表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

ザコボルトで実験しよう!



 コボルトはじめじめとした湿地を好み、森の入り口付近に広がる沼地を探すとすぐに見つけられるらしい。

 魔の森には凶暴な魔物が数多く潜んでいるらしいが、入り口付近であれば遭遇することは殆どなく、俺一人でも比較的安全に行動できる点はありがたい。

 ドーラに貰った無骨な見た目の骨切包丁を武器に、道なき道を進んでいく。

 湿地に近付くにつれ森の空気がどんよりとしたものに変わり、環境的な不快指数が上がっていくのを肌で感じた。ひんやりと湿った空気は土の匂いをはらんでどんよりと濁っており、それでいて常時動いている俺は蒸し暑く感じる。

 我慢しながら進んでいくと、やがて背の高い木々がまばらになり、一面をツタや苔で覆われた広間に到達した。


 『グギャギャギャ! ギャ!』


 「うぉッ! 気持ち悪ぅッ⁉」


 鳴き声につられて足元を見た俺は、たまたまそこに立っていたコボルトと目が合い、思わず大きく後ろに飛び退った。いきなり遭遇したのもそうだが、何よりもその衝撃的な見た目が悪い。

 ゴブリンも気持ちの悪い見た目をしていたが、コボルトはそれ以上だ。ブヨブヨとした灰色の肌を持ち、瞳が無く黄色く濁った目をしている。潰れた鼻をひくつかせ、不揃いで穴だらけの歯を合わせてカチカチと鳴らしている。五十センチくらいしか無いコボルトの全体像は「顔に手足が生えました」と表現するのが的確で、とにかく気持ち悪いという感想しか出てこない。


 「ま……まあいいや。始めるか」


 天使のお姉さん達に頼み込んで俺が選んだスキルは【千載一遇アトラクト・オブ・ミラクル】という名のスキルで、効果は「全てが発動者にとって都合よく運ぶ環境を生み出す」という、ご都合主義も頭を垂れる破格の性能を秘めている。今までは何となく使っていたものの、使いこなせるようになれば強力なスキルだ。

 スキルの概要は知っているから、細かな発動条件や法則性を明らかにしていきたい。

 豪速で飛んできた鉄球を受け止めたり魔法を習得する際には随分お世話になったが、無意識化で急に発動していたり、俺の願いに応じて発動したりと不透明な部分が多い。

 また、ギルドで確かめた時に判明したもう一つのスキル【切り札(ワンチャン)】は、発動直後の行動に超大幅な会心補正がかかる。未だに発動したことすら無いから、これは概要だけしか分からないスキルだ。


 俺の命を預けるスキルなのだから、今日は()()ボルト達を実験台に何とかしてこの二つの調査を試みたい。


 先ずは任意で発動できるのかテストするため、目の前のコボルトへ意識を向けた。

 ただ対峙しただけの状態でどう転べば都合がいい状態なのか見当もつかないが、物は試しだ。コボルトに集中し、相手が倒れる様を想像しながら、スキルが発動するよう強く念じる。


 『ギャギャ! グギャ!』


 コボルトの耳障りな鳴き声に意識が削がれる。

 集中だ──俺が直接手を下さずとも敵が勝手に倒れてくれる、そんな都合のいい状況を強く願ってイメージを固める。


 『グギャ! ギャギャギャギャ!』


 ……集中、集中。


 『グギャッ! グギャッ!』


 「ゴチャゴチャうるっせぇ!!」

 

 『ギュャ……』


 小躍りを踊るような動きで俺を挑発してくるコボルトに苛立ちを感じて顔面を蹴飛ばすと、何の手ごたえも無くあっさりと吹き飛ばされ絶命した。ゴブリンに引き続き、弱すぎて不憫にすら思えてくる。まともな実験にならないのでもっと耐久面を鍛えてほしいものだ。

 討伐証明が右の手首だというから、一応回収しておいた。魔物とはいえ人間のソレに似た手首を切るのには抵抗感が強かったが、目を閉じて叩き折るようにして何とか切断した。噴き出してきた血が青黒い色だったことがせめてもの救いだろう。


 「どいつもこいつも、魔物っていうのは気色悪ぃな」


 『ギェギャグ!!』


 「ん、どこだ……うぉあッッッ⁉」


 突如響いたコボルトの声から出所を探そうと立ち止まり、そして俺は何もない場所で体制を崩し盛大に転んだ。  

 地に付した俺の頭上を、焦げ付くように熱い風がぶわりと吹き抜けてく。

 顔を上げると、目の前の木々が焼き払われて灰煙を上げていた。もし()()俺が転ばなかったら、今頃は焼け死んでいたかもしれない。

 慌てて後ろを振り返ると、木々の陰から本日二体目のコボルトが顔を覗かせた。小さな白い棒切れを前に構えて立っている。この炎はコボルトの魔法によるものだろう。


 「当たってたら死んでたな……もしかして、命の危険になると自動で発動するのかも」


 ふと、ギルドで鉄球を受け止めた時の記憶が蘇った。

 俺の考えが正しければ、スキル保持者本人の生死に関わる事象には自動で対応してくれる可能性がある。その他の例に関してもその説明が当てはまる可能性もあるが、半分は俺の願いに応じてくれたものだとも考えられるため判断が難しい。切実に願った時に応えてくれるならば、発動条件はその二種類になるのだろうか。

 ──勝手にミリアの手を取った件はどう説明しようか。


 『ギャギャギェ!』


 「うるさい」


 無駄に転ばされた腹いせも含め、コボルトを適当に蹴っ飛ばす。

 魔法を放ってこようが素のステータスは弱いままなので、俺の素人キックでもあっさりと倒されて地面に転がった。こんな雑魚でもお金になるので右手首の回収は忘れない。


 ──ガサガサッ。


 背後で草木が揺れる音がして、瞬時に辺りを警戒する。いつでもスキルが助けてくれるなどと思い込むのは流石に危険だ。スキルに溺れて潰れるパターンの話もよくある事故である。

 見渡す森は暗く、物音が嘘のように静まり返っている。

 温い風が俺の頬を撫で、周囲の鳥という鳥が飛び立つ音が聞こえた。

明日も更新します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