10.4人目のメンバーを紹介するぜ! 弟のマブダチだ!(友達)
サイクロプスをボコボコにした後、ミーアと合流すると、白馬の王子様が馬から降りて、こちらへ歩いて来る。
表情こそ真剣そのものであるが、青年……というよりも、まだ幼さが残る少年といった方が相応しいだろう。
「先程は危ない所を助けていただき、誠に有難うございました」
「……お気になさらずに。困った時はお互い様ですわ」
「お嬢様、こちらにおわす方なのですが……」
ミーアが何かを言いかけた時、彼が前へ歩み出る。
「失礼致しました。私はルクレール家の第三後継者、名をヴィルジールと申します」
アラヤダ! 本当に白馬の王子様じゃない! ……って、え? ルクレール家って。
だとしたら、この国の第三王子殿下って事? ……は? マジで?
「……アリスティア・ウェンライトと申します」
「貴女がアリスティア様でしたか。お会い出来て光栄です」
「……私如き下賎な者に、勿体無いお言葉ですわ。アリスティアとお呼びください」
「では、私の事も殿下ではなく、名前でお呼びください」
嫌味が通じないぞ! 何なんだ! この王子は!?
こっちは人見知りオーラ全開で話してるっていうのに。
しかも笑顔だなんて……。眩しくて直視できないじゃないか!
(ミーア、助けて~)
私は彼女に目配せをする。
どうやらミーアにも、この王子がどういう人物なのか判断がつかないらしい。
「……分かりました。ヴィルジール様」
「様付けも不要ですよ」
「いえ、それは流石に」
「では、仕方ありません。ですが貴女に会えて嬉しいという気持ちは本当です」
あぁもう! 面倒臭い奴め!!
「それで、どうしてあの場所に居られたのですか?」
「此度の件について、父上……国王陛下より命を受け、アリスティアの捜索を行っていたのです」
「国王陛下が、私を?」
「はい。今回の一件は陛下も大変心を痛めております。その事をウェンライト家の者に知らせる為に、ダヴィッドと親しき仲である私が遣わされた次第です」
私はミーアに視線を向けると、彼女が小さく首を縦に振る。
嘘は言っていないようだ。
私は小さくため息をつくと、彼に向き合う。
まぁ、邪険にする訳にはいかないよね。
しかし! 弟の名を出した以上、答えてもらう事がある!
「……国王陛下や弟の名を口に出しておりましたが、貴方の身分を証明する為に質問があります」
「何でも聞いて下さい」
「私の弟の可愛いところを、一つ教えてください」
視線の端で、ミーアが頭を抱える姿が見えたが、そんな事は知ったことではない。
これは重要な問題なのだ。
それによって、彼への今後の対応が変わると言っても良い。
私は真剣な眼差しでヴィルジール様を見つめる。
彼は少し戸惑っている様子だったが、少しばかり考える素振りを見せた後、ヴィルジール様は口を開く。
「そうですね……何かを行う時には必ず、『姉上なら』が口癖で、いつも私の傍で助言をしてくれていました」
「……他には? 」
「後は、『姉上は凄い』とか『姉上のようになりたい』と口にしていましたね」
「……もっと聞かせて」
「他にも、そう! 『姉上には、内緒だよ』と約束をした時の顔は可愛かったですよ。普段大人びているので余計に」
優勝! 優勝です!! やっぱり私のオトウットは世界一可愛いよ!!
「お嬢様、お顔が緩んでおりますよ」
「だってミーア! 弟よ! 弟がこんなにも可愛いのよ!」
「はいはい。良かったですわね、お嬢様。主の無礼をお許しください、ヴィルジール様」
「いえ、構いませよ。こちらに向かう前にも、ダヴィッドと会う機会を頂けたのですが、『姉上なら心配はない。大丈夫』の一点張りで」
かーっ! 可愛い! 私の弟は超絶可愛い! 今すぐにでも抱きしめてあげたい!
だけど我慢するの! 大切な弟の友達の前だもの! ここはお姉ちゃんらしく振舞うの!
私は胸の前で両手を握ると、気合を入れる。
ここでの振る舞いは最重要! 第一印象は大切だからね! もう遅い? ノーカン! ノーカンだ!
