永久エリカ
「君たちの中から勇者を選抜します。勇者に選ばれた人にはチート能力を授けます。」
空中に浮かぶ半透明の男性が、そう語りかけてきた。
「勇者には生き残る力が必要です。しかし皆さんは元の世界で若くして死んでおり、生き残る力に疑問があります。」
私たちはやっぱり死んだのか。まあ、そうよね。バスが横転して転地が逆さになった記憶があるもの。周りのみんなはというと、全員がお行儀よく男の話を聞いている。みんな自分の死を素直に受け止めているのかしら。
「そこで皆さんの中から生き残る力の強い者を選びます。これから生き残りを賭けたゲームをしてもらい、生き残った人を勇者とその従者として異世界に転生させます。勇者となれる者は1人だけですが、勇者には4人の従者がつきます。そのため、5人を選抜します。」
勇者ね。物語ではよく出てくるけれど、まさか本当にあるなんて思わなかったわ。
「皆さんが勇者やその従者として相応しいと選抜した者がいたら、右手の階段を上った先にある扉を潜ってください。その者は勇者やその従者として転生します。扉を潜ることができるのは5人です。」
そこで男の話が途切れたけど、少し間を置いてから再開した。
「階段は一人ずつしか上れません。二人以上が乗ると階段は消失します。」
うん?もしかして私たちが上ろうとするのを待っていた?
「時間制限を設けます。毎日23:59を過ぎるまでに、部屋から必ず一人以上減らしなさい。減らす方法は2種類です。先ほどの扉を潜るか、左手にある穴に廃棄しなさい。」
廃棄ってあの穴に?意味が分からないわ。
「後方にはこれから勇者として召喚される世界について学習できる教材を用意しました。部屋に5台ずつ用意しましたのでよく学習しておいてください。」
それだけ言い残すと半透明の男の姿は消えてしまった。これはちょっと大変なことになったわね。素直に死なせて貰った方が良かったかもしれないわ。まあでも、復活のチャンスを貰ったと思えばラッキーなのかな。さて、とりあえず状況をまとめましょう。
「みんな、集まって。点呼を取るわよ。」
私の号令で全員が集まって点呼を開始した。工場見学の活動班ごとに集まって人数を確認して貰い、班長が私に報告してくれる。化学科37人、男子16人、女子21人の全員がここにいることが確認できた。
「化学科37人全員いるわ。但し、一緒にいたはずの先生と運転手はいない。どういうことかしら。」
田中一男が手を挙げたので発言を促す。
「勇者候補には年齢制限があったのだと思う。」
「なるほどね。それではこの件はそう思っておきましょう。では勇者の選抜という話についてはどうかしら?」
再び田中一男が答えた。
「クラス全員が異世界に勇者として召喚されるという話を読んだことがあるよ。それは面白かったが、冷静に考えると多過ぎるとは思うな。選抜しようってのは妥当じゃないかと思う。」
「そうかしら?そもそも勇者って何なのかしらね。」
「勇者と言えば魔王。異世界を侵略する魔王を倒すのが勇者の役割であることが多いよ。」
「もしそうだとしたら戦力は多い方がいいのでは無いかしら。私たちだけでなく、もっと大量に兵として連れて行くべきだと思うわ。」
「勇者は反則的に強力なチート能力を貰うことが多いけど、それを与えられる人数に限りがあるから優秀な人を選抜してその人だけに能力を与えたいとかじゃないかな。」
「優秀な人を選抜したいなら選抜対象をもっと増やした方がいいと思うわね。でも、選抜する意味は何かありそうだといことで理解したわ。問題は選別方法ね。まるで私たちに仲違いをさせようとしているような悪意を感じるわ。勇者の人数制限は仕方ないとして、穴に廃棄しろっていうのは酷いわね。まるで悪魔の囁きみたい。私たちはそんなものに惑わされないようにしましょう。」
そう言ってみんなを見渡すと、みんなが口々に同意の声を上げてくれた。このクラス、化学科は少し特殊なクラスだ。工業高校である私たちの学校で唯一女子が男子より多いクラス。そして私、永久エリカを中心としてまとまっており、クラスで活動する時は常に私の指示で動くことが習慣となっている。本来であれば大混乱をきたすような状況に置かれてしまった今も、みんなが私の指示を待ってくれている。だから私が取り乱すわけにはいかないのだ。
