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トンデモないことに巻き込まれた!

 白い大蛇は、治療が終わると猛スピードでその場から逃げていった。

 この聖女様、実は超強いお方だったりするのかもしれない。

 俺は背筋を正すと深々と頭を下げた。


 「助けていただきありがとうございます。俺、斉藤 諸破(サイトウ モロハ)って言います」


 「い、いえ……! 本当に無事で良かったです。どこか、痛んだりしませんか?」


 心配そうに覗き込んでくる聖女様。

 綺麗な顔が近い……ちょっといい香りがする。優しいし、スタイルも良くてめちゃめちゃ美人だし、何とも罪作りな女性だ。


 「大丈夫です。すみません、何もお礼できそうなものを持っていなくて。蛇に襲われた時、荷物も全部失くしてしまったみたいで……」


 「それは大変です。ここは一旦引き返して、一緒に街まで帰りましょう」


 ……よっしゃ。これで道案内人ゲット。


 え、お持ち帰りかって?

 いやいや……そんなこと出来る訳ないじゃないですか。

 俺はただ、この世界に降り立って一文無しな危機的状況を、この人の良さそうな聖女様に助けて貰おうと思っただけだ。


 ──自分で言っておきながら相当クズ野郎な思考だ。


 ただ、魔物の恐ろしさをよく知った今、この先を単独行動する勇気は無い。

 どうにかして街に着いても身元の分からない人間は門前払いされる可能性もあるし、魔物に襲われていた事実は非常に都合がいい。


 と言うわけで俺は聖女様に付いて行くことにした。

 道中は情報収集タイムだ。


 「聖女様、ここはどの辺りなんですか?」


 「あ、自己紹介がまだでしたね。私はミリア・フォルティスと申します。ミリアとお呼びください。ここは魔の森。今はベルベッド王国に向かっていますよ」


 「ありがとうございます、ミリアさん」


 「モロハさんは冒険者なのですか?」


 「今は違います。将来的にはなりたいと思っていますが」


 「では、冒険者ギルドにも向かいましょうか。身分証も発行して貰えますし、一石二鳥ですよ」


 「いいですね! お願いします!」


 何事もトントン拍子に上手く嵌まっていく。

 色々と話を聞いたとこと、この世界が危険なのは魔物や魔王のせいだという事が判明しただけで、そこさえ気を付ければ随分とイージーモードっぽい。


 今後の行動を考えつつ二時間程も歩くと、外周を高い塀に囲まれた城塞都市が見えてきた。

 あれが話に聞いたベルベッド王国だろう。


「おっと、止まれ。身分証を」


 巨大な石造りの門を守る兵士に、手にしていた長槍で道を阻まれる。

 この辺はRPGっぽい。

 しかし、そこはシスターミリアが説明してくれたお陰で楽に通ることができた。

 町の中はレンガ造りの建物が多く、至るところで露店が開かれていて、往来は人で賑わっていた。


 はぐれないようにとミリアに手を引かれながら、人混みをする抜けるように歩く。

 まるでデートのようだと思い、少しだけドキドキした。


 「ここが冒険者ギルドですよ」


 「この大きい建物全部がギルド?」


 「もしかして、見たことが無いのですか?」


 「ハハハ……田舎者なもので」


 「そうですか。世界中の依頼が集まりますし、他にも冒険者稼業に必要な全てが揃うように様々な商店が複合して集まっているんです」


 町の中心部にドンと拠点を構える冒険者ギルドは、五階建ての超巨大な建物だった。

 パッと見、スポーツの試合か何かに使うドームだと言われても遜色ないほどの大きさである。

 この世界の建物はほとんどが平屋か、あっても二階建てだから、目立つことこの上ない。


 ……そもそも冒険者という仕事が何か知らないんだが。

 まあ大方、魔物を倒して得た素材を取引する戦闘職なんだろうとは思うが。


 「さあ、入りましょう」


 ミリアに手を引かれて中へ……


 「遅ぇんだよどこで道草食ってんだミリアァァアァ!!!!」


 ドキドキしながらギルドの扉をくぐった俺を真っ先に出迎えたのは、建物を震わせるような大音声の怒声だった。予想外すぎて驚くと同時に身体がびくりと跳ねる。

 耳を塞ぐ暇もなかったせいか、鼓膜が破れたかと思った。

 余韻のごとく頭にガンガンと残る耳鳴りに耐えながら周囲を見まわす。

 冒険者が集うギルドの中は、仕事の斡旋(あっせん)所というよりかは、飲んだくれの集まる酒場のような場所だった。


 ブワリと鼻につく酒の香りに顔をしかめていると、ヴォン、と異常な風切り音と共に()()()()()()が飛んできた。


 パシッ。


 反射的に手が動く。

 気付けば俺は、無意識にその物体を受け止めていた。

 手元に握られていたのは、ずっしりと重い、手のひらサイズのトゲトゲの鉄球(モーニングスター)

 上手く指の隙間にはまったお陰で回避できたが、もちろん太いトゲトゲが球体の金属の表面を覆っている。力を込めても潰れず、ひんやりと冷たさを掌に伝えるソレは、れっきとした本物であると告げていた。


 「うわ、危なッ!? え、何コレドッキリ?」


 「おい……あいつ! ペインさんの豪速球を素手で受け止めたぞ……?」


 「()()聖女と一緒にいるぞ。何者だ?」


 ザワザワ、ザワザワ。

 今の一連の出来事に、建物内の人間が一気にざわめきだす。

 褒められれば嬉しいが、当の俺ですら何が起こったか分からないから戸惑うばかりだ。

 仮にも金属塊を受け止めたというのに反動も感じなかったし、トゲトゲにも刺さっていない。

 まるで()()()()()()()の仕業みたいだ。


 「モロハさん、お強いじゃないですか……」


 キュッ、と俺の服の裾を掴んでミリアは後ろに隠れている。庇護欲を掻き立てる小動物のような姿は、かわいくてあざとい。


 ──これは確信犯か?


