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14/21

14.弟分を鼓舞し、からかい、指差し確認の後、点呼のお時間ですわ!

 朝日が昇り始めた頃、私は目を覚ました。

 その隣では、ミーアとリゼットが寝息をたてて眠っている。

 私は彼女達を起こさない様に、そっと起きると、大きく伸びをした。


「ん~! 気持ちの良い朝ね!」


 朝のひんやりとした空気が心地よい。

 野外で寝泊まりしたせいだろうか、いつもの様な寝起きの悪さは感じられなかった。


「おはようございます、姉上」


 見張りを務めてくれていたヴィルは、焚き火の前に座り、炎を眺めていた。


「おはよう、ヴィル。見張りをさせてしまってごめんなさいね」

「いえ、これくらいの事はさせてください。昨夜はミーアさんに任せきりでしたので」

「そう言ってくれると助かるわ」


 私はヴィルの隣に腰を下ろすと、膝を抱えて丸くなった。

 そのまま手をそっと彼の頭に置く。


「な、何を!?」

「ふふっ、可愛い弟分を労っているのよ」


 私は微笑むと、優しく撫でる。


「は、恥ずかしいですよ……」

「あら、どうしてかしら? 私は嬉しいのに」

「……僕だって男ですから」


 ヴィルは少し拗ねると、プイッと顔を逸らす。

 私はクスッと笑うと、そのまま頭を引き寄せた。


「ちょっ!?」

「はい、捕まえたー」


 私は慌てる彼の顔に自分の頬を当てると、ギューと抱きしめる。


「お、お姉ちゃん!?」

「そうそう! そういう風に呼んで欲しいな」


 私は嬉しくなって、更に強く抱き締める。


「は、放して下さい!」

「えぇ~、どうしようかな~?」


 私は悪戯っぽく言うと、彼を解放する。

 そして、「冗談だよ」と言って笑った。


「もう、揶揄わないでくださいよ!」

「あははっ、ごめんね。緊張している様子だったから、解してあげようと思って」

「僕は大丈夫ですから!」

「本当かな~?」


 私はじっと瞳を覗き込む。

 彼は照れたように視線を泳がせると、観念したように口を開いた。


「……すみません、やっぱり不安なんです」


 その反応は、当然だと言わざるを得ないだろう。

 これから先に待ち受けてるのは、彼にとっては辛い事実かもしれない。

 しかし、真実から逃げてはいけないのだ。


 私? ほら、最近まで名前すら忘れてたし。

 でも、これだけの人達を巻き込んだお返しは、してやらないと気が済まない。


「姉上は、怖くなかったのですか?」

「怖くて怖くて仕方がなかったよ?」


 私は首を振ると、執事のヴィクトルから手紙を受け取った日の事を思い出す。

 アリスティア、イズ、暗殺。

 頭の中が真っ白になって、身体が朝食を求めていた出来事が、瞼の裏側に鮮明に映し出された。


 おにぎり、美味しかったなぁ。


 ミーアも! 料理長も! 私の事を本当に良く理解してくれている!

 白い三角のお山は、かぶり付いてこそ至高の味となる!

 次回は、黒い葉っぱが付いたおにぎりを要望してみよう!


「姉上、大丈夫ですか?」

「……ごめんなさい。ちょっと、思い出しちゃって」

「無理もないです……」

「でも、怖がってばかりでは、駄目なのよ。怖さを乗り越えないと、大切な人を守れないから」

「怖さを乗り超える……」

「そう。怖いものは、決して悪いものとは限らないの。ただの恐怖心なんだから」


 私は胸を張って答える。

 お母様も怒る時は、鬼の様な形相をするけれど、それは私を心配しての事なんだよね。


「……姉上の言っている意味が分かりません」

「分からないなら、分からなくていいの。それが普通だから。でも、いつか分かる日が来るといいな」


 私は立ち上がると、再び大きく背伸びをする。


「……あの、姉上」

「何?」

「どうして、姉上はそんなに強いのですか?」

「それは、秘密」


 私は人差し指を口に当てると、ウインクしてみせる。


「でも、一つだけ言える事があるとすれば、それは私の強さじゃないのよ」

「どういう事でしょうか?」

「私が強いんじゃない。皆が私を強くしてくるの。勿論、ヴィルも含まれているわよ」


 そう言って、私は彼に笑いかける。


「だから、安心して前を向いて進みなさい。私はいつでも貴方の味方なのだから」


 私はもう一度、彼をぎゅっと抱きしめた。


 *****


 全員が起床し、女性陣は身嗜みの為に小川へ向かう。

 ヴィルも誘ってみると、彼は顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせていた。

 私は髪を口元に寄せながら、彼に声をかける。


「……ヴィルのえっち」

「ち、違います! 僕はただ……その……」

「ふふっ。冗談よ」


 きっと、お年頃なのだろう。

 可愛い弟分に微笑ましい気持ちになりながらも、今日の為により一層と磨き上げる。

 とはいえ、いつも通りミーアに全てを委ねてされるがままの状態だ。


 川の水で絞られたタオルが、ちべたいのだ。


「アリスティア姉様、凄いです……」


 リゼットが私を褒めながら視線を上下に動かす。

 彼女の目線に釣られて下を見ると、腰とお尻に集中して視線が突き刺さっていた。

 腰はコルセットで作られた産物なのだけれど、お尻は自然と育ってしまうという理不尽さに涙する。


 おまけに背丈が関係するのだろうか、最近は太股までムチムチとしてきた始末である。

 乙女の悩みは尽きないものなのよ……。


 *****


 朝食を頂き、後始末を済ませ、確認をする。

 火の始末、よし! 水筒の準備、よし! お財布もある! 点呼ー!!


「ミーア! 今日の私はどうなんだい!?」

「いつもと変わらぬ美しさですよ。お嬢様」

「ありがとう!」


 ミーアが褒めてくれた! 今日も一日頑張れる!


「リゼット! 王都へ進む覚悟は出来てるかい!?」

「はい! アリスティア姉様の為ならば、何処までもお供します!」

「ありがとう!」


 リゼットが頼もし過ぎる件について!


「ヴィル! お姉ちゃんの後ろは頼んだぞい!」

「はい!」

「ありがとう! それじゃあ、出発だー!!」


 私達は意気揚々と歩き出す。王都まであと少し。

 待っていてね、弟よ!

 必ず、助け出して見せるから!


 何かおかしい気もするが、それは些細な事に違いない。

 ……多分ね。

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