平凡な日常と夢花火
1万文字以内のショートストーリーになります。
構成分は主人公視点。
軽い言葉遣いが苦手な方は閲覧を御遠慮下さい
「で?まだ着かないのかよ」
俺に対して生意気な言葉遣いをする男子高校生。
彼はトウヤ。この不良グループのガキ共のリーダーに当たる人間だ。
割と長めの黒髪。一見優等生に見えるが、ピアスに指輪、話し方ですぐに不良であることがバレてしまう。
「良いから黙って歩け。」
そんな彼に対して強い口調で答えると、俺はまた前を向いて歩き出す。
「ねー、もう疲れたよー!」
「ホントホント!化粧も崩れてるしもう最悪…」
ブツブツ文句を言いながら歩く、仲良さげな2人組はカレンとアイナ。
カレンはセミロングの黒い髪の毛がとても良く似合っている。程よく鍛えられた細身に切れ長でぱっちりとした瞳からは黒猫の様なイメージを彷彿させる。
対してアイナは動物に例えると犬のような子だ。カレンにいつも付きまとっており、何となく尻尾が生えているように見えるほど、感情がわかりやすく手に取れる。
女の子らしく少しプニっとしていそうな身体。それでいて太っているようには見えないのは、恐らく美しいラインのクビレのおかげだろう。
「お前らなぁ…まだ歩き始めたばかりだろ。もうちょい頑張ったら、好きなだけ休んでいいから。あとアイナ、鏡ないのに化粧が崩れてるのはどうやって確認したんだ」
我ながら良い反論をした。
と思ったが、いとも容易く論破されてしまった。
「先生、スマホスマホ〜。インカメラで自分の顔くらい確認出来るから!」
なるほど。若い子は本当にスマホ一つで何でもやってのけてしまう。
とはいえ俺もまだ30歳にはなっておらず、世間からみたらまだまだ若造ではある。
しかしながら、こういった文明の利器は10歳近く離れただけでそうとう使い方に差が出てくる。
「ナオ。そんなに離れて歩くな、迷子になるぞ」
ナオは一言も話さず、俺達より数メートル離れて歩いていた。
不良グループとは言ったものの、ナオはこの他の不良達とは普段一緒に行動していない。
目つきが悪く、口も悪い。
だが、決して憎めない。
そんなナオを今回連れてきたのは、こいつらと仲良くなって欲しかったから。
誰でも良かったんだが、同じようなタイプの方が友達になりやすいかと思って。
まぁ、実は他にも理由はあるんだが。
「はぁ…だる。迷子になんてならないから、ほっといてくんない?」
我ながら、よく連れ出せたなこの子。
コミュニケーションが取りづら過ぎて毎度手を焼いている。
「先生ー!!腹減ったよー!?」
「ハルアキ…そのへんにキノコ生えてるだろ?それでも食べてなさい。大丈夫、お前なら何食べても生きていけるさ」
「ちょ…ちょっと先生!!ダメですよ!生徒にそんなもの食べさせちゃ!!」
いつもお腹を空かせている彼は、太っている。と、思わせて実際は全く太っていない。どちらかと言うとかなり痩せている。
だが185を超える身長のせいで、常に何かを食べてても違和感はない。
あと雑な坊主頭だ。
自分で切ってるのか?
