まさかの朝チュン展開⁉
チュン、チュン!
外でスズメが鳴いている。
朝になったっぽい。
意識はあるものの、沼のような深い眠気に引き摺られて起きる気力が湧かない。
腕の中にあった抱き枕をさらに引き寄せ、強く抱き締める。
心地よい重さと柔らかく滑らかな手触りが気持ちよく、心身を蕩けさせる甘い香りが更なる幸せを運んでくる。
全身に感じる温もりがたまらない。
「やぁ……んっ…………そんなに強くされたら、私っ………………はぅ……モロハさぁん……♡」
耳朶にかかる熱い吐息と、甘い天使ボイスが脳に響く。
人をダメにするその抱き枕に、俺は深く顔を埋めて……
ストップ! ストーップ!
今のシーン全部カット!
……今の描写は流石におかしい。
キット、ヘンナユメヲミタダケサ!
やっと意識がハッキリしてきた。
今度はしっかり目を開ける。
果たして、俺はがっつりミリアを抱き枕にして寝ていた。
右手は──腰に。
左手は──お尻を鷲掴みにして。
更に頭は、ミリアの豊満な胸にダイブしてしまっている。
もっと言えば、ミリアは素肌が透けて見える程の薄いネグリジェ姿で、下には刺激が強めの黒い下着だけしか身に付けていない。
フラグ回収乙!
完全にお持ち帰りの構図だぜ!
完全にアウトだ。
これはもう助からない。
怖いお兄さんが乗り込んで来る未来が見える。不意に昨日見た冒険者ペインの姿を思い出した。
まさか……俺はカモられていた?
「あの……モロハさん。おはようございます……その、私は気にしていませんから!」
「ミリア……申し訳ない……」
土下座で頭を下げる俺に、ミリアは頬を真っ赤に染めてもじもじと身動ぎしている。
俺はと言えば、怖いお兄さんの乱入に備えて、ちらちらと玄関を気にしながら正座していた。
そのまま数十秒が経過する。
「あの……モロハさん……」
数分経った。
「そ、そんなに見つめられると恥ずかしいです……!」
更に数分経ったものの、何も起きない。
「あの……? は、反応に困ります……」
「馬鹿な……誰も来ない?」
「何を待っているんですか、モロハさん……ここには私とモロハさんだけですよ?」
ミリアが困り顔で俺の目を覗き込んでくるが、本当に困っているのはこっちの方だ。
だって、出会って一日目でベッドインだぞ!?
しかも、ミリアはエロい格好してるし!
俺は記憶無いけど!
何もしてないけど!
誓って俺は何もしてないけど!
普通に考えておかしいだルオォ?
「あの、ミリアさん?」
「何ですか、モロハさん?」
「その格好で寝るのって、常識?」
「今日だけ、です……よ?」
恥ずかしさも限界なのか、耳まで真っ赤に染め消え入りそうな声でミリアが答える。
だが、これだけは聞かなければ。
「俺がベッド使ってしまったのは謝る。けど……どうして一緒のベッドで寝ていたんだ?」
「それは……その……秘密です!!」
あ、ミリアが逃げた。
この分だと、答えてくれそうにないな。
まあいい、気を取り直して行こう。
いや、良くはないけども。
相変わらず行動が危なっかしいミリアに代わって作った朝食を食べつつ、今後の方針を練る。
今後の行動としては、ミリアとおっさん冒険者ペイン間の問題解決が先決だ。
先ずはミリアとペインの間に何が起こったかなのだが……そう言えば、一緒のパーティーまで組みながら、俺はミリアの事をほとんど分かっていない。
「ミリア、自己紹介しないか? これでも同じパーティーメンバーだし、昨日のおっさんの件もあるし」
「そ、そう言えばまだでしたね。遅れましたが、私はミリア・フォルティスと申します。モロハさんと同じ十七歳です! 聖魔法の適正値だけ異常に高くて、今は教会でお世話になりながら、冒険者の回復役も兼任しています」
「同い年だったのか。じゃあ、こっちも。改めて俺はサイトウ・モロハ。十七歳だ。ちょっと事情があって色々と一般常識を知らないかも知れないから、迷惑掛けるかもだけどよろしく」
ミリアは教会でも働いていると。
シスターの格好をしていた理由が分かった。
ペインと問題になったのは、【白銀の龍】で回復役を務めた事が原因だろう。
「あの……私は能力が【聖女】なので、回復力だけは自信があります! なので……なのでこれからも一緒に居て下さいね?」
「お、おう……大丈夫だ」
どこか必死さの伝わる真剣な表情で、ミリアに詰め寄られる。
この様子だと、過去にも色々とありそうだ。
──しかし、【聖女】か。
あの世で見た能力リストには、「聖属性の能力が爆増する」とか書いてあったが、それ絡みかも知れない。
ただ、ミリアの事だから普通にやらかしているだけの可能性もある。
──まあ、不確定要素は考えても仕方ない。
明日も更新します




