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16.俯いた第三王子を顎クイすると、味方が増える法則

門を突破したのが第一関門、リゼットに任せた場面が第二関門であるのなら、目の前からこちらに向けて走ってくる馬車は、第三関門か。

荷台の馬車は、御者の巧みな手綱捌きによって、私達の進路を塞ぐように横付けされて停車した。

馬車の扉が、幾度か激しく叩かれたのちに、現れたのは……。


「御者! 急ぎなさいと命令しましたが、ここまで乱暴なやり方をしろとは言っておりませんこと!」

「ご命令に従っただけで御座います」

「貴方! 後で覚悟を……うっぷ……気持ち悪い……」


其々の馬車から数名の女性が現れたのだが、顔色がすぐれない。

だが、こちらを視認すると、すぐさま姿勢を正す。

足は未だに震えているけれど。


「貴女が、アリスティア・ウェンライトですわね? ……って! ヴィルジール様が何故そちらに!?」

「国王陛下の命でね、姉上を城まで送り届ける事になったんだよ」

「そんな……姉上だなんて……まさか! ヴィルジール様までアリスティアの餌食に……!」

「ち、違うからね!? 誤解を招く言い方は止めてくれるかな!?」


何やら相手は勘違いをしているようだけど、敢えて訂正はしないでおく。

下手に触れて藪蛇になっても面倒だし。


「アリスティア! この女狐め! 王子の心を弄ぶなど、許されざる行為ですわ!」


うーん、人の話を聞かないタイプかな?

それにしても、女狐か。

可愛らしい生き物で例えてもらえると、嬉しいのだけれど!


「コーン! コーン!」

「ふ、ふざけないで下さいまし! この泥棒猫!」

「ニャーン! ニャーン!」

「な、なんなのですの! この女は! 私達をバカにしているんですの!?」

「フシャー! フー!」

「ひぃっ!!」


私が猫の様に威嚇をした途端、尻もちをつくご令嬢達。

イタズラ目的で行った事で、そこまで怯えられると、ちょっとショックかも……。

ミーアも呆れた様子でため息を吐いている。


私に対してなのか、相手に対してなのか。

それとも両方かなー?


「お嬢様、この者達が何者かは分かりかねますが、このままでは話が進まないと思われます」

「……それもそうですわね。申し訳ありませんが、先を急がせて頂きます。失礼致しますわ」


私は、再び馬を走らせようと手綱を握るが、何故か馬が動かない。

いや、正確には動こうとはしているが、動けずにいるといった感じか。


「……ヴィル? 馬から降りてどうしたのかしら?」

「姉上、このまま彼女達を放置してしまえば、誤解をされたままになってしまいます」

「……私は別に構わないのだけれど?」

「僕は嫌です! 大切な姉上を誤解されたままなんて! 絶対にダメです!」


かーっ! お姉ちゃんの為に頑張ろうとする姿に、涙が出ちゃいそうだよ! これは弟分から義弟に昇格かしら!!

喜びを爆発させたいところではあるが、見知らぬ人達が居る手前、それは我慢する。


「お嬢様、ここはヴィルジール様にお任せするのも手かと。幸い、危険が及ぶ気配も御座いません」

「……そうね。ヴィル?」


私はヴィルの近くまで馬を操り、止まる。


「姉上……」


不安そうな表情を浮かべるヴィルは、年相応の少年のように見えた。

普段は、私よりしっかりしていて頼りになるのだけれど、こういう一面もあるのですね。

顔を俯かせているのも、自分がすべき事を理解しつつも、私の反応が怖くて出来ないでいるみたい。


可愛い弟を持つと、お姉ちゃんは大変だわ! 何一つ困らない事が逆に辛いわ!

ここは、お姉ちゃんが一肌脱いであげるとしましょうか!

私は、ゆっくりとヴィルに手を伸ばし、顎を上げさせる。


そして、優しく微笑みかける。


「……ヴィル。貴方の信じた事を行いなさい。大丈夫、お姉ちゃんは何があっても貴方を信じているから」

「姉上!」


感極まったヴィルは、先程とはうって変わり、満面の笑みで私を見つめてくる。

ご令嬢達からは、黄色い悲鳴が飛び交っている。

どうやらヴィルの笑顔は、彼女達にとって効果抜群らしい。


「ありがとうございます! 姉上の為にも、必ずやり遂げて見せます!」

「えぇ、お願いするわね。……ご令嬢方々?」

『は、はい!!』

「……ヴィルの事、よろしく頼むわね」

『はい!! お任せください!! お姉様!!』


お姉様? 私、何か変な事を言ったかな?

まぁいいか! それよりも、早くお城に向かわないと!


「……御者! 道をお開けになさって!」

「畏まりました」


私の号令により、馬車が移動され、道が開かれる。


「お嬢様、参りましょう」

「それでは御機嫌よう。皆様」


私達は、再度手綱を振るうと、お城を目指して駆け始めた。

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