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06.真実を述べた者よ、そなたの勇気に免じてデコピンで済ませてあげるわ

 翌朝、私は愛しのお布団の中で寝ぼけ眼のまま、もぞもぞと寝返りをうつ。

 窓から差し込む日差しは眩しい程で、今が朝だという事を嫌でも理解させてくる。

 昨日は、その場の勢いに任せて朝一に出発すると宣言してしまったが、いざ夜が明けてみると、やっぱり眠くて仕方がない。


 何だかんだで、領地代行者として近隣の村へ事情説明に行かなければならなかったり、王都にいる両親へ手紙を送ったりと忙しくしていたのだから、当然と言えば当然か。

 でも、村の子供達が皆、心配して泣きついてくるものだから、中々に離れる事が出来なかったのよ。


(アリスティアお姉ちゃん! どっか行っちゃやだーって、あんなに泣かれたら、ねぇ?)


 結局あの後、皆に抱きつかれて身動きが取れなくなってしまった私は、村長と顔合わせをさせる為に連れて来たヴィクトルに、抱きかかえられて馬車に乗り込んで帰ってきたのだ。


 私は、再び夢の世界へ旅立とうとする意識に鞭を打ち、何とか身体を起こすと、大きく伸びをした。


「ん~っ、二度寝が出来たら最高の朝なんだろうけれど、そういう訳にはいかないわね」

「おはようございます、お嬢様」

「あら、ミーア。早いのね」

「お嬢様こそ、もう起きていらっしゃるとは」

「言い出した者が行動で示さなければ、皆が困ってしまうもの」

「ご立派なお心掛けです」

「ありがとう。旅の身支度はどうすれば良いのかしら?」

「はい、既にこちらでご用意しております」

「流石ね。それじゃあ、早速着替えさせて貰おうかしら」

「お手伝いさせて頂きます」

「ありがとう。助かるわ」

「いえ、これもメイドの仕事で御座いますので」


 いつもの普段着とは、また違った服を身に纏い、私は姿見に映る自分の姿を眺める。

 腰まである黒髪は、一つに束ねられ、頭の後ろでリボンで結われている。


 服装は、全身を覆い隠せるローブを身に纏い、その上からマントを身に付け、胸元で紐を結んで固定する形だ。

 こうする事によって、ローブの裾の中央部分に刺繍されている三日月の紋章が、舞台に幕が開かれる様に露わになる。


 そこへ、胸当て、腕当、脛当、踵部分がちょっぴり底高の足靴が着用される。

 本来であれば、全身が隠れる程のタワーシールドも一緒に装備したい所なのだが、徒歩でも馬車移動でもなく、乗馬での移動となる為に断念した。


「武器はどうしよっか」

「残念でありますが、お嬢様の剣技に耐えられる一振りは、旦那様が継承された三日月形の剣のみであります」

「カタナ? だったかしら。切れ味が良くて試し斬りで木を倒したら、木こりの人達に喜ばれたなぁ」

「その場にいた私から言わせて頂きますと、大旦那様からヴィクトルまで目頭を押さえておられましたが……」

「きっと、ようやく出来たかーって感じだったのね」

「むしろその逆で御座いますが……まぁ、良いでしょう」

「それじゃ、ご先祖様からゲンコツと共に賜った籠手を装着してっと」

「何があろうとも、お嬢様のお手を煩わせるような事はありません」

「魔物が相手の時は、遠慮なく頼ってね」

「承知致しました」

「よし、これで準備は整ったわね。皆に挨拶をして出発しましょう」

「畏まりました」


 ミーアが恭しく礼をし、扉を開ける。

 私は、皆が待つ部屋へと歩き出す。


「皆、おはよう。朝早くからごめんなさいね」

『お嬢様!』


 私の姿を見るなり、使用人達が一斉に駆け寄ってくる。

 皆、私の無事を祈るかのように、一様に瞳を潤ませている。

 私は、一人一人の頭を撫でていく。

 最後に、ヴィクトルの前へ立ち、紋章が刻まれた小剣を突き出す。


「アリスティア・ウェンライトが命ずる。ヴィクトルよ、我が一族が戻るまで、皆を頼む。古城に関しては、変化があり次第、早急に伝えよ」

「畏まりました。この命に代えましても」


 私はヴィクトルの言葉に頷き、領主代行の証として、代々伝わる紋章が刻まれた小剣を彼に託す。


「皆、必ず無事に帰ってくるから待っていてちょうだい」


 私がそう言うと、皆が笑顔で応えてくれた。

 この場に居る全員に見送られながら、私はミーアと共に屋敷を出ようとすると、門の前では、領民達が見送りに来てくれていた。


「お嬢様! お気をつけて!」

「お姉ちゃん! 怪我とかしないようにね!」

「アリスティアお嬢様、お帰りをお待ちしています」


 皆が口々に声をかけてくれる。

 私も負けじと声を上げる。


「皆、元気でね。それと、お土産話は期待しない方が良いわよ? 何せ、『辺境の魔女』が王都へ赴くのですから」


『辺境の魔女』という二つ名を聞いて、皆が一瞬ざわつくが、子供達が声を揃えて「魔女さん頑張ってーっ」と言ってくれたのが、私はとても嬉しかった。


「ありがとう。貴方達の為にも、必ずやこの国を守ってみせるわ」

『魔女さん! 魔女さーんっ』

「そうだ! お嬢様が例え魔女と呼ばれ様とも、眼つきが鋭く無口で不愛想なお嬢様を応援いたしますぞーっ!」

「オイコラ! 嘘よりも真実の方が遥かに傷つくんだぞ!!」


 私の叫び声を聞くと、領民達は一斉に笑い出す。

 何だかんだで、皆の気持ちは伝わってきた。


 そう、これは私の戦い。

 皆の為だけじゃない。

 私自身の未来を切り開く為の戦いだ。


「ミーア、行きましょう」

「はい、お嬢様」

「それでは皆、行って参ります」

『いってらっしゃいませ! お嬢様』


 私達の旅立ちを見送るべく、皆が揃って深々と頭を下げる。

 私とお供のミーアは馬に乗り、手綱を握り、ゆっくりと馬が歩を進める。

 徐々に遠ざかって行く皆の姿を目に焼き付けつつ、私は小さく呟く。


「皆、絶対に忘れないから」


 そして、私とミーアの旅が始まった。

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