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あの命が生る頃に  作者: 青葉時雨
ハンター活動開始篇
3/7

第三話 初任務は要注意。

どうも、青葉時雨です。

投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

今後はもう少し早く投稿できるように頑張ります。

途中から急に文章が長くなると思いますが、安心してください。西尾維新さんに憧れただけです。

 『ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ』


 気持ちのいい目覚め、窓から差し込む朝日と目覚まし時計のベルが新たな日の始まりを告げる。

 昨日、遂にハンターになることができた俺たちは、テオから中央大陸のメカルクにやってきた。ギルドにも訪れ、スペースさんにあったりもして、忙しい1日だった。それから、一緒に住むことになったスフェーとハンター専用の家に行き、部屋を見て回ったり、ご飯を食べたりして寝た。やっぱり疲れもあって、二人ともぐっすり眠れた。


 そうして始まったハンター生活だが、正直これといってやるべきことはない、ユニムが現れて、要請が出ない限りハンターに仕事はない。そしてそのユニムも、比較的出現率が高いメカルクで、1日に10件出れば多い方だ。ハンターの量から考えても暇だろう。


「スフェー、おはよ。」


「ん。」


 俺はベットから降りて、隣の部屋のスフェーを起こしにいった。ドアを開けると、まだ荷物が片付いていないまま寝たらしく、ものが散乱している。対するスフェーもまだ寝ており、心地よさそうに寝ている。ベットに近寄り、スフェーの体を揺らしてみると、返ってきた返事は、まだ寝たいと訴えるものだった。


「こいつどんな寝方したら、こんな寝相になるんだよ、、」


 スフェーは最早ベッドを活用できていないレベルでベッドからはみ出していた。足の方にある柵も超えているから、もしかしたら寝ている間に床に落ちていたかもしれない。

 俺はそんなスフェーを置いて朝の準備に入る。いつでも出動できるように、ラフな格好だが、Tシャツと長ズボンを着る。そして朝ご飯。材料はあまり無いが、テオから持ってきた野菜や加工済みの肉などを使って何かを作ろうか。少し考えた結果、スクランブルエッグを作ることにした。料理は趣味でするので、別に苦手ではない。


 そうやってスクランブルエッグを作っていたら寝室の扉が開いた。


「おはよぉ〜」


 そう言って出てきたスフェーは寝癖だらけの髪でまるで某サ○ヤ人だった。恐らく料理の匂いに誘われて起きてきたんだろう。まるで光に群がる羽虫の様に。


「お前髪の毛バグってる、直してこい。」


「はぁ〜い…」


 まだ眠気があるんだろう、スフェーは目を拭いながら洗面台へ向かった。戻ってきた頃にはいつものアホスフェーになってるだろう。うるさい1日が始まる、そんな朝を告げるスフェーは鶏と例えてもいいだろう。


「おっと、焦げそう。」


 スフェーと話していたら卵が焦げかけていた。俺は急いで皿に盛る。少し焦げたとはいえ、まだ料理の形を保っている。

 スクランブルエッグを食べているとスフェーが戻ってきた。


「フラクトおはよ!俺の分は?」


 スフェーは、机の上を見渡す。


「無い。自分で作れ。」


「えぇ〜作っておいてくれよ〜。」


 なぜこいつは作ってくれると考えるのか。


「スフェーも早く着替えろ。いつ要請が来ても行けるようにしとけよ。」


「はい、、、。」


 スフェーは弱々しい返事をした。朝食を作るのがそんなに面倒くさいことなのか?

