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08.おてんば娘が蔓延るこんな世の中では

 幸いにも、距離はそんなに離れていなかったので、すぐに追いつく事が出来た。

 私達に気づいた御者さんは、必死に手綱を引くと、馬車は止まる。


「助けてくれてありがとう! 本当に助かったよ!」

「いえ、当然の事をしたまでです」


 謙遜するミーアに対して、馬車の中から一人の女性が姿を現す。


「貴女がたが、あの盗賊を退治してくれたのですね? 私からもお礼を申し上げます」

「であれば、我が主に感謝の言葉を」


 私は馬から降りると、スカートの裾を摘まむと軽く持ち上げる。


「……アリスティア・ウェンライトよ」


 久しぶりの初対面に緊張しながらも、何とか自己紹介を終える。

 改善される前なんて、呼吸困難を起こしたり。

 ようやく言葉が出たと思ったら、「デュフフ……」とか変な笑い声を上げちゃったりして……。

 まともに話せなかったのだから、私としては大成長なのである。


 盗賊相手にキチンと喋っていた? あれは魔物と会話していたようなものだからノーカンで。


「アリスティア・ウェンライト様! 三日月の湖畔を領地に持つウェンライト家の長女にして、国王陛下の第一子であるフレデリク皇太子殿下との婚姻を間近に控えていると噂されている方ではありませんか!?」


 目の前の女性は、何故か興奮気味に身を乗り出してくると、私について色々と語ってくる。

 しかも、まるで物語を語るかのように熱く語り始めるものだから、聞いている私の方が恥ずかしくなる始末だ。


「あ、貴女の名前を伺っても宜しいでしょうか?」

「た、大変失礼致しました! 私の名前は、リゼット・ラランドと言います。この度は危ない所を助けて頂き、誠にありがとうございました!」


 深々と頭を下げる彼女に、私もつられて頭を下げてしまう。

 ミーア! ヘルプ! 仲介役になって! 私一人じゃ対応出来ない!


「お嬢様、ここは私が」


 さすがはミーア! 私の意図を察してくれる!


「お初にお目に掛かります。私は、アリスティアお嬢様の専属メイド、ミーア・ルーベルクと申します」

「ミーア・ルーベルク様! 国王陛下直属部隊『聖騎士団』の副団長を務められていた方が、何故このような場所に!?」

「今は一介のメイドに過ぎません。お嬢様にお仕えするのが、私の務めでございますので」

「ふあぁ……こんなに若くて美しいのに……それに、とてもお強い……噂通り。いえ、それ以上かも……!」

「噂、とは?」


 ミーアが尋ねると、リゼットと名乗った女性は、瞳を輝かせながら答える。


「はい。それはもう沢山の噂があります! 例えば……ミーア様が副団長を辞められた理由が、とある深窓の令嬢に一目惚れしたからだとか! その女性を生涯守る為、自ら副団長の座を降りたとか! その他にも様々な逸話が残っています!」


(……へぇー)


 リゼットの話を聞いて、思わず感心してしまう。

 私ってば、そこまでミーアから想われていたんだね。

 チラリと横目で見ると、彼女は耳まで真っ赤になっていた。


 普段はクールなのにこういう反応をされると……うん、可愛い。


「そ、その話は……もう結構でございます。それよりも、貴女が無事で何よりでした。王都でも有数の商人であるラランド商会の娘が、何故護衛も付けずに一人で王都に向かおうとしていたのか、その理由をお聞かせ願えますか?」


 話題を変えようとするミーアだが、リゼットは苦笑を浮かべると、頬を掻く。


「実は……最近、市場の流通に偏りが見られるようになりまして……」

「偏り?」


 首を傾げると、リゼットが補足するように説明を続ける。


「通常であれば、貿易や地方で仕入れを行い、王都で売り捌くという流れが出来上がっております。しかし、最近では、一部の貴族の方々が買占めを行っているという噂もあり、王都内で物資が不足し始めているのです」


 確かに、貴族の中には自分の領地で採れる特産品や名産品を高値で売ろうとする者もいるだろう。

 だけど、どうしてリゼットが危険を冒してまで王都に向かう事に繋がるのだろうか?


「そこで、父である会長に相談したところ、王都へ向かう道中の町や村で調査を行いながら向かうように言われました」

「なるほど……。しかし、危険すぎます。先程のような盗賊に襲われる可能性だってあるんですよ? 今回はたまたま運が良かっただけです」

「はい。分かってはいたんですが……それでも、このまま放っておく事は出来ませんでした。……すみませんでした」


 しゅんと項垂れるリゼットを見て、私は共感する。

 今まさに、私達も同じ状況に置かれているからだ。

 もし仮に、このまま放置すれば王都で大変な事が起きるかもしれない。


 それだけは避けなければならないのだ!


「……リゼットさんと言ったかしら? 貴女のお気持ちは分かりました」

「お嬢様!?」


 驚くミーアを手で制すると、私は自分に出来る限界ギリギリの笑顔を彼女に向ける。

 睨んでないよ? 口角を上げてるけど、食べちゃうわけじゃないからね? だから安心してね?


「お嬢様……お気持ちは十分理解しております。ですが、我々も先を急ぐ身。ここで足止めを食らう訳には参りません」


 ミーアが言う事も分かる。

 でも、この子をこのまま見捨てる事は出来ない!


「条件があるわ」

「条件でございますか? 一体どのような?」

「……リゼットさん。貴女は乗馬の経験はあるかしら?」

「は、はい。多少ならば」

「そう……では、馬での移動は可能よね?」

「もちろんでございます!」

「なら……この先にある宿場で馬車を置いていきなさい。そして自ら馬に乗ること。それが可能ならば、アリスティア・ウェンライトの名に懸けて、貴女を王都へと連れていきましょう」

『お嬢様!?』


 ミーアとリゼットが驚愕の声を上げるが、構わず続ける。


「……馬車での旅は長引くわ。その間、再び盗賊や魔物に襲われないという保証は無い……ここまで言えば、後は言わなくてもわかるわね? リゼット・ラランド」

「はい! ありがとうございます! アリスティア様! 感謝します! この御恩は決して忘れません! 必ずや、ご期待に応えてみせます!」


 満面の笑みで応えるリゼット。

 これでいい。

 彼女の言葉に嘘はない。


 きっと、彼女は王都で頑張ってくれる。

 私は確信していた。


「……お嬢様は、本当に人が好すぎる。もう少し、人を疑う事を学ばれた方が良いですよ? でなければ、いずれ悪い男に騙されてしまいます」

「あら? そんな心配は無用よ。既に騙されているから、ね」


 私はミーアへウインクを送る。

 彼女は深いため息をつくと、諦めるように微笑む。


「……承知致しました。では、宿場に着いた後、明日からリゼット様には馬に乗って貰い、我々と共に移動を行う、ということでよろしいでしょうか?」

「それで構わないわ。……リゼットさんもそれで良いですわね?」

「はい! アリスティア様! ミーア様! よろしくお願い致します!」


 こうして、私達は旅の仲間が増えたのだった。

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