第ニ話 近未来都市。
皆さんこんにちは。青葉です。関係ないですが、崩壊スターレイルでカフカ当たりました。
今回の話は前回からあまり進まないですがどうぞ。
新人物も出ますよ。
日差しが眩しい。一面に広がる海と、初めての船にバカみたいに騒ぐスフェー。
現在俺は外の空気を吸いたくて、中央大陸に向かう大型船のデッキにいる。遂に夢だったハンターになれることができた。正直なところ、まだ実感は湧いていない。俺は特別合格みたいな感じで、ハンター認定試験をクリアしたからだ。ハンター認定試験っていうのは、とても難しく、ハンターになるために適した知識、強さが身についているか。ユニムと戦う時に臆せずに立ち向かうことができるかを試験する。しかし、例年は合格者より、不合格になる人が多い。そんな人たちの中には、もう一年スクールに通ってでもハンターになろうとする人もいる。
今回は、雪夏、スフェー、俺の全員が無事に試験を突破できたが、とてつもなく奇跡だろう。雪夏は妥当だが、スフェーはバカ、俺は単純な遅刻、よくそれで受かったものだ。まあ、俺の場合はロケットさんのお陰なのだが。
そんな激ムズ試験を正攻法で突破してないから余り実感が湧かないのだろう。
日光が反射し、キラキラしている海面を見つめながら、そんなことを思った。
「あの鳥やろう、、、俺の食べ物を奪うな!」
どっかのスフェーが海鳥と戦ってるが放っておく。
船の先端によって切り拓かれて波打つ海に目をやった。目を瞑って今後のことを思う。『メカルク』のハンターとして、しっかりできるのだろうか。船の駆動音と海のさざめきがより鮮明に聞こえる。
その途端、過去の景色がフラッシュバックする。ユニムによって殺された両親の顔。ユニムによって痛めつけられたリミル。
見たくもない光景が脳内に浮かんで吐き気が湧いてくる。船酔いも重なっているだろうが俺はその場に座り込む。口を手で押さえ、出てくるものを強引に抑え込む。
「フラクト。大丈夫?酔った?」
その光景を見て声をかけてきたのは、日陰で休憩していた雪夏。
「う、うん。少し酔っただけ。」
幼馴染を心配させるわけにはいけない。俺は本当を隠す。
今みたいに目を瞑ると、過去の出来事を思い出すのは最近始まったことではない。昔から、嫌、両親が殺されてから見えるようになってしまった。あの時、ユニムが現れた時に、俺は何もできなかった。ただ物陰に隠れて、親がユニムによって殺されるのを待つだけ。あの時の罰、呪いだと思っている。
そんな重い話をこの楽しい空間で言えるわけもなく、立ち上がりなんかやってるスフェーに声をかける。
「スフェー!部屋に戻るぞー。暑すぎるー。」
「わかったー!あの鳥どうにかして戻るわー!」
あのアホは届きもしないほど遠くに飛び立った海鳥に暴言を吐いていた。
「俺のパン返せ〜!」
めんどくさくなった俺はアイコンタクトで雪夏とコミュニケーションを取り、自分たちの部屋に戻る。
「昔からスフェー君は変わんないね。」
少し笑いながら雪夏がつぶやく。
「そうだな。」
新生活の始まりはそんないつもと変わらない風景で始まった。
「ねえ!見てみて!あれ中央大陸じゃない!?」
船が陸から離れて30分ぐらい経った頃、遂に中央大陸が窓から見えるようになった。
これから過ごして行くところが見えてきたことで、ようやく実感が湧いてきた。
「すげえ……。」
スフェーは好奇心に浸っていた。
俺らの船が到着するのは、中央大陸の工業都市メカルク。ロケット・ユニバースさんが取りまとめる都市で、中央大陸の中では一番広い面積を持つ。この世界の産業を支える街で99%の製品はここから作られている。物以外にも、電気やガスなどのエネルギー資源も作成、販売している。
そんな中央大陸の中で最も重要な都市のメカルクだが、国土が広い分、ユニムの発生率も一番だ。そのため、ロケットさんが言っていた「人手不足」は、その広大な土地で生産に支障が出ないよう、迅速に対応するためのハンターを多く募集しているのだそうだ。
そしてメカルクは4つの街に分かれている。主に電気関係を担当している『エレク』、土木関係を担当している『ジョウ』、機械関係を担当している『マシキル』、そして最後にそれら全般を扱っている『マギマ』。この4つの街で構成されている。俺らが下りるところは『エレク』だ。