 スフェーも着替え終わって、俺も朝ごはんを食べ終わる。ハンターは基本暇、それを表す様に、何も起こらないまま時間がすぎる。時刻は午前11時46分。


『ピンポーン』


 俺とスフェーが暇を潰していた時、突然インターホンが鳴った。


「お、要請か?」


 そんな希望を胸に玄関に向かう。この暇が無くなるならユニムと戦ってもいい。

 俺はそんなことも思いながら、玄関の扉を開ける。眩しい日差しが目に突き刺さる。


「やぁ、フラクト君久しぶり。」


 この機械音が混じった様な声と抑止力のある目。ドアを開けた先に待っていたのはロケットさんだった。


「え?あ、久しぶりです。何か用ですか?」


あまりに唐突な訪れに少々、いや、だいぶびっくりする。人の家に来るときは連絡の一つぐらい欲しい。


「まあ、そうだね。中に入ってもいいかい?スフェー君にも話がある。」


 そう言ったロケットは当然の様にお邪魔しますと入ってくる。側から見たら強盗の様な強引な入り方だ。


「どう?メカルクの景色は。」


 廊下を歩く間の沈黙を切り開く様にロケットさんが話をする。


「まだ2日目なのであんまり分かんないですね。とてもかっこいい街だとは感じますが。」


「いいね。もっと見つけて好きになろうな。」


 そういう話をしてスフェーがご飯を食べてる最中のリビングに入る。スフェーはまだロケットさんのことに気づいていない様だった。


「、、!!」


 スフェーの箸が口に向かう途中で、まるで蛇に睨まれた蛙のように止まる。何かの気配を感じ取ったように、臨戦体制を整えるかのように止まる。その姿は日頃見るスフェーからは想像できないような雰囲気を帯びていた。


「スフェー、お客さんが来た、、よ、、?どうした?」


 俺が玄関に行く前と帰ってきた時の様子の違いが側から見てもよくわかる。リビングに入ってから数秒は経っているはずなのに、まるで時間が止まっているように、微動だにしない。

 そのスフェーに困惑している俺の背後からロケットさんが入ってくる。


「お邪魔します。初めまして、スフェーくん。」


 この短い言葉、他の人からしてみればただの挨拶、親しむための儀式のようなものの一環として捉えるだろう。しかし、この言葉はスフェーに対しては少し違う意味を含んでいたようだ。


「こ、、こんにちは。」


 やはり怯えている。声の震え、感覚からわかる。たった今スフェーは怯えている。このロケットという男に、このメカルクを統べる王に。これは十何年付き添ってきたフラクトでも見たことがないような反応だった。このスフェーという男はメンタルはもはやテオNo.1。その圧倒的な自信(どこから来ているものかは分からないが)によってここまでこれていると言っても過言ではない。そのような男が今、背後から感じるであろう気配のみで怯えているのだ。


 流石にその異様な姿のスフェーに、初対面ながらロケットさんは気づく。まあ気づかない方がおかしいとは思うが。


「スフェーくん、どうしたんだい?そんなに緊張しないでいいよ。俺に構わず、そのご飯食べて。」


 ロケットさんはそのスフェーをまるで赤子をあやすように、優しく声をかけた。しかし、俺はその声を優しい声と捉えるが、このロケットという男が挨拶をしただけで動きが止まってしまうようなスフェーには、俺とはまた違うニュアンスで捉えたかもしれない。


「いや、もう、、、もう大丈夫です。フラクト、、ちょっと保存してて。」


 どこかよそよそしい感じを醸し出しながら、半分ほど残った目玉焼きを残しておくようにと忠告する。この少し図々しい感じはいつでも表れてしまうのがスフェーのちょっと悪いところだろう。


「わかった。冷蔵庫入れておくね。」


 その要望に応えるように、俺はラップをして冷蔵庫に入れる。その間もスフェーは空一点を見つめており、頑なにロケットさんの方を見ようとしない。ここまでの拒否反応を示すのなら、それはもう『緊張』ではなく『拒絶』に近い。そこにロケットさんが存在していないことが今のスフェーにとっては嬉しいのだろう。そんなスフェーと相反して、ロケットさんは「座ってもいいかい?」と聞いてスフェーの真正面の席に座る。意識して、あえてスフェーの正面に座ったのかは不明だが、この行動は少し鬼畜じみている。


 冷蔵庫に目玉焼きを入れて、スフェーの隣で、ロケットさんの少し左斜め前に座る。座ってみると、ロケットさんと並行に目が合うような姿勢になる。こうなると、普段は言い方は悪いが、見下されているような感じで見てくるロケットさんとは違う、まるで三者面談の時の先生のような威圧感を感じる。


 この少し冷たい雰囲気に切り出してきたのはロケットさんだった。


「急に訪れてすまない。今日からハンターとして正式に活動する君たちを見越してお願いをしにきたんだ。」


 そう話すロケットさんは出迎えた時のような微笑みは消え、真剣な顔になっている。まあ、俺たちが知らないだけで、この顔が普段の可能性があるのだが。


「今回俺が来た理由は単純、君たちに依頼をしに来たんだよ。」


 そう言ったロケットさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。なにか裏があるような、そんな笑みに感じる。


