復活のゴブリン!
全てのグレートブラックを処理したミリアが戻ってくる。
「大丈夫ですか、モロハさん。グレートブラック、怖いですよね……」
女神の微笑みを浮かべて俺に手を差しのべるミリア。
その手を取って立ち上がると、徐に真正面から抱き締められた。
ミリアの甘い匂いに、脳がクラクラしそうになる。
……何か、スキンシップ激しくないか?
「モロハさん……一緒に頑張りましょうね」
弾かれたようにパッと離れ、頬を真っ赤にして、まるで誤魔化すように視線を反らすミリア。
「お、おう……でもありがとう。助かった」
「グレートブラックの討伐証明は触角です。簡単に引っこ抜けるので、手伝ってください」
そう言い残し、グロ現場に足を踏み入れるミリア。
ブチブチと音を立てながら、容赦なく触角を回収していく。
俺も真似してやってみると、音に反して吸盤を抜くような感触がする。
全ての触角を回収し、俺達は次なるクエスト目標である、ゴブリンの元へと向かった。
魔の森を抜け、街の手前に差し掛かる。
「ここですね、依頼の場所は」
「ただの小屋じゃん」
依頼用紙に従って着いた場所は、周囲を田畑に囲まれており、物置として使うには少し大きめの小屋が建っていた。
「どうやら住み着いたようですね。ある程度の知能を持った魔物は民家に住むことがあるんですよ」
「人里に出てきたから急いで依頼を出したのか。数はどれくらいなんだ?」
「二十匹くらいと書いてありますね」
キィィ……
話しているそばから、突然小屋の扉が開く。
中から顔を出したのは、黄色く濁った目を向け、表情を憤怒に染めたしわくちゃな老人顔。
肌色は緑で、薄禿げた頭のてっぺんには小さな角がついている。
薄汚れた腰布一枚のみを身につけ、手にした棍棒でこちらを威嚇している。
しかし悲しいことに、身長が腰くらいの高さしか無いから全く怖くない。
『プン、フゥンフゥン、プンプン!!』
何だその鳴き声は。
どこぞのブロック世界にいる村人みたいな声を出しやがって。
「気を付けてください、モロハさん! ゴブリンとその上位種であるオーガは、ある意味では世界最悪の魔物ですから!」
「どういう意味だ、それ? グレートブラックよりヤバいのか?」
「もう最悪ですよ! あの不純の象徴とも言える魔物は、種族問わず全ての生物と……こ、こここ交尾するんですッ!!!」
「うわ最悪だな! エロ同人出身かよッッ!!」
小屋の中からわらわらと同じような顔のゴブリンがわき出て来る。
不愉快な奇声を上げながら、棍棒を振り上げて襲いかかってきたゴブリンの顎を、俺は思い切り蹴り飛ばした。
『プンゴォ……!』
その場で倒れるゴブリン。首がおかしな方向に曲がっていて、ピクリとも動かなくなった。
……弱ッ。ゴブリン弱過ぎだろ。
しかし、これなら負ける心配は無い。
……そんな事を思っていた時期が、俺にもありました。
「神よ! 今ここに神聖なる奇跡の御業を! 復活!!」
キラキラとした神々しい魔法の光が、俺が蹴り飛ばしたゴブリンに降り注ぐ。
ゴブリンの首が、元の位置にぐるりと戻った。
光が止んだ後には、すっかり回復して元通りになったゴブリンの姿。
何と言う事でしょう……
死んでいた魔物が生き返りました!
……は?
「おいぃぃぃぃい!!! 何してんだミリアァァッァ!」
バッと後ろを振り返ると、ミリアは片膝を突き、神に対して祈りを捧げていた。
ご丁寧にも周囲には金色の魔力が、後光差すオーラのように輝いている。
「万物に平等なる慈悲を。神よ、今ここに神聖なる奇跡の御業を」
……うん、そりゃあミリアは修道服着てるし、能力が【聖女】って言うのもあるし、かわいいし正に聖女って感じだけど。
祈りを捧げてる姿も、周りのエフェクトも相まって凄く様になっているけども。
け・ど・も!
それは違うくねぇか……?
「って、ゴブリン来てるし! 前も後ろも純潔は誰にも犯させん!」
襲い来る集団を、全員顎狙いで蹴りを入れ、仕留めていく。
何だか小さい子供を相手にしているようで気分が悪い。
顔も実態も醜悪なゴブリンだが。
「オラァ!」
『プンゴォ……』
「復活!」
「近寄るな!」
『プンゴォ……』
「復活!」
「フンッ!」
『プンゴォ……』
「復活!」
「死ねェ!」
『プンゴォ……』
「復活!」
「いい加減にしろやぁぁぁああぁぁ!!!」
近くにいた一匹にドロップキックをお見舞いし、ミリアの元へダッシュする。
未だに祈りを続けているミリアの肩を掴んでガクガクと揺らす。
「ミリア、目を覚ませ!」
「復活……復活!復活!」
「何だ、コレ……!?」
ミリアの瞳から、生気が失われている。
ハイライトの消えた瞳も、綺麗なサファイアブルーからエメラルド色に変化している。
口調もずいぶん違うし、まるで自分の意志が無いみたいだ。
これがミリアの持つ能力の影響というやつかも知れない。
俺が考えている間にもゴブリンは迫ってきているし、ミリアはずっと教義のような祈りをぶつぶつと呟いている。
何とかしてミリアを止めなければ。
よし【千載一遇】、お前の出番だ。
他人任せにはしたくないが……祈る。
俺のスキルよ、頼むからいい感じにどうにかしてくれ!
……スイッ。
俺の手が、ミリアの首元へ吸い込まれる。
トン、と静かに触れると、ミリアが意識を失って崩れ落ちた。
首トンで気絶とか、生で見るのは初めてだ。
流石、都合の良いスキルなだけある。
そんな事をしている間にもゴブリンはすぐそこまで迫っていた。
が、回復の心配が無くなった俺に怖いものはない。ここからは俺の快進撃だ。一撃で倒せる相手に臆するものなど何もない。
それから間も無く、ゴブリン達は全滅した。
回復さえ無ければ楽勝だな。
……さて、後はミリアをどうするかだが、自分の意識下でどうにかなる問題ではないから罰することはできない。俺の【千載一遇】だってただ何となく使っているが、結果オーライなだけで自分の意識的な行動を奪われているに過ぎない。
ミリアが不当な扱いを受けていたのは十中八九このスキルが原因だ。
出来ることなら、力になってあげたい。
……一度は見捨てようとした身で、勝手すぎるだろうか。
明日も更新します