ちなみに俺を注意したこちらの麗しい美女は、副担任のエミコ先生。
ボブが良くお似合いで、最高のキューティクルをもった髪の毛は天使の輪を作り出し、俺の心を惑わせる。
2個年下の彼女はきっと俺の運命の人に違いない。うん、そうに違いない。
「…先生??」
「ん?ああ、すみません。どうされました?」
「あ、あのヨコタ先生が後ろの方で先生のこと呼んでます」
ヨコタ先生なんてどうでもいいから俺はあなたと二人で映画を観に行きたいです。
エミコ先生。
と思いつつも真面目な俺は、後ろでハァハァいってる顔のデカイオッサンに近づいていく。
「ヨコタ先生?大丈夫ですか?」
「せ、先生。どうでしょう、生徒もそろそろ疲れたでしょうし、ここらで休憩しては…」
生徒を理由にして休みたいだけだろ。痩せろデブ。
と思いつつも真面目な俺は彼に冷たいスポーツドリンクを渡して優しく返事をする。
なぜならエミコ先生が心配そうにこちらを振り返っているから。
可愛い。抱きしめたい
「ヨコタ先生、もう少しなんです。きっと後悔はさせませんから、生徒の手前、気合入れて頑張って欲しいです。エミコ先生も見てますし」
「え、エミコ先生??そ、そうですな!頑張らねば!エミコ先生ー!!大丈夫です!私!頑張れますよー!!」
このオッサン、二秒で分かるほどエミコ先生の事が好きだ。
だからこそ、俺はこのオッサンがあまり好きではないのだが。
とはいえ、エミコ先生は学園のアイドルだから仕方ない。
彼女も彼女で、鈍感過ぎて全くそんなことには気付いておらず、誰に対しても平等に接する。そんなところがまた素敵。
今すぐ二人で飲みに行きたい。
「その意気です、ヨコタ先生。」
俺は駆け足でエミコ先生の横に戻る。
そういえば説明してなかったけど、俺達は今、夜の時間帯に山を登っている。
学園の修学旅行中なのだが、俺が全然旅行を楽しんでないであろう不良グループに素敵な思い出を作ってやろうと思って不良5人を連れ出した。
もちろんエミコ先生には不良達に声をかける前に声をかけた。
1人だと5人の不良を全員相手するのは難しいからね。決してやましい気持ちはない。
ちなみにオッサンは誘ってないけど
「せ、先生!エミコ先生からお話伺いましたぞ!まさに教師の鏡!ぜひ私もお供させて下さい!」
とか何とか言いつつ、勝手についてきた。
きびだんご貰った動物並に簡単についてくるこのオッサン。
ここでいう彼のきびだんごはエミコ先生にあたる。
本物のきびだんごやるから帰ってくれないかなって思った。
そんなことはさておき、そろそろ本当に目的地につく。
横にいるエミコ先生の顔を見ると、少し疲れが見える。額にうっすらかいた汗がキラキラ輝いてまるで夜空に浮かぶ星々のようだねって言いたかったけど流石に引かれそうなので心の中だけでツイートした。
後ろを振り返ると、ハルアキが2リットルペットボトルに入った水を浴びるように飲んでた。というか浴びてた。
身長が高いために水が跳ねまくり、水しぶきを受けたトウヤがハルアキをドロップキックで蹴り飛ばした。
ハルアキもよく跳ねる素材で出来ている。
多分どこか怪我したと思うけど、めんどくさいからスルーした。
アイナは跳ねるハルアキを見て腹筋を崩壊させてたが、カレンは何処から用意したのかアイスを食べてた。
本当にどこで用意したんだそれ。
よく溶けなかったな。
と、ここで気づいた。
ナオがいない。
ああ!もう、やっぱりこうなった。
俺はエミコ先生に先頭をお願いし、来た道を走って戻る。
あれだけ迷子になるなって言ったのにこれかよ…!
