ジャーマンスープレックスゥゥゥ!!!
背後から感じる、謎のプレッシャー。
冷や汗が背中に伝い、嫌な予感がビシバシと伝わってくる。
『シュルルル……』
「ヒェッ……!」
聞き覚えのある鳴き声に身体が強張り、戦慄が走る。
油の切れたブリキ人形のようにゆっくりと振り返った俺の瞳に、いつかの日に出会った白い大蛇の姿が映しだされた。記憶にある姿よりも大きく見えるその大蛇は、俺を警戒するように遠目から観察している。大地を縫うように音も無く動くその身体は、薄暗い森の中だというのに白く美しく艶めく鱗が木漏れ日を反射し、まるで宝石のように輝いている。
「クッ……こんな再会劇は求めてないんだが?」
『シュルルル……』
「すぐに襲ってこない所を見るに、ミリアを警戒しているのか」
白い大蛇は、俺の周囲をぐるぐると這いまわりながら、そっと近づいては離れてと、奇妙な動きを繰り返している。それは見えないバリアに頭をぶち当てた事を気にしているようにも見え、魔物にも知能が備わっていることに気づいた。
俺には【千載一遇】があるからまだ落ち着いていられるが、ミリアの居ない時に限って窮地に立たされるとは、ついていない。
俺にはミリアが居ないと不幸が舞い降りる……無いな、考え過ぎだ。
「とにかく、今はスキル頼りでも仕方ない。ここから逃げないと」
白い大蛇が俺から目を離した一瞬の隙に、森の出口へ走り出す。
だがしかし魔物が俺を簡単に逃がしてくれる訳も無く、白い大蛇は俺の逃走に気付くと猛スピードで後ろを追いかけてきた。初日と全く同じシーンが再現されているように、俺は白い大蛇の追随から必死に逃げまどっている。
「ハァ、ハァ……これじゃジリ貧だぞ!」
『シュルルル、シャーッ!』
元から深くまで入っていないからすぐに森を抜けられると思っていたが、大蛇の執拗な追随によって進路変更を余儀なくされ、今や自分がどこにいるのかすら分からない。
このままずっと逃げ回っても体力を削るだけであり、埒が明かない。
「クソッ、戦うしかねーのかよ!」
勝てる勝てないの次元ではなく、どちらを取っても死ぬかもしれない。
俺の攻撃手段など無いに等しいが、それでも戦って負けた方がまだマシだろう。
近くにあった木の幹を起点にぐるりとターンを決め、大蛇の目の前を通る大蛇の胴体に向けて手をかざす。ミリアに教わった通りに魔力を操作し、去る日の感覚を呼び起こし気合で叫ぶ。
「火よ、我が意に従え! 第一階梯魔法 ≫ 放射!」
ボワリと音を立て、手より少し先から炎が生まれて大蛇の白い鱗を焼く。炎は一瞬だけしか出ておらず、その効果時間の短さから大蛇にダメージが入っている様子は感じられない。
だが、小さくとも大蛇に攻撃を加えることはできた。
それだけを確認してすぐに場所を移動した俺は、周囲に乱立する木々を盾にしながら、ただひたすら大蛇に炎を当てまくった。
塵も積もれば何とやら、というだろう。
『シュルッ、シュルルルッ!!』
「火よ、我が意に従え! 第一階梯魔法 ≫ 放射!」
『シュェェェ──シュルル!!』
「おらァ! 火よ、我が意に従え! 第一階梯魔法 ≫ 放射!」
『シュシュシュシュ──ルルッ!』
いつの間にやら、大蛇の動きは大分鈍っている。
このまま行けば、俺でも大蛇を倒せ──る可能性は無くなった。
身体の中に感じていた俺の魔力が、全く反応しなくなった。
「クソッたれ……こんな所で終わってたまるかァァ!!!」
バッと身を翻し急いで振り向くと、全身に火傷を負った白蛇が、大口を開けて襲いかかってくる瞬間だった。
もう間に合わないと脳が思考を停止した時、スッと俺の身体が勝手に動き、華麗なスウェーで攻撃を躱した。
流石は【千載一遇】様々だ。
白蛇の噛み付きは空を切り、その首は地面に激突して土中に埋まる。
さて、この蛇は何としても倒さなければならない。
【千載一遇】先生に、何かいい案はないものか。
結局能力頼りになるのは許してくれ……。
能力に身を委ねると、体内の魔力が活性化していくのを感じた。
枯渇していたはずの魔力が全身から滲み出し、光輝く金色のオーラとなって全身を包んだ。
初めて見るこのオーラは能力【切り札】の影響かも知れない。
今なら何でもできそうな気がしてきた。
地面から顔を抜いている白蛇の首に腕を回し、しっかりとホールドする。
そして、思いっきり力を入れて、背後にブリッジを決め──!
「ジャーマンスープレックスゥゥゥ!!!」
グギリッ!
骨が鳴る鈍い音が、因縁深い大蛇の頚椎が折れた事を知らせる。
十秒ほどの残心の後、ゆっくりと腕を解放した。
白い大蛇はしばらくビクビクと動いていたものの、やがて完全に動かなくなった。
やったね!
俺のK.O.勝ち!