私は咳払いをすると、彼に向かって微笑む。
うん、上手く笑えたと思う。自信はある。
私はゆっくりと彼の元へと近づくと、手を差し出す。
「改めまして、私はアリスティア・ウェンライトと申します。以後、お見知りおきを」
「はい。よろしくお願いします。アリスティア」
こうして、私は彼と握手を交わすと、改めて自分の置かれている状況を理解する。
婚約破棄から立て続けに起こった出来事の最中に、第三王子との遭遇。
この事により、此度の出来事に王家の意思は無く、第一王子の独断によるものと確信を得る。
しかし、そうなると疑問が残る。
第一王子の後ろ盾となっているのは、間違いなくモルガーヌ嬢と伯爵一族であろう。
彼等の目的は、一体何であろうか?
「お嬢様、ヴィルジール様。一先ずリゼット様と合流しましょう。この場に長居するのは危険かと存じ上げます」
確かにミーアの言う通り、此処に留まるのは得策とは言えない。
私とヴィルジール様は、彼女の言葉に同意を示すと、移動を開始する。
リゼットと合流し、ミーアは現状を簡単に説明してくれた。
まず、今回の件は国王陛下の命によるものでは無い。
国王陛下はこの件を憂慮されており、私とヴィルジール様を会わせる為の機会を伺っていた。
そして、その好機が訪れた為、彼を私の元へ向かわせたそうだ。
国王陛下は、私の事をとても大切に思ってくださっている。
それは有難い事だと思う反面、その優しさが私を苦しめた。
何故ならば、私のせいで国王陛下の立場が悪くなるかもしれないからだ。
もし、国王陛下の身に万が一の事があれば、私は自分を一生責め続けるだろう。
そんな未来は考えたくも無い。だからこそ、私は決めたのだ。
今回の一件に決着をつけると。
そのためには、情報が必要だ。
相手を知る為には、こちらも相手の懐に潜り込む必要がある。
そこで問題となるのが、モルガーヌ嬢と伯爵一族の存在。
第一王子の派閥に属する者達。
彼等は、今回の一件をどう考えているのか。
第一王子の思惑を知っているのだろうか。
知っていて尚、協力しているのであれば、彼等が第一王子に忠誠を誓っているという事になる。
しかし、仮にモルガーヌ嬢が第一王子と伯爵一族を操り、私を陥れようとしているのだとしたら、それこそ王国に対する反逆行為である。
それを理解した上で、彼等は行動を起こしているのだろうか。
考えれば考える程、思考は泥沼に嵌っていく。
「一つ心配の種が解消されたら、今度は何故とどうして? が溢れてくる。これじゃあ、キリがないじゃないの!」
「アリスティア? 」
「あっ、ごめんなさい。少しだけぼーっとしていたみたい」
「僭越ながらお嬢様に一言、宜しいでしょうか? 」
「えぇ、構わないわ。何かしら? 」
コホンと軽く咳払いをしたミーアが、口を開く。
「お嬢様が悩む必要はございません。お嬢様はただ、前を見て歩いて行けばいいのです。例え道が分からなくても、迷っても立ち止まらず、歩き続けてください。お嬢様は一人ではありません。私が……私達が付いております。ですから、どうか恐れずに進んでくださいませ」
本当にミーアの言葉は心強い。
私の進むべき道を照らしてくれる。
そっと、ミーアの手を取ると、ぎゅっと握り締める。
不思議そうに見つめる彼女に、私は何も言わない。
ただ、ありがとうと気持ちを込めて、強く握るだけだ。
リゼットにも、ヴィルジール様にも、同じ様に手を取り握り締める。
これから沢山迷惑をかける事となる。
だけど、皆が居てくれれば、きっと大丈夫。
私は一人ではないのだから!
「待ってろよ! 弟よ! お姉ちゃんが向かっているからね!」
弟ばかりで両親の心配はしないのかって?
勿論、心配はしていない。
何故ならば、傍には剣聖と呼ばれたお祖父様がいるし!
お父様に関しては、まぁ、アレだ。
うん。ノーコメントで。
お母様は普通の人なのだけれど、個性的な家族の手綱をしっかり握ってくれているからね!
オトウットは可愛い。