 様々な思考が一瞬で俺の頭の中で交錯する。

 異世界で一番初めに善意を向けてくれた相手が裏切者であった、なんていうアニメの教訓は履修済みである。そうやすやすと他人を信用するのは危険だ。

 異世界生活序盤で少し興奮していた節もあったが、ここらで自重しておいたほうがいいかも知れない。


 ──落ち着け、俺。大体、少し考えてみれば分かることだ。


 この超絶美人さんな聖女と奇跡的な出会いを果たして行動を共にするなんて超展開、漫画やアニメの架空世界が許せども「現実」という二文字は絶対に許さないはずだ。


 ──ふっ、残念。俺は美人局(つつもたせ)には引っ掛からないぞ。


 ギルドの奥から身長二メートルはある、いかにも仕掛人っぽい大柄のおっさんが近づいてきた。

 俺が今手にしている物と同じ鉄球モーニングスターを腰にぶら下げている。

 こいつが周りでペインさんとか囁かれていた人物だろうが、まあ名前なんてどうでもいいか。おっさんはおっさんでいい。

 浅黒く日焼けした、筋骨隆々という言葉が相応しいマッチョマン。手には酒瓶を持ち、全身を朱に染めている所を見ると相当酔っているようだ。


 「そこの聖女を渡しやがれ、クソガキ!」


 「助けてください、モロハさん……」


 酒瓶を振り上げ、口角泡を飛ばして怒鳴るおっさんと、俺の後ろで小さくなりながら消え入りそうな声で助けを求める聖女ミリア。

 この天使ボイスの餌食になった哀れな男は一体何人いるのだろうか……?

 ここで彼女のピンチを颯爽と救った場合、お礼がしたいと言う彼女の好意に甘えて()()後、怖いお兄さん達に捕まり、身ぐるみを剝がされることだろう。

 この俺には、未来が見えている。


 「いやいや……渡すも何も、元からミリアさんはさっきたまたま会っただけの人ですよ?」


 「え……ぁ……ッ!」


 にこりと笑顔を浮かべた俺は、さっさと聖女ミリアの背中を押しておっさんの前に突き出した。

 こちらを振り返った聖女ミリアが、俺に向かって悲痛そうな、今にも泣きだしそうな表情を向けてくるが、華麗にスルーを決める。


 「ほぉ……話が分かるガキじゃねえか。さっきは悪かったな。ったく、クソ聖女め。何度も何度も余計な事をしやがってからに。ぶち犯してやる!」


 物騒な文句を吐きつつ、おっさんは乱暴に聖女ミリアの腕を掴むと、その場から動かずに抵抗する彼女を引きずるようにして歩き始めた。


 「ぁ……ぁッ……モロハ、さん……」


 涙混じりの、消え入りそうな声が耳に残る。

 悪意のある人間ほど他人の善意に付け込もうとするものである。

 これを無視すれば、俺は──


 ガシッ。


 気付けば俺は、無意識におっさんの腕を掴み引き留めていた。

 また、勝手に身体が動いた。

 まるで俺以外の誰かの意思が存在したように、無意識に。


 「おい、何だクソガキ。その手ェ放せ」


 ゆっくりと振り向いたおっさんのひどく機嫌の悪そうな声に重ねて、酒臭くぬるい息が顔にかかる。

 どうしてこうなったかも分からず内心は冷や汗でいっぱいだが、もうここまで動いてしまった以上、後戻りはできないだろう。

 俺も覚悟を決めるしかない。


 「いえ……あまり穏やかな空気じゃなかったので。少し話し合いませんか?」


 「あぁん? 何だァお前、正義の味方気取りか何かかよ。さっさと失せろ、胸糞悪い」


 「ですから、事情だけでも……」


 「調子に乗んなガキが! 殺すぞ!!」


 ブオンッと風切り音を鳴らし、俺の頬をぶっとい腕が掠めていく。

 もし当たっていたら、即死だったかも知れないと思わせるほど速い拳だった。

 だが……しかしこのおっさん、話にならん。

 きっと酒のせいで正気を失っているのかも知れないし、最後の言葉は聞かなかったことにしておこう。

 怒鳴り声で耳が痛いし、唾を飛ばしまくってて汚いし、最悪だ。


 「あの、ミリアさん。この人に何したんですか……」


 「そんな、何も悪い事はしていないですよ……」


 涙に濡れた困り顔で肩を落とすミリア。

 うーむ……さてはこの聖女、自覚無しで色々やらかすパターンの人間か?

 こんなに怒り心頭になっている人間を前に「何も悪い事はしていない」というフレーズからして怪しさ満点だ。


 「おい。退かねえならぶっ飛ばすぞ、テメェ。そこの(アマ)は俺のパーティー、【白銀の龍】に泥を塗りやがったんだ。部外者は引っ込んでろ」


 あぁー、はいはい。【白銀の龍】ね。

 オッサンカッコイイネー。

 と言うかやはり事情があるっぽい。ここはひとつ穏便に聖女(ミリア)を引き渡して──


 「ぶ、部外者じゃありません! モロハさんは……モロハさんは私の新しいパートナーですっっっ!!!」


 聖女(ミリア)の叫びがギルド建物内に響き渡る。

 その瞬間、ギルド内がシーン……と静まり返った。

 サッ! と皆の視線が俺に集まる。


 ………………ゑ?


 オレハナニモシラナイヨ?

 ソモソモボウケンシャジャナイヨ?


 何を言っているんだ聖女(コイツ)は!?

明日も更新します

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