開かないことを確認する。
この部屋に戻って来れるのはいつ頃になるだろう。まだ1日しかこの部屋にいれなかったが、それでも一度家として過ごした部屋だ、寂しさもある。
そもそもこの中央大陸にきて、初日から予想外のことが起こりすぎて、こっちが困る。この街に慣れることが目標だったのに、それすら達成されそうにないのが、今回の異例さを物語るんじゃないか?
少しいろんなことを考えているとロケットさんが話しかけてきた。
「心配しなくていいよ。今回任務といっても、君達には特に苦労をかけるつもりはない。もしかしたらアクシデントが起こって君たちに何かしてもらうこともあるかもしれないけど、基本的には観光だと思ってもらっていい。」
ロケットさんは俺たちを先導しながら言う。若干俺が考えていたこととずれているのは置いといて、「観光だと思って」というのは逆に気を使う。
「ちなみに今回ってどこに行くんですか?」
俺は昨日から気になっていたことを今聞く。
「今回の目的は、昨日も言っていたように、『リ・ランド』の社長の娘、リコ・アルデラの捜索を各都市に依頼する。そのためにまずは黎明に向かう。」
「え、黎明ですか?なんでそんな遠くから行くんですか?」
黎明という都市はこの中央大陸の中でメカルクから一番遠い。そんなことしなくても、まだ近くにあるロンやキリヌスから行った方がいい気もするが、、、。
「理由としては一番安全だからだな。」
「え?安全?」
聞き捨てならない言葉だった。黎明が一番安全だって?
「ああ。黎明は武術を学ぶ者が集う都市だ。武士道を国全体で教えているため、治安が良い。逆に他の都市は危険だ。特にキリヌスは迂闊に入ってはいけない。」
ロケットは空を見上げる。
「メカルクも治安は良くない。局所的な工業都市は多くの労働者を生み出したと同時にそれにはじき出された者も多くいる。そんな者が集まったダークタウンもメカルクには存在する。そんな人たちにも雇用の機会を与えているが、それでも全てが解消できるようになったわけではない。工場の光が街を照らすことに対比して、光が当たらない陰で苦しい生活をしている奴らもいる。」
フラクトとスフェーは黙って聴いている。
「それと同じで、黎明以外の国は光と陰が存在する。それが著しいのがキリヌスって訳。あそこは宗教国家だが、キリヌス担当の神狩のウェラ・ポルカを神として崇め奉っている。ポルカの言うことは絶対で今キリヌスはポルカの令で封鎖されている。正直なところ、今回の件で一番怪しいのはキリヌスだ。」
宗教都市キリヌス。フラクトが通っていたハンターズスクールでは、100年以上、トップにウェラ・ポルカを置き、悪く言えば独裁国家のような存在になっている都市。としか教えて貰っておらず、良い印象がない。
しかし、宗教は文化を創ると言われているとおり、昔から存在するキリヌスは今のカナンの多くの文化の元になっている。そういう意味では存在しなくてはならないモノなんだろうが…。
「今回、キリヌスにも行くと思うんですけど、そんな危険な都市にロケットさんと俺たちだけで行くんですか?」
これに関しては聞いておかないといけないと思った。ロケットさんがそこまで言うところに、いくら神狩のロケットさんが居るとしても俺とスフェーはあまりにも荷物になるだろう。
「そのために先に黎明に行く。あそこには以前、俺の世話になった奴がいるからね。その人にも今回キリヌスに行く時に着いてきてもらう。行く順番に関しては黎明、キリヌス、ロン、の順だ。」
「よかった。ちゃんと居るんですね、安心しました。」
先の不安が解かれた。これで少しは安心できる。
そんな話をしていると、駅に着いた。まだ夜は開けていないが、少しだけ空に赤みがかかった。
「今回は特別に電車を貸し切っている。いつもの始発の電車じゃ間に合わないからね。」
そこまで特別待遇してくれるのか、いや、ロケットさんが直接向かうからか。変な期待をせずに行こう。恐らく、ここまで好きにできるのはメカルクの中だけだろうから。
「あ、来たんだ。」
ロケットさんが意外そうな声で呟いた。
何事かと思い、駅のホームに目を凝らす。
駅の電気の光と、夜の暗さのコントラストが、駅のホームに存在する何かをはっきりと映し出す。
人とはぱっと見ではわからなかった、普段では有り得ないモノだったから、てっきりオブジェの一種かと思った。
まさか、"浮いている"なんて。
「おい。ロケット!いつまで待たせてんだ!」
静かな夜の空間に突然と響く怒声。
声だけでびっくりしてしまうほどの声量があった。