「依頼、、、ですか?」


 あまり使い慣れない『依頼』という言葉に、オウム返しで反応をする。まぁハンター初日から、メカルクのトップにこんなことを言われて理解が追いついてないだけだと思うが。


「そう、依頼。内容としては、君達には俺と一緒に、、、いや、別に俺と一緒じゃなくてもいいけど、とにかくメカルクの内外、要するに色んな都市でハンター活動をして欲しいというもの。まぁ、依頼と言うより、要望、になるのかな。」


 このロケットさんの言葉を一つ一つ自分に落とし込むように確認する。別に理解できない訳では無いが、この依頼とやらをわざわざ個人宅に来て言うことかと思って、なにか裏がないかを詮索していただけである。


「それって普通のハンターと変わらなく無いですか?他のハンターさんも違う都市で活動することありますよね?」


 この単純な疑問をロケットさんにぶつける。俺は昔、雷さんと頼音さんに助けられたことがあるが、その時、彼らは独立ハンターではなく、メカルクに所属していたと後々調べてわかった。そんな彼らがテオに来たところを見るに、別にどのハンターでも国外に出て活動してもいいと思ったからだ。


「あー、、、ごめん。言い方が悪かったな。確かに他のハンターでも違う都市で活動することはできる。ただし、今回君たちに行っているのは、そんな公にできる活動では無い。俺、もしくはスペースが君たちに直接要請をする。つまるところ、他のハンターではやれないことを君たちに頼もうと思っている。」


 そう言ったロケットさんの目が一直線に、『一直線』と表すのがピッタリなほど俺の、フラクトの目を見る。まるで俺に伝えたいメッセージかあるように。

ロケットさんが言いたいことは理解出来た。要するに俺たちは通常のハンターの仕事、ユニムの討伐に加え、ロケットさん、スペースさんの指示もこなさなければ行けないということか、、、。


「なんで俺らなんですか?そういうことを得意にしている人もいると思いますが、、、俺たちでならなければならない理由があるんですか?」


「すごい深堀りするね。君達には期待しているんだよ。今までのハンターにはない何かを感じるんだよね。それが何なのかはまだ俺も分からないけど、そんな君達に色んなことを経験させたいんだよね。」


 『期待』、その単語がロケットさんの口から出たことが意外だった。こんなにも強い、偉い人から『期待』されているだなんて。過去にも色んな面で『期待』されることはあった。中学生の頃は学年でトップを狙えるぐらいの学力はあったし、運動も出来たことから『期待』されて、リレーなどの走る競技ではアンカーを任されることが多かった。


 しかし俺は、その『期待』というものが嫌いだ。俺からすると、ただ運動が、勉強が出来ていたというだけで、ただそれだけで周りから持ち上げられる、注目されることが嫌だった。『期待』というのは言い方を変えれば『縛り』である。『期待』をされているだけの成果を出さないといけない。これを好きだという人もいるが、俺にはその気持ちが分からない。いい点数が、いい順位が取れなかった時、周りからの『期待』が『失望』になってしまう。今回の件もそうだ。ロケットさんの、スペースさんの指示を受けて、その指示をこなせ無かった時、俺は『失望』されてしまう。これが怖かった。


「期待、、、ですか。ロケットさんの期待に応えれればいいんですが、、、具体的にはどんなことをするんですか?」

 

  フラクトがこう言うとロケットの表情が変わる。こんなにもあっさり受け入れて貰えるとは思えてなかったらしく、更なる手を考えていたところだったが、フラクトを受け入れてくれた、言わば恩人のような存在のロケットの要望をフラクトは拒否することが出来なかった。この一幕がこれから、フラクトに多くの試練を与えるとは、ただ平凡に(ハンターになっている時点で平凡とは程遠いが)暮らしたかったフラクトにとっては、間違った選択かも知れなかった。


「お、乗り気だね。具体的には俺のSPだったり、各都市の視察だったり、ユニムと戦ってもらったり、幅広い分野のことをお願いするつもりだよ。やってくれるかい?」


 フラクトは考える。いや、さっき具体例を聞いてしまったせいで、ロケットはもうやってくれると思い込んでいる。ここでフラクトが選択を変える、つまり拒否するすると、これも『期待』を裏切ったことになるのだが。そしてフラクトは決める。忘れては行けないが、スフェーは隣でただ聞いているだけだ、人形のように下を向いているだけだった。