俺がハンターとして活動する場所はわからないが、この後ロケットさんと会ったときに教えてくれるだろう。雪夏は黎明の『夕乱』という場所らしい。
そんなことも考えながら、みんなと話していると遂に船が港にたどり着いた。徐々に船が減速している。それは俺たちの新生活が始まるカウントダウンとも言える。船内アナウンスが中央大陸、メカルクのエレクに到着したことを伝える。俺らは荷物を背負い、部屋を出た。変な高揚感をもちながら、港へつながる道を進む。現在、学生の長期休暇などと重なって、旅行に行っていた大勢の人たちと共に地面に足を付ける。
「近くで見るともっとすげえな、、、」
俺はテオでは決して見ることはないであろう、近未来的な超高層ビルを見上げた。まるで子供のように目を輝かせて、自分を取り囲むビル群を見ていると雪夏が笑った。
「フラクトくんかわいいね」
雪夏に笑われて、俺の顔が真っ赤になる。
「や、やめろ!」
完全に油断していたところを見られて、そんなことしか言えなかった。雪夏の奥にいるスフェーが俺を見てニヤニヤしている。後でこいつ殺す。
人波を抜け、少し離れた道路に出た。俺はバックからスマホを取り出し、メカルクの『ハンターズギルド本部』の場所を地図アプリに入力する。すると、地図アプリはマシキルを刺した。
「マシキルってことは結構距離あるな。電車で行くか?」
俺はスフェーと雪夏に聞いた。
「俺は何でもいいぜ。できるだけ早く行けるやつで。」
「私は黎明に行くから、電車にの乗るつもりだよ。」
二人の意見を聞いて、俺は結論を出す。
「わかった。それなら電車に乗ろうか。」
というわけで、駅に向かう。さっきと同じように地図アプリで駅を探す。一番近い駅はここから徒歩10分ぐらいにある『アクサ・ステーション エレク港駅』だった。
「じゃ、駅行くぞー」
そうして俺らは歩き出した。
日が頭の上に来た頃、俺らは駅に着いた。この駅は街の中のみで運行する電車と、街と街を行き来する電車が到着する比較的大きい駅だ。ここで俺らは、俺、スフェーの二人と雪夏に分かれる。大きく言えば運命の分かれ道だ。
駅構内の切符販売所で俺とスフェーは地方列車マシキル行きを、雪夏は島内列車黎明行きを買った。
「それじゃあ雪夏。ここでお別れだな。黎明でもがんばれよ。」
「雪夏、、。俺は悲しいよ~。」
俺とスフェーは雪夏に別れの挨拶をする。スフェーは泣きかけていた。
「スフェー泣かないの。一生会えないわけじゃないんだから。」
雪夏も目に涙を浮かべながら、スフェーに言葉をかける。
「ということでフラクト!スフェー!新天地で頑張ってね!私も頑張るから。」
雪夏は涙を拭い、力強く言った。彼女もいろいろ思うことがあるだろう。兄が待つ黎明で活躍することができるのか、人々はどんな感じだろうか、心配なことしかないとは思うが、それを感じさせない彼女はとても強い。彼女はきっと活躍するだろう。
「わかった。頑張るよ。」
俺は泣きじゃくるスフェーのバックをつかんで引っ張る。
「雪夏!また会おうな!」
俺は雪夏に手を振り、改札を抜ける。決して振り返らず、そのままホームに向かった。雪夏の気持ちを裏切らないように、前を向く。
「おら。スフェー行くよ。立て。」
「うん、、、、、。」
新天地早々の別れに少し悲しくなるが、またいつか会えるだろう。
そう前向きにとらえて、到着したマシキル行きの電車に乗り込んだ。
扉がゆっくり閉まり、電車が少しずつ加速する。
それは俺たちの新生活の始まりを告げた。
「、、フラクト君、スフェー君、頑張ってね、、。」
雪夏は島内列車が着くホームでフラクトたちが乗った電車を見ながらそう呟いた。
透き通った涙が雪夏の頬を伝い、アスファルトの地面を潤す。
雪夏の目の前に黎明行き電車が到着する。
その電車はフラクトたちとは真逆に進む。いつかまた会えることを信じて、雪夏も前を向いた。
俺たちが乗った地方電車は、順調に進む。とても晴れた青い空と真白の雲のコントラストがとてもきれいだ。この電車は今、エレクとマシキルの中間地点ぐらいで、あと少しでマシキルに入る。燦々と照る日光が、窓越しにあたる。程よい気温で、スフェーはぐっすり寝ていた。俺はスマホで電車内から、外の景色を撮った。発電所や電線が多かったエレクに比べ、少し緑が多くなった気がする。いくら工業都市といえど、密集地帯と過疎地帯は少なからずも存在する。
