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17/21

17.弟は? 私の弟は何処なの!?

 私とミーアの目の前には、城を守る門番達が居た。

 彼等に名乗りを上げると、既に衛兵から連絡が入っていたらしく、あっさりとお城へ通してくれた。


「何て言うのかしら、相手からの驚きが無いと寂しさを感じるのよね」

「良いではありませんか。何事もスムーズに話しが進むのは、喜ばしい事ですよ」


 確かにそうなのだけれどね! でも、せっかくなんだから、もう少しぐらい驚いてくれてもいいんじゃないかなって思うのよ!


「こちらが、ウェンライト家の皆様がお待ちの部屋になります」


 案内役の衛兵さんが頭を下げた後に、立ち去るのを確認してから扉を開くと、そこには見知った顔があった。


「アリス!! よくぞ無事で!!」

「お父様! お母様! ご心配をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした!」


 勢い良く抱きついてきたお母様を受け止めながら、謝罪の言葉を口にする。


「本当に良かったわ! アリス! 貴女にもしものことがあったらと思うと……」

「お母様、もう大丈夫ですから」

「ミーアよ、よくぞアリスを連れて来てくれた!」

「勿体無きお言葉に御座います。旦那様」


 涙を流しながら両親に抱きしめられ続ける私を、ミーアは静かに見守ってくれていた。

 しばらくすると、落ち着きを取り戻した両親が、私から離れていく。


「アリス、疲れているだろうが、国王陛下がお呼びになっている。すぐに謁見の間へ向かう準備を」

「ミーア、アリスの身嗜みをお願いするわ」

「承知しました」


 襖立てが用意され、私は国王陛下と謁見の為に準備を行う。

 一礼した後、私の元へ近寄ってくるミーアの姿は、正にメイドそのものであり、長旅が有った事を微塵も感じさせない。


「失礼致します、お嬢様」

「あい、どーじょー」


 ミーアが私の背後に回ると、ブラシで髪をとかしてくれる。

 その光景に、日常を思い出させてくれる。

 思えば遠くへ来たものだ。


「お嬢様、どうかなされましたか?」

「いえ、何でもないわ。ただ、こんなにも穏やかで平和だった日々が、懐かしく思えるだけ」

「左様で御座いましたか。お気持ちは分かりますが、今は前を向く時かと思います」

「そうね。ありがとう、ミーア」


 準備が終わると、ミーアから手鏡を渡される。

 それを覗き込むと、いつも通りの私の顔が映っていた。


「私、可愛いよね?」

「可愛いですよ、お嬢様」


 うん! 満足!

 さてと、国王陛下に呼ばれたからには、謁見の間へ向かわないとね!


「お父様、準備が整いましたわ」

「うむ。それでは行くとしよう。アリス、ついてきなさい」

「畏まりましたわ」


 私はお父様に付き従い、歩き始める。

 長い廊下を進み、階段を登り、また歩く。


「この先に陛下が居られる」


 その言葉で私は気を引き締め直すと、歩みを進めるお父様の背中を追う。

 暫く進むと、大きな扉の前に辿り着く。

 お父様は立ち止まり、振り返ると、私に真剣な眼差しを向けてくる。


「アリスティア、ここから先はお前の戦場だ。だが、何があろうとも臆することはない。己が信じる道を行きなさい。私達は常にお前の傍にいる」

「はい!」


 私は力強く返事を返す。


「よろしい。では、行くとしようか」


 お父様の合図に従い、衛兵が扉を開き、中へと入る。

 そこは、玉座の間であり、荘厳な雰囲気が漂っている。

 私は、お父様の後に続き、国王陛下の御前へと歩んでいく。


「陛下、我が娘、アリスティア・ウェンライトを連れまいりました」

「ご苦労であった」

「はっ!」


 お父様が膝をつき、頭を垂れる。

 私もそれに倣い、頭を下げる。


「面を上げよ」

「はい」


 ゆっくりと顔をあげると、国王陛下は穏やかな表情を浮かべていた。


「久しいな、アリスティア。息災で何よりだ」

「陛下もお元気そうで何よりで御座います」

「ふっ、昔のようにおじさまと呼んでくれても良いのだぞ?」

「恐れ多い事に御座います。陛下」


 私が答えると、国王陛下は苦笑いを浮かべる。


「相変わらずのようだな。もっと近くに来るが良い、許す」

「はい」


 お言葉に甘えて、少しばかり距離を詰める事にする。


「アリスティア、此度の件は、余も心を痛めている。全ては余の不徳が招いた結果である。誠に申し訳なく思う」


 私にそう告げると、国王陛下は頭を下げて謝罪をする。

 その行為に、周りに控えている者達は騒めき立つ。


「陛下! お止め下さい!」

「よい。今回の一件は余の責任である。例え王族であろうとも、罰せられるべきは罪人である」


 頭を上げた国王陛下は、真っ直ぐな瞳を向けると、私を見つめる。


「余は決めた事がある。それは……フレデリクを国外へと追放する事だ」

「陛下!?」

「これは決定事項である。第一後継者である者が、国の為になるような行動を起こさず、逆に国を混乱に陥れた。これ程の大罪はない。故に、余は決断した」

「陛下! お考え直しを! 私はそこまでの罰は求めておりません!」

「アリスティア、そちは優しすぎる。だが、そこが愛らしい所でもあるのだがな」


 国王陛下のお言葉を遮るように声をあげた私に対して、優しい笑みを返して下さる。

 名前はおろか、相手の存在すら忘れていたとは、とてもじゃないが言えないのである。

 そんな私の心情など知る由もない国王陛下は、話を続ける。


「アリスティア、先程も申した通り、此度の出来事は余の失態である。故に、そちに咎は無い。よって、失った名誉を取り戻す機会を与えたいと思うが、何か希望はあるか?」

「……では、一つだけ、願いがあります」

「申せ」

「フレデリク殿下と、モルガーヌ嬢に、一撃お見舞いしてもよろしいでしょうか? 勿論、拳で」


 私の言葉を聞いた国王陛下は、目を丸くすると同時に笑い出す。


「ハッハッハ!! 面白い奴め。良かろう。許可する」

「ありがとうございます」


 深々と一礼すると、国王陛下は更に笑う。


「しかし、その様な事を考えるのは、そちくらいであろうな。他の者は誰も思いつかんぞ?」

「そうでしょうか?」

「うむ。まぁ良い。この件が済んだ際に、別途として伯爵家の領地を与えるとしよう」

「領地ですか……」


 お父様の代わりに領主代行をこなしていたけれど、まさか冗談ですよね?


「不満か?」

「いえ、領地を頂けるのは大変光栄ですが……伯爵家のとは一体?」

「現在、第二王子が『聖騎士団』を率いてモルガーヌの実家へと向かっている。真偽を確かめる為にな。それが事実であれば、爵位剥奪は免れないだろう」


 なるほど。

 つまり、この一件が家ぐるみあれば、責任を追及できるというわけですね。


「さて、役者は揃った。後は結末を迎えるのみ。覚悟はできておるか?」

「はい、勿論で御座います」


 私は国王陛下の問いに、はっきりとした口調で答えた。


「ならば、もう何も言う事はなかろう。アリスティア、行って来るが良い」

「はい!!」


 私は力強く返事を返すと、国王陛下に背を向け、部屋を出る。

 向かう場所はただ一つ。

 フレデリク・ルクレール殿下と、モルガーヌ嬢の居る元へだ。

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