帰還
「はぁ……やっと勝った」
半分地面に顔を埋めて絶命している白い大蛇の頭部に腰掛け、俺は糸の切れた操り人形のように脱力していた。森中を走り回ったのに加え、ギリギリの戦闘で疲労感はピークに達している。張りつめていた緊張感から解放されたというのも大きいだろう。
本音を言えばもう動きたくないが、流石に魔物溢れる森の中でゆっくり休む訳にもいかない。
襲い来る眠気を抑え鉛のように重い体を起こした俺は、白い大蛇の首を抱えると森の出口へと歩き出した。幸いそこまで深くまでは来ていないらしく帰り道の把握は問題無かったが、足元も不安定な中、重い魔物を引きずって進む山道が疲労困憊の俺に追い打ちをかける。
「クソ、腰痛ぇ……倒した後も厄介だな」
俺が必死にこの大蛇を運搬しているのは、単に金になりそうだからだ。
素人でも簡単に倒せるコボルトで三モラも貰えるのだ。見た目ランクの高そうな白蛇ならば、高額の報酬と引き換えにできる可能性がある。奇しくもあの【白銀の龍】が狙っていた魔物でもあるから、ある程度の報酬は望めるだろう。
朝早くに出発したはずのコボルト退治だったが、気が付けば空は朱く染まっており夜が近くなっている。何度も心折れそうになるのを自分で鼓舞しながら白い大蛇を運んだ俺は、ギルドの前まで来てから力尽きて倒れた。
「おいボウズ、大丈夫か!」
「この蛇……死んでるのか?」
「ペク・マダラじゃねえか!」
俺の背丈の五倍はある蛇を引きずって来たから、街中を歩いている時から目立っていたのだが、ギルドに着いてからはその騒ぎが一段と大きくなった。
ガヤガヤと騒ぐ冒険者達の会話からは、驚愕や称賛の声が数多く上がっている。ペク・マダラと呼ばれているらしいこの白い大蛇は、実は結構な強敵だったらしい。
「回復……よし、これで大丈夫だ」
「ありがとうございます」
「冒険者になったばかりなのに、ペク・マダラに遭うとは付いていないねぇ、君」
「はは……コボルト退治のつもりだったんですけどね」
「自信がつくのは結構だけど、無茶だけはするんじゃないよ」
ギルドに常駐しているという回復術師が、呆れたような視線を送ってくる。
あの後、担架に乗せられてギルドの医務室に運ばれた俺は、すぐに治癒魔法のお世話になった。
魔法という謎パワーの効果は劇的で、一瞬の治療でも歩けるくらいには回復している。多少の倦怠感は残っているがヘトヘトで動けない程ではなく、医務室を出てギルドのメインフロアに戻ると、受付嬢のドーラが、待ってましたとばかりに駆け寄ってきた。
「モロハさん、お身体は大丈夫ですか!」
「何とか無事です。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「いえ、迷惑だなんてとんでもないですよ。コボルト狩りのクエストは私が手配したものですし、むしろ謝るのは私のほうです」
「いえいえ、こちらこそ」
「いやいや、私の方が」
何故か始まる責任の持ち合いに、どちらかともなく笑いが込み上げてきて、俺とドーラは顔を見合わせて笑いあった。
クール系美人なドーラの笑顔が眩しい。
「それで、俺が倒した白い蛇はどうなりました?」
「ああ、そうでした。外傷も少なくて非常に綺麗な状態だったので、これは相当な高値でお引き取りさせいただきますよ!」
「因みに、おいくらぐらいか聞いても……?」
「そうですね……見積りとしてはざっと二万モネです」
「うわ高ッ!?」
二万モネ……日本円換算で二百万円相当だ。苦労して持ってきた甲斐もあったが、中々金銭感覚の狂いそうな額である。
「ペク・マダラの肉は高級食材になっていますし、その皮も骨も、余すことなく使えますからね」
蛇の肉は食べたことはないが、高級食材と言われれば食べてみたくもなる。
ミリアなら調理法も知っているだろうか?
「高級食材なんですか。少し貰ってもいいですか?」
「もちろん構いません。これから解体と査定をするので、明日の朝には報酬金がお渡し出来るかと思います」
「ありがとうございます」
外はもう日が暮れており、これ以上他にすることもない。未だ騒ぎが収まりきらないギルドを後にし、俺はさっさと帰路に着いた。
もうストックが無くなってしまいました
(´;ω;`)




