表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

聖女が仲間になった!

 長い沈黙。

 不安げな眼差しを向けてくる聖女(ミリア)

 そして、ギルド内の誰もが俺に呆けた顔を向けている。


 考えろ、この状況を打開する方法を……!

 この厳ついおっさんには関わりたくないが……俺が頼れる唯一の人物がこの聖女なのもまた事実。

 それに、ここまで衆目に晒されて今さら嘘ですとは言いにくい。

 ……ダメだ、思いつかん。


 困ったら後回し! ヨシ!


 方針を固めたら即行動!

 仇を見る目で俺を睨むおっさんに向き直る。


 「はぁ……まあ、間違いないですよ、ペインさん。ミリアとの間に何があったかは分かりませんが、また改めて謝罪しに行きますので、この場は矛を収めていただけませんか」


 「あぁ? そう言って逃げる気だろ」


 「いやいや、俺の言葉はここにいる全員が証人ですよ? とても嘘はつけませんよ」


 「……ッチ、必ず来いよ。来なかったらブッ殺してやる。俺は【白銀の龍】のペインだ。ギルド職員に言えばすぐに分かる」


 「ありがとうございます。また来ます」


 「本当にすみません、モロハさん……」


 後ろからミリアが小声で謝ってくる。

 聖女、お前は黙っていろ。


 ともかく当面の猶予は得た。

 何となく俺が危惧していたパターンとは毛色が違うようだ。

 怖いお兄さんの登場は無かったが、序盤に揉め事に遭遇するあたりが主人公ムーブっぽい。このまま何とかなればいいが、果たして俺の運命やいかに。


 折角ギルドに邪魔したことだし、このまま帰るのではなく取り敢えず冒険者登録でもしておこう。

 酒場状態になっているギルドの奥へ向かうと、役所の窓口のような広いカウンターに大勢の冒険者達が行儀よく並んでいる。

 ギルド内には、それぞれが剣や弓など様々な武装で固めた屈強そうなおっさん達が多く、俺と同年代の人間は見受けられない。中には女性冒険者も見えるが、全体数で数えると三割ほどだ。多いのか少ないのかは分からないが、こういう荒っぽい職業だから当然といえば当然かも知れない。


 五つあるカウンターのうち一番空いていそうな場所に、ミリアと二人で並ぶ。

 新人いびり的なイベントを想定して警戒していたが、心配していた事態にはならず、あっという間に順番が回ってきた。


 「冒険者ギルド、ベルベッド王国支部へようこそ。ご登録ですか?」


 にこやかな顔で挨拶をしてくれた受付のお姉さんは、美人採用を疑うレベルの美人さんだった。

 ベレー帽にチョッキと、緑を基調にした制服姿も相まって理知的な雰囲気を感じさせる。背筋から指先に至るまでピンと気を張っているのが分かるが、それを物ともしていない。

 どこか風格が違う。社会経験のない俺でも分かる、これが本物の受付嬢というやつだ。


 「登録でお願いします」


 「はい、ご登録ですね。こちらの用紙のご記入をお願いします」


 「冒険者登録書」と書かれた羊皮紙に、羽ペンでサラサラとサインしていく。羽ペンも羊皮紙も初めて触ったが、インク乗りの悪い画用紙に文字を彫っているようで書きにくい。


 エッ、言語の問題?

 そんな物は無い。この世界の言語は日本語だ。

 そこは神がいい感じに設定したのだろう……知らんけど。


 「あの……モロハさん。よかったら私とパーティー組みませんか?」


 うつむき加減におずおずしながら、ミリアが予想外の提案をしてくる。

 色々と問題があるっぽいし、きっと断られるだろうという腹なのだろうが、一緒に戦ってくれるだけでなく、色々と世界について学ぶことも多いので俺としては渡りに船だ。

 断る理由がない。

 

 「俺としては嬉しいが……いいのか?」


 「はい……その、パートナーって周りにも言ってしまいましたし。受付嬢さん、私とモロハさんの二人でパーティー登録もお願いします!」


 「はい、かしこまりましたェ!」


 ちょっとおかしなテンションで語尾を跳ね上げる受付嬢。

 今一瞬、受付嬢の営業スマイルが崩れた気がした。

 間違いなく「こいつ正気か!?」的な目で見られ気がする。


 ミリア……お前は一体何をやらかしてきたんだ?


