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勇者選抜  作者: かが みみる
第2ステージ
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第2ステージの始まり

「選ばれし勇者たちよ。ようこそ第2ステージへ。」


 薄っすらと覚醒している意識の中でそんな声が聞こえた。空中に浮かぶ半透明の男が見える。仮称神様のあの男だ。

 周りを見ると、俺の他に4人の男女が立っている。俺のクラスメイトはいないが、他の4人も知っている顔だった。


「薪野は!他の奴らはどうなったんだ!」


「元の世界に帰りましたよ。そして元通りに死にました。」


「なっ!」


 驚いた。みんなが死んだ事に?いや違う。こいつが俺の質問に答えたことに驚いたのだ。答えないだろうと思いつつも抑えきれずに発した言葉に普通に返された。


 隣で女の子が泣き出した。確か化学科の有村姫理だ。校内一可愛いと評判の女の子だ。その子が「みんな・・」とか呟きながら涙を流している。だが騙されてはいけない。この子もここにいるということは、あの部屋でどうにかクラスメイトを丸め込み、騙して勝ち抜けしてきたはずだ。あの時の俺の様に。


 あの時俺は、扉を開けて中に入ろうとしたところをロープを引かれて邪魔をされそうになった。だがロープは10m以上あったのだ。弛みを引ききるだけでもかなりの距離を引かなければならない。だから俺には十分に勝算があった。扉を開ければ邪魔が入ることなんて予想済みだ。あいつらの事なんか欠片も信用していなかったからな。あの時は同時に階段も消えたと思う。だがロープをドアノブに縛り付けた後なので、何とかなると考えていた。結果として、ドアを開けて溢れだした光に包まれた俺は、転移の様な形でここにこれたわけだ。俺があれだけ危機感を煽ったというのに、ここにあいつらが一人もいないということはあの後もあいつらは足を引っ張り合って自滅したのだろう。

 そんなことよりも目の前の仮称神様のことだ。


「会話できるのか?」


「ええ、できます。こうして話しているのに、むしろどうして会話できないと思われたのか分かりません。」


「聞きたいことがたくさんあるが、とりあえず、あなたは何者なんだ?」


「異世界の神です。」


「神様にしてはやることが悪趣味だと思うが。異世界の神ってのはそういうものなのか?」


「神にも色々いますが、特別遊び心の強い神だと自認しています。何せ「狩りと賭博の神」ですから。」


「多神教ってことか。」


「あなたの言う多神教とは意味合いが違いますよ。宗教ではなく実在していますから。人の信仰とは関係ありません。」


「何にしろ色々な性格の神様がいるということだな。その中でもとびきり性格の悪い神にあたっちまったからあんな胸糞悪いゲームをやらされたってことか。」


「他の神と比べて性格が悪いとは思いませんが、あのゲームが私の趣味であることは確かですね。そして、まだ続きます。」


「もう勇者は5人選ばれたんだろう?まだ何かやらせるつもりか?」


「正確には、勇者とその従者が5人選ばれたのです。ですからこの中から勇者を選ぶゲームをします。」


「勇者と従者に何か違いがあるのか?」


「ありますよ。勇者は従者に命令することができます。従者は勇者の命令に背くことはできません。」


「命令に背けない?命令されたら自分の意思に関係なく体がその通りに動くとでも言うのか?」


「いえ、命令に背こうとすると激痛の後に意識を失います。勝手に体が動いたりはしませんが、嫌でしょう。」


「嫌だな。」


「さて細かな話は第2ステージが終わった後にして、ますは第2ステージのルールを説明します。ここからは質問には答えないのでよく聞いてください。」


「待て。まだ質問は残っているし、俺しか質問していないじゃないか。」


「第2ステージはこの中から勇者を決めて貰います。決める方法は投票です。あなたたち5人の名前が書かれたカードを用意しました。72時間後にこの投票箱の中に一番多く名前が書かれたカードが入っていた人が勇者に選ばれます。皆さんのデッキには5人の名前が書かれたカードを1枚ずつ、計5枚いれてあります。よく選んで投票してください。」


