変な空気に……!
相も変わらず闇のように暗い住宅街を手探りするように歩き、数日の間に見慣れてしまった小さな路地裏へ入る。
今日一日ミリアは何をしていたのだろうか、などと考えながら俺は、ミリアの家の戸を軽く叩いた。
「ミリア、いる?」
近所を気にしながら小声で声をかけると、一瞬だけドタバタと音がしてから、キィと戸が開いてミリアが顔を覗かせた。今日一日も何をしていたのか、いつもと同じ修道服を着ている。
「……ッ! モロハさん」
「あーいや。気持ち良さそうに寝ていたから、つい。その……置いていってごめん」
「心配しましたよ……でも、お帰りなさい。無事で良かったです」
分かりやすく怒っている事を示すようにぷくりと頬を膨らませ、ジト目で俺を睨むミリア。
残念ながら迫力は皆無と言ってよく、むしろ怒ってもかわいいものはかわいいという事が証明されただけだった。
「取り敢えず中に入って下さい。もう……こんなに傷ついて、一人でクエストに行っていたんですか?」
「ん、まぁそんな所かな」
「少し、じっとしていて下さい……回復」
本日二回目の回復魔法。
しかし、ギルドの回復術師に施してもらったものとは違って、身体に溜まっていた疲労という疲労を全て洗い流してくれるような心地よさがあった。
その魔法は、もう完全回復と言って差し支えない。
ミリアは文字通り聖女なのだ。
「もう無茶しないで下さい……あと、きちんと起きるので、置いていくのは止めてくださいね?」
少し瞳を潤ませて、非難に唇を尖らせて拗ねるミリア。困った顔も様になる美貌に、視線が釘付けになる。
慣れない戦いをし、ギリギリで命の奪い合いをしていたからか、理性で塗り固められた心の隙にチラリと野生が顔を覗かせた。
目の前には、俺の人生で見てきた中でもこれ以上に無いくらいの美少女がいる。
思考がくらくらと揺れるのを感じた。
「ミリアはかわいいな……」
「ふぇぇっ!?」
目の前の聖女に触れたいと疼く本能に従うまま、さらさらと零れるような金髪を撫でる。
熟れたりんごのように赤面して伏し目がちになっている姿も、俺より一回り小さな身体をぎゅっと縮めるその反応も、今は俺だけが独り占めできる。
雰囲気に呑まれるままミリアを抱き締めようとして、そこで理性が戻ってきた。
「……ごめん」
伸ばしかけた手を引っ込めて、スススとミリアから距離を取る。
「ぁ……」
ミリアが楽しみのおもちゃを取られた子どものような、切ない表情を浮かべる。
怒って平手打ちをしてくるのかと思っていたから、拍子抜けしてしまった。
「何か本当にごめん。今のは忘れてくれると助かる」
「はい……」
微妙に暗くなってしまった雰囲気を無視して早々にベッドに入った俺は、ほどなくしてすぐに眠りに着いた。