「まずはこの部屋を調べましょう。目につく物として、階段と扉に3人、穴に3人、時計に3人、教材は5人ね。残りの人は目には見えない隠し扉などが無いか調べていきましょう。階段は危ないからまだ低い段だけにしておいてね。」
私の指示でみんなが動き出す。私の役割は全体の統括だ。
「あっ、ヒメは私の補佐についてちょうだい。」
「うん!」
有村姫理、通称ヒメが私の隣に並んでくれた。ヒメはとっても可愛いから男女共に人気があって、ヒメが私の隣に居てくれるからこそ、みんなが私についてきてくれるのだと思っている。
みんなが手分けして周囲を調査してくれている。私はヒメと一緒にその様子を見て回った。
階段は2人以上乗ると本当に消える。今までそこにあった石の塊の様なステップが、2人以上乗ると一瞬で消失した。まるで魔法のようだ。いや、魔法なのだろう。調査してくれているみんなには消える条件の確認と、階段が消えない方法が無いか試すように指示した。ステップに立たずにぶら下がったり、逆立ちしてみたりと色々試してくれている。
穴の調査は直ぐに終わった。穴の中は何も見えず、とてつもなく深いことだけが分かった。一応崩落の危険が無いか調べてもらうことにした。
時計は極めて異質な物だということだけが分かった。男子が柱をよじ登って調べてくれたのだが、時計にはネジの類や継ぎ目が一切見られないのだそうだ。そして異常に強度が高い。機能としては私たちの知る時計と同じだと思われるが、製造方法が想像できない、工業高校生としては何とも気持ちの悪い調査結果となった。
教材は家庭用ゲーム機の様な物で、RPG風のゲームができるそうだ。オープニングから勇者という単語が出てきて、教材というだけあって私たちが知りたい情報が得られる物のようだった。この教材を信じるのであれば、勇者は魔王を倒すために旅に出る必要があるらしい。教材の調査を担当していた田中が自分の予想が当ったとドヤ顔していて気持ち悪かった。
それからゲームを進めていくとゲーム内でカードを取得でき、それをゲーム機から取り出せることが分かった。更に、隠し扉などを調査していた人たちが時計の裏にカードを挿入できる場所を見つけてくれた。そこにゲームから取り出したカードを挿入すると隠し部屋が出てきた。でもそれは脱出できるようなものではなく、カードに描かれた物を入手することができる自動販売機の様なものだった。
一旦みんなに集まって貰って調査結果を共有する。
「・・・以上が調査結果です。後は階段を上って扉の先を調べるか、ゲームを進めることで何か有用な情報が得られないか調べるというところね。何か意見はあるかしら?」
斉藤真紀が挙手して発言する。
「勇者は教材でよく学習するようにと言っていたので、まずはゲームの方で学習するべきだと思う。」
「そうね。階段を上った先がどうなっているか分からないから、私も可能な限り情報を集めてから望むべきだと思うわ。それじゃあゲームをみんなで進めましょう。みんなもそれでいい?」
みんなの同意が得られてみんなでゲームを進めることにした。先に調査に入っていた5人から説明を受けながらゲーム内の世界について学習をしていく。
この世界はあらゆる物がカードにできる世界だった。人々は誰でもカード魔法が使える。カード魔法は全部で5種類。
デッキイン・・・カードをデッキに仕舞う。実体化している物もカードとなって仕舞われる。
デッキアウト・・・カードをデッキから取り出す。
リアライズ・・・カードを実体化する。
イクイップ・・・カードを実体化し、装備する。
トレード・・・他者とカードの所有権を交換する。
デッキというのは一人一人が持っているカード保有空間だそうだ。一人50枚まではデッキという空間にカードを仕舞うことができる。但し、カードの所有権が自分の名前になっていないと駄目らしい。
ゲーム機からカードを取り出す操作はデッキアウトを擬似的に再現したものだろう。そして、先ほどの自動販売機の様な隠し部屋は、リアライズを擬似的に再現したものだということが分かる。どうやらここはまだゲーム内の世界では内容だ。
しばらく全員でゲームを見ていたが、問題が発生した。色々と生理現象を訴える人が出てきたのだ。
