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崩壊世界の異能者 ~気づいたら世界が生まれ変わっていました~  作者: 佐藤龍
第一の遺跡 目覚める怨念達≪ゾンビ≫
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第七話 探求者の覚悟と死を呼ぶ料理

「異能か、初めて聞いたぞ。それに、昔の世界と言ったがどういことじゃ? お主は昔の世界の人間なのか?」


「そうだ、俺はこの世界を知らない。最初はこの世界の言葉も分からなかった。だが、今は何故か会話ができる」


「確かに」


 言葉を理解できていなかった頃のユウと、唯一接点があるユズハは納得した。

 彼女も又、あの遺跡でユウの発した言葉を理解できていない。

 

「だからこそ分かる。俺はこの世界の住人じゃないと」


 ユウがこの世界の人間ではないと知り、一番早く動いたのはフィーとリリーだった。

 

「言葉を教えてください!」


「銃について詳しく!」


 二人は同時に立ち上がり、ユウに詰め寄る。

 かなり興奮しているようで、今までの静かだったリリーや自信がなさそうなフィーの面影は全くといっていいほどなかった。

 その突然の事に、ユウは即座に断った。

 

「嫌だけど」


 そもそも、する理由がなかった。

 馬車の中でユウが親切だったのは恩を感じて返したためであって、今はその恩も返しきったために教える理由はない。


 二人がガックリと肩を落としている裏で、ワンとエンリ、ユズハは顔を合わせて深刻な話をしていた。

 

「過去の人間か、かなりやばいのう」


「ええ、やばいですね」


「知られると、かなりの問題が起きるね」


 この世界には遺跡から過去世界の遺物が多く発掘され、その全てがオーバーテクノロジーだ。

 使おうにも操作方法が分からず、最初に設定を弄ろうにも言葉が分からないため、どうしようもできない。

 

 今はなんとか手探りでやっている状態だが、そんな中に遺物の理解者が現れたらどうなるか。

 誰もが、ユウを欲する。

 何をしてでもだ。

 

 殺人、強盗、誘拐だって、起きることは予測できる。

 そんな存在をこの町に置いておくのはかなりのデメリットが起きると予測できるが、代わりにそれ以上のメリットも又、発生するだろう。


 ワン達が取る行動は一つだった。

 

「匿うぞ」


「分かりました」


「うん」


 三人は頷き合い、秘密の会話は終わった。

 その頃、ユウは二人の少女が引っ付かれてお願い攻撃を受けていたが、妹大好きユウにはそんなもの効かず、弾き飛ばす。

 もしこれがワンにお願いされれば、お願いのお、という言葉を発した時点で頷いている。


「お主が本当に、この過去世界の人間だということは分かった」


 その証拠は幾つもあった。

 まず、異能。

 この世界には魔法があるが、発動する時に詠唱する必要がある。

 詠唱しなくても魔法を発動はできるが、かなりの熟練者でなければ無理だ。

 

 次に最もな証拠がユズハである。

 彼女はユウの言葉を理解できなかった。

 それは、各地を飛び回る探求者にとって言葉とは必要な技能であり、ある程度は理解できていないといけない。

 そんな彼女が確かに、と頷いたことがユウを信用にさせるに等しい証拠である。


 信用してもらえたことに、ユウは引き締めていた心が緩んだ。

 

「ユウも正直に話してくれたことだし、こちらもギルドで話したことを話すわ」


 その瞬間、ユウを除いた五人はキッと目が鋭くなって集中し始め、さっきまでの穏やかな雰囲気が一変した事にユウは心の中で驚く。

 

 雰囲気が変わった。

 まあ、当り前か。

 この話は彼女達の仕事に関係があるんだから。

 

 エンリはギルドで起きたことを話し始める。

 

「遺跡のゾンビについては話しました。おかげで一時的にですが封鎖されましたが、それ以前に行ったものに対しては何も出来ず、今は機馬で止めに行ってる状況です」


「機馬か。よくもまあギルドは貴重な物を使ったのう」


「それだけ重要な事ということです」


 二人が話す中、ユウが疑問に思ったことを聞く。

 

「機馬? なんだそれは?」


「機械の乗り物よ、ゴムのタイヤ二つの。過去世界の遺物を乗れるようにしたものなの」

 ああ、バイクのことか。

 