「や、やります。」


 覚悟を決めたこの言葉にロケットは胸を撫で下ろすような動作をする。ただそう見えるだけなので、ロケットの真意は分からない。ひとつ言えることはこの選択を変えることが出来なくなってしまったということだけだ。


「ありがとう、フラクトくん達ならやってくれると思ったよ。じゃあ、依頼のために不定期に電話かかってくるかもだから、確認お願いね。あ、フラクトくん達からもかけてもらっていいよ。暇なら電話出るから。」


 ロケットは笑っている。本心はわからずとも今は笑えるような心情ということだ。フラクトは話を聞きながら、電話番号とか知っているんだろうか、と考えたが、俺らのフルネームを知っている、調べているような組織なので、電話番号ぐらい簡単に手に入るだろう。


 そんなことを考えるフラクトの横には、この数十分ほぼ下を向いているスフェーがいた。フラクトも気をかけているが、何故スフェーがロケットがきた途端に静かになったのかが理解できないので、最善の答えがわからない。今できることは、スフェーを『無視する』ことだった。ロケットに至っては気にならないような素振りで、フラクトにしか話しかけていない。


「それじゃあ明日からやってほしいことがあってね。一週間前ぐらい位から、あのリコ-ポーションの会社、『リ・ランド』の社長の娘さんが行方不明なんだ。今、メカルクの全ハンターに捜索依頼を出しているが、、、残念なことにまだ見つかっていない。そのため都市の外まで行ってしまっていることも視野に入れて各都市に協力を依頼したいんだ。それの付き添いをしてほしいんだよね。」


 ロケットが口に出した『リ・ランド』はテオに住んでいたフラクトですら名前を知っているこの世界の超大企業だ。この世界の医療分野に多くの功績を残したルスト・アルデラが創設した会社で、先程のリコ-ポーションというのは、世界で使われている万能回復薬でこの世界にかけてはならないものだ。フラクトもユニムに襲われて怪我をしたときには必ず使っている。

 そんな製品を作っている会社の現社長の娘が行方不明というのは一大事件になるだろう。


「すみませんロケットさん。単純な疑問なんですが、そんな重大任務の手助けをなんで僕らが担当するんですか?もっと他に優秀なハンターさんいらっしゃいますけど、、。」


 俺の言葉にロケットさんは少し笑った。


「なんでって?信頼している、とか、経験積ませてみたい、とかいろいろあるけど一番の理由は()()()()()()()()()()。」


 何を言っているのか、フラクトにはわからなかった。しかし、そう言われたことで、俺らしかいなさそうと考えることはできた。


「明日から大変になるけど頑張ってね。できる限りのフォローはするから。」


 ロケットは帰宅の準備をしながらそう呟く。この言葉もフラクトにはピンとこなさそうで、彼の性格を考えると、「付き添いだけでしょ?」と考えているだろう。しかし、この初仕事がフラクトにとって大きな転換点になるのだった。

 帰る用意ができたロケットさんは玄関にむかう。やはり俺の部屋には小さすぎるほどにロケットさんの体は大きかった。


「それじゃまた明日来るから、いろいろと用意しててね。結構な長旅になるかもしれないから。」


 フラクトは玄関まで見送りし、ロケットは手を振ってドアを閉める。30分にも満たない時間でいろいろ情報を得たからか、フラクトはあまりまだ情報の整理ができていない。とりあえず言われたとおりに仕事の準備をしようと思い、後ろを振り返ると、そこには先ほどまで黙っていたスフェーが立っていた。

 あまりにも音がなかったのでフラクトは少し驚いたが、ロケットが来てからずっと沈黙していたスフェーが心配になっていた。


「スフェー、急に黙ってどうしたんだよ。いつもは話に割り込むことが多いのに。」


 フラクトはそういった後に、スフェーの手が少し震えていることに気づいた。気温は寒くもなく暑くもないので、寒さでの震えではないとフラクトは考えた。


「お前、なんで震えてんだ、、、?」

「、、、あの、、あのロケットって人が来た途端に震えが止まらなくなって、しゃべりたくても声が出ないし、、、。」


 スフェーは泣きかけていた。声に震えが出てどれだけおびえていたのかが分かった。しかし、ロケットさんが来ただけでおびえるものかとフラクトは考えた。しかし、このスフェーという男は実に馬鹿正直なのだ。いままで嘘をついたことはない、、、いや一度だけあったが、些細なことで大嘘をつくようなやつではない。だが、俺は今まで何回もロケットさんに会ってきたが、一回もおびえることはなかった。俺以外に感じる何かがあるのか?そんなことを考えながら、スフェーを慰めて、明日の準備を始めた。