撮った写真はリミルにメッセージで送った。これは、下半身不随で入院中のリミルから、リミルの代わりにいろんな場所を写真に撮ってきて、と言われたからだ。病院内ではとても暇なんだろう。すぐに返信が来る。
そんなことをしていると、電光掲示板の文字がエレクから、マシキルへと切り替わる。
だんだんと本部に近づいている。その事実が俺をワクワクさせていた。
ハンターズギルドのメカルク本部はマシキルの少し奥にある。調べると駅の近くにあるようで、『ハンターズギルド前』という駅で降りれば良いらしい。
その駅にはあと少しで着くので、隣で爆睡しているスフェーを叩き起こす。電車の中でいびきをかいて寝るのはやめてほしい。
「おい。スフェー。もう着くぞ。起きろ。」
スフェーの肩を揺らし、起こす。
「うぇ。」
スフェーは聞いたこともないような声を出して起きた。
「どんな声出してんだよ…。」
「ごめんごめん。快適すぎて。」
目を擦って、背伸びをするスフェーは窓の外を見る。外の景色をみて、スフェーの目の色が大きく変わった。
「うわぁ〜。めっちゃかっこいい建物しかない。」
窓に張り付くようにして周りを見るスフェーを強引に窓から引き離す。
「やめろ。こっちが恥ずかしくなるわ。」
スフェーはごめんのポーズをして荷物を準備する。正直なところ、俺も建物に興味しかない。円柱状の建物や、モノクロのビルなど、スタイリッシュなものが多く、街を散策するだけで1日が余裕で終わりそうだ。
「電車降りてからゆっくり見るぞ。」
「やったー!」
子供のように手を上げたスフェーに少し笑ってしまった。俺は壁にもたれかかって、残りの時間を外の風景を見ながら過ごす。時刻は14時。日が少しだけ斜めになった。
電車のアナウンスが、マシキルに到着することを知らせる。
俺とスフェーは荷物を手に持って、席を立つ。一番近かった扉の前に立って、少しずつ減速する電車に耐える。スフェーは倒れかかって手すりに掴まる。ちょっと驚いたスフェーの顔は最近で一番面白かった。
電車は駅のホームに到着する。動きが完全に止まり、少し間が空いた後、扉が開く。
そこには今乗ってきた電車すら古いものに見えてしまうようなほど近未来的な内装が見える。思わず「やば」と声が出てしまった。
電車から出た俺たちはホームの階段を降りて、改札へ歩く。
周りの自動販売機や電光掲示板がテオでは見ないレベルの進化を遂げていて、衝撃の嵐だった。駅の中にある店の店員さんは機械だったりともはや文明のレベルが違う。これが工業都市か。そう思った。
もちろん人数も多く、駅であるということを忘れてしまう。
そんな駅から出ると、目と鼻の先にハンターズギルドと思われる建物があった。まるで役所のような、学校のような、そんな巨大な建物があり、マップもそこを指している。
人混みをうまく躱して、その建物に向かう。
「フラクト。あれがハンターズギルド?」
「うん、マップはあそこ指してるから、多分あれだね。」
そう教えると、スフェーは走り出す。
「フラクト!早く行こうぜ!俺もう待ちきれねえよ!」
猪突猛進なスフェーは俺を誘いながらも先に走って行った。
「なんだよあいつ。めっちゃ元気じゃん。」
流石、さっきまで寝ていた男。
置いて行かれた俺は歩いて建物に向かう。そこの途中にあった看板には、『ハンターズギルド メカルク本部』と書かれていた。それに目をやって、遂に敷地前に来た。
「…よし。行こう。」
自分自身に覚悟を決めて、その敷地に踏み込む。さっきまで歩いてきた道と同じ感触だが、全然違う。
俺は先にある入口目指して進む。
シックで近未来的な玄関の自動ドアを通る。
すると、「こんにちは。」と声がした。横を見ると、女性のようなアンドロイドがいた。
『ようこそ。ハンターズギルドへ。』と喋ると、タブレット端末が渡された。
そこには『新人ハンターさんはこちら』と書かれた表があり、俺とスフェーの名前があった。
「自分の名前のところにチェックをしてください。」
そう言われたので、出席にチェックをする。先にきたスフェーもチェックされている。
