11.弟と妹は増えるもの
王都へ続く街道を、馬に乗り先へと進む。
最初は、ミーアと二人きりの旅路だった。
そこに天真爛漫なリゼットが加わり、更にはもう一人が加わろうとしている。
王都までの道中で、出くわした魔物から助けだした第三王子、ヴィルジール・ルクレール様。
彼との出会いにより、私達の旅路は賑やかなものになった。
王都まであと半日の距離に差し掛かった頃、私は上機嫌であった。
皆の想いを聞けたのが、素直に嬉しい!
家族の無事と、此度の件に国王陛下が関与していなかった事も知れて、心の重荷が少し軽減されたからである。
「お嬢様。あまり大きな声を出すと、はしたないですよ。気を付けて下さい」
ミーアに注意され、私は咄嵯に口を塞ぐ。
そうよね、私も子供とは言えないのだから、はしゃいだりは出来ないのよね。
「ごめんなさい、ミーア。つい嬉しくて」
「ご理解頂けたなら結構です。お嬢様の喜びは理解しております。私も同じ立場に居ましたら、やはり歓喜していたと思いますから」
「それでしたら! このリゼットがアリスティア様の代わりに喜びたいと思います! やったぜ!!」
「リゼット様。お嬢様の様な口調を真似されますと、御父上が悲しみに暮れてしまいますので、是非とも止めてくださいませ」
「はっ!? しまった!! 」
ミーアに指摘された事で、私と同じようにリゼットは自分の口を押さえている。
あれ? さり気なく私ってば、口が悪いと認識されているのかな?
でも、確かにミーアが指摘する通り、私は言葉遣いが荒い方だと思う。
マッマにも、「お母様でしょう? その変な呼び方はお止めなさい?」と注意されたくらいだし。
そこへプラスして、身内の者以外とは上手く喋れなかったんだもん! 仕方が無いじゃんか!
プンスコと頬を膨らませる私を他所に、隣で並走しているヴィルジール様が、上品に微笑んでいる。
「ヴィルジール様が、アリスティア様を見つめられていますよ!」
何故か興奮気味のリゼットが、私とヴィルジール様に交互に視線を向ける。
私もヴィルジール様の笑顔をじっと見つめると、目が合い、互いに笑い合う。
ふむ。こうしてよく見てみると、カッコイイなー。
なんと言えば良いのだろうか? 男性らしさと幼さが交じり合った、不思議な魅力を感じる。
これは世の令嬢方々が放っておかないだろう。
私? 白馬の王子様は、この件が解決するまでは、別にいいかなぁー。
それにどちらかといえば、ヴィルジール様から感じる気配は、弟のような感覚なのだ。
「アリスティア。僕の顔に何かついていますか? 」
おっといけない。無意識のうちにガン見してしまったようだ。
「失礼致しました。新しく弟が出来たような気分になりまして、思わず見惚れていました」
正直に言うと、彼は照れたように顔を赤く染めた。
「アリスティアにそう言って貰えると、なんだか嬉しいですね。僕には兄上達しか兄弟がいませんでしたので、とても新鮮です 」
なるほど。
王子様という立場になると、気軽に接する事が出来る相手は早々いるわけもないのか。
王族の苦悩は分からないけど、それでも大変である事は想像出来る。
私は、彼に優しく語り掛ける。
「では、暫くの間、私がヴィルジール様のお姉さんになってあげましょう。さすれば、寂しさなど感じる暇も無い程に、私が構いまくりますので。覚悟しておいてくださいね」
ヴィルジール様は一瞬だけキョトンとした表情を浮かべると、やがて可笑しそうに笑う。
「それは頼もしい限りだ。では、姉上に甘えても良いのですか? 」
「えぇ、勿論です。存分に姉に甘えると宜しいですよ。遠慮は不要です」
うん。やっぱり私から見ると、白馬の王子様というよりも、弟ポジションだ。
「そう考えると、リゼットは私の妹みたいな感じかしら? 」
「本当ですか! それはとても光栄です!」
「……お嬢様。勝手にご兄弟を増やさないでください」
ミーアが何か言っているけれど、無視してしまおう。
「はい! はい! アリスティア姉様からしましたら、ミーアさんはどの様な存在なのでしょうか!?」
興味津々とばかりに身を乗り出すリゼットに、ミーアは溜息を吐く。
「リゼット様。何度も申し上げておりますが、私はお嬢様に仕えるメイドです。家族ではありませんよ」
「あら、悲しいわ。ミーア。私は貴女を本当の家族のように思っているというのに……」
わざとらしく悲しげな顔を作ると、ミーアは慌てて弁明をする。
「お、お待ち下さいませ! 私はお嬢様に忠誠を誓った身。決してそのようなつもりでは……。私はただ、お嬢様に尽くす事が生き甲斐であり、それが幸せだと思えるのです!」
「つまり、アリスティア姉様の事が大好きって事ね!」
「そ、そういう事ではありません! お嬢様は私の大切な主人であり、家族以上の存在なのです! お嬢様の事はとても大切に思っていますが、だからと言って恋愛感情があるとか、そういった事は一切ありませんからね!」
必死に言い繕うミーアを見ていると、何やら楽しくなってきた。
普段から冷静沈着な彼女が慌てる姿を見るのは、少し珍しいからだ。
「ふふ、ミーアったら、そんなにムキにならなくても大丈夫なのに。私はミーアの事が大好きよ。だから、安心してちょうだい」
そう告げると同時に、ミーアは驚いたのか、目を大きく見開くと、やがて俯き、小さく呟いた。
「……ずるい人ですね。本当に……困ってしまいます」
ヴィルジール様の仲介により、なんとか場は収まったのだが、その後ろでリゼットがニヤニヤしているのが見えた。
きっと、私達のやり取りを面白がっていたのだろう。
「さて、王都まであと僅かですが……強行軍で進めば、深夜には辿り着く事はできます。どう致しましょうか?」
「夜になると閉められる門を抜けて、王都に入るのは難儀でしょう。それならば、明朝まで待って、門が開いた瞬間に乗り込む方が得策ではないでしょうか?」
ヴィルジール様からの質問に、ミーアが意見をする。
それに私も同意する。
「リゼット、野宿になってしまうけれど、平気かしら? 」
「はい! 問題無いです! むしろワクワクします! こんな状況じゃなければ、もっと楽しめるんですけれどね」
「そうよね。でも、今は我慢してね。ヴィルジール……『ヴィル』は野宿の経験はあるのかしら? 」
「はい。騎士団員として野営訓練も経験していますから」
「頼りになるわ。では、ミーアの指示に従い、野宿の準備をしましょうか」




