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メッセンジャーによろしく  作者: 柴門秀文
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第三章 ゲリラ(GUERRILLA) その3

 細い十字路を右に曲がった。警察車両の回転灯が住宅の壁に赤い光を映している。

 半グレ集団の暴走を牽制するために配置されたパトカーだった。これで首都高速新宿線の高架を過ぎるまで、新たな〝登龍〟の待ち伏せはないと確信できた。

 幅広の通りに出た。ガード・レールで区切られたブロック敷の歩道に、等間隔で街路樹が植えられていた。

 通りの先に、半グレたちの姿は見えない。安心した蒼穹の視界を上から押さえ込むように、新宿パークタワーが聳え立っていた。

 不穏な展開を予感させる光景だった。

〈先回りして不安を感じてどうする。今は、西口に依頼品を届けるのが先決だ〉

 気を取り直して、爪先に力を籠める。自転車(ママチャリ)のタイヤが、ぐいぐいと路面を手繰り寄せていく。

 高回転するチェーンが、乾いた音を立てた。後方から、追い上げてくる自転車の気配がした。スピードを落とさないように気を付けながら、蒼穹は後ろを振り返る。

 雄太の姿が視界に入った。さらにダメージを受けている。

 顔には新たな痣が増えていた。

 トラック・レーサーも、走行安定性を失っている。

 ハンドルの軸が曲がっていた。ふらつく走行ラインを無理矢理に矯正しながら、必死で速度を上げてきた。

「大丈夫なの? 半グレの連中に捕まったのね」

「殴る蹴るの暴行には、残念ながら、もう慣れたね。最後のトドメだけは避けているような気がするし」

 無理に自嘲して雄太が声を震わした。悔し涙が滲んでいた。

 弱い男は見たくなかった。蒼穹は前を向き直し、スピードを上げる。

 前方を見据えたままで、追い掛けてくる雄太に話を続けた。

「酷い状態だけど、とにかく逃げられて、よかったわ」

「囲まれてボコされているところに、権堂と銀次が現れたんだ。例によって〝登龍〟の連中を痛めつけて、恩着せがましく僕を解放したよ」

 また、ヤクザの二人組だ。蒼穹は思わず眉根を寄せた。

「何なの、権堂と銀次(あいつら)は。私には、何かを企んでいるようにしか見えないんだけど」

「組織を根こそぎ変えようとする弟に対抗して、剛劉会の幹部たちが形だけでも僕に跡目を継がせようとしているからね。念のため、適当に恩を売っているだけさ」

 蒼穹は首を傾げた。どうにも納得できない。

〈そんな単純な理由だけなのか?〉

 恩を売るなら、雄太の顔がここまで腫れる前に助けるべきだ。

「なんか中途半端よね。本気で助ける気はないように思えるけど」

「襲名後に自分たちが実権を握れるように、僕に非力さを実感させているんだ。同時に、弟がバック・ボーンにしている〝登龍〟の連中を潰すための大義名分を求めているのさ」