と怒りなのか焦りなのかはわからないが、とにかく少し興奮しながら探すことになった。
ナオは意外とすぐ見つかった。
俺がオッサンに話しかけてるスキに近くの木に寄りかかって休憩していたらしい。
「ナオ!あれほど迷子に…いや、いい。大丈夫か?体調悪いか?」
ナオは首を横に振る
「いや。悪くないよ。」
「そうか、じゃあしっかりとついてこ…」
「もういいよ、先生」
言葉を遮ってナオがため息まじりに話し始めた。
「先生、私達が皆と仲良くなれてないから誘ってくれたんでしょ?正直嬉しかったよ。修学旅行も来たはいいけど友達いないから全然楽しくなかったし。先生が夜に抜け出そうって言った時はまるで冒険に行くみたいでワクワクした」
でも、とナオは続ける。
「私さ、別に良いんだ。友達なんていなくて。先生から見たらあいつらと同じ不良かも知れないけど、私は空気が読めないから。せっかくあいつら楽しそうにしてるのに空気ぶち壊しちゃうよ」
だからさ、とナオは続けようとしたが俺はナオの手を持って引っ張りあげた。
「せ、先生…??」
少し怯えているのか、すんなり立ち上がり、俺に手を引っ張られながら目的地に向かって歩き出す。
「先生??ねぇ、先生ってば」
返事はしない。
空気が読めない、良くわかってるじゃないか。
お前は空気が読めないよ、ナオ。
ーーー!!
ー!
遠くからあいつらの声がする
「ーーお!」
「ナオーー!!」
「どこー!?ナオー!!」
「おーい!ナオー!返事してくれー!」
「ナオさーん!」
「あ!先生!」
「ナオも一瞬だ!!」
不良4人と天使とオッサンが駆け寄ってくる。
俺はナオの顔をみて、時間差でやっと返事をした。
「ナオ、空気読めてないぞ」
「…あ…」
疲れてるにも関わらず、必死にナオを探してくれた皆を見てナオは言葉をつまらせた。
「ナオ!探したよ〜!もー!心配させないでよね!」
珍しくアイナが怒ってる。
「大丈夫?アイス食べる?」
カレンが優しい声でナオにアイスを手渡す。
本当にどこにあったんだそのアイス。
「あー、見つかって良かった!安心したらお腹空いたよ〜、カレン、俺にもアイス」
お前はいつもお腹空いてるだろ。
なお、カレンには無視されている模様。
「ナオ」
ナオの身体がビクッと反応する。
「あんまり心配させんなよ。一緒に行くぞ」
俺の代わりにトウヤがナオの手を引っ張る。
「あ、う、うん。ごめん、ありがと…」
ナオは耳まで真っ赤に染まっていた。
俺が手首を掴んだ時との反応の差がすごくてちょっとショックだったけど、嬉しそうなナオの顔をみたらなんかどうでも良くなった。
「ナオさん、見つかって良かったですねぇ。えぇ、私も頑張りましたよ。大事な生徒ですからね」
お前はエミコ先生に良いところ見せたいだけだろう。
汗臭いから近寄るなオッサン。
今すぐ帰れ。
「先生!」
汗臭い臭いが一瞬にしてフローラルな香りで埋め尽くされる。
「ごめんなさい、私、あの…ナオちゃんが居なくなったの全然気付かなくて…」
「いや、こんな暗い道だからしょうがないですよ。気にしないでください、エミコ先生も迷子になってくれて良いですよ。すぐ見つけて迎えに行きますから」
「…先生はさすがですね。ナオちゃんにもすぐ気付いて、全然ダメな私にも優しくしてくれて。」
エミコ先生がモジモジしてる。なんか可愛い
「先生が見つけてくれるなら、私迷子になっちゃおうかなー…なんて…えへへ。」
「え、エミコ先生。私も!私も見つけますよ!太ってはおりますが動けるので」
「あ、ヨコタ先生。ごめんなさい、冗談ですよ!冗談!先生、行きましょ!」
俺の手を握って引っ張るエミコ先生。
小さくて柔らかい。
もう一生手を洗わなくてもいい
なんか後ろの方でオッサンの悲痛な叫びが聞こえた気がするけど、全神経を手に集中させているからハッキリとはわからない。多分気のせいだろ。あのオッサンそのまま帰ってくれないかな