 ロケットさんは長いと言っていたが、俺は1週間分の準備だけした。俺は旅行というか旅というのをあまりしたことがなく、テオの中で学生時代を過ごしていた。テオは案外栄えていて、商業施設やアミューズメントパークなんかもそろっていたので島の外に出る意味がなかった。だから、どのくらい準備すればいいのかわからなかったので、1週間分ぐらい入れた。最悪足りなくなっても行った先で買えばいい。そう思っていた。


 旅の準備が終わりそうになった時に、机の上に置かれていたスマホのバイブと着信音が鳴る。俺は普段電話というものを使わないので、設定で音量マックスにしたままだった着信音に驚く。

 今頃電話をかけてくるのはリミルぐらいか?と思ったが、画面に映されている名前は雪夏だった。


 昨日別れてからお互い忙しかったのだろう。まだ連絡をとってなかったので嬉々として電話に出る。爆音の着信音はスフェーにも届いていたらしく、俺の部屋のドアを少し開けて顔を覗かせる。


『あ、もしもし?フラクト君?余裕が出てきたから電話かけちゃった。』


 スマホ越しに聞こえてくる声は聞き馴染みのある声。1日聞いていないだけで懐かしさを感じるのは、学生時代毎日会っていたからか。


「よ、昨日ぶり。そっちの生活はどう?」


 雪夏は黎明という都市の、夕乱という場所でハンターになったらしい。一緒の駅から乗ったとはいえ、メカルクと夕乱はこの大陸の真反対に位置しているので、昨日の殆どは移動だろう。


『まだまだ何もできてないんだよね〜。昨日はほぼ移動だったし、こっちの寮に着いたのも夜遅かったから。今日に入ってやっと部屋の整理し始められたよ。』

「それは大変だったね。こっちも準備とかしてたらあっという間に今日になったよ。夕乱の景色とか、そっちのハンターズギルドとかってどう?」

『こっちは自然豊かって感じ、メカルクから移動してるとちょっとずつ自然が増えてきて、黎明に入る頃にはもう近未来っぽさはなかったね。伝統的な建物が多い感じ。ハンターズギルドは景観を守るために木造なんだよね。けどデカくてびっくりしちゃった。』


 話を聞いている限りだと、いつもの雪夏だった。テオでも時々聞くことがあったが、中央大陸は大きいから、各都市で景色というか、考え方だったり、いろいろ違うと聞いたことがある。黎明は武術都市であるが故に、近未来さを求めるより、伝統を守る文化になっていったんだろう。


 授業でも習ったが、元々中央大陸に都市という概念はなかった。多種多様な種族が暮らすいわば理想郷のようなものだったらしいが、文明が栄えていくにつれてそれぞれの生物の考え方が独立して、今のような都市型の区分ができたと言われている。これも最上級のハンターである『神狩』がその都市を管理するので、多い時は7つもの都市があったと言われている。しかし今では4つとなっている。


「確かにハンターズギルドは初めてみるとサイズにびっくりするよね。」

『うん!もう驚きの連続だったよ。黎明の習慣?みたいなので、ハンター活動と並行して、個人の技術向上のために『武術訓練』っていうのが入ってくるらしいんだよ。』


 『武術訓練』は聞いたことがある。主に黎明で行われている風習で、己の武術を極めるために、打撃なら打撃を、斬撃なら斬撃を、その道のプロと呼ばれる人達に指南してもらうことだ。雪夏の戦闘スタイルは打撃、特に殴りに特化したスタイルだ。


 電話越しに楽しそうな雪夏の声を聞くと、安心するし、『武術訓練』をやってみたいんだろう。

 雪夏は今でこそ少し落ち着いたが、昔はいつでもどこでも喧嘩していたようなやつだ。長年の殴り合いで得た独自のスタイルで、テオでもずば抜けた格闘家になった。だからこそ、もっと己を強くするために黎明に向かったんだろう。