〈この男子()は利用されているだけなのか〉

 蒼穹は雄太に同情した。だからと言って、何かをしてあげるつもりはない。男なのだから、自分の問題は自分で解決するべきだ。

 返事をせずに、蒼穹はサドルから腰を外してスピードを上げた。不必要な感情を振り切るために、雄太の自転車を引き離す。

 必死で追い上げながら、雄太が蒼穹に訊いてくる。

「あんたは、どうした? 〝登龍〟の待ち伏せは、なかったのか?」

「二人組に襲われたわよ。こっちは女一人なのに、サバイバル・ナイフとナックル・ダスターを振り回して追いかけてきたわ」

 ペダルを緩めて、雄太が蒼穹の顔を見た。

「振り切って逃げたのか?」

「もちろん戦ったわよ。不意を突いて、叩きのめしてやった。あんな奴らに、負けてなんかいられないもの」

 雄太が呆れた表情を見せた。

「あり得ないな。半グレ相手に一人勝ちなんて」

「護身用にクラヴ・マガを習った経験があるの。実戦は初めてだけどね」

 視線を前方に移して、雄太が蒼穹を追い越した。

「女戦士か、ヴァルキューレのつもりかよ」と吐き捨てるように雄太が口にした。

「別に自慢しようなんて思ってはいないわ」

 生意気な雄太の言葉に苛立った。弱虫が偉そうに、どの面下げて蒼穹に向かって説教を垂れるつもりだ。

「勝てた理由は幸運(ラッキー)だったからだ。甘く見ないほうがいい。次も上手くいくとは限らないからな。〝登龍〟も〝剛劉会〟も、素人のあんたが想像もつかないほど深く、闇社会に根付いた組織だ。イスラエル軍の格闘術だか何だか知らないけれども、所詮は独り善がりに過ぎないんだからな」

 面白くなかった。雄太に説教されなくても、二度目からは簡単に通用しないと知っている。女だからと相手が油断したからこその勝利だった。

 だからと言って、戦わないで済む状況ではない。

〈自分の身を守るためよ。逃避して前に進まずにいたら、泣き寝入りするしかなくなるもの〉

 一方的に甚振(いたぶ)られているだけのへなちょこに、偉そうに説教されたくはない。

 雄太から視線を逸らし、顔を上げた。ムキになって、クランクを回す足に力を籠めた。

 新宿方面に続く首都高速のランプが、見上げるまでに迫っていた。頭上に聳える新宿パークタワーの巨大な姿が、通りを威圧するように存在感を増していく。

 雄太の言葉通り、蒼穹が立ち向かっている組織は、首都東京(このまち)を動かすほど強大な力を持っていた。巨大な組織と比べると、蒼穹の存在は孤立した、ちっぽけな蟻のようなものだ。

 組織の大きさ以上に、ちっぽけな蟻(ソラ)を不安に駆り立てる要因には、首謀者の不透明性があった。中心人物である〝グロースター〟の人物像が、蒼穹には未だに見えていない。

 蒼穹や雄太を意のままに動かして、〝グロースター〟は何を目論んでいるのか?