 「一緒のパーティーだなんて、嬉しいです……モロハさん!」


 「お、おう……」


 何故か涙ぐんで感動しているミリア。顔が近い。

 チュートリアル感覚でこの世界に慣れるまでサポートしてくれる人間が欲しかっただけなのだが……少し嫌な予感がする。


 「それでは、魔力の測定を行います。この水晶に手の平を近付けて下さい」


 「ええと、こうか?」


 受付嬢が持ってきた紫色の水晶玉に手をかざす。

 出た出た、こういうイベント。

 異世界では定番指定されているヤツだな。

 ラノベやアニメならここで「主人公SUGEEEE」みたいな煽りイベントが来る。


 「火風水土闇光聖。普通の全属性魔法使い(オールラウンダー)ですね。

  魔力は濃いめ、多め、やわらかめ。

  制御に困るタイプですねぇ。

  スキルは……「切り札(ワンチャン)」と「千載一遇アトラクト・オブ・ミラクル」。聞いたことの無いものが混じってますが、まあいいでしょう。

  サイトウ・モロハさん十七歳、登録オッケーです!」


 受付嬢の反応を見るに、俺に特別な力は備わっていないようだ。


 魔力が濃いめ、多め、やわらかめって何よ。

 ハチミツジュースか?

 制御が云々とか気になることを言っていたから、後でミリアに聞こう。


 「全属性魔法使い(オールラウンダー)って、普通なんですね」


 「全属性の魔法使えることは、冒険者にとって基本中の基本ですからね。使えない属性があると不便ですよ?」


 首を傾げて不思議そうな表情をする受付嬢。

 まあそんな事だろうと思った。


 パシュッと音がして目の前の水晶が紫色のカードに変わる。

 いかにもファンタジーっぽい演出だ。


 「どうぞ、冒険者証明です。それと、ミリア……さんとパーティーを組まれるとの事ですが、パーティー名はどうしますか?」


 受付嬢……今の意味深な間は何だ。

 ミリアと組むのが危険みたいな反応をされると、こちらとしても色々と気になる。

 聞いてみるか。


 「あの、ミリアって何かあったんですか?」


 「おや、知らないんですか? ミリアさんは……いえ、何でも無いです……」


 何事かを話そうとしていた受付嬢が、ミリアの方を見た瞬間にお茶を濁して黙ってしまった。

 どうせなら最後まで言って欲しかった。

 サッとミリアの方を確認したが、何事も無かったようにニコニコと微笑んでいるだけだ。

 この一瞬で一体何があった。


 「さあモロハさん、早くパーティー名を決めてください!!」


 楽しそうだな、ミリア。

 まあ、嫌な予感はするものの、何とかなるだろう。

 乗り掛かった船とも言うし、仕方がない。

 まさか、口から出まかせに言ったであろう「パートナー」が現実になってしまうとは。


 「パーティー名は【にぃと】でお願いします」


 何かいい感じに働いてぐうたらしていたいから、【にぃと】。

 何かを成し遂げるとか、そんなことには期待しないし、やりたくもない。基本指針はこれが絶対だ。


 「分かりました。新パーティー結成に伴ってミリアさんは【白銀の龍】から脱退することになりますが、よろしいですか?」


 「──えッ?」


 「はい、お願いします!!」


 「ちょ、待っ──」


 「登録完了しました! 新パーティー【にぃと】結成です!」


 ──ファッ?

 ちょっと待てよ!!!

 今聞き捨てならない言葉を聞いたんだが!?

 ミリアが【白銀の龍】所属だったって……俺、寝耳に水だぞ!?


  「ではこちらガイドブックと支度金をお渡ししますので詳しいことは後でガイドブックにて確認して下さいそれでもご不明な点がある場合は受付でお願いしますそれからクエストボードは依頼カウンター前にありますので確認していただき、受注の際はカウンターへ依頼用紙をお持ち下さいそれではこれからの活躍に期待していますよ!!」


 いやいや、こんな所で「説明文を倍速で話せる受付嬢スキル」を使わなくていいから!!

 森のどうぶつかッ!?

 嫌だ、俺に荷物を押し付けるな!


 「ふふ、では。お帰りはあちらでございます!」


 お帰りじゃねぇぇえぇんだよぉおぉぉおぉぉぉぉーーー!!!!

 受付嬢ぉおおぉぉぉおぉぉぇ!!!!

明日も更新します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