19.頂上決戦! 令嬢界の馬〇vs猪〇! ドリームマッチついに実現!(口喧嘩)
塔を駆け足で下りきると、眼前では、魔物と戦う勇敢な騎士達の姿。
中心で戦うのは、我らがメイドのミーアである。
彼女は剣を振り回し、次々と魔物を薙ぎ払っていく。
その姿はとても美しく、まるで舞いの様にも見えるのだった。
「お嬢様! お怪我は御座いませんでしたか!?」
こちらに気付いた彼女が振り返る。
返り血を浴びながらも、戦闘時の彼女は、とても凛々しくて格好いい。
私の為に戦ってくれたと思うと、胸が熱くなる。
「えぇ、平気よ。モルガーヌは?」
「魔物達の奥で、動かずにじっとしております」
「拘束するチャンスね。再び空へ逃げ出されたら面倒な事になるもの」
「私も同意見です。お任せ下さい、必ず道を開けてみせましょう」
私にそう伝えると、ミーアは魔物の群れへと突っ込んで行く。
その後姿は頼もしくて、私も負けていられないと、彼女を追いかけた。
露払いの為に、私も何匹かの魔物を殴り、蹴り飛ばしていく。
騎士達が私達の後を追い、背中を護ってくれるおかげで、安心して前に進む事が出来る。
「騎士の皆様! ありがとうございます!」
感謝の言葉を伝えると、彼等は照れた様子でいる。
どうやらお礼を言われる事に不慣れらしい。
「お嬢様、魔物の群れから抜けます。一気に走り抜けましょう!」
「ええ、分かったわ!」
私達は魔物の壁から抜け出し、モルガーヌの前へと躍り出る。
「あら? お見送りですこと? 嬉しい限りですわ」
地面に伏せたままのワイバーンから、モルガーヌが顔を出す。
彼女は、とても愉快そうに笑っていた。
「モルガーヌ、今すぐ魔物達を消し去りなさい。貴女の力なら可能なのでしょう?」
「ふふっ、勿論ですわ。ですが困りましたわ、彼等にはまだまだ働いて貰わないと」
「悪いけれど、貴女に拒否権は無いの。大人しく投降して頂戴。これ以上、罪を重ねないで欲しいの」
「罪? 罪なんてありませんわ。私はただ、この国をより良くする為に尽くしているだけですの。その為に必要な犠牲は致し方ないもの。ねぇ、そう思いませんこと?」
「……思えない。そんな考えは間違っているわ! モルガーヌ! 貴女のやっている事は、国を混乱に陥れて、大勢の人を苦しめているだけじゃない!!」
「まあ、酷い言い掛かり。どうしてわたくしがそのような誹謗中傷を受けなければならないのかしら? 本当にアリスティア様は、わたくしを腹立たせるのがお上手でしてよ。それに、まだわたくしを捕まえる事が出来ていないのに、随分と余裕がおありの様ですわね!!」
モルガーヌが嘲笑うと、地面から大量の土人形が姿を現す。
それは人の形を成し、やがてゴーレムへと姿を変えた。
「これぞわたくしの真骨頂。魔法で作り出した魔物の軍団! さあさあ、皆さん。アリスティア様を捕らえて差し上げなさい!!」
モルガーヌが叫ぶと同時に、土人形が一斉に動き出す。
こちらへ向かって来るのを見て、ミーアが庇おうと前に出ようとするが、それを手で制する。
「お下がりください、お嬢様。ここは私にお任せを!」
「駄目よ、今回は譲れない。だって……」
私は拳を構えて、迫りくる敵を見据えた。
「これは、私の戦いでもあるのだから!!」
「お嬢様……」
「ハッ! 笑わせてくれますわね! 二人で何が出来ると言うのですか!! 死にたくなければ早く逃げればいいものを……さぁ、行け!!」
モルガーヌの号令に従い、ゴーレムが私達に襲い掛かる。
だが、そんな事は関係ない。
私は籠手を嵌めた右手を握り締め、構えを取る。
そして、目の前に迫るゴーレムの巨大な拳に向かって振り抜いた。
「サイクロプス君の拳に比べればぁぁぁ!!」
籠手が光り輝き、眩しい光が放たれたかと思った瞬間、凄まじい衝撃波が発生する。
その威力は、周囲の木々を薙ぎ倒し、大地を揺らし、迫って来た魔物を吹き飛ばす程であった。
「な、なんですの!?」
突然の出来事に驚いたモルガーヌは、目を丸くする。
それもそうだ。
まさか、自分が召喚した魔物が吹き飛ばされるなど、夢にも思ってなかっただろうから。
「隙ありで御座います」
「きゃあっ!?」
突如現れたミーアがモルガーヌを背後から抱き着くと、彼女の悲鳴が上がる。
そのまま羽交い絞めにして拘束すると、ミーアはこちらに視線を送ってきた。
(うん! ナイスだよ、ミーア!)