〈このままでは、ただ利用されるばかりだ。何も解決できないままで終わるかも知れない〉

 常に前向きな蒼穹にしては、珍しくネガティブな思考に落ち込んでいた。

〈だめよ、自分の道を信じなくっちゃ。必ず解決の糸口は見えてくるはずだから〉

 新宿パークタワーの手前を右折して甲州街道に入った。都庁前に向けて道を替えるために左車線に入る。後ろを走る雄太から、声が掛かった。

「僕は歩道を走れないから、南口から回って西口に行くからな」

 トラック・レーサーの細いタイヤに段差は禁物だ。十ミリ程度の段差でも下手に乗り越えると、パンクやスポーク切れの原因になりやすい。

「分かったわ。最初の約束通り、新宿駅西口で合流しましょう。私が先に〝地下通路〟に行くから、せいぜい頑張ってね」

 凛華から聴いた〝反戦フォーク・ゲリラ事件〟の話を思い出した。五十年近く前に路上ライブに機動隊が突入して、催涙弾や武装した暴力で、集まった聴衆が排除された。

〈主張するために集まって歌い、耳を傾ける行為が、どうしていけないのか。ゲリラ戦術と同等に扱われて、どうして目の敵にされなければいけなかったのか?〉

 結局は、勢力争いだ。政府、国家といえども一過性の勢力の一つに過ぎない。

 意見の違う主張は、確立された権力の構造を足元から崩しかねない。フランス革命では、主張する小さな声が集まり、共感する大きな市民運動(ムーブメント)になった。

 反戦フォーク・ゲリラも、思わぬ共振をして国家権力を揺るがす脅威となった。だから、集まった歌い手と聴き手が、纏めて排除された。

 武力したゲリラより、非武装の主張(ゲリラ)のほうが、脅威が大きかった。事件の記録は、傷だらけにせよ、偉大な勲章だと蒼穹は思う。

 西新宿三丁目の交差点を左に折れて、中央公園方面に向かった。雄太のトラック・レーサーが、直進して別れて行く。

 歴史の現場に近付くに連れて、蒼穹は興奮が高まった。

 ゴシック建築を模した、威圧的な都庁の庁舎の脇を走り抜けた。〝グロースター〟の印象から、蒼穹は見たこともないロンドン塔を想像した。

 無線で蒼穹は〝ママ〟に話した。

『〝グロースター〟も、マジで意識しているかもね――』速攻で答えが戻ってきた。『――だって、建築された当時は〝バブルの塔〟と揶揄されたそうよ』

〈はたして、子細な場所の一つ一つにも意識を配りながら、グロースターは目的場所を決めているのだろうか〉と蒼穹は疑った。買被り過ぎの印象もあった。

 単純に〝G尽くし〟を展開させているだけとも考えられる。

 今までの展開を思い起こしてみた。神や国家などの強大な勢力に立ち向かう、弱い立場の人間を追求しているように思えた。

 手懸りにシェークスピアや聖書を準える点から見ると、〝グロースター〟は知識人の可能性が高い。

 公園に沿った街路樹を横目に見ながら車線を替えた。右折ゾーンに自転車(ママチャリ)を進める。新宿公園前の交差点を、西口方面に向かって曲がった。

 対向車線を直進する軽ワゴン車が、アクセル全開で迫っていた。鼻先を掠めて、蒼穹は軽ワゴン車を擦り抜けた。

 軽ワゴンを追い上げていたダッジ・ラムが、激しくパッシングした。エア・ホーンが騒々しく交差点内に響く。

 目を吊り上げた運転手の顔を想像しながら、蒼穹は「まったく、(うるさ)いわよ」と憎まれ口を叩く。

〝登龍〟との小競り合いのために、依頼された時刻までに余裕がなくなっていた。心配戴かなくとも、事故らないタイミングは充分に心得ている。

 ニューヨークなら、野牛(バッファロー)のような車が自転車(こちら)に構わず突っ込んでくる。比較すれば、抗議するだけの東京の運転手(ドライバー)は、驚くほど大人しくて紳士的だ。