次に驚いたのは、ロケットさん、メカルクトップの神狩に向かって呼び捨てをしたことだ。
俺が知る限り、ロケットさんに呼び捨てをした人などほとんど見たことがない、というか普通はできない。強いて言うなら、ロケットさんの右腕のスペースさんぐらいしか呼び捨てをしているところ聞いていない。そんなスペースさんでも、こんな怒りの感情を露わにしてはいなかった。
「ったく。ゆっくりきてんじゃねえよ。お前の用事のためにわざわざこんな時間に起きてあげたんだぞ。感謝しろよな。」
宙に浮いている男はまるで愚痴を垂れ流すように話す。いまだに宙に浮いているということになれたわけではなく、足と地面の間にできた空間に違和感しか感じない。
「元気そうでなによりだよ、アクサ。別に寝てても良かったのに。」
「あぁ?煽ってんのか?臨時の車両を出すには、俺の許可と機長の立ち会いがないと乗せられねぇーんだよ。しかも、今日は機長が休みだから俺が出てこないといけなかったわけ。俺だってもっと寝ときたかったつーの。」
アクサと呼ばれる男は空中に座りながらポケットから箱とライターを取り出す。
その箱から棒状の物が出て来る。タバコ、だ。
カナンではもう流通が止まってしまったタバコ。その一本にあまりに危険性を孕んでいるため、50年ほど前に禁止されたと聞いていたが、、、。
「何だ?ガキ。コレに魅入ってんのか?はっ、珍しいもんな。今どきタバコなんてよ。お前も吸ってみるか?」
男は笑いながら口から煙を吐く。
タバコの危険性については学生時代に嫌ほど叩き込まれたため、吸いたいとか、そんな興味はない。ただ、「ガキ」などの挑発的な言葉に少し苛立ちを隠せない。
言い返してやろうか、そんなことが頭をよぎった。
「おい、アクサ。言い過ぎだぞ。大概にしろ。」
ロケットさんの少し怒りが混じったような低い声に男は萎縮した。その声を聞いた俺すら肩を振るわせる。決して自分に向けられた声ではないのに威圧感を感じた。
この感覚がスフェーが感じ取っていた物なのか?と思った。
アクサと呼ばれた男の第一声で俺の背後に隠れたスフェーは足が震えていた。正確にはおそらく震えているだろう。肩に乗せられている手が震えているからだ。
「、、、わかったよ。」
男は吸いかけのタバコを地面に落として靴で踏んだ。宙に浮いてはいるが、地面に足をつけることは可能だった。
「、、、すまないな。怖がらせて、彼の紹介をしていなかったな。」
ロケットさんは一呼吸おいて、俺たちの方を向いた。
「彼はアクサ・ステーションの管理人、アロフト・アクサだ。」
「社長、な。」
その紹介を聞いて反射で答えた。
「あのアクサ・ステーションの社長!?この人がですか!?」
口を手で塞ぐ。時すでに遅しという感じではあったが驚きが隠せなかった。
「(何言ってんだフラクト!)」
後ろから耳元で小声でスフェーが反応する。
言ってしまった後に後悔したが、それほどの衝撃はあった。ロケットさんが「アクサ」と言った時点で少し疑問には思ったが、まさかこんな人が社長だなんて思うはずがない。
こんな失礼なことを言ってアクサという人の顔を見ることができない。
「おうおう、言うじゃねえかガキ。」
「い、いや、、その、、、」
うわ〜(多分)キレてる〜。
言い訳を探す。脳をフルに使い探す。その間もアクサさんを目で捉えることができない。
「ははっ、確かに怪しいよね。まぁ、彼は若干天邪鬼な傾向があるから気にしないで、心の中ではあんまり感じてないから。」
ロケットさんからのフォローが入る。ロケットさんが仲介してくれたおかげでアクサさんも少しだけ落ち着いた感じがした。
「ただ、彼は人間的にはまずいところはあるけど、彼の実績は凄いよ。」
ロケットさんは少し間を空ける。
「彼はあの反重力装置の開発に成功した人なんだよ。彼が運営しているアクサ・ステーションの車両や彼自身も反重力を使っている。」
ロケットさんの言葉に驚く。さっきから驚いてしかいないが、ロケットさんのする話は壮大というか、初耳なことが多く、驚かざるおえない。こういうのを聞く度に世界の広さを実感する。
「は、反重力ですか、、、?アクサさんが浮いているのも?」
「うん、急に言われても分からないと思うけど、簡単に言えば重力に反発するって感じで汲み取って貰えばいいよ。彼の元々の能力が『反重力』で、それを彼は応用したんだ。そのおかげでこの世界の交通網の便利さは一気に向上。彼の会社は鰻登りでTop企業になったって訳。」