「ありがとうございます。ようこそ、フラクト=マグナイトさん。会場に案内しますので、私についてきてください。」
アンドロイドは機械的な、ほんの少しだけ人間味のある声と、身振り手振りで、伝えてくる。
「わかりました。お願いします。」
感謝の気持ちだけ伝え、そのアンドロイドについていく。アンドロイドといえど、しっかり服は着ているし、足もある。ぱっと見では人間と思う人もいるだろう。そこはメカルクの技術力の高さに脱帽だ。
俺はアンドロイドの後ろを歩いていた。入り口から少し奥に行った場所。暗証番号を打たないといけない扉があった。その扉を解除して、アンドロイドは振り向く。
「ここから先はフラクト様のみで行ってください。この通路を真っ直ぐ進んでもらうと目的地に到着します。お供できずに申し訳ございません。」
「いえ、ここまでありがとうございました。」
少し違和感を覚えたが、中央大陸ではそういうものなんだろうと思って、扉の先に進む。
俺が扉の先に進むと、静かに扉が閉まる。周りが急に暗くなり、少し怖くなる。
「ここを真っ直ぐか、、、。」
その通路は明かりは壁に付いているネオンライトのみ。俺の足音のみが響き、他には何も聴こえない、そんな薄暗い場所を歩く。
道中にも通路の左右に扉が見えたが、真っ直ぐと言われたとおりに進む。
アンドロイドと別れた扉から100メートルほど歩いたときだろうか、俺は目的地とも思われる異様な雰囲気を放つ扉の前に来た。その扉は、通路の途中にあった普通の扉とは違い、近代的な、扉とも言い難い形のものだった。
俺が扉に触れようとした瞬間、まるで溶けるように扉が上から下に向かって開く。
その先は俺が想像していた10倍は広く、軽く100個は超えるだろうモニターがあり、例えるなら管制塔のようだった。
俺はその部屋に入り、天井やモニターを見ていた。モニターには、街の様子が写っていた。
「どうだい?君がこれから暮らしていく街の様子は。気に入った?」
背後から話しかけられて驚く。反射的に振り向くと青年がコーヒーを持って立っていた。
「え。あ、はい。すごいなって。いや、あの、、勝手に見てすみませんでした。」
急な出来事に頭が回らず、上手く言葉にできなかった。とりあえず謝る。
「謝らなくていいよ。フラクトくん。」
そういうとその青年はコーヒーを混ぜながらパソコンに向かう。椅子に座ってキーボードを操作した後、椅子を回転させ俺の方を向いた。
「初めまして。私はここでメカルク全体の管理をしてるN・D・スペース、という者です。以後、お見知り置きを。」
「初めまして。フラクト=マグナイトです。」
このスペースという男性はさっきの扉から感じた異質な雰囲気を漂わせていた。
「今日、君だけここにきてもらったのはロケットからの頼み事でね。」
俺はロケットという単語に反応する。
「ロケットさんからですか?」
「うん。ロケットはどこか行くって言って帰って来ないからね。それの代わりに。」
スペースさんは笑っているが、若干恨みが乗っているような声だ。
「まずはハンター合格おめでとう。君だけじゃなくて、スフェーくんも、雪夏ちゃんも、素晴らしいね。」
スペースさんはまるで噛みしめるように僕らの名前を上げた。
ただ、そこに付随する違和感に気づく。
「え、なんで雪夏の名前を、、、」
そうだ。スフェーはともかく、雪夏まで知っているのはおかしい。
「ん?さっき言ったでしょ。メカルクのすべてを管理してるって。君たちがエレクに降りたときから、個人情報データベースを作成して、動きをこちらで見てるから。フラクト=マグナイト、アンティモルド=スフェー、風花雪夏。全員テオからの来航だよね。」
その言葉を聞いた瞬間に冷汗が湧く。この国に入った途端、俺らの個人情報は筒抜けになっていたということなのか。
「まあ、この大国を管理するには必要なことだから、別にこれを悪用するとかはないから。そこは安心していいよ。」
「安心って、、、。」
モニターを見ながら飄々と発する言葉に信憑性のかけらもなかった。
「ま。本題に戻るとして、うちのトップが君たちに期待してるんだって。だから、どっかのタイミングでロケットと一緒にどっか行くらしいよ。詳しいことは知らないけどね。あいつ今メカルクいないし。」