 蒼穹はスピードを上げた。張り出した歩道と中央分離帯に挟まれた車道が、急に狭くなった。路上駐車するタクシーやトラックで左車線が塞がれている。

 左車線を避けて、蒼穹は中央の車線を走った。

 陸橋の桁に、新宿西口地下駐車場に向かうトンネルの表示があった。

 住友三角ビル前の広場を過ぎて、次の陸橋を潜る。車道から歩道を隔絶するガード・レールが、横断歩道のために開いていた。

 青信号を待つ歩行者の隙間を縫って、蒼穹は歩道に自転車を乗り上げた。

 歩行者の間を擦り抜けて、蒼穹はガード下のトンネル通路に入った。

 車道を分離する壁を意識しながら、蒼穹は地下の歩道を突っ走る。

 動く歩道と一般の歩道を、等間隔に並んだ柱が隔てていた。勢いをつけて、天上の照明が次々と後方に吹き飛んでいく。

 歩行者との接触を避けるために、右に左にと走行ラインを変えた。自転車侵入禁止の看板が壁に貼り付けられていた。注意しようとガードマンが飛び出してくる。

 蒼穹はサドルから腰を浮かした。

 フル回転でスピードを上げて、ガードマンを切り抜ける。

「ごめんなさい。いまは急いでいるの」

 聞こえない状況を承知で、蒼穹はガードマンに謝った。

〈凛華は、まだ来ないかしら〉

 耳を澄ましたが、街宣車が流す軍歌は聞こえなかった。

 車を降り、自転車を走らせて、正解だった。なまじっか遠慮して街宣車に乗っていたら、依頼された時刻には、とうてい間に合わなかったはずだ。

〈雄太は、どこまで来ているかしら?〉

〝登龍〟に阻止されていなければ、ほぼ同時に到着するはずだった。

 蒼穹の選択したルートは、人混みが多くて、目立つ。おかげで〝登龍〟の待ち伏せはなかった。

 パトカーの姿も疎らだった。警戒していないのではなくて、気付かれないように人混みに紛れて警察官が潜伏しているのだろう。

 薄い闇の中に、複数の鋭い視線を感じた。

 蒼穹は、地下通路を突き進んだ。天空庭園で受け取った写真のような、熱気に溢れた群衆の姿は、地下通路のどこにも見当たらない。

 新宿駅に向かって行き来する人たちは、誰もが口を閉じて俯いていた。必要以上に他者と交わろうとしない。かつて路上を支配した共同意識は、嘘のように姿を消している。

 ビルの壁に、巨大な目のオブジェが造り込まれていた。

 巨大な目は、かつて、この場所で起きた〝反戦フォーク・ゲリラ事件〟を目撃した。

 歴史を感じさせる、奇抜なデザインだ。

 狭くて薄暗い地下通路を、さらに進んだ。

 道幅が急に開けた。天井が低く、どこまでも続いていた。

 はるか遠くまで、立ち並ぶ無数の柱が天井を支えていた。確かに〝広場〟と呼ぶのに相応しい空間だ。

 天井から頭を押さえ込むように、黄色い文字の案内板がぶら下がっている。詳細に書かれた行き先が、執拗に、この空間が〝通路である〟〝通路である〟と主張する。

 メッセンジャー・バッグから依頼品の封筒を取り出した。蒼穹は写真を現実の光景と照らし合わせる。目の前に広がる空間は、写真と同一場所の印象だ。

 だが、どこかが違う。

 通り過ぎる休日の人出は、地下広場を埋め尽くすまでに(ひし)めいている。柱の配置も奥行きも同じだ。だが、現在の地下通路からは、群衆を惹き付ける情熱が失われていた。

 路上に座り込み、歌声に合わせて肩を揺らす群衆の姿は、見渡す限りどこにもいない。

 そもそも、音楽自体が存在していなかった。

 通行人は口を固く閉ざし、むやみに立ち止まろうとはしない。禁じられるままに、本来の自分を殻に閉じ込め、何も主張せずに、足早に立ち去るばかりだ。

 孤独な空間だった。雑踏の真っ只中にいるのに、蒼穹は独りきりだった。

 広場の端に自転車を駐めた。依頼品を探して歩き出すと、さらに孤独感が増した。

 地下通路は、歩く人の流れで溢れていた。器用に間合いを取りながら、触れ合うことを避ける人たちが、それぞれ思い思いの方向から訪れては、去っていく。

 狭い通路で視線を感じた薄い闇は、蛍光灯の白い光に照らされて消えていた。白く飛んだ地下広場の光景は、かえって他人との繋がりを希薄にした。

〈例えば、私が今、西口地下広場(このばしょ)で刺殺されたとしたら、果たしてどれだけの人が気付くのか?〉ふと蒼穹は考えた。

 騒ぎが大きくなるまで、自分を救ってくれる人は、誰も現れない気がする。

 気のせいか、モバイル・フォンを顔に近付けて蒼穹の姿を撮影する人が増えた。

『動画サイトにソラの雄姿がアップされている』と告げた周東の言葉が記憶に蘇った。

〈現実では誰も接触しようとしないのに、インターネット上の仮想空間では、私の行動を熟知する人達がいる〉

 不思議な感じだった。現実の蒼穹が今ここで刺殺されたら、仮想の現実を認識する人たちが、覗き見た不条理に憤る言葉を、一斉に匿名で投稿する。

 炎上する情報の中に、現実の蒼穹はいない。

 マスコミと異なり〝十九歳の女性〟ではなく、インターネット上では〝青木蒼穹〟と本名が流布される。だが、アップされる名前の中にも、現実の蒼穹は存在しない。

 記号としての名前である〝青木蒼穹〟と、蒼穹自身の心情と無関係にデフォルメされた悲惨極まりない事件の内容が、無関係な第三者の意見に対する揶揄と非難の槍玉に揚げられるのだ。