ロケットさんのこの話を聞いて思い出したことがある。実際20年前にはまだ車輪を使った電車が通っていたらしいが、アクサ・ステーションが創設されて、反重力車両ができてから、その圧倒的な速さで業界を席巻。今は古い地方鉄道以外はほとんどアクサ・ステーションが鉄道業界を仕切っていると学校では教わった。そんなアクサ・ステーションの社長と会えるとは。
「俺を讃えるのはそれぐらいにしろ。もう電車発車時刻だぞ、早く乗り込みやがれ。」
さっきまで上機嫌だったアクサさんが仕事モードになる。これだけで彼が成功した理由がわかった気がする。
「はいはい、分かったよ。フラクト君、スフェー君、行くよ。」
ロケットさんはアクサさんに手を振って俺たちを先導する。3日前にこの改札を出た。その時はこんなことになると思っていなかったが、人生にアクシデントは必要だ。
改札を抜けて1番ホームに着いている電車に乗り込む。
『島内列車 夕乱行き』、はるか昔、地に沈みゆく夕陽が乱れていたという伝承からつけられた。夕焼けが綺麗な場所だ。
雪夏も夕乱にいると思う。また会えるなんてことがあればいいが。
電車の中にロケットさんに続いて乗り込むと、中には人は一人もいなかった。まあ事前に貸し切りされていることを知らされていたので驚きはない。
すると、後から乗ってきたスフェーが口を開く。
「へぇー貸し切りってこんな感じなんだ〜!初めて貸し切り電車乗るな〜!」
スフェーは扉の前で車両全体を見渡しながら、目を輝かせる。さっきまでの臆病な感じとは異なりいつもの少年のような目をしたスフェーだった。
ロケットさんもそんなスフェーを横目に微笑んだ。ここで声をかけなかったのはロケットさんなりの優しさだったのかもしれない。
「ウキウキすんなガキ!早く乗れ!」
アクサさんは案の定キレた。これは天邪鬼な部分じゃなく、単なる怒りだろう。
「それじゃあ気をつけてな、最近の他国は物騒だからよ。」
「任せて、俺が失敗すると思うか?」
「お前が調子に乗らなけばな。」
ロケットさんとアクサさんは長年の相棒のような会話をする。この会話はお互いがお互いのことを信頼してなければ出ない会話だろう。
フラクトはそんな空気を肌で感じていた。いや、感じざるおえなかった。ロケットは今していたような笑みはフラクトたちの前ではしていない。そこだけ切り取っても分かることだった。
「んじゃ、くだらねぇ話はこれぐらいにして」
アクサさんは胸ポケットにかかっていたマイクを口の前まで近づけた。
『島内列車〜島内列車、黎明、夕乱行き出発します。』
列車の扉が閉まる。アクサさんの声が仕事用の声になる。さっきまでの少しドスの効いたような声とは変わり、聞き取りやすい通った声になる。
俺がそんなアクサさんを窓越しに見つめていると
『それでは、これから始まる旅をお楽しみください』
そう告げて、深々とお辞儀をした。
その言葉と同時に身体に少しずつ慣性が働き出した。
反重力で浮いているためか、発車時の音はなく、静かに列車は加速を始める。
「フラクト君、スフェー君、これから少し長い旅が始まるよ。」
「はい、、、!」
「が、がんばります!」
すっかりロケットさんに怖がらなくなった(まだ少しの言葉の詰まりはあるが)スフェーに安心する。
窓から見える風景が流れている。
奥からじんわりと明るくなっている空はまるで俺たちの旅の始まりを物語っているようだった。
何も知らない土地で、何もわからないまま進んでいく事象に戸惑いながらも流れに身を任せる。
これが良い方向に動くのか、悪い方向に動くのかはまだ分からない。
唯一わかることは、人生何が起こるか分からないなということだけだった。
〜〜監視部〜〜
「はあ〜最近はユニムの発生も多くて参っちゃうな。急に増えるの本当にやめてほしいんだよな〜。」
全体的に暗い部屋、そう、N・D・スペースの監視室。少し珈琲の匂いも香る部屋でスペースは画面を見ていた。
『ユニム発生回数』。これが1日でどれだけの数、ユニムが出現したかを示す値だ。少し前は1日で3件出れば多かった方だったはずなのに、ここ最近では1日で8件、多い時では10件を超えることもザラではない。
こうやってユニムが増えるごとにスペースの仕事の量も相対的に増える。彼の仕事はメカルクの管理、そしてハンターの管理だ。
ユニムが出現すると、その個体の特定、強さ、必要人数を割り出し、的確な人員を派遣する。これがスペースの仕事だ。
最近ではアシスタントAI、通称「A.I.スペース」(センスは気にするな)にも仕事を振り分けているが、所詮はAI。少し違う情報を提供してしまうこともある。そのためチェック作業でどのみち仕事が増える。