「あ、ごめんなさい!」
エミコ先生が我に返り、咄嗟に手を離そうととしたが俺が全力で阻止した。
握力鍛えておいて良かった。
「あ…えと…えへへ。生徒に見られたら噂されちゃいますね!」
エミコ先生は満更でもない感じだった。
なんだ。鈍感なのは俺もだったのか
もうこの天使の手は一生離さない
「先生!?何してんだよー!」
遠くからハルアキの声がした。
ビクッてなって手を離してしまった。
ハルアキ…あとで必ずドロップキックで跳ねさせてやるから覚悟しとけよ。
俺はため息をついた後、深く息を吸い込んでエミコ先生を見つめた
「エミコ先生は迷子になんてなれませんよ」
「え?」
「俺、一瞬たりともエミコ先生から目を離さないので。見つけるまでもないです」
顔を伏せてはいるが、耳が真っ赤。
さっき似たような光景を見たけどレベルが違う。可愛すぎて吐血しそう
「さ、あいつらも心配してるでしょうし、行きましょっか」
俺はエミコ先生と並んであいつらのいるところに再び歩き始めた。
後ろから負のオーラが漂っている。
ゾクッとして振り返ると
満身創痍のデブがゆっくりと近づいてきている。
ゾンビゲームに出てきてたらロケットランチャーが必要だなあいつは。
頼むから帰ってくれ。
「先生!遅いよ〜!!」
アイナは待てが出来る犬のようだ。
パッと生徒達を見ると、先に目的地に着いていた。
「すごい…綺麗…」
カレンの瞳がキラキラ輝く。
山の途中、この木で作られた床が1面に広がるこの場所が俺がこいつらを連れてきた理由。目的地。
作りかけの小屋なのか、壁や天井はない。床だけが存在しているその空間は何の変哲もないただの山の一部分。
ただ、そこから見える風景を除いては。
10畳ほどのこの床に立つと、正面には木が1本もない。
横にはビッシリと木が生えているため、まるで道のようになっている。
その道の先に見えるのは…
手を伸ばしたら届きそうなほど大きな満月。
街灯が無くても、月の明るさでみんなの顔がハッキリと見える。
床の先端では、ナオとトウヤが並んで座っていた。
なんだあいつら。随分といい雰囲気じゃないか
ちょっとちょっかい出してやろっと。
「よー、ナオ。あんだけ歩かされてこれかよ〜、話しかけんなどっか行けって思ってんだろ〜??」
うるせーなって返ってくると思った
「そんなこと言ってないじゃん!…感謝してる、ありがと先生」
意外な反応だったから、「お、おう」と戸惑って返事をしてしまった。
いい大人がかっこ悪い事したなと反省。
それにしても、ナオがトウヤを好きなのは知ってたけど、トウヤもナオが好きだったとは。
俺は不良だ!女なんていらねぇ!みたいな事言いそうなのに。
トウヤは顔が整っている。化粧したら女にでもなれるんじゃないかってくらい。
すごいモテるのに彼女がいないのはこういう事だったのか
「ああ、先生?俺もその、いつも構ってくれて感謝してる」
ほんと。エミコ先生のこと言えないくらい鈍感だな、俺は。
「ハァハァ…お、おお…!これは見事…!」
デブゾンビがどうやら追いついたようだ。
と思ったけど、こいつも年甲斐もなく目を輝かせて、さっきの満身創痍から打って変わって元気になっている。
もうゾンビっぽくはないからオッサンに戻してやるか
「先生…いい場所ですねぇ…。あ、エミコ先生のこと、幸せにしないと許さないですからね」
何でお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ。何様のつもりなのか知らんがロケットランチャー撃ち込むぞデブ。
で、そのエミコ先生はというと…
月明かりで皆輝いて見えたけど、俺の横で満月に夢中になっている横顔は本当にただただ美しかった。
「あ、先生…?どうしたんですか…??」
「いや、エミコ先生の横顔綺麗だなって」