〈もしかして、犯人は自分の声で、何かを話したがっているの?〉ふと、蒼穹は思った。

 バベルの塔も、反戦フォーク・ゲリラも、集団化した大衆の言葉を封じるために強大な権力が使われた例だ。

 グロースターの指示に従って現実の場所を訪れる展開は、最終的には犯人との現実的な対面なくして帰結しないと思われた。

 無言で行き交う群衆の中に、蒼穹は犯人の姿を探した。

 無機質な地下広場の中に、ふと心を動かす特別な光景があった。

 柱を背にして無言で立つ、老婦人の姿だった。胸の前に掲げたプラカードには『戦争で息子たちを殺すな!』の文字が太書きされていた。

「〝反戦スタンディング〟と名付けられた意思表示の行動だよ。かつてフォーク・ゲリラと呼ばれた人たちが、時間を決めて行っているんだ」

 後ろから走って、雄太が追い掛けてきた。

「よく知っているわね。私たちが生まれるずっと前の出来事なのに」

「社会運動に詳しい知り合いがいるんだ。今回の事件についても何かとアドバイスを貰っている」

 雄太と話しながら〝反戦スタンディング〟の前を通り過ぎた。

 本当はプラカードを掲げた婦人に言葉を掛けるべきだった。結局は、蒼穹も〝ただの通行人〟の一人だ。後ろめたさを誤魔化すために、蒼穹は無線機の〝ママ〟に話し掛けた。

「どこを探せばいいのかな? ねえ、〝ママ〟何か新しい依頼は入っていないの?」

『天空庭園以降に新しい依頼事項は届いていないわよ。近くに何かメッセージは置かれていないの? 場所を指定した以上は、必ず、受け取り先か、次の依頼があるはずだわよね』

 モバイル・フォンに届いたメールを探していると、背後で雄太が周囲を見回していた。

 控えめに、雄太が蒼穹の肩を叩いた。

「青葉がいた。地下駐車場の方向に移動している」

 大きめの迷彩シャツを羽織った青葉の背中が、雑踏の中を抜けていく。華奢な身体つきの、雄太に似た若い男が手を引いていた。後姿だけで顔は見えない。

「追い駆けるわよ。犯人は何かを伝えたいはずだわ」

 雄太と競い合うように、蒼穹は走った。青葉がいた場所に雄太が何かを見つけた。

「写真が置かれている。柱の下だ。メッセージを残しているんだ」

「わかったわ。あなたはメッセージを持ってきて。私は見逃さないように、二人を追い掛けるから」

 不安なイメージが蒼穹の脳裏に蘇った。蒼穹が刺殺される仮想の光景だった。

 駐車場に向かう階段を駆け降りた。

 地下駐車場の薄暗い照明が、蒼穹の不安を倍増させた。蒼穹は近くを見回した。人影はなかった。

 意地悪な現実が不安を具現化した。

 駐車場に駐められた黒いミニ・バンの陰から、暴力的な風貌の男たちが姿を現した。

 迷彩ペイントを施した男や、薄笑いのマスクを被った男たちがいた。それぞれ、手に手に金属バットやテーピングした木刀を持っていた。

 逃げるわけには、いかなかった。もう不意打ちは通用しない。

〈負けないわ。必ず青葉を取り戻してやる〉

 男たちを睨みながら、蒼穹は足を速めていった。


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