脱ミリア計画だ!
眩しい日の光が、俺の閉ざされた目に朝を運んでくる。
寝ぼけて意識がおぼろげな思考で昨日の記憶を呼び起こすが、どうもはっきりしない。食事から帰ってきたころには大分疲れていた記憶があるから、早々にベッドにもぐり寝てしまったのだろう。
「ん……ふぅ……」
「はひぇッ!」
不意に首筋に息を吹きかけられ、全身がぶるりと震える。
一気に目覚めたのは良かったが、変な声を出してしまった。
「んん……モロハさぁん……」
相変わらずの天使ボイスが俺の耳に優しく囁かれると同時に、後ろからしっかりと抱きつかれていた。絶対に逃がしはしないとばかりに絡められた足からは、適度な柔らかさと反発性のある最高の感触が味わえる。背に感じる幸福については考えない方がいいだろう。
俺の職業はいつから抱き枕になったのだろうか?
シングルサイズのベッド一つしか無く、前提としてここがミリアの家である以上、寝具のことについてとやかく言う気は無いが……毎朝こうだと流石に俺でもキツイかも知れない。
「はぁ……早く拠点が欲しいな」
心を落ち着かせ、静かに瞑目する。
やはり最優先にすべきは誰が何と言おうと生活基盤の確保だ。
【白銀の龍】の一件で色々ゴタついてはいるが、よく考えれば口約束であり明確な契約を交わしたわけでもなく、いつまでに用意するとも約束していない。
流石に踏み倒したら世間的によろしくないが、延々と先延ばしにするのはアリだと思う。預り金とか言いながら酒代をちょろかましているパーティーに対して感じてやる罪悪感など毛ほども無い。
問題は先立つ金が足りない点だが、俺は冒険者という職業を獲得している。クエストをバンバンこなして金を貯めれば、その先はパーティーを解散しても自立して生きていけるようになるはずだ。
いつまでもミリアに頼るわけにはいかない。
「よし、脱ミリア計画だ」
人間知恵の輪でもするようにそっとミリアの拘束を抜け出した俺は、すっかり明るくなったにも関わらず、未だに気持ちよさそうな寝顔を見せるミリアに毛布をかぶせるとパパッと準備を済ませて家を出た。
先ずは自分自身の戦闘能力を確かめなければ話にならない。
良い人材が居ればパーティー仲間に入れるのもアリだが、リーダーが何一つできないというパーティーなどゴミ同然である。
そのままの足で冒険者ギルドに駆け込んだ俺は、すっかりお馴染みとなった受付嬢ドーラの元へ一直線に向かった。
「おはようございます、モロハさん。今日は早いですね」
「ええ、今日からは本格的にクエストをこなしていこうと思いまして」
「成る程、頑張ってくださいね。因みに今日はミリアさんと一緒ではないのですか?」
ドーラよ……何故俺が四六時中ミリアと行動を共にしなければならないんだ。
今日は俺自身のスキルの性能テストも兼ね揃えた、チュートリアルの続きをやる日だ。
回復なんて余計な支援があったら、俺単体の実力は一生計れない。
「自分自身の戦闘能力も確かめたいので、今日は一人で向かいたいと思います」
「冒険者になって日も浅いのに、よく考えられていますね。その慎重さがあれば、直ぐに強くなれますよ」
クール系美人のドーラが、俺に向けてふわりと優しい微笑みを見せる。
褒められるのは嬉しいのだが、異世界の女性はレベルが高過ぎて精神的によろしくない。
「ありがとうございます。ゴブリンよりちょっと強いくらいのレベルで、討伐系の手頃なクエストってありますか?」
「そうですね……では、コボルトなんてどうでしょうか」
ドーラが手渡してきた依頼用紙を確認すると、シワクチャ顔の禿げた老人のイラストが描かれている。討伐照明は右手首となっており、一個当たりで三モラで交換してくれるらしい。
場所も魔の森から近く、俺でも簡単に行けそうだ。
流石は受付嬢と言うべきか、報酬額やアクセスの丁度良さといい、ドーラの選ぶクエストには間違いが無い。
「ありがとうございます! 早速向かいます!!」
「あ、お待ちくださいモロハさん。これを一緒に持って行ってください」
俺を呼び止めながら、ドーラが机の引き出しからずっしりと重たい革袋を出してくる。
外から触った感触だと、金属の塊が入っているようだ。
「これは……?」
「骨切り包丁です。コボルトの右手首って、骨が太くて素手では解体できないんですよ」
「そんな、わざわざ……貸してくれるんですか!」
「いいえ、私からの些細なプレゼントです。コボルトはゴブリン並みに弱いですが、魔法を撃ってきますので注意して下さいね」
「ありがとう、ございます……!」
受付嬢ドーラ、何という神対応なんだ。
よく分からないが、これがデキる社会人というものなのだろうか。俺だったら、他人に過ぎない冒険者のために自腹を切るマネは絶対にしたくない。
つい感動で目が潤んでしまった。
コボルトならば群れていても三匹ほどらしく、戦いやすいという。多少の魔法を使うくらいしか警戒する所が無いというのは、初めての力を試したい俺にはもってこいだろう。
逸る気持ちを沈めつつ、急いで魔の森へと向かった。
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