心の中で親指を立てながら、私は彼女の行動に賞賛を送る。
「くぅ~! 離しなさぃ! 卑怯者ぉー!」
「お褒めに預かり恐悦至極に存じます」
ミーアの腕から抜け出そうと藻掻くモルガーヌだったが、ミーアはそれを許さず彼女をガッチリとホールドし続ける。
この好機を逃す手はない。
「ミーア、こちらへ連れてきてくれるかしら? すぐに終わらせるから」
「はい、お任せを」
ミーアは、ゆっくりと私の前にモルガーヌを連れてくる。
彼女は、拘束を振り解こうと暴れている。
「は、はなしぇ! この無礼者がぁぁぁ!!」
「残念だけど、貴女にもう逃げ場は残されていないの。観念して貰うわ」
「アリスティア!! わたくしにこの様な事をして、タダで済むと思ってるのですか!?」
「ええ、思ってるわ。貴女こそ、自分のやった事がどういう事なのか理解していないようね。私に喧嘩を売った時点で、既に貴女の負けなのよ。大人しくお縄につきなさい!」
「ぐぬぬ、ふざけるんじゃないわよ! 誰が捕まるものですか! 魔力もないタダの怪力女の無能に、この国の王妃が務まってなるものか!」
「いい加減にしないと怒るわよ? それに、今のは聞き捨てならないわね。私が無能なのは自分が一番良く理解しているわよぉ! でも、聞いてあげるから言ってごらんなさい!!」
「ふん、決まってるじゃない。殿方よりも大きく威圧する眼で睨みつけて言葉遣いも荒々しく男勝りで野蛮で不愛想でおまけに筆不精な女性が外交を行える訳がないじゃない!! アリスティアに出来る事といえば、その無駄に大きいお尻を振りまいて殿方を誘惑するぐらいでしょうが!!」
モルガーヌがそこまで言ったところで、私の堪忍袋の緒が切れた。
「……貴女、今なんと申しましたの?」
「あら、聞こえませんでしたの? それならもう一度言いましょう。その大きなお尻を振って、おバカさんみたいに媚びを売って、『お兄ちゃん、お姉ちゃん、遊んで!』とでも言えばよろしいのですわ!!」
そう言われた直後、私の中で何かが弾けた。
「うふ、うふふ、デコピンか、ゲンコツで済ませてあげようと我慢してきましたけれど、どうやら私を本気で怒らせてしまった様ですね。安心して下さい。痛みは持続しますわ」
私は指を鳴らしながら笑顔を浮かべた。
その様子を見たモルガーヌの顔が青ざめる。
「ま、待ちなさい! 落ち着きなさ―――!!」
「待たないし落ち着かない。何故ならば、私は怒ってるからです! 怒り狂っているからです!! そんな私が貴女を許すはずが無いでしょうが!!!」
「ひっ!? い、嫌だ! 止めて! 謝るから! お願いだから許してぇ!!」
モルガーヌは必死に懇願するが、私の握られた両拳は、ゆっくりと彼女のこめかみを挟む様に添えられる。
「大丈夫、お母様直伝のすっごい痛いやつだから。気絶するかもしれないけれど、命までは取らないから安心してね。それじゃあ……行くね!」
「待って、話せば分かりますわ! ねぇ、アリスティア! 聞いてますの!? 私達、似た者同士でしょ!? 助けて! アリスティアぁぁぁぁ!!」
「問答無用!!」
「いやぁああぁぁぁぁぁ!!!!」
こめかみに添えられた私の両拳が、回転を始める。
俗にいう、グリグリ攻撃である。
酸っぱい食べ物でもいいよ!
「ほれほれー!」
「いだだだだだ!!」
モルガーヌの絶叫が響き渡る。
私は、更に拳を回す速度を上げた。
「反省しろー」
「いだいいだい!!」
涙目になりながらも、モルガーヌは私を罵倒する。
「このぉ、野蛮人めぇ! お父様に頼んで、お前を国外追放にさせてやるんだからぁぁぁ!!」
「上等だオラァ!! 返り討ちにしてやんぞゴラァッ!!!」
「ひぃ!?」
あまりの剣幕に、モルガーヌは悲鳴を上げる。
「自分の力を誇示していた割に、最後はお父様頼みか!! 情けないにも程があるわね! この臆病者! さっきまでの威勢は何処に行ったのかな!?」
「うるさい! 黙りなさい! 貴女がわたくしを侮辱するから悪いのよ! 大体、何よ! アリスティアが王妃になるなんて冗談じゃないわよ! 恥を知りなさい!」
「うわー、恥ずかしい奴ー! 自分だって、その可愛らしい見た目とえっちっちーなお胸で王子を騙した癖に! この嘘つき猫かぶりめ!!」
「お、おたまりなさい!! わたくしはアリスティアと違って、人に優しくされた経験が少ないから、ちょっと甘い言葉を囁けば、簡単に落ちてしまうのよ!! この尻軽女が!」
「生憎ですが! 尻はデカくて重たい方なんだよぉぉぉ!! それに世間では、モルガーヌみたいなのを、あざといと言うのだよ!! そんな事も知らないのか、この天然小悪魔め!!」
「こ、小悪魔ですってぇぇぇ!?」
私は、モルガーヌの頭から手を離すと、今度は頬っぺたを掴んで引っ張った。
彼女は、ジタバタと暴れるが、気にせず引っ張り続ける。
ミーアは、呆れた表情で私達を見つめていたのである。
この回だけで没になったタイトルと内容が多いのだ。




