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砂と水  作者: Naduoja
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魔女と少女の一生涯

 夢を見る。

 ただ1人私を理解してくれた人。ただ1人気持ちを打ち明けられた人。ただ1人の、私の、家族だった人。その人に手を伸ばそうとして、結局届かなかった私を、私は見ている。


「っつ・・・」

 瞼にかぶさった腕をどける。つめたい風が肌を撫でた。昨日の夜は窓を閉め忘れたかもしれなかった。

「ったく・・・」

 悪態をつきながらベッドの上で寝返った。金色の長髪がふわっと浮かび上がり、すぐにシーツの上に静まった。やがてベッドがザザザと音を立てて崩れ、

「うわっ」

ドサっと干し草と一緒に彼女は床の上に転がった。


 いつも通り布一枚を裸体の上に羽織る。床一面に広がった髪を、髪留めではさみ縮める。外の井戸に水を汲みに行き、馬に水とエサを与える。戻ったら石で暖炉に火をつけ、鍋で昨日の残りを煮る。棚からパンを取り出し、木皿ごとテーブルに置く。固いパンにももうすっかり慣れてしまった。

 煮るまでの間、暖炉の火で燭台を灯し、アローの様子を見に行く。床に転がっていないといいけど。幸いにも床に転がってはいなかったが、今にも草が崩れそうになっている。

 スープを盛りつけ、果物も用意する。食卓が出来上がってくると同時に、アローが目をこすりながら仕切りの向こうから現れた。

「おはよう、エアリエ」

「あはよう、アロー。顔洗ってきな」

うん、とうなずくいて水がめまで走っていくアロー。オレンジ色の髪がグシャグシャだ。


 食事の準備が出来た小さな机を2人で挟み、アローが祈りをささげる。

「神よ、この世界のすべてを形作ったあなたの慈しみに感謝し、食事をいただきます。ここに用意された我らと我らの食物を祝福し、来るべき時まで私達の心と身体をお導きください」

 両手を合わせ、強く握りこみながら少女は祈る。

「神様なんていないけどな」

「もう!いつもそう言うじゃない。エアリエは」

いたずら顔でお祈りにちょっかいを出す彼女と、それに怒る少女はもはや食事前のイベントとなっていた。


「今日も仕事?」

「そうだな。また婆さんのとこに寄ってからな」

アローはパンをスープに浸してバクっと噛みつく。

「ベット後で直しておけよ」

フガフガと返事があった。

 少女を柔らかく見守りながら、エアリエもパンを口に運ぶ。食事が必要ない行為だとしても、少女と共有できる機会は多い方がいい。


 食後の祈りを終えたのち、皿をすすぎ、食卓を片付ける。アローはベッドを整えるよりも前に、馬小屋まで走っていった。エアリエは寝床へ戻り、草とシーツを戻した。窓を開け、木漏れ日を招き入れる。日を浴びながら、彼女は呪文をつぶやいた。

「清めよ」

一瞬で彼女の体は清められた。井戸の水で体をきれいにしてもいいのだが、冷たくて苦手なのだ。

「私もー」

「ダメ。井戸!」

「ヤダー!」

アローにも清めの魔法を使うかどうかは、気分次第だ。結局折れて今日は使ってやった。


「出かけるぞー」

 白いタイトなワンピースにくすんだ桃色の前掛けを身につける。結った髪の毛を頭巾の下に隠し、アームカバーを付ける。

「置いてくぞー」

「待ってーえ」

着替えが終わると外に出て、幌と馬を準備する。アローはまだ家の中だ。ベット直しに手間取ってるのか、着替えが遅いのか。

 軽く息を切らしながらアローが走ってきた。エアリエの身長の3分の2ぐらいしかない12歳の少女の格好も、前掛けが緑色であること以外はエアリエと変わりはない。

「じゃあ行こっか、ホニー」

ホニーとは馬の名前だ。いくつかの瓶や樽が詰まれた幌にアローが乗り込み、エアリエが馬を操る。


「おばさん今日は何くれるかな」

「ハチミツだといいな。最近食べてないし」

鬱蒼とした木々の間の道をゆっくりとたどりながら進んでいく。

「お芝居見に行ってもいい?」

「そこそこ売れたらね。寄りたいとこもあるからその後」

「えー」

談笑が木々に吸い込まれていく。

 彼女たちが目指すのは、境に住む魔女。不可思議な呪文を使い、人々をたぶらかす異端者。怪しい食物や草を売り歩くみすぼらしい老婆。その女性の手伝いをすることがエアリエとアローの日課だ。彼女にエアリエが世話になって5年、アローが世話になって2年が過ぎていた。

 

 

 


 

 

 






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