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07.行く手を阻むというのならば、私を止めてみせなさい!

 王都までの道程は決して楽ではない。

 街道が設備されているが、野を越え、川を渡り、時には魔物と遭遇する事もある。

 だが、私のお供を務めるミーアが、そんな障害など物ともせずに蹴散らしていく。


「ミーア、本当に凄いわね」

「恐れ入ります」

「私の援護なんて必要なかったんじゃないかしら?」

「いいえ、お嬢様のお陰で助かった場面は多々ありました」


 遭遇した魔物は、小さいものはコボルトから始まり、オーク、トロールと、次第に強い魔物が現れるようになった。

 その中で、私は籠手を利用して、幾つか分かった事がある。


 一つ目は、魔物達が使用している武器程度では、傷一つ付ける事が出来ない事。

 二つ目は、どれだけ相手を殴ったとしても、相手を傷つける事が出来ない。

 ただし、痛みは感じるらしく、トロールを相手に殴り続けていたら、いつの間にか気絶していた。


 三つ目は、受け身に使った時、相手を殴った時に、発生するはずの反動が無く、自分の手が全く痛まない事。

 つまり、この籠手は通常の様な打撃武器ではなく、どちらかと言えば、盾のような使い方が出来るのではないかと思った。


「これ、どう考えても普通の製造方法では、無理よね?」

「特殊な魔法が付与された魔道具でしょうか?」

「うん、その可能性はあると思う。だって、私の知っている限りだと、こんな付与魔法の使い手は居ないし」

「不思議ですね。ただ、考えられるとすれば……」

「やっぱりご先祖様が関係しているのかも」


 となると、一番怪しいのが、あの古城だ。

 監視下に置いている我が家でも立ち入りは禁じられ、王族ですら外から眺める程度しか許されていない。

 未だ残された宿題が多くて、ちょっぴりゲンナリするのは、秘密である。


「ミーア、今日の予定地は?」

「このまま行けば、夕方には到着するかと」

「そっか。じゃあ、今日はそこに泊まりましょう」

「畏まりました」


 こうして、私達は目的地を目指して進むのだが……。


「お嬢様、前方に馬車が見えます」

「本当ね。誰か襲われているみたいよ」

「如何されますか?」

「勿論、助けるに決まっているでしょ!」

「承知致しました」


 私は馬を操り、馬車との距離が縮まると、襲撃者達の姿がはっきりと見えてくる。

 どうやら相手は盗賊らしい。品性の欠けた言葉を発しながら、男共が馬車を取り囲んでおり、今まさに襲い掛かろうとしているところだった。


「ミーア! お願い!」

「承知致しました」


 ミーアが腰に差してある細身の剣を抜き放つと同時に、馬の腹を蹴り、一気に加速させる。


「何者だ!?」

「通りすがりの者です」

「ふざけた事をぬかすな! お前も馬車も、金目の物は置いていけ! さもなくば殺すぞ!」

「お断りします」

「知るか! 俺らの邪魔をするなら容赦しねぇぞ!」

「では、お先に失礼致します」


 ミーアはそう言うなり、馬上の男に斬りかかる。

 男は慌てて剣を構え、ミーアの斬撃を受け止める。

 しかし、次の瞬間には、男の身体は宙を舞い、地面へと叩きつけられていた。


 何が起きたか分からないといった表情で、男が意識を失う。

 彼女はそのまま馬車の御者へ話しかける。


「ここは私達が引き受けます。敵の待ち伏せにも気を付けて下さい。それと、決して慌てず、落ち着いて行動するように」

「はい! ありがとうございます!」


 御者はミーアに何度も頭を下げた後、急いでその場を離れる。

 それを見届けると、私達は残りの敵へと向き直る。


「おい! テメェ等、何を勝手に決めていやがる!」

「そうだぜ! 女二人だけで挟み撃ちとは、この人数相手に勝てると思ってんのか!」

「後ろの女は、結構良い女だぞ!」


 おっ! 私も中々捨てたものじゃないわね! と、内心で自画自賛してみる。

 ミーアに視線を向けると、彼女も私の考えを察したようで、無言で首を縦に振る。


「貴方達こそ、この状況が理解出来ていないようね」

「何ぃっ!!」


 馬を横に向け、右手に嵌めている籠手をかざす。


「私の名は、アリスティア・ウェンライト。私を敵に回した事の意味を、貴方達も理解出来たかしら?」


 私の名乗りを聞いて、彼らは一瞬戸惑うが、すぐにニヤリと笑う。


「ウェンライト家の令嬢か! これは高く売れるぜ!」

「違いねえ! 女だからといって手加減はしないぜ!」

「たっぷり可愛がってやるぜ!」


 うわぁ……清々しいほどゲス野郎だ。

 こういう輩には、遠慮はいらないだろう。


(ミーア、行くわよ)


 私は目配せで合図を送ると、同時に駆け出す。

 勢いよく飛び出すと、籠手で盗賊の一人を思いっきりぶん殴る。

 すると、相手の身体は吹き飛び、近くの木に衝突して、そのまま動かなくなる。


「こいつ! やりやがったな! ぶっ殺してやる!」

「覚悟しろ! このアマァッ!!!」


 怒りに任せて振り下ろしてきた剣を左手の籠手を使って受け止める。

 金属同士がぶつかり合う音が響き渡ると、剣を弾き返し、すかさず右拳を繰り出し、男の顔面に直撃させると、馬の背に倒れ込むように崩れ落ちる。


「このガキィ!! 調子に乗るんじゃねぇー!!」


 今度は背後から槍を突き刺そうとしてきたのを、馬上からジャンプする事によって回避する。


「なっ!?」


 空中で一回転した後、右足を突き出すと、見事に命中する。


「ぐはあっ!?」

「失礼、足が滑りましたわ」


 地面に落下すると同時に、左足で踏みつけ、更に追撃を加えると、白目を剥いて倒れる。


「お嬢様、お見事でした」

「あら? ミーアこそ、もう終わったの?」

「はい。お嬢様の雄姿に見惚れておりました」

「ふふーん! もっと褒めても良いのよ?」


 私は自慢げに胸を張ると、ミーアがクスりと笑みを零す。


「この者達は如何いたしますか?」

「全員捕まえて、しかるべき場所で裁きを受けさせるべきなのでしょうけど……」


 私は少しだけ考える素振りを見せると、ミーアは静かに耳を傾ける。


「私達も先を急ぐ身。ここで時間を使うわけにはいかないのよね」

「分かりました。それでは、この場に縛るだけに致しましょう」


 ミーアは素早く縄を取り出すと、盗賊達の手足を縛り上げる。

 そして、手慣れた様子で彼らの口を塞ぎ、身動きを取れなくさせた。


「これで、しばらくは大人しくしているでしょう」

「流石はミーアね。頼りになるわ」


 私が誉めると、彼女は少し照れたような仕草を見せた後、真剣な眼差しに変わる。


「先程の馬車も気になります。急ぎましょう」

「えぇ」


 私達は、再び馬に乗り、襲われていた馬車を追いかける事にした。

平日はこの時間に更新予定です。

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