「ロケットさんメカルクいないんですか、、。」
足を組んで、椅子をくるくる回転させているスペースさんと、メカルク直属の神刈のはずなのに、メカルクにいないロケットさん、どちらも似てるなと思う。
「あ、知らなかった?ロケットって放浪癖あるんだよ。だから基本的にここに居ないし、たまにしか帰って来ないよ。この間もテオで迷子になったって言っていたから、テオでうろついていたんでしょ。」
「はい、その時にロケットさんに助けてもらいました。」
俺がユニムと戦ってた時に助けに来てくれたのは迷子だったからか。
そう思うと急にかっこいいと思えなくなった。
「でしょ?うん、ということでロケットからの伝言があったから、君をここに呼んだ、申し訳ない。スフェーくんも誘ったんだけど受付にチェックだけして先に進んで行ったからね。」
他に何かあったかを確かめるようにモニターをチェックした後、何かを思い出したようにスペースさんがこちらを向く。
「そうだ。何か困ったことがあったらこれ通して伝えて。」
そう言ってスペースさんが渡してきたもの。それは落としたらどこにあるか分からなくなりそうなほど小さい黒い物体だった。
「これ、、なんですか?」
受け渡された物体を手のひらに置き、疑問をぶつける。
「それは体内に埋め込む通信デバイス。通称”SOLINE”。後頭部に埋め込んでくれたら、メカルクの中なら私に連絡できるから。ロケットのことだったり、ユニムのことだったり、こちらからも連絡する時あるから。」
「頭部に埋め込む、、。」
さらっと伝えられたことに衝撃を隠せない。これを?頭に?
「うん。こうグッて。怖いなら今ここでやってあげようか?」
どこでやっても変わんない気がするけど、一番安全そうなここでするしかないか。
「はい、お願いします。」
「じゃあ、ちょっと後ろ向いて。すぐ終わるから。」
指示通り俺は後ろを向く。頭に埋め込むという未知の体験に恐怖が湧いてくる。
「それじゃ行くよ〜。」
俺は目を強く瞑る。意味がないことはわかっているが、少しでも恐怖を無くすために反射的にやった。
スペースさんの手が頭に触れる。
「はい、終わり。」
「え、。」
あまりにも呆気ない終わりに言葉が出てしまう。まだ手が触れただけだったぞ。
「これで離れていてもこっちと連絡できるから。」
「あ、ありがとうございます。」
頭を触りながら、元の向きに戻る。
「デバイスも入れたし、もう帰ってもらっていいよ。こっちから連絡することもあるから宜しくね。」
コーヒーを飲みながら、スペースさんは話す。
「ハンター活動頑張ってな、期待してるから。最後に、ここのことはあまり周りに言わないでくれ。機密事項なんでね。」
スペースさんはお口チャックのポーズをして笑った。ありがたい言葉も頂けて、とても嬉しい。
「分かりました!頑張ります!」
俺は笑い返す。このスペースさんは気持ちを読み取りづらい人だが、良い人には間違いない。
挨拶をした後、俺は後ろを振り向き、扉に向かって歩く。そして入ってきた時と同様に、扉に触れる。
扉が開き、部屋を出る。最後にもう一度振り返り、スペースさんの方を向く。
「ありがとうございました。」
一礼をして去る。スペースさんは何も言わずにただ手を振った。
扉が閉まり、再び暗い廊下に出る。しかし、気持ちは明るかった。
「…フラクト=マグナイト。両親を殺され、妹を重症にしたユニムに強い恨みとトラウマあり、ね。いい眼してたし、久々の逸材かな。」
部屋に残ったスペースはモニターに映るフラクトの情報を見て微笑む。
「これは面白いことになるぞ。ロケット。」
暗い廊下を抜け、受付の場所に戻る。そこにはソファーに座って寝かけているスフェーが居た。
俺はスフェーに近寄り声をかける。
「おい、起きろ。スフェー。」
スフェーは目を擦り背伸びをする。
「フラクトどこ行ってたんだよーもう終わっちゃったよ。」
「ごめんトイレ行ってたわ。でもスタッフの人から色々話聞いたからもう大丈夫。」
スペースさんとの約束を破らないように嘘をつく。
「トイレにしては長すぎだけどな!」
スフェーはフラクトの頭を軽く叩く。
「で、結局フラクトはどこ配属なの?」
「あ。」
やばい聞いてなかった〜。