 機馬と言われて分からなかったが、エンリが教えてくれたことで理解することができた。

 

「それで、その遺跡に行った者は何人おるのじゃ?」


「十人ほどです。ただ、他の町も含めるとそれ以上に」


「そうか」


 場の空気がどんよりとしたものに変わる。

 あの遺跡にいたゾンビは、普通のゾンビとは違う。

 そのため、もし普通のゾンビと勘違いして戦えば痛い目を見る。

 痛い目を見た時点で、既に死んでいるかもしれないが。

 

「それで明日に会議が行われます」

 

「会議は誰が行くのじゃ?」


「私です。それと、師匠にも」

 

「やはり、か」


 ワンは疲れたようなため息を吐くが、やはりという顔をする。

 心のどこかで自分も参加することだろう、と分かっていたのかもしれない。

 

「明日は四人でゾンビ退治用の準備、ということにするかの。集合場所はこの家じゃ」


「「「分かりました!」」」


 エンリ以外の三人が答えると、ユウが止めに入る。

 

「ちょっと待ってくれ。準備とはなんだ?」

 

 ユウとしては、特に何も準備せずに行こうと思っていた。

 そのため、何を準備する必要があるのか全くもって知らない。

 

「そうじゃったな。お主は探求者じゃないから、そこら辺の知識は皆無じゃったか」


 失念していた、とワンは呟き、エンリに説明させることにした。

 

「いい機会じゃ。エンリ、説明せい」


「分かりました」


 エンリは頷き、探求者にとって必要な物の説明を始めた。

 

「遺跡に必要な物は、まず食料と飲み水」

 

 人が生きるためには、食べ物と飲み水が必要となるため、この二つは必ず持っていかないといけない。

 人数が多くなるほどに食料と水が持って行くことになり、荷物の量が増えることになる。

 

「次は松明。明かりがなければ生きていけないわ」

 

 遺跡には洞窟のような物があればジャングルのような物も、明かりのある遺跡や明かりのない遺跡もある。

 夜になれば明かりがなくなれば人が生きることできなくなるため、松明は必要と言う。

 

 松明には良く燃える乾いた木が必要で、一つだけでは全然足りないためかなりの数が必要になる。

 木という燃料が必要であれば、辺りを照らす火種も必要だ。

 

 しかし、それについてはあまり大きな荷物とはならない。

 この世界にはマッチやライターといった道具はないが、魔法や魔石が存在する。

 火を着けるのも楽なため、火打ち石よりは重宝されている。

 

「あとは魔石を掘る道具ね。持って行く物によって大きさは決まるの」

 

 探求者が換金して生活する上で必要な物、それが魔石だ。

 

 小さいものであればアイスピックのような鋭く棒状の物で、大きい物はつるはしのような物となる。

 大きくなればそれだけ大きい魔石を掘りやすいが、その分荷物のスペースがなくなり、小さければ荷物のスペースにはならないが掘るのに時間がかかってしまう。

 

 どちらもメリットデメリットは存在し、それを決めるのは各自自由だ。

 

「そして、その全てを背負えるバック」


 基本的に、遺跡の探索は長丁場になりやすい。

 そのため、両手で抱えて移動すれば魔物を倒すことができず、採掘した魔石を収納するバックが必要となる。

 

「これが探求者の必要な物の基本よ。あとは出現する魔物や遺跡の特徴によって持って行く物が変わるわね」

 

「かなり多いな。それに、よくもまあそんなに準備する」


 必要な量の多さにユウが辟易していると、エンリが頷く。

 

「ええ、私も最初は同じ事を思ったわ。けど、自分の命がかかっているんですもの。誰だって必死になるわ」


 諭され、ユウも考えを改めた。

 

「そうだな。それだけ準備をしないと、死ぬということか」


 今まで探求者として頑張ってきた、人間の知恵なんだな。


 必死に生きようと足掻く探求者の姿をユウは思い浮かべていると、ワンが立ち上がった。


「丁度良い頃合いじゃ。昼食にしよう」


 途端にユウを除いた四人は、慌てたようにして立ち上がる。

 

「すみません、師匠。私は用事を思い出しました」


「僕も大事な事を思い出しました」


「えっと、えっとえっとご飯を食べる約束してまして」


「……人と会う約束をしている」


 と、四人はどこか焦った表情をしている。

 顔は汗だくで必死な目だ。

 何やら不穏な気配をユウが悟りつつあると、ワンが残念がる声をした。

 