「そういえば、もうお兄さんには会った?」

『いや、まだ会えてないよ。話を聞いたら、今ユニムの調査に出ているらしい。でも、雪兄の所属は同じ夕乱だからいつかは会えるだろうって。』

「そうか。」


 電話越しだからか、雪夏がどう思っているかは分からない。久しぶりにお兄さんに会えるはずだったのに会えなかったからか、少し残念そうな、落ち着いた声で雪夏は話した。


『でも、自慢のお兄ちゃんだから。何処かで活躍してると思うと寂しくはないよ。』


 そう言って雪夏は少しの間黙る。

 考えを整理しているのか、思いに浸っているのかは分からなかった。


『そういえばスフェーは元気?別れた時めっちゃ泣いてたから気になって。』


 俺は後ろに目をやる。未だにドアから少し顔を覗かせて、俺たちの通話を聞いているスフェーがいた。流石に通話の音は聞こえないだろうが、俺の話し方で誰と電話しているかは分かっているだろう。

 俺はスフェーを確認しながら、「元気だよ」と返す。電話越しで笑い声が聞こえた。


『ははっ!それは良かった。心配していたって言っといて。』


 その笑い声は女性の笑い声にしては少し豪快、だが長年付き添った俺たちからするといつもの雪夏だ。そんな雪夏の強気なところがフラクトは好きなのである。


『それじゃ、用は済んだから切るね。また暇だったら、、、いつか電話かけるよ。それかまた会えるといいね。』

「うん、またね。」


 次の瞬間には雪夏の声がなくなり、電話は終了を告げる電子音が鳴る。

 先程の通話でフラクトはフラクトたちの今後のことを何も話さなかった。それはロケットが言っていた依頼が公にできないものだったからだ。ロケットは顔が割れていないという理由で腕の立つハンターより、ハンター初心者の、ハンターになって2日しか経っていないフラクトたちを選んだのだ。これがもし雪夏に言ってしまった時にどんなことになるのかが想像できなかった。フラクトの頭の中にはいつでもスペースに繋がることのできる『SOLINE』が仕込まれている。つまり逆のことを言うならば、スペースもいつでもフラクトの会話を聞くことができるということなのだ。

 そこまで頭の回らないフラクトでは無い。いつでも聞かれているということを想定して雪夏にも言わなかったのだ。


「もう終わったのか?」


 さっきと変わらない状態のままスフェーは言う。


「ああ、終わったよ。雪夏がお前のこと心配してたってさ。良かったな、気にかけてくれる人がいて。」


 今俺がどんな顔をしているのかは、その人の解釈によると思うが、おおよそ世間一般で言う『悪い顔』をしているだろう。


「ふん。余計なお世話だね。自分の心配しろってんだ。あと最後の一言要らねぇよ。」


 スフェーは少しだけ顔を覗かせた体勢から、そのままドアを開け部屋に入ってくる。スフェーは昔から人の電話には決して邪魔しない男だ。電話の相手が友達だったとしても。俺はもう慣れたが、最初の頃は別に気にしないから入ってきてもいいのに、と思っていた。


「フラクト。明日からの準備終わった?」

「だいたい終わったかな。とりあえず1週間分持っていくわ。食料とかは行き先で買えばいいし。」


 まぁこの考えは甘いかもしれないが。

 まだ正直な話、中央大陸に来て2日しか経っていないため、周りがどういう都市なのか、しっかり把握出来ていない。その都市の風土を理解出来ていない分、危険なこともあるかもしれない。スクールでやった地理の知識も多少はあるが、実際は非公開の情報が盛り沢山あるだろう。


 そんなことを考えながら、荷物の入ったキャリーケースのファスナーを閉める。1週間分の荷物は結構重い。ただ、中央大陸に降り立った時の荷物よりはまだマシだった。


「なぁフラクト。準備終わったならご飯食べねぇか?昼から食べてないのはちょっときついぜ。」

「そうだな。食べたいものある?」

「え!作ってくれんの!?」

「最初で最後だ。」


 やったー!と喜ぶスフェーを横目に荷物を壁側に寄せる。

 確かに思い返してみれば、今日は昼に食べたとき以外食べてなかったなと思った。急にロケットさんが来たことを要因に荷物の準備とか忙しかった一日だった。

 しかし明日からもっと忙しくなるだろう。なんせ都市を巡るからだ、ロケットさんが言う『依頼』とやらにどんな背景が隠されているかなんて分かるはずがない。しかしこれは長旅になるだろうと本能が察した。もしかすると、今後の人生が大きく変わってしまうかもしれない。