「え…え!?か、からかわないでください!」
「いやホントですよ。俺、エミコ先生とこの風景見れてホントに幸せです」
「…私も。私もです…」
もう絶対幸せにする。
「さて、それじゃあエミコ先生!パーティの始まりですよ!お前ら!荷物を出せい!」
俺の合図でみんなで手分けして持ってきた荷物の中身が床1面に並べられる。
スナック菓子にチョコレート。飴やケーキなどのお菓子類に、ジュース、ビール、チューハイなどのお酒。それとイカとか、ナッツとかのおつまみ。
そこへハルアキが、満面の笑みでオニギリや弁当を並べていく。
もちろん全部俺のおごり。
おかげで財布はスッカラカンだ。
でも、みんなの幸せそうな顔見れたし、エミコ先生は可愛いし、正直お金なんて無くなったっていい。
「先生、最高ー!」
「ご飯ご飯〜♪」
「私はお菓子食べよっと」
各々が好きなものを手に取って、満月を見ながら最高の時間を過ごした。
「私は…お酒飲んじゃおっかな」
「え?エミコ先生、お酒飲めないんじゃ」
「弱いんで普段飲まないんですけど、ずっと見ててくれる人がいますので。今日は安心して飲めるんです…エイッ」
プシュっと音を立てるビール缶。
この世から戦争を無くすことのできそうなレベルの笑顔で俺の目を見つめてきた。
定番だが言わせて欲しい
守りたい、この笑顔。
「ハイ、先生。」
俺にそっとビールを手渡ししてくる。
「それじゃ、カンパイッ!ワーイ!」
ワーイて。
満月に目をやると、床の左奥にひっそりとビール片手にイカを毟ってるおっさん。
何となく微笑ましい顔してるけど、こうやってみるとほんとにただのオッサンだなあの人。
「ヨコタ。臭い」
近くにいたナオとトウヤに罵倒されまくってる。
普段なら「す、すみませんね。」と謝りながら立ち去るオッサンだが、飲んでいたせいか、失恋したせいか、荒れ狂っていた。
「おい!ガキどもが調子に乗るなよ!お前らなぁ、高校生が恋愛なんて生意気なんだよ!指導してやるからちょっと来い!!」
と、トウヤの胸ぐらを掴んだまでは良かったが案の定トウヤにボコボコにされて泣きそうな顔してた。
悪い人じゃないんだよな、オッサン。
散々悪口言ったけどあんたの事は嫌いじゃなかったぜ。割と。
「先生!笑顔で見てる場合じゃないですよ!トウヤ君がヨコタしぇんせいの事、ぶったりしてて、それで、あの」
驚いた。もう酔ってるのかエミコ先生。
まだビール二口くらいしか飲んでないだろ
とりあえず頭撫でてみた
「あ…ころも扱いしないでくらはいっ!でもまぁ、続けてくれてもいいんですよ〜」
言われなくても続けますとも。
ードンッ!、
ードドンッ!!
忘れてた。
俺がここを目的地にしたのはもう一つ理由があった。
「…うわぁ…すごい…」
全員思わず黙ってしまった。
年に一度、開催される山花火。
その日程が今日で、開催場所はこの山。
満月と近距離の花火は、この世のものとは思えないほど幻想的だった。
こんなに近くで花火を見たのは初めてだな…
「あっちぃ!!」
花火の欠片が熱を持ったまま降ってくる
「先生!これ!近すぎ!!」
ホント。めっちゃ近い
顔に花火の欠片が当たって泣きそうになった
皆パニックになっていたが、それでもやはり楽しい空間には変わりなかった。
トウヤはナオを守りながら花火の欠片を手で弾き、ナオはそれに見蕩れていた。
アイナは半泣きで走り回り、カレンはアイスでガードしてた。
もうカレンのアイスがどこから出てくるのかは気にならなくなっていた。
ハルアキは焼肉弁当食べてる
オッサンは「ひぃいいいい」って言いながら花火の欠片を必死に避けている。
でもデブだし、動きが鈍いから8割くらいは直撃してる
エミコ先生は俺が傘をさしてお守りしているので、楽しそうにお酒を飲んでこの光景を眺めていた。
ああ、楽しい
この時間が一生続けば良いのに
