一話 〇の終わり
僕は童貞だ。
だけど、ついにそれを卒業する日は無くなったと言っていい。
僕の彼女は今日、植物状態になった。
原因は不明。事故に巻き込まれてもいなければ病気でもない。
幾ら調べてもらってもその原因は解明されない。検査結果は異状なし。
おかしい。
検査結果が異状なしだと? 医者の目は節穴か?
事実として目覚めていない。いくら検査で異状がなくても異常なしとなるわけがない。
いや、だからこその植物状態か。異常があるからこう呼ばれるのか。
もう一度、もう一度確認しよう。
僕の彼女は今日、植物状態と診断された。
数日前から彼女は目覚めなかったらしい。彼女の母親から聞いた。
それは唐突なことだったという。いつもなら大学へ行く準備が終わっているはずの時間に目覚めてこなかった。風邪を引いた様子も無いので珍しく寝坊をしたのだと彼女の母は思ったらしいが同時におかしいとも思ったと言っていた。
僕も彼女の真面目な部分を知っている。試験の日に限って寝坊するなんて考えられない。前日に夜更かしするとは思えない。風邪なんてもっての外だ。
聞いてみても目覚めなくなった前の日の行動におかしなところは無かった。
原因が分からない。
もしかしたら彼女の真面目な性格が祟って重い病気を隠していたのかもしれない。
いいや、無いか。
彼女はその真面目さ故にそんなことをするような人間では……いいや、真っ直ぐさだな。彼女は真っ直ぐだ。気持ちいほどにきれいに芯が一本通っている。
そんなことをして唐突に自分がいなくなったら僕や母親や友達を深く傷付けることを、皆の中に後悔を残してしまう事を分かっている。だから彼女はそんなことはしない。
彼女ならみんなにそのことを伝えて後腐れの無いようにするはずだ。良くも悪くもいい性格をしていると彼氏である僕も思うところだ。
だとして彼女が何かを知っているとしたらこの状況はおかしい。
だが、この可能性を排除したところで彼女が何時こんな状況になった説明がつかない。
どういうことだ?
こんなに考えても意味が無いのことは分かってる。原因が分かったところで彼女が植物状態になったことは変わりない事実だ。それをどうにかできるなんて思ってはいない。
それでも彼女がどうしてこうなったのかくらい僕には知る権利があるのではないか?
こんな質問を思ったところで誰も答えるはずもない。
そんな事は重々承知している。だが、何もなく何かが起こるわけがない。
因果は逆転なんてしない。絶対に何かがある。