【白銀の龍】はクズだった!
日が暮れる前に冒険者ギルドへ帰還した俺達は、クエストの達成報告のため受付嬢ドーラさんの元へと向かった。
「あ、帰ってきましたね。どうでしたか、始めてのクエストは」
「色々ありましたが、無事に終わりましたよ」
「ふーん、色々……ですね。まだ大丈夫みたいですが、相当な何かがあったみたいですね……チッ」
ミリアの方を見て何かに納得した様子のドーラさん。
何が大丈夫なのかは分からない。
ミリアに信仰を捨てさせただけだが、やっぱり分かる人には分かるのか。
それと、今舌打ちが聞こえた気が……?
まあ気のせいだろう。
「何だかドーラさんの雰囲気が怖いです……」
ささっと俺を盾にするミリア。
「あーハイハイ、そういうのはいいですから、討伐証明を出してください」
「あっ、ハイ」
「確かに、確認しました。どうぞ、報酬の千モネです」
渡された皮袋の中には、金貨が十枚入っていた。
前世にも今世にも、正当な労働で得た賃金はこれが初めてだ。
色々大変だったが、感慨深いものがある。
「ほらミリア、報酬だぞ」
金貨二枚を残し、八枚をミリアに渡す。
報酬は山分け、残りは衣食住を世話になっている分だ。
「わぁ……初めてお給金を貰いました……!」
瞳をキラキラさせて慎重に皮袋を受けとるミリア。
ミリアも俺と同じ気持ちなのだろう。
「あ、それとドーラさん。パーティーメンバーの募集ってどうすればいいですか?」
「そうですね。募集用紙に詳細を記入して、掲示板に貼るといいですよ。募集しますか?」
「お願いします」
「モロハさん、新しい人って……しばらくは二人でも大丈夫じゃないですか?」
ミリアが捨てられた子犬のような瞳を向けてくるが、パーティーの拡張は必須だ。
強いやつと戦うにそれなりの人数が必要だろうし、ましてや俺とミリアではバランスが悪すぎる。俺はまだ大した戦いが出来ないし、ミリアはそもそも回復役だ。
火力と防御力の確保が急務である。
「大丈夫だ。ミリアにはこれからも一緒に居て貰わないと困る」
「モロハさん……」
勝手に感激しているミリアは置いておいて……俺は募集用紙に必要事項を記入していく。
人を募集しようとして「アットホームなパーティーです」とか書くとろくでもない奴が来そうな気がする。ここはシンプルに行こう。
よし、募集文句はこんなものでいいか。
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冒険者パーティー【にぃと】メンバー募集!
【募集要項】
☆魔法が得意な人
☆攻撃力のある人
☆防御が得意な人
【詳細】
☆報酬は基本山分け・貢献に応じてボーナス分配有り
☆回復・支援は万全!
☆詳しくはリーダーのモロハまで!
後はこれを掲示板に貼り出して
後はこれをパーティーメンバー募集の掲示板に貼り出しておけばいいらしいが……メンバー募集はどのパーティーでも急務なのか、掲示板には、既にびっしりと紙が貼られていた。
中には他人の募集の上から貼り付けているようなものや他のパーティーを貶すような文句もあり、パーティーリーダーの人間性がうかがえる。
俺が応募者だったら。絶対にそんなパーティーには入らないが。
ちょうど掲示スペースの端に小さな隙間があったので、【にぃと】の募集はそこに貼った。
「むぅ……やっぱり、パーティー選びは重要ですね」
ミリアが掲示板を見ながら、何やら考え込んでいる。
何を真剣に見ているのかが気になって横から覗いてみると、少し色あせた募集用紙が目に留まった。
一番上には、デカデカとした文字で【白銀の龍】と書いてある。
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【白銀の龍】
超一流のベテラン冒険者、ペインが指揮を執る、信頼あるパーティー
アットホームな雰囲気で、陽気な仲間が待っています
頼れる先輩冒険者が、優しく指導します
回復役歓迎します
若手の女性冒険者、優遇します
・報酬の分配有り
・休暇有り
・成果が上がらなくても、仕事は沢山あります
預り金、三百モネを持ってお問い合わせ下さい
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いやいや、ブラック確定。
報酬の分配や多少の休暇ぐらい無かったら不味いだろうに、当たり前のことをさも特別かのように表現している事に震える。
若手の女性冒険者……には触れないでおこう。
しかも、最後の預り金って何だ。
「……なぁ、ミリア。この預り金って持って行ったのか?」
「もちろん、持っていきましたよ。パーティー加入の面談をする時、酒代に使われていました」
酒代……ね。
この瞬間、俺の中の【白銀の龍】への評価はゴミへと成り下がった。
預り金(一生)とか、考えることがクズ過ぎる。
きょとんとした、あどけない顔でとんでもない事をぶちかましたミリア。
素直な女の子だと言われれば聞こえはいいのだろうが、この危機感の無さは将来が心配になる。
「なあ、ミリア……これからは俺の言う事だけしか聞いたらダメだぞ」
「分かりました……!」
俺の心配とは裏腹に、眩しい笑顔を向けるミリア。
この従順さは……いや、俺がしっかり面倒を見ればいいのか。
明日も更新します