 しかし、それが楽しみなフラクトとスフェーだった。

 俺は料理を作るためにキッチンに向かう。

 他人のご飯を作ることなんてほとんどない俺だが、スフェーの考えは分かる。恐らく奴が今食べたいのは肉だ。スフェーはお腹が空きすぎると無性に肉を欲する人間なのだ。逆に肉以外を食べることはない。

 まだ軽い空腹ならなんでも食べるから非常に扱いやすいが、究極の空腹時は本当に面倒くさい。どんな料理を出しても肉以外は食べないし、空腹を満たしたくないのか、満たしたいのかが全く分からない。

 そんなスフェーに今回作る料理は唐揚げだ。テオから持ってきた食料に鶏肉があったのでちょうど作ることができる。

 料理をしながらも、未だに今後のことを考えているフラクトは少し上の空のような感じだった。

 それを感じ取れないほど、スフェーは鈍感ではない。むしろ友達の変化に対しては敏感な方だ。

 さっきの電話に出たフラクトはどこか悲しげな顔をしていた。何かが抜けているような、そんな顔だった。

 急に決まったロケットさんとの旅は、雪夏と離れることになった俺たちの心を癒す間も与えてはくれなかった。それが表れたのがさっきのフラクトの表情だったのだろう。


 今後の不安ももちろんある。旅ってなんだろう。ハンターとして生きていけるのだろう。一人で死なないだろうか。いろんな不安はある。それでも今までいろんな人が応援してくれた、親や学校の友達、島民のみんな、みんなが背中を押してくれたから今このマシキルにいるんだということを忘れてはいけない。


 この場所に入れること自体が名誉あることだった。

 同じ空間で過ごすスフェーとフラクト、お互いに何かしらの不安は持っていた。しかし、その悩みで互いの不安を増やしてはいけないと、言葉には出してはいなかった。

 そんなことを考えていると、唐揚げができた。

 お皿に盛り付けて、スフェーのもとに持っていく。


「おお!うまそうだな!早く食べようぜ!」


 目を光らせるスフェーはまるで子供のようだった。

 ご飯を食べながらも、フラクトとスフェーはいろんなことを話した。そんな時間はあっという間に過ぎて、明日に期待と不安を抱いて寝ることになった。

 

~~マシキル、ハンターズギルドメカルク本部~~


フラクト達が眠りについた頃、このメカルク所属のハンター達の総本山とも言えるメカルク本部の『総監督室』という少し厳かしい雰囲気を漂わせる名前の部屋にロケットは居た。

ロケットはデスクに座りながらも街を一望できる窓から外を見ていた。時間的には真夜中で空は暗いが、メカルクが中央大陸随一の工業都市であるため、それぞれの建物の光かまだ街を照らしていた。


花火弥(はなびや)、そっちの様子はどうだ?」


 ロケットは空中に映し出されているモニターに話しかける。モニターには景色が写っている訳では無い。この花火弥という男とあと3人ほど写っている。


「あぁ、この間ロケさんが言っていた勘が当たってましたね。ここ最近の頻発するユニムの襲来は恐らく奴らの巣が出来てますね。俺の担当するナギアで発生したユニムはほとんどの個体が瀕死状態で共通する方角に逃げる素振りをしてました。46体中39体がこの行動を見せましたね。」


「やっぱり巣があったか。最近のユニムの異常発生はメカルクに不安の種を蒔いている。一刻も早く不安を解消させなければならない。」


 ロケットは少し悩んだ。彼は中央大陸の中でもトップクラスで頭は良い。そんな彼だが、今回の件を深掘りすることに悩んでいるのがモニター越しの花火家達に少しの驚きを与えた。


「…うん。分かった。花火弥達は調査を続けてくれ。俺は明日から各国を回って、他の神狩達がどんな見方をしているのか調べてくる。ついでに『リ・ランド』の件も話してくる。なにか異変があったら俺に教えてね。」


 了解。とそれぞれが応える。 

 この先中央大陸を震撼させる事件が起こるのだが、そんなことはまだ誰も知らない。

 画面が全て消えて、ロケットは部屋の窓から星空を見る。ロケットは少し笑った。


「さて、始めますか。」


 恐らく誰にも届いてない起動合図は部屋の中だけでこだまする。ロケットは席を立ってどこかへ向かうのだった。

どうでしたか?次回から物語は少しずつ展開していきます。次回の投稿をお楽しみください。

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