どうしようか迷っていた時に脳内に声が聞こえてきた。
(聴こえるかい?スペースだよ。フラクトくんの配属言ってなかったね。)
これがさっき埋め込んだSOLINEの機能か。慣れない感覚に少し気持ち悪さを感じる。しかし、慣れないながらも俺は脳内でスペースさんに話しかけた。
(これ聞こえてます?すみません、聞くの忘れてました。)
(いいよ。俺が忘れてたのも悪かったし。本題だけど、フラクトくんはマシキルに配属だよ。スフェーくんと頑張ってね。それじゃ。)
脳内の声が途絶える。
「…ラクト。フラクト!何ぼーっとしてんだよ。」
「あぁ、ごめん。俺の配属マシキルだったよ。」
スフェーに悟られないようになんとか誤魔化す。
「まじか!フラクトもマシキルか!俺と一緒だな!よろしく!」
「あぁそうだな。これからも宜しく。」
スフェーと一緒なのは少し、いや、だいぶ心配だがこれからも苦楽を共にする友だ。楽しくやっていきたい。
「さっきの説明会で、俺らの家もあるって言われたぜ。やったな!」
「それは嬉しくない。」
「そんな〜。」
俺もスフェーも笑う。この関係をずっと続けたい。
そんな他愛もない話をしながら俺らはギルドから出る。まだ日は上にある。
「フラクト!俺に着いてきな!家まで案内するぜ!」
「おう。行くか。」
俺は熱い日差しにも負けないような暑さのスフェーと家を目指す。聞いたところ、ここから徒歩5分程らしい。
相変わらず人混みが多い通りを歩き、集合住宅やビルが立ち並ぶ街中に入る。
「なあ、フラクト。重要な話していいか?」
歩いている最中、スフェーが深刻そうな顔で問いかけてくる。
「ど、どうした急に。」
「嫌、、これだけはちょっと話をしておかないといけないことがあって、、。」
「お、おう、、?」
なんだ。何か悲しいことがあったのか?そんな思考が巡る。
「俺、ベットでちゃんと寝れるか心配なんだよ。」
「、、、は?」
「今から行く家、ベットらしいんだよ、、。俺寝相悪すぎてよく落ちてるんだよね。」
普段では絶対ないようなか細く震えた声でスフェーが言う。少し面白い。
「まあ、そん時は俺がまた上に戻してやるよ。」
「ありがとうフラクト〜!」
「抱きついてくんな。」
俺の上半身を抱いてこようとしたスフェーの手を払う。
これを読んでいる人も何の茶番と思うだろう。俺もそう思う。
「さ!行こうか!」
急に切り替わるスフェーに呆れる。何だこの有機物。扱いづれえ。
さっきより足取り軽く道を進むスフェーに必死に着いていく。今後の生活が思いやられるワンシーンだった。
「フラクト!ここ!」
スフェーが建物を指差す。その先にはアパートのような集合住宅があった。まだ新しめの外装で中を見るのがとても楽しみ。俺はスマホで写真を撮って、リミルに送る。
俺らの部屋は3階の真ん中ぐらいだった。ちょうどいいところで良かった。
「それじゃ。開けるぞ〜。」
まるでプレゼントを開封する子供のようにゆっくり鍵を開ける。
中は期待しすぎたのもあるが、案外普通だった。綺麗ではあるが。
「失礼しま〜す。」
スフェーは勢いよく玄関に上がる。リビングに乱雑に荷物を置き、家の見学を始めた。
「いいねー!めっちゃ綺麗じゃん!」
テンション上がりすぎてるスフェーはもう止まらない。
そんなスフェーは置いといて、俺もリビングに荷物を置いて、椅子に座る。さっきリミルに送ったメッセージに返信が来ていた。
『すごい綺麗じゃん!!良いなー。』
リミルも元気そうで何よりだ。
俺は席を立ち、ベランダに出る。そこから見える光景はテオでは考えられないほど近代化していた。それも写真に収める。
未だにスフェーは家内を散策して五月蝿いが、そんなこと気にも留めず今後の生活を想像する。
この新しい家で、ハンターとして、親しい友人と一緒に暮らしていく。
その事実は俺をもっと引き締めた。
まずはこの街に慣れること、それから始めよう。
そうして、俺とうるさい同居人とのハンター生活が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
メカルクの管理人、スペース。どうでしたか?
感想とか待ってます。改善した方がいいところとかも是非。
次回はやる気があれば5年後までには出ます。