 神様は言いたいことだけ言うと消えてしまった。くそっ。また言い逃げか。とりあえず他の4人に謝ろう。


「みんな、すまない。俺ばかりがあいつとしゃべってしまった。出しゃばり過ぎたせいでみんなの質問の機会を奪う形になってしまった。申し訳ない。」


 とりあえず深々と頭を下げておく。


「頭を上げてください。あれはあなたが悪かったのではなくて、あの神様の性格が悪かったのですよ。皆さんもそう思うでしょう?」


 丁寧な口調でそう言ってくれたのは細身で長身の男だった。記憶にはないが、俺と同じジャージを着ているということは同じ学校の生徒なのだろう。


「そうだな。別にいいんじゃないか。」


 こちらは知っている。確か建設課で柔道部の本田だ。


「私たちも特に文句はないわ。ところで早速だけど、あの扉を開けて見るわね。」


 こいつも分かる。永久エリカだ。有村姫理と同じ化学科の有名人だ。有村は学校一可愛いと有名だが、永久は化学科を率いるボス的存在として有名だった。

 その永久は有無を言わさずに扉を開けた。扉の外は外だった。いや、普通に屋外なのだが、見た感じは森のようだ。


「大丈夫みたいね。ちょっと用事があるからここで待ってて。ついて来ないでよ!ヒメは一緒に来て。」


 永久はそのまま有村を連れて出て行ってしまった。あいつ、化学科のボス的な存在と聞いていたけれど、完全に暴君だな。


「行っちまったぞ。どうする?」


 残された俺は、同じく残された二人の男に向かって尋ねた。


「大丈夫だろう。放っておこう。」


「女性には色々あるのですよ。ここは素直に待ちましょう。」



 本田と細身の男がそう言うので待つことにした。特に慌ててすることもないが、辺りの様子だけは見ておこう。とりあえず、今居る場所はログハウスの様なところだ。床は木の板が貼ってあるが、壁や天井は丸太で組まれたままになっている。テーブルが一つ置かれていて、その上に投票箱と火の点ったランタンが置かれている。他には扉が一つあるだけであとは何もない。扉は先ほど永久と有村が開けて出て行ったが、その時見えた限りでは外は木が生い茂った森のようだった。

 あれ、第2ステージは投票するだけだと思ったが、72時間もこの何もない場所で過ごさないといけないのか。72時間というと3日いや、今が何時か分からないけど外は明るかったから昼間だろう。そうすると3泊4日とイメージした方がよさそうだな。その間をここで過ごすというのはちょっとしたサバイバルだな。まずは水の確保だな。可能なら食べ物も欲しいが、最悪4日くらいなら食べなくてもいけるか。

 俺がこれからについて考えていると、永久と有村が帰ってきた。


「ごめんなさい。待たせたわね。あっ、これお土産よ。森で見つけたわ。」


 永久がそう言って渡してきたのは木の実と葉っぱだった。


「これは夏みかんか?それと、トイレ紙代わりの葉っぱか。」


「多分そうね。食べられるかは試していないわ。」


「水はあったか?」


「そこまでは調べられていないわ。ごめんなさい。」


「いや、いい。これだけでも十分だ。ありがとう。」


「それじゃあ改めて自己紹介から始めましょうか。」


 永久が仕切って自己紹介が始まった。


「まずは私から。私は化学科の永久エリカ。テニス部だったけれど、ここでは意味が無いわね。趣味も、ここでは意味が無いわね。あれ、話すことが無いわね。」


 確かにと思って頷いていると、細身の男が質問をした。


「どうやって第1ステージを突破されたのですか?」


 嫌な質問をする。永久も一瞬答えにくそうにしたので割って入る。


「無理して答える必要はないぞ。同じ境遇ならみんな誰かの犠牲の上でなっているんだ。良いことばかりなはずが無い。」


「ええそうね。でも大丈夫。私はクラスのみんなに行ってこいって背中を押されてきたわ。そのせいでみんなが犠牲になったのは確かだと思うけれど。」


 ちっ、答えやがった。流れ的に俺も答えないといけないじゃないか。


「次はヒメね。」


「はい。私は有村姫理です。エリカちゃんと同じ化学科で、趣味はお菓子作りです。ここにはみんなの推薦できました。よろしくお願いします。」


 おいおい。二人ともみんなに送り出されたってのか。化学科はなんて平和なクラスなんだよ。羨ましい。


「次は俺だな。」


 並び順で本田が次を引き取った。


「俺は建設科の本田剛だ。柔道部だ。ここには全員ぶっ倒してきた。」


 マジかー。本田ならやってそうだと思ったが、本当に全員ぶっ倒したかー。ある意味正しい勇者の選抜方法だよな。ちょっと気になるから一応聞いておこう。


「建設科には女子もいたよな。それもぶっ倒したのか?」


「男女平等だ。」


 いや、男女平等の意味が違う気がするのだが。身体的な特徴の差はあるのだから、そこはハンディとか設けてやれよ。


「いやいや凄いですね。次は私ですね。私は機械科の和田尚喜です。ここにはちょっとした賭けに勝ちましてやってきました。よろしくお願いします。」


賭けってなんだよ。とは突っ込まない。俺も誤魔化したいし。だがこいつが一番胡散臭いので気を付けよう。


「次は俺だな。元電気科の佐藤雄二。野球部だった。ここにきたのは交渉の結果だ。殴りあったりはしていない。」


「交渉ってなんですか?」


和田が突っ込んできやがった。


「それを言うならお前の賭けってなんだよ。」


「ちょっと説明が難しいですね。」


「それなら俺も説明は難しいな。」


「ふふふっ。」


「はっはっは。」


 俺と和田が睨み合いながら笑い合っていると、永久が間に入った。


「別に話しにくいことは話さなくていいわ。真偽を確かめようがないし無理に話して貰っても意味が無いもの。それよりもこれからのことについて相談しましょう。まずは72時間、3日間の共同生活についてかしら。」