…
…
ハッとなって目が覚めた
いつもの自分の自宅。
「今日の夢…楽しかったな…」
喉の乾きを潤すため、水を1杯飲み干した
「しかし、俺が先生って…ま、ありっちゃありだな。いやー、しかし。エミコ先生可愛かったなぁ、不良のやつらも、オッサンもいいキャラだったわ」
もちろん、登場人物全員、俺の脳が勝手に作り出した架空の存在。
エミコ先生可愛かったとか言いつつ顔もちゃんと覚えていない
「ま、夢なんてそんなもんだろ。山で花火とか火事になるし、満月があんなにでかく見れる場所なんて地球にはねぇ」
と、少し寂しい気持ちはあったが幻想の世界にサヨナラを告げ、仕事に行くためのスーツに着替え始めた。
職業は営業マン。
学校の教師になんてなれない。高卒だし。
「さて、今日も1日頑張りますか…!」
俺は玄関のドアをあけ、月がものすごく遠いこの地球から、よく晴れた空を見上げて身体をグッと伸ばした
…
…
「わっ」
頭に傘が当たって驚いた声をあげる。
「あれ?私、傘なんて持ってたっけ」
キョトンとした顔で急に降ってきた傘を手にする。
「どーしたんですか?」
女性を眺めていた少し顔の大き目な男性が声をかける。
「あ、いや。傘が頭に降ってきて」
「え?いやいや、この花火の欠片から避けるためにずっと持ってらしたじゃないですか」
会話が噛み合わないことを不思議に思ったのか女性は納得いかない様子で否定する。
「え?そんなはずないです!だって私、ビールとおつまみで両手塞がってますし…って、あれ?このビール誰のです?」
横に置かれた2つの飲みかけのビールを見て女性は疑問に思う
「さぁ…ふたつとも飲まれたのでは??」
「え?え?そもそもなんで私、ビールなんて飲んでるの!?お酒弱いのに…」
「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないですか…今はこの絶景を楽しみましょう!」
目の前には大きな満月。
そして、近すぎる山花火。
「ふぃ〜食った食った。結局弁当6個も食ってしまった…!」
身長の高い丸坊主がお腹を擦りながら横になる
「あれ?でもなんでこんなに弁当あるんだ?」
並べられたお菓子やご飯類、ジュースやお酒を眺めながら首を傾げる男の子
「ねぇねぇ、なんで私達こんなところにいるんだっけ?」
犬の雰囲気を持った女の子が、黒猫のような女の子に声をかける。
「え?そういえば何でだっけ?てか今何時?そろそろ宿戻らないと…!!怒られちゃうよ!」
手に持っていたアイスを急いで食べると、周りのゴミを片付け始める
「お、そろそろ帰るみたいだぞ。俺らも行こうか」
整った顔立ちの男の子が、横に座っていた小さな女の子の手を引く…
「あ、あのさ…嬉しいんだけど、なんでその…私達仲良くなれたんだっけ。あんまり話したことなかったよね…」
「あ、そういや何でだっけな。来る途中迷子になったお前を俺が探して…とかじゃなかったか?」
「あ、そ、そうだよね!ごめんね。変な事言って。ありがとう」
「ん?あ、ああ」
高校生の男女5人と、中年期の膨よかな男性、そして美しい女性はなんだか寂しそうに暗い山道を降り始めた
「ど、どうかされました?」
元気の無い女性を心配して、男性が声を掛けた。
「あれ?なんだろ…変ですね、ごめんなさい、何でもないんです…!ただ、何となく…何となく、すごく大事なものが無くなってしまったような気がして」
「さ、探しに戻りましょうか!」
女性は首を横に振った
「大丈夫です。多分…気のせいですから!そんな大事なものなら覚えてるはずですもん!心配かけてすみません、行きましょ!」
そう言って歩き始めた女性の頬に、1粒の涙がスーッと流れた
最後まで閲覧いただき、ありがとうございます。
今後とも連載作品など投稿して行きますので、どうぞよろしくお願いいたします