おや? ミリアの様子が……!
ストック消えるとキツいですね
パチリと目を覚ますと、吐息が感じられる距離にミリアの顔があった。
何かいい夢でも見ているのか、口元が緩んでいてだらしない寝顔になっている。
俺の首を両腕でがっちりとホールドして、足も大胆に絡めてくるその寝相の悪さは何とかならないのか。
恋人でもないのに身体の大半を密着させて、この世の貞操観念を疑いたくなってしまう。普段のミリアもスキンシップが激しいから、この世界はそういうものなのだろうか?
ミリアの家に来て数日。
毎日のように抱き枕にされている俺は、大量の疑問符を頭に並べながら、とりあえず拘束からのがれようと身体を動かした。
「ん……モロハさん、ダメですよぅ……」
「カヒュッ……」
寝言なのか寝惚けているのか、急に動き出した俺を咎めるように、ミリアはさらに強く抱き付いてくる。
ほぼゼロ距離と言えるぐらいの距離に近づいてきて、俺の喉から異音が漏れた。
マズい……これはマズいぞ。
ついさっきまで、にへらとだらしない微笑みを浮かべていたミリアは、俺が動いたせいでキリリと澄ました表情に変わっているのだ。
それは俗に言うキス顔というやつで、人形のように綺麗な美貌に加え、ミリアが寝ているという背徳感が俺の理性を崩しにかかっている。
思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
心を落ち着けるため、深呼吸を繰り返す。
スウゥー……ハァァー
スウゥー……ハァァー
大丈夫、俺は紳士だ。
ミリアはただのパーティーメンバーというだけで、別にそういう関係じゃない。目を閉じて雑念を払った俺は、これ以上ミリアが動かないよう慎重に拘束から抜け出した。
──よし、ギルドに行こう。
ミリアは……今日もぐっすり眠っているし、別に無茶さえしなければ俺一人でもいいだろう。
気付けに顔を洗い、パパッと身支度を整える。
「モロハさん!!!!!」
「ひぃぃっ……!」
外に出ようとした瞬間に突然大声で呼ばれ、あまりの驚に三センチくらい飛び上がった。心臓が裏返ったように激しく動いていて、足が金縛りのように動かなくなる。
声のした方向に首を回すと、ベッドの上で青い顔をしたミリアがボロボロと涙を流している。
「モロハさんの嘘つき……うぅ……グスッ、置いていかないでって……言ったのに……独りは、嫌……」
俺の目の前で、ミリアは膝を抱いて震えている。
ずっと能天気なお人好しだと思っていた、俺の中のミリアの印象が、ガラリと変わっていく。
ミリアに関してはギルドの受付嬢もどこか歯切れの悪い所があったし、よくよく考えてみれば、俺以外の誰一人としてミリアと仲のいい人物を見た覚えもない。
何らかの事情があって、本当にミリアが孤独なんだとしたら──ミリアは昨日もこんな感じだったのだろうか。
「悪いことしたな……ミリア!」
「モロハさん……?」
「遅いぞ、全く。ほら……一緒に行こうぜ」
「ぁ……あっ……い、今から準備しますから!」
慌てふためきながら、羞恥に顔を真っ赤にするミリアを見なかったことにして、俺は天を仰いだ。