なるほど。永久は頭がいい。そして建設的な意見をどんどん出してくる。化学課のボスになったのはこの能力のせいか。



「勇者は決めないのか?」


本田がそう聞くと直ぐに永久が応じた。



「投票が終わったら開放されるとは言っていなかったわ。だとしたら72時間をここで過ごす前提でいた方がいいと思うの。生活が安定したら勇者の決め方を相談する時間は幾らでも取れると思うから、まずは生活からと考えたのだけど、どうかしら?」


「分かった。」

「私も異論はありません。」

「俺もそれでいい。」


本田、和田、俺が同意した。有村は永久の後ろで聞いているだけだ。全て永久に任せているようだ。



「とりあえず私は、水、食料、生活用品については幾つかの現物とたくさんのカードを持っているわ。ヒメも似たようなものね。」


そう言うと永久は背負っていたリュックサックを下して見せた。中にはパンや水の瓶が入っているのが見えた。有村も同じようにリュックサックを背負っている。

マジか。物資まで渡されて送り出されるなんて、化学はなんて良いクラスなんだ。俺なんかゲームに触れさせてさえ貰えなかった全く物資を持っていないぞ。


「私はこれしか持っていません。」


和田はポケットにパンを一個持っていた。それから手には鉤爪付きのロープを持っている。だがそれしか無いらしい。


「俺は何もない。」


本田は何も持っていないらしい。


「俺もだ。何もない。」


俺も何も持っていないのでそう告げた。身体に縛り付けていたロープは無くなっていたので、俺は本当に何も持っていない。俺はあの時、みんなが見ている中で疑われないように必要な物だけ、つまりロープだけを取り出したのだ。他に何も持ってくることは出来なかった。



「カードがあの部屋みたいに物と交換できるのなら十分な水と食料があるわ。まずはカードを挿入する場所を探しましょう。」



永久は俺たちに水や食料を分けてくれるつもりらしい。ありがたいことだ。だが永久の考えは正しいだろうか。



「ここはもうあのゲームの中の世界じゃないのか?だとしたらカードは『リアルコンバージョン』で実体化するはずだろう。それからあの神は、デッキに投票カードを入れたと言っていいた。デッキってのはあのゲームに出てきたカードを収納する場所のことだ。恐らくここではあのゲームのようにデッキからカードを取り出せるはずだ。試すぞ。『カードリスト』。」



『カードリスト』はあのゲームで自分のデッキの中身を見る時のコマンドだ。それを声に出してみた。すると、視界に文字が浮かび上がった。俺のデッキ内のカードリストだ。5つあり、全て投票カードだ。



「『デッキカードアウト【投票カード佐藤雄二】』。」



俺がそう呟くと、俺の手に中に一枚のカードが現れた。そのカードをみんなに見せる。



「手品じゃないぞ。どうやら既にあのゲームの世界の中らしい。永久さん。『リアルコンバージョン』を試してみてくれないか。」



「分かったわ。」



永久は頷くとリュックサックからカードを一枚取り出した。



「『リアルコンバージョン【水】』。」



永久の手に握られていたカードが消えて、水の入った瓶が現れた。



「凄い。」



有村が呟いた。他の奴らも一様に驚いている。



「とりあえず、水と食料の問題は解決ね。でもそれ以上に色々と考えないといけないことが出来たわね。」



永久の言う通り、色々と考える必要があるだろう。俺が考える一番の懸念は、モンスターだ。あのゲームでは町の外を歩くとモンスターが出てきて戦闘になった。ここが既にゲームの世界の中だとすると、町の外にはモンスターが出てくると考えるべきだ。このログハウスの周りは森になっている。到底町だとは思えない。つまり、ログハウスの外はモンスターが出るということだ。



「永久さんたちは武器のカードを持っていたりしないのかな?」


「持っていないわ。まさかいきなりそんなものが必要になるなんて想定していなかったもの。」


「そうだよな。俺なんかそんな状況じゃ無かったとはいえ、カード一枚持っていないんだ。仕方ないよな。」



深刻な問題だ。72時間ログハウスに籠り切りで居られるとは思えない。ここにはトイレが無いので、最低限トイレだけは外に行く必要があるだろう。そういえばさっき、永久と有村は外に出ていたな。



「さっき外に出たときに何かに遭遇しなかったのか?」


「ええ。運よくなのか、何とも出会わなかったわ。」


「それが運が良かっただけなのか、普通なのかは分からないな。だが運が良かったと考えておいた方がいいだろう。」


全員が押し黙った。モンスターが出てくる可能性を全員が認識しているのだ。


外は危険。だが、このログハウスの中で時間が来るまでのんびりしていればいいなんて、あの性格の悪い神様がそんな温い環境を用意するとは思えない。だから俺は。


「俺は外に探索に行く。」

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