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三(さん)と桜子さん

「歯磨きしたら寝るわ。明日、4時やから」


「うん、そやな」


「おやすみ」


「おやすみ」


僕は、(さん)が歯磨きしてる間に布団を敷いてあげた。


ベッドに横になって、目をつむる。


僕は、カーテンからもれる月明かりの中で、目を瞑ってる(さん)を見つめていた。


母が見ていた漫画の主人公と同じだ。


彼は、隣にいる幼なじみの寝顔を見つめてこう思ったんだ。


「キスぐらいなら、できるかもしれない。嫌じゃない…」


(さん)と、キスなんてありえない。


僕と(さん)のヤキモチは、どうやら恋愛感情のそれとは違うらしい。


僕も、目を閉じる。


.

.

.

.

.


ダーン、ダーン、ダーン


ミサイルでも落ちたのかと思うほど、デカイ音に飛び起きた。


動悸が、凄い。


「悪い。先輩に起こしてって頼んどってん」


どうやら、(さん)の着信音だったらしい。


「ミサイルが落ちたんかおもったわ」


「どんなんやねん」


「心臓飛び出るぐらい、早い」


「見せてみ」


(さん)は、僕の胸に手を当てた。


「うっわ、ほんまや。ごめんな。俺、いっつもこれで起きてんねん」


(さん)、いつか死ぬで」


このドキドキも、きっとあの漫画の主人公なら勘違いしてるんだろう。


「ほんま?俺は、動悸せーへんけどな」


「心臓に毛はえてもうたんやな」


「かもな。ほな、着替えたらいくわな」


時刻は、4時5分だった。


「僕も、一緒にでるわ」


起き上がって、(さん)に水を渡した。


「おおきに」


「うん」


まだ、心臓は静まらないけれど…


桜子さんに、今日会わなければいけなかった。


僕も、服を着替えた。


「ほな、行こか」


「うん」


(さん)に言われて、チャリの鍵を持った。


斜めがけの鞄に、真っ赤な日記帳をちゃんといれた。



「ほんなら、俺、こっちやから。(きゅう)は?」


「桜並木に用事」


「ほんまか、こっから15分ぐらいやな。気ぃつけていきや」


「うん、(さん)も気ぃつけてや」


「ほなな」


「ほな」


僕は、(さん)に手を振ってチャリにまたがった。


まだ、朝型は少し肌寒かった。


お腹すいたけど、桜子さんに会わないと…。


塩忘れた。


にんにく忘れた。


竹君からのお守り以外忘れた。


お化けやったら、どないしよう。


チャリを自転車置き場に停めた。


チャリ置き場から、桜並木が駅まで続いている。


歩くか…。


僕は、ゆっくり歩きだす。


時刻は、4時40分だった。


いつ、どこに現れるかわからない桜子さん。


駅まで、ゆっくり歩いて行く。


いた。


ピンクのワンピースを見つけて、走る。


「はぁ、はぁ、はぁ」


近づくと足があって、顔色も悪くない。


人間だった。


「なに?」


その人は、僕にそう言った。


「あの、はぁ、ちょっとだけ、はぁ、まってもらえません?」


全速力で、駅近くの桜まで走ったせいで息が苦しかった。


「ハハハ、君。おもろいねー。桜子さんの噂、聞き付けてきたんでしょ?」


うん、うんと首を縦にふる。


「ほんなら、ちょっと待ったげるよ」


彼女は、桜の木に手を当てて立っていた。


想像していた桜子さんとは、違った。


彼女は、今にも消えてしまいそうではなく。


肌艶もとてもよかった。


桜を見つめる視線は、とても悲しそうだった。


暫くして、僕の息はやっと整った。


「すみません。何か、迷惑かけて」


「別に、いいけど」


彼女は、そう言いながら、桜の木をさすってる。


「あの、何でこんな時間にいるんですか?」


「18歳から、ずっとこの日のこの時間におって、人を待ってるけど?」


「えっと、ほんなら何時までいるんですか?」


「5時5分には、帰るよ」


「待ってる人は、現れないんですか?」


「現れへん。ずっと、待ってんのに」


「名前は、誰かわかっとるん?」


「名前は、知っとるよ。」


「誰?」


そう言った僕を、彼女の丸みをおびた目が見つめる。


肩から下げてる小さなバックから何か紙を取り出した。


「えっと、若龍臣(わかたつおみ)。」


古びたメモを、また鞄にしまった。


やっぱりこの人が、僕が日記帳を渡す人なのだとハッキリわかった。




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