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聖女の家に連れ込まれた!


 はぁ……ひどい目に遭った。


 まさかミリアが今問題の【白銀の龍】所属だったなんて。

 これは身分詐称というか何というか、怖いお兄さんに囲まれるフラグがまた顔を覗かせているようだ。

 こんな、異世界生活も序盤でやられてしまうとは情けない。


 色々やっている内に日が暮れてきた。今日中はもうこれ以上動けそうもない。

 ギルドから渡された支給品を確認した俺は、ミリアにについて冒険者ギルドを後にした。


 道中、またミリアに手を引かれつつ俺は冒険者ガイドブックにじっくりと目を通していく。

 ガイドブックを軽く紹介すると、始めの目次は利用規約から始まり、様々な固有名詞を()()()をふんだんに使ってウンタラカンタラペラペラクドクド解説しておきながら中身がほとほと難解という、嫌がらせのような本だ。

 本の歩き読みは危険だが、ミリアが連れていってくれるから問題ないだろう。


 「あの、モロハさん?」


 「うーん……」


 「食事、どこで食べますか?」


 「ふむ……特に決まってはいない、と」


 「モロハさんは、宿に泊まったりするのですか?」


 「野宿もあるのか……嫌だなー」


 「野宿……なんですか? でしたら、私の家に来ませんか?  一応、私達は同じパーティーになった事ですし……」


 「領界……? ああ領土の事か」


 「本当ですか! じゃ、じゃあ行きますね!」


 「うーん……あれ、ミリア何か言ったか?」


 ……返事がない。ただの聖女のようだ。

 何を浮かれているのか、ミリアは鼻歌交じりで上機嫌な様子。足取りも少し早い。

 ミリアが俺に向けて何か話していた気がするのだが……まあ気のせいかも知れない。


 ガイドブックを読みきったが、冒険者については大体イメージ通りだった。

 一言で表すなら、魔物と呼ばれる生き物を倒して素材を得るお仕事だ。雑用や護衛依頼もあったりするが、低ランク冒険者の仕事になっているらしい。

 冒険者の実力ランクに応じてプレートの色が変わっていくシステムで、強くなればなる程待遇も良くなる。


 ガイドブックについては理解できたから、次は支度金だ。

 この世界では、冒険者ギルドに登録すると支度金という名目で資金援助されるようだ。

 基本的な装備はこの金で買えという事だろう。

 受け取ったのは金貨二枚。

 周囲の露店などから判断するに、金貨一枚は恐らく日本円換算で一万円程度だろう。

 通貨は硬貨のみであり、一枚百円相当の銅貨から、価値は十倍づつ増えて銀貨、金貨、白金貨、聖金貨となる。

 通貨単位は世界共通で「モネ」になっているっぽい。


 そんな事を考えながら歩くこと数十分。

 中心街から離れた俺達は、人気も少なく閑散とした雰囲気の通りに差し掛かっていた。

 建物は無駄に密集しているから、きっと住宅街なんだろうと思うが、街灯も無いのはいただけない。


 何も食べていないせいで腹も減ってきたのだが、飯屋も宿屋もどうこにも無いように見える。

 ミリアは俺をどこに連れていく気なのだろうか?

 道が分からない俺は、ミリアに手を引かれるまま、小さな路地へと入っていった。


 「さあ、着きましたよ! ここが私の家です!」


 ブフォッッッ……!!??

 な……に……ミリアの家……だと……?

 ブワッと、全身から嫌な汗が吹き出してくる感覚。いくらミリアでも、年頃の女の子……いや、年は分からないものの、とにかく良心の呵責が凄い。


 「ささ、遠慮せず入ってください!」


 「お、押すな押すな! 何でミリアの家なんだよッ!?」


 「私、ちゃんとモロハさんに言いましたよ……? ガイドブックを読んでいましたけど、きちんと返事をしていただきました!」


 「ちゃんと聞いておくべきだった……ッ!」


 いやちょっと待て、おかしいだろ。

 何でこの()こんなに押しが強いの!?

 俺ら今日遭遇したばかりの見ず知らず同士だぞ!?


 こ、この距離感はこの世界では常識……?


 やたらと機嫌のよさそうなミリアに背中をぐいぐい押され、俺はあれよあれよという間にミリアの家へお邪魔することとなった。

 ちょっと考える時間が欲しい。情報量の多さに思考のキャパが追い付いていないのだ。


 「今、明かりをつけますね……照明(ホームライト)


 「これが常識、そうなのか……そうなのか?」


 パチンと音が鳴り、頭上に暖色の光の玉が現れた。

 家の中を良い感じに照らしている。

 ミリアの家は居間と寝室のみだが、きちんと掃除されていて綺麗だ。室内で育てている観葉植物が原因なのか、部屋は甘い花の香りがする。

 部屋は狭く、最低限の生活が賄える程度の広さ。

 今、この閉ざされた空間には、俺とミリアの二人しかいない。


 落ち着け、俺。

 頭の中で念仏でも唱えていようか。


 「適当に座って待っていて下さいね!」


 「お、おう……」


 修道服の上にエプロン姿のミリアがキッチンに立っている。

 何だろう、素晴らしい。夢の邂逅ではないか。

 まさか美少女の手料理が味わえると……?


 「きゃっ……」


 ゴッ……ガチャン!


 「痛ッ……回復(ヒーリング)!」


 「あぁっ……また……」


 グワラッシャン!!


 「ぅう……回復(ヒーリング)! 回復(ヒーリング)!」


 ……前言撤回。

 この一瞬で一体何が起きた!?

 全く、この聖女からは目が離せん。


 包丁を持ち大量の食材の前で途方に暮れているミリアに近付く。


 「おい、貸してみろ。包丁はこう使うんだ……まな板の下には滑り止めのために濡れたタオルを敷いて……材料を一気に台に出すな!」


 「モロハさん 、凄い……料理もできるのですね!」


 「ずっと独りだったからな」


 独り暮らしに家事スキルは必須だ。

 正直、褒められても……少し嬉しくはある。

 突飛な行動に移り出すミリアを抑え、その度にミリアにべた褒めされ……を繰り返しながら、何とか料理を作ったのだった。


 出来上がった料理の味は覚えていない。

 ただ、誰かと食べる食事はいいなと思った。


 「本当に、色々とお世話になってすみません……」


 「いや、いいよ。割りと楽しかったし……ふぁあ」


 「あっ……どうぞ! ベッド使って下さい!」


 「いいのか……? お休み……」


 空腹を満たして一息ついたからか、急激に眠気が襲ってきた。

 そのままベッドに倒れこむ。

 ミリアのと同じ、甘く心地よい香りの布団に包まれ、俺の意識は遠退いていった。

明日も更新します

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