「う〜ん。最近では獣型、非生命体型が多いからまだマシだけど、この間花火弥君が言っていた『巣』がどこかにあるのなら、多分強い奴もいるよなー。」
スペースは今の状況を確認しながら、珈琲を混ぜる。
そうやって、画面を見渡していると一つの画面の違和感に気づいた。
「あれ?なんだこの応答ログ。こんなのあったっけ。」
〜〜キリヌス、???〜〜
「…『支配者』、ロケットが動き出したって言うのは本当か?」
円卓を囲んで厳かな雰囲気の中、トップバッターとして口を開いた者がいた。
ウェラ・ポルカ。
まるで性別を超越した、目を瞑るという動作だけでも心を奪われるかのような整いすぎた顔立ち。一挙手一投足、ウェラ・ポルカが起こす全ての行動が数多の人を魅了させる、そんな存在感を放つ彼は、宗教都市キリヌスを統治する現人神。
「はっ。ポルカ様。先ほど我が国のサイバーハッキング部隊がメカルクの総合データベースに侵入、その後N・D・スペースのサーバーに入り込み得た情報です。ロケットのGPSが線路上を沿って動いておりました。進行方向的に黎明へ向かうものだと考えられます。」
ポルカと円卓で挟んで正面にいる仮面をつけた『支配者』と呼ばれた男、ポルカに対して跪きながら事の詳細を伝えた。
「へぇ、、、。あのロケットが黎明に。これは何かしらあったね。皆はどう思う?」
ポルカはこの、会議のようなことをしながら今後の動きを考えているようだった。少しの間を空けて話すことが多くなる。
円卓の周りには同じように仮面をつけた5人が居た。
「ポルカ様、どうと言われましても、ただ黎明に行くだけなんじゃないんですかね。それに黎明ではない可能性も考えられます。」
その中でハートマークが描かれた仮面をつけた者が話す。
「うん、確かに『殉教者』が言うようにただ黎明に行くだけかもしれないが、ロケットと五月雨は少し前まで犬猿の仲だった。それに『リ・ランド』の娘が行方不明になったタイミングでこの動き、恐らくだが情報を得るために行っているんだろう。」
流石一国を治める主、状況判断が早い。
「ですけど、」
「ロケットが行くまでもない。と言いたいんだろう?」
ポルカが割り込む。話に割り込まれた『殉教者』の顔を見るに図星だったんだろう。
「もし『リ・ランド』の件で回っているのなら、情報提供なんて受けずに怪しさ満点のここかロンにある程度の人員を使って突撃すればいい話。それなのにわざわざお山の大将であるロケットが黎明まで何故わざわざ黎明に行ったと思う?『殉教者』くん。」
「、、、戦える人員を補給するため?」
『殉教者』は少しの間を置いて口を開く。この空気感の中で少し沈黙するだけでかなりの重圧がかかる。
「30%正解、かな。『支配者』、そのロケットの近くに他に誰かいたかい?」
ポルカは正面にいる『支配者』に質問する。
「はい、2名ほど反応はあったんですが、詳しい情報は分かりませんでした。他の方法でも調べてみたんですが、個人のデータすらも見つからなかったです。一応メカルクの入国管理データも見ようとしたんですが、セキュリティを突破することができずに結局二人いる、以外の情報はなかったです。」
『支配者』の話を聞いたポルカはニヤリと笑う。
「そうか、それは面白いことになったな。」
「面白いこと、、、?」
ポルカの左斜め前にいる、半分ピンク、半分白の仮面をつけた女が口を開いた。
「ああ。ロケットがわざわざ黎明による理由、それはその何のデータも無い何者かを強くさせるため、これしか考えられない。天啓がそう言っている。」
ポルカは上を、天を見上げてそう言った。彼には『天啓』といって、『アルシオン』という神から助言が降りてくると、ポルカ本人が言っていた。
この『天啓』が指し示す道の成功率は100%。そのため、前キリヌス管理者が窮地に陥った時にこの『天啓』を使用したポルカに助けてもらい、その神の力を持ったポルカが、その後キリヌスの当主となった。
「ポルカ様の天啓がそうおっしゃっているのなら、次の道に我らをお導きください。」
『支配者』がポルカに対して言うと、先ほどまで言葉も発さなかった残りの者も椅子を降り、ポルカの方に跪く。
ポルカが上を向く。
何かを確信したように正面を向いた。
「そのロケットの付き人共を殺せ。そう天啓が言っている。」
その『天啓』を受けた仮面を付けた者たちの反応はそれぞれだった。
しかし、皆の考えは一つにまとまった。
付き人を、フラクトを、スフェーを殺害しろと。
最近作者も小説の今後の展開を早く知りたいってなってます。
モチベがあるので、5年以内の投稿を目指します。