「カードで飲み物や食べ物を入手しましょう。その他にも色々と必要ね。」
「パン屋があったぞ。肉屋もあるけど、生肉は困るよな。」
「パンの方が良いわね。買いましょう。どれくらい買える?」
「装備を買ったりしたから持ち金が心許ない、最初に貰った支度金が100万円だったから、最初からやりなおせばかなり買えると思う。」
「じゃあまだゲームを始めていない人と替わって。ゲームを進めている人のお金が無くなのは困るから、ゲームは今後、攻略班と資材調達班に分かれて進めましょう。今ゲームを進めていた人は全員が攻略班よ。ゲームは一旦全台交替ね。」
私の指示でゲームをする人が交替する。そして代わってゲームを始めた人達が町を探索して有用な資材が買える店を探していく。
「水が売っている。酒もあるな。」
「生水は大丈夫かしら?でも試すしかないわね。買って。酒は却下よ。」
「毛布買っていい?石の上に座っているのが辛くて。」
「OK。全員分買って。」
「家丸ごとや壁とかも売っているぞ。家丸ごとは金額的に無理だけど、壁なら買える。」
「壁はどうやって出てくるのかしら。とりあえず一つ試してみましょう。」
壁のカードは本当に壁が出てきた。重くて大変だったけど、みんなで協力して運び、部屋を仕切っていった。他にも色々と購入して設備を充実させていった。
食事はあまり美味しくないパンとお湯だけと寂しいものだったけど、とりあえずお腹は膨れた。生水はやっぱり不安だったので湯沸し道具を買ってお湯にしてから飲んだ。異世界の水がそれで十分なのかはよく分からないけれど、何もしないよりはマシだと思う。でもここでの生活を長期間は耐えられない。早くここを抜け出す方法を考えるべきね。
私がここを抜け出す方法を考えていると、ヒメが小声で話しかけてきた。
「エリカちゃん。私、お腹が痛くなっちゃった。」
「えっ?大丈夫?やっぱり水が駄目だったのかしら。」
「ううん。多分石の上に座っていたせいだと思う。冷えちゃって。トイレに行きたい感じなの。」
「その、大きい方?」
「うん。」
「困ったわね。壁で仕切って簡易トイレは作ったけど、音とか臭いとか、色々恥ずかしいよね。」
「恥ずかしいけど、みんな何時かはしないとだし、仕方ないよね。」
「駄目よ。ヒメにそんな恥ずかしい思いさせられない。もう少しだけ耐えられる?緊急事態だからヒメだけ上に上がってみたらどうかな?外にならトイレがあるかもしれないし、無くてもみんなの前よりはいいよね。」
「まだ耐えられるけど、私だけ外に出るなんて悪いよ。」
「大丈夫よ。待ってて。」
緊急事態だ。ヒメは絶対に私が守る。そうと決めたら行動開始よ。
「みんな聞いて!教材で少しは勇者について学習できたし、もう日が変わるまで時間が無くなってきたから、いよいよあの扉から誰かを外に向かわせましょう。但し、推測では外に出た人だけが生き残れて、他の人はそこで終了の可能性があるわ。だから私は、一人目にはみんながこの人には生き残って欲しいと思う人を選ぶべきだと思うの。これからみんなで生き残って欲しい人を選んで、その人に上に上がって貰う。いいかしら?」
みんなが私の発言を聞いて議論を開始した。
「いいんじゃないかな?みんな一度は死んでいるみたいだし、好きな人を生き返らせることができるなら本望だよね。」
「最後の一人となると揉めるだろうけど、最初の一人くらいは清清しく送り出してやろうぜ。」
「でも一人目は危険じゃないかしら?」
「いや、異世界に行ってからのこともある。早いほど強力な能力を与えられる可能性が高いし、一人目がやっぱり有利だろう。」
「勇者は一人って話し出しな。」
「いいんじゃないか。」
あっという間に大勢は決まった。私の狙い通りにこの人はという人を一人選んで送り出すことになった。
「それじゃあ、誰にするかだけれど、推薦で。みんなが納得する人を送り出すから自薦は駄目ね。早速だけど私はヒメを推すわ。」
「ああ、俺も。」
「じゃあ私も。」
次々の手が挙がる。ヒメはみんなから愛されている化学科のアイドル的存在だから当然ね。
「もう半数超えちゃったし、ヒメでいいよね。それじゃあヒメ。頑張ってね。」
「えっ、あっ、はい。・・・こんなんでいいんですか?」
