13.お嬢様から加護を頂いた私に、敵など存在しません
お嬢様達から離れる事、数分。
闇に紛れて身を潜めた襲撃者達が姿を現した。
「なるほど、暗殺ですか。狙いはお嬢様か、はたまたヴィルジール様か」
「……ミーア・ルーベルク。お前一人で何が出来る」
「貴方達が何者かは知りませんが、お嬢様方に手を出すのであれば、容赦は出来かねます」
「随分と自信があるようだが、たった一人だけで我らを相手取るつもりか? 」
「勿論です。それが私の仕事ですから」
「『聖騎士団』元副団長とはいえ、今はメイドに過ぎない女だ。我々には勝てんよ」
「それはどうかしら? 」
私は不敵に笑うと、腰に携えた剣を鞘ごと抜いた。
同時に、襲撃者達の殺気が膨れ上がる。
「後悔しても遅いぞ!!」
「それはこちらの台詞です」
私は剣を構え、臨戦態勢を取る。
次の瞬間、一斉に襲い掛かって来た。
まずは正面の男が手にした剣で斬りかかって来る。
それを難なくかわすと、鞘ごと横薙ぎに一閃した。
「ぐぁ!?」
男は斬撃を受け、吹き飛ばされる。
私はそれを確認すると、即座に背後へと振り返り、もう一人の男に蹴りを放った。
「がはっ!」
腹部に直撃を受けた男は、苦悶の声を上げながら崩れ落ちるように倒れた。
「次は、どなたがお相手になりますか?」
私は静かに問いかける。残る二人は動揺していた。
「ば、馬鹿な……。視界が悪い中で何故、我々の攻撃が見えているのだ!」
「まさか、夜目が効くという能力持ちか!?」
「さあ、どうでしょうね? ただ、私にも譲れないものがありますから」
私は二人の前に立つと、静かに告げる。
「お二人とも、覚悟を決めてください」
「舐めるな!」
二人が左右から挟み込むように仕掛けて来た。
私は冷静に相手の動きを観察する。
そして、一人の男の懐に潜り込み、鳩尾に拳を叩き込んだ。
「がはっ!! 」
「貴様、よくも!」
仲間がやられ、激昂したもう一人が上段から剣を振り下ろしてくる。
私は身体を捻ると、その攻撃を紙一重で回避した。
そのまま、勢い余った男の足を払い、地面に倒すと、背中を踏みつけた。
「がはっ……」
「剣を使用するまでもないですね」
私は冷たく言い放つ。
それから、ゆっくりと足に力を入れると、苦しそうな声を上げた。
「ま、待ってくれ……降参……する」
「では、こちらの質問に答えてもらいましょうか?」
「ぶ……部下達の命だけは助けてくれ」
「いいでしょう。ただし、嘘偽りは許しません。貴方達はお嬢様の命を狙うという大罪を犯しています。その罪を償うまでは解放するわけにはいきません」
私は冷たい声で言い放った。
「……分かった。全て話す」
「結構です。それで、貴方達の目的はなんなのですか?」
「……アリスティア嬢の暗殺だよ。命令されたんだ」
「誰にです?」
「知らない。上からの命令だったんだよ……」
私は小さくため息を吐くと、踏みつけている男の身なりを改めて確認した。
着衣はボロボロで、所々に血が付着している。
この者らは、お嬢様の命を狙う為だけに集められた捨て駒なのだと理解した。
「見慣れた紋章が御座いますね。『北方騎士団』の紋章でしょうか? 」
「そうだ。俺達は、『北方騎士団』に所属している」
『北方騎士団』は、主に地続きとなっている隣国との有事の際に備え、常に警戒をしている。
その為、国内だけでなく国外の情報も仕入れており、最前線で戦う部隊として名高い。
「あの女が、フレデリク殿下との婚約が決まった途端、いきなり呼び出してきたと思ったら、アリスティア嬢を暗殺する任務を与えられたんだ」
「あの女とは、モルガーヌ嬢の事ですか?」
「そうだ。『北方騎士団』の命令権限を持っているのは、あの女の家だからな」
私の中で、何かが切れる音が聞こえた。
お嬢様を一方的に陥れ、挙句の果てに命を奪おうとするだけでなく、国を護る為の騎士団ですら、私利私欲の為に利用する。
そんな身勝手な連中を、私は絶対に許す事は出来ない。
男の背から足を離すと、背を向けて歩き出した。
「お、おい。何処に行く気だ?」
「知れたことです。お嬢様の元へと戻ります。約束通り、貴方達を解放しましょう」
「……すまない。感謝する」
「それと、これをお持ちになり、南へ向かいなさい。貴方達の忠義、見事でした」
「これは? 」
「『南方騎士団』への紹介状です。私の名を出せば、すぐに通してくれるはずです」
「良いのか? こんな貴重な物を貰っても?」
「構いません。私には不要の産物です。お嬢様をお守りできるのならば、それに越したことはありませんから」
「……ありがとう。必ずこの恩義に報いると誓おう」
「期待せずにお待ちしております」
私は軽く頭を下げると、その場を後にしました。
道中、空を見上げながら思うのです。
(……はぁ。お嬢様のように自然体で振る舞うのは、難しいものです)
お嬢様の真似をしてみたけれど、まだまだお嬢様には敵いません。
それでも、少しでも近づきたいと思うのは、私がまだまだ未熟だという証に他ならないのでしょう。
(でも、私に出来ることを精一杯やるしかない)
お嬢様の笑顔を思い浮かべて、決意を新たにすると、私は再び野営地へと戻っていった。