「そうか、皆用事があるのか。なら良い。今宵はユウと共に食事を取るとしよう」


 妹に似たワンとご飯を食べるとあって、ユウは内心非常に嬉しいのだが何故だろう。

 四人からの生暖かい、慈悲の籠った視線が痛いのは。

 

 

 

 

 

 人が死地に赴くのは何故だろうか。

 平穏で、平和な世界に生きたい。

 と、思う者がわざわざ地獄に、自分の死を近づける行為をするのは何故だ。

 ユウには一つの答えがある。

 

 守るべきものがあるからだ。

 人にとっては、自分にとってはそれが大事な事であれば、守りたいと思うのは当然。

 そして、この現実を、ワンを守るためなら食して当然だ。

 

「これ、何?」


「スープだ」


「そう……」


 ユウの目に映るものは余りにも黒い、謎めいたスープだ。

 一階のリビングに移り、ワンが料理を作ってくれた。

 最初はドキドキした。本当にドキドキして楽しみで楽しみで。

 

 しかし、徐々に匂い始める異臭。

 これで眉間に皺が集まり始め、目の前のスープだ。

 もうどうしろって言うんだ。どうしようもできないよ。

 

 彼女達が逃げた理由が、ユウには分かった気がした。

 ワンの顔は料理の感想に興味津々といった感じで見ており、食べないという選択肢は選べない。

 南無三、とユウは心の中で呟いてからスープを一口、口の中に入れた。

 

 

 

 

 

「ここは!?」


 そこは黒い世界だった。

 土は黒く、足元はどんよりとした重みのある黒い煙に似た何かが漂っている。

 

「なんなんだ……ここは……」


 あまりにも異常な世界にユウは戸惑っていると、声が聞こえた。

 

「──ちゃん」

 

「誰だ?」


 その声のした方を向くと、

 

「お兄ちゃん」

 

 見間違えようのない顔、声。

 そこにいるのは死んだはずの妹、アスカだ。

 

「アスカ? アスカー!!」


 嬉しさのあまりユウが走り出すと、目の前にいたアスカも両手を横に大きく広げて抱き着こうとしていた。

 しかし、

 

「お兄ちゃん! 待って!」


 背後からアスカの制止する声が聞こえ、ユウは立ち止まる。

 

「アスカが、二人!?」


 目の前に、後ろに、二人の妹、アスカの存在にユウは困惑した。

 だが、それはすぐに解消された。

 

「アスカが二人、ここは天国か!?」


 シスコンであるユウには二人いようが三人いようが構うことはない。

 しかし迷いはする。

 どちらに抱き着こうか。

 

 品定めするように二人を見ていると、

 

「お兄ちゃん。おいで」


 正面にいるアスカが妖艶な笑みでこちらに誘う。

 

「あっちには行っちゃ駄目!」


 背後にいるアスカは必死に懇願する。

 この短い会話で、ユウはどちらに進むか決まった。

 

「貴様、誰だ!」


 ユウは右手をアスカに指差す。

 その方向は正面の、妖艶な笑みを浮かべるアスカにだ。

 

「家の妹はそんな黒い笑みを浮かべません!」


 拒絶された正面のアスカは、最悪だと言わんばかりに舌打ちをしすると黒い煙となり、消えていった。

 片方のアスカが消え、残るは一人。

 やることは一つだ。

 

「アスカー!!」


 背後の方のアスカに抱き着こうと飛び込み──。

 

 

 

 

 

「ハッ!!」


 気を失っていたユウは目を覚ます。

 机に倒れていた身体を起こすと、さっきまでの光景を思い出した。

 

「アスカは?」


 抱き着こうとしていたアスカがおらず、顔を上げるとアスカに似た顔をしたワンがいた。

 それはアスカではなく、ワンだ。

 しかし、今のユウには考えられる余裕がなかった。

 

「アスカ!!」


「フン!」


「ぐへっ」


 抱き着こうとするユウはワンに投げられ、床の上に大の字で寝転がった。

これにて準備の前段階がやっと終わりました。次から準備、ゾンビの住む遺跡に探求者達は何を用意するのか


次回はメタルなスライムに投げる水を買いに行きます。

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