「いいのよ。あっ、これ持って行って。」
パンや水、それに幾つかのカードが入った袋をヒメに押し付ける。
「さあ急いで。私は早くあの扉が開くところを見てみたいの。」
それにそろそろ限界でしょうと耳打ちする。
「はいっ。急ぎます。」
ヒメは慌てて階段を上り始めた。みんながヒメに声援を送っている。ヒメは可愛いけど、少し心配なところがあるのよね。ヒメの用事が済んだ頃にヒメを支えてくれる人を送り込まないといけないわ。
ヒメが扉の前まで辿り着いた。
「そうじゃあ開けますね!」
ヒメが上から叫ぶ。
ヒメが扉のノブに手をかける。
ヒメが扉を開いた。
「キャッ。」
ヒメの叫び声。
扉からは強い光が溢れ出し、ヒメが消えた。扉が閉じた。ヒメが、消えた!?
「ヒメが消えた!」
「どういうこと!」
「大丈夫。多分転移しただけだ。」
「転移ってどこに?」
「そりゃ異世界だろ。」
ヒメが消えた。転移?本当にそうなの?ヒメは大丈夫なの?どうする?どうしよう。駄目。動揺はみんなに見せられない。落ち着かないと。
「みんな、まずは落ち着きましょう!」
自分が一番落ち着いていないのに、とりあえず落ち着くようにみんなに言ってみた。私も落ち着かないと。
「状況を整理しましょう。扉の中は強く光っていたわね。あれでは中の様子を外から見ることはできないでしょう。ここの趣旨からするとそれくらいの対策はしているわよね。それから、ヒメが光に包まれて消えたように見えたけれど、あれは扉を潜ったことになるのかしら?みんなはどう思う?」
「大丈夫だと思う。見てくれ。扉の脇に「1」という数字が表示された。あれは通過者のカウントだろう。」
そう言われて改めて扉の方を見ると、確かにさっきまで無かった「1」という表示があった。
「時計の下も「1」に変わったわ。」
本当だ。時計の下の表示も「1」に変わっている。
「光が中を見せないための対策なら、ヒメが消えたのも扉を開けるだけで中には入らないことを防止する対策じゃないかな。」
なるほど。それはありそうね。よかった。ヒナは無事に外に行けたってことよね。
「まとめましょう。ヒメは予定通り勇者に選ばれた。扉の数字は選抜された勇者の人数。時計の下はこの部屋から減った人数。23:59までに一人は減らせたからこれで私たちは今日を越えられる。ということね。明日になったら時計の下の数字だけ「0」に戻っていればほぼ間違いないでしょう。」
みんなが同意して頷く。
「その他の事実確認だけど、扉の向こうの様子は一切確認できなかった。あの男には人を転移させる不思議な力がある。階段は一人なら上りきれる。扉は独りでに閉まる。といったところかしら。」
みんなも落ち着いてきた。ヒメは無事に向こうに渡った。それが私たちの共通見解だ。
「ヒメは無事で、私たちも今日は越えられる。それだけ分かれば十分ね。もう今日は疲れたから寝ましょう。男女に分かれて寝る準備をして。」
私たちは寝る準備をした。テントは張ってあったので、その中に毛布を敷いて雑魚寝。テントの数が足らないので定員オーバーで入っているため一人当たりのスペースはとても狭い。
「おやすみなさい。」
同じテントのメンバーと就寝の挨拶を交わして目を閉じた。周りも静かになっているのでもう寝ているだろう。今日はとても疲れた。でもヒメだけでも送り出せたから満足だ。
疲れているので直ぐ眠れるだろうと思っていたけれど、床が固くて寝心地が悪いせいで寝付けなかった。同じテントの子達は眠ったようだ。他の子を起こさないように注意しながらテントを抜け出す。辺りはまだ明るかった。当たり前か。天井のライトが辺りを照らしている。
みんなテントの中で眠っているのだろう。テントの外には誰もいない。一人になったせいか、ふいにバス事故のことを思い出した。恐かった。色々と体を打ちつけたと思う。でも幸い痛みの記憶は無い。でも死んだのよね。死んだ。死んだのかぁ。泣けてくるわね。
こうしていられるのも奇跡のようなことなのよね。その上、5人だけだけど生き残れる可能性がある。ヒメはもう生き残れることになったと思う。それだけでも良かったかな。そう思ってヒメが消えていった場所を見上げた。
えっ!?嘘!?扉の横の数字が「2」になっている!どういうこと?誰かが抜駆けした?
