和田尚喜
「君たちの中から勇者を選抜します。勇者に選ばれた人にはチート能力を授けます。」
「勇者には生き残る力が必要です。しかし皆さんは元の世界で若くして死んでおり、生き残る力に疑問があります。」
「そこで皆さんの中から生き残る力の強い者を選びます。これから生き残りを賭けたゲームをしてもらい、生き残った人を勇者とその従者として異世界に転生させます。勇者となれる者は1人だけですが、勇者には4人の従者がつきます。そのため、5人を選抜します。」
「皆さんが勇者やその従者として相応しいと選抜した者がいたら、右手の階段を上った先にある扉を潜ってください。その者は勇者やその従者として転生します。扉を潜ることができるのは5人です。」
「階段は一人ずつしか上れません。二人以上が乗ると階段は消失します。」
「時間制限を設けます。毎日23:59を過ぎるまでに、部屋から必ず一人以上減らしなさい。減らす方法は2種類です。先ほどの扉を潜るか、左手にある穴に廃棄しなさい。」
「後方にはこれから勇者として召喚される世界について学習できる教材を用意しました。部屋に5台ずつ用意しましたのでよく学習しておいてください。」
私たちのクラス、機械課は女子がいない。男子だけのクラスだ。そのお陰か団結力がある。だからこのような状況に置かれても慌てなかった。
「全員で明日を迎えよう。」
それがクラス全員一致した意見だった。
学習教材は時間を決めて交代でやることになった。私も試すことができた。
学習教材というからには、このゲームのような世界がこれから私たちが行く世界なのだろう。このゲームの特徴はカードだ。あらゆるものはカードになる。モンスターを倒すとカードが残るし、買い物するとカードが渡される。物のカードは実体化することができ、またカードに戻すこともできる。物以外にもスキルカードや魔法カードという物もあった。
カードはゲーム機から取り出すこともできた。だが、カードのままでは役に立たない。そこで部屋中を捜索して、カードを挿入できる場所を見つけた。カードを挿入すると壁が開き、壁の向こうの小部屋にカードに描かれた物の実物が置かれていた。
私たちは飲み物や食べ物を買い込んで宴会を始めた。こんなわけの分からない状況に放り込まれてみんなも不安だったのだろう。みんなで大いに騒いで盛り上がった。要するに、現実逃避だ。
宴会は永遠と続き、もうすぐ23:59を迎える。私はつまみを買ってくると言い、カードを挿入する場所へと向かった。カードを挿入すると壁が開く。そして小部屋へと入った。私の欲しいものがそこに置かれていた。それを直ぐには取らずに、そこでしばらく待った。
23:59が過ぎる。みんなの居る部屋の床が消えた。みんなの叫び声が小さくなっていった。みんな、落ちていった。
この小部屋の床は消えなかった。だが小部屋の外は床が無いので、小部屋から出ることは出来なくなった。しばらく待ったが、床が復活することは無かった。
仕方なく、用意した物を手に取る。鉤爪だ。事前にロープも準備してある。ロープの端に鉤爪を結わえて放り投げる。だが失敗した。狙いは階段。階段に鉤爪が引っかかってくれれば、ここから脱出できるかもしれない。成功するまで何度も試した。成功しなければ死ぬのだから必死だ。そしてついに、鉤爪が階段に引っかかった。ロープを何度も引っ張るが鉤爪は外れなかった。
少し休憩してから意を決してクライミングを開始した。ロープを攀じ登るというのは、訓練している人であれば簡単なのであろうが、一般人の私には大変な行為だった。幸い私は体重が軽いので、苦労しつつも何とか階段まで登ることができた。後は階段を上り、扉を潜るだけ。扉の横には「3」という数字が書かれている。それが何を意味するのかは分からない。
扉を開けると眩い光で視界を失った。そのまま私は気を失った。