時計の下の数字は「0」。時計は0:23を示している。日が変わったから「0」になったのね。そうすると、日が変わる前に誰かが抜け駆けしたってことかしら。
あれ!?穴のところにも数字がある。「79」。全く意味が分からないわ。整理しましょう。
時計の下の数字は「0」。これは予想通りこの部屋から減った人数で、毎日リセットされると思っていいわね。
扉の「2」は勇者に選ばれた人の数のはず。でも私たちのクラスで抜駆けするような人がいるとは思えないわ。
それから穴の「79」。これは穴の中に落ちら人の数のはずだけど、私たちのクラスの人数より多い。
総合すると、私たち以外の人が存在することになる。そしてその人達も同じ勇者の選別を受けているってことになるわね。穴の脇の数字が一気に増えたのは、一人も減らせずに23:59を過ぎた部屋があったのかしら。失敗すると即座に全員脱落とは恐ろしいわね。
それにしてもこれは拙いわね。私たちの中だけでの競争なら制御できるけれど、他にも競争相手がいるとなると制御しようが無いわ。みんなを起こして相談するべきね。
「みんな!大変よ!起きて!」
私の声を聞いて何人かがテントから出てきた。そして直ぐに他の人を起こしてくれる。みんなが起きたところで状況を説明する。
「見て。扉の横の数字が2になっているわ。それから、穴のところの数字が41になっている。これはどういうことか分かる人。」
はいと手を上げた山田君に発言を促す。
「僕たち以外にも同じように勇者選抜をしている部屋があったということだと思います。その部屋のうち一つから勇者が選ばれて扉の数字が2に増えたと考えられます。それから、23:59まで一人減らすことができずに全員脱落した部屋があります。それにより穴の数字が79に増えたと考えられます。」
「そうね。私も同じ意見よ。ここで問題が出てくるわ。勇者は私たちの中から5人だと思っていたけれど、そうでは無かった。私たち以外から既に一人選ばれていると考えられるわ。そうなると、見えない人たちと競争する必要があるの。私たちは既にヒメを勇者として送り出したけれど、出来ることなら他にも何人かヒメをサポートする人を送り出したいわ。それをするには、他の部屋の人より先にあの扉を潜る必要がある。ヒメを送り出したことで丸一日の猶予ができたと思っていたけれど、ゆっくりしていられなくなったわ。急いで次に送る人を選びましょう。」
「それならまずエリカさんが行ってください。エリカさんなら俺たち誰も文句言いません。」
「そうだ。」「そうだな。」「エリカさんが行ってください。」
みんなが口々に私に行くように言ってくれる。私は、ヒメのところに行きたい。ヒメ一人にするのは心配だし、他の人にヒメのことを任せたくはない。
「みんな、ありがとう。みんながそう言ってくれるなら私は行くわ。必ずヒメを守る。みんなも直ぐに来てくれると信じているわ。」
みんなは私に大量のカードを持たせてくれた。それを持って私は階段を登った。扉の前に立つと、みんなに声を掛けた。
「みんな、ありがとう。私は何があっても必ずヒメを守る。先に行って待っているから。」
みんなの声援を背中にして扉を開けると、中から眩い光が漏れだして目が眩んだ。そして、私は意識を失った。