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崩壊世界の異能者 ~気づいたら世界が生まれ変わっていました~  作者: 佐藤龍
第一の遺跡 目覚める怨念達≪ゾンビ≫
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第三話 見知らぬ世界は見知った世界

 遺跡から脱出することができた五人は、馬車に乗ってホームであるフリッサという町に向かっている。

 馬車は馬二匹で引き、荷台には四人がいた。

 その中にはユウも存在し、彼は横になって目を瞑っている。

 ユウは気絶してからあれ以降、目を覚ますことなくずっと眠り続けていた。

 馬車の御者はエンリが勤め、ユウを除いた三人は馬車の中で休んで疲れを癒している。

 又、遺跡帰りということもあって色んな物が積んであり、その中のほとんどが透明な石ころだ。

 

 その名は魔石と呼ばれ、魔力のこもった結晶で採れる場所は魔力の豊富な場所、遺跡で採ることができる。

 遺跡には過去世界の遺物も存在するが、一度取ってしまえば再び出現することはない。

 しかし、魔石は一度採っても魔力が結晶となって成長するため何度も採ることができ、探求者のほとんどはこの魔石が収入源となっている。

 

「それで教えてくれる? あそこで何があったの?」


 御者台で手綱を握っているエンリが、荷台にいるユズハの方を横目で向いて尋ねる。

 ユズハがユウと一緒に現れた際に何があったのか尋ねたが、状況が状況のため先送りになった。

 

「フィーに助けを呼んでもらいに行った後、僕はゾンビに挟み撃ちされてね。その時にこの人に助けてもらったんだ」


「あのゾンビ、ね。あれは本当に異様だったわ。リリーはどう思う?」


 話を振られたリリーは、顔を上げる。

 

「戦ってみた感じ、普通のゾンビではなかった。多分、上位種の可能性が高い」


 黙々と言うようなリリーの言葉に、エンリは頷いていた。

 

「そうよね。普通のゾンビとは全然違ったし」


 普通のゾンビならばユウの異能による炎や氷、ユズハの炎で殲滅することができるが、あの遺跡にいたゾンビ達は傷ついただけで倒されることはなかった。

 このことから、リリーはあのゾンビが上位種だと考えており、もしそれが本当であれば一つ問題が起きる。

 

 魔物の上位種は存在するがその数は多くはなく、遺跡にいるゾンビ全てが上位種であれば直ちに殲滅しなければならない。

 もし殲滅できなければ、遺跡の中から上位種のゾンビが外に出てしまう危険性があるからだ。


「それなら、報告しないとね。あの遺跡の事も、ゾンビのことも」


「うん、その方がいい」


 エンリの判断にリリーが頷いていると、フィーが声を上げた。

 

「目を覚ましましたよぅ」


 その言葉に、エンリを除いた三人が眠り続けていた少年に見る。

 

 

 

 

 

 ガタゴト揺れる馬車の振動で、ユウは目を覚ました。

 起きたばかりで寝ぼけているせいか、目が覚めても何も考えずに身体を起こす。

 身体を起こしてすぐにしたことは、状況の把握である。

 

「どこ、ここ……」


 把握しようとしても、起きたばかりのユウでは知ることもできなかった。

 

「ここは馬車の中だよ」


 答えてくれたのは、騎士風の恰好をしているユズハだ。

 

「馬車? どこに向かってるんだ?」


 少し時間が経ったためか頭もだいぶハッキリとし始め、ユウは密に警戒し始めいつでも動けるような心構えをする。

 この回答によって、ユウは動くか決めようとしていた。

 

「フリッサだ」


 どこだよ! とユウは心の中で大きな声で叫ぶように驚き、行動する所ではなくなった。


「フリ、ッサ? とはどこだ?」


「フリッサを知らないのか? ここ辺りでは一番大きな町だよ」


 ユウがフリッサを知らない事に、ユズハは驚いたという表情を浮かべていた。

 その表情を見れば知っていて当り前の事、ということをユウに認識させる。

 

「そう、なのか……」


 それでも、ユウは知らないものは知らず、必死に頭を働かせて今ある情報でフリッサという町を検索する。

 しかし、ヒットする情報が一個もない。

 

 頭を働かせていると、ふと思い出す。


 さきほどまでは外国語のようで、何を言っているか分からなかった。

 だが今は、それは分かってしまう。

 どうしてだ?

 それに、さっきまで酷かった頭痛が嘘のようだ。

 何か関係があるのだろうか?

 

 考えようとすると、ユズハの質問により一旦放置する。

 

「今度はこっちが質問する番だけど、君はどうしてあそこにいたんだ?」


 ユズハの質問に、場の空気がピンと張り詰めたように感じた。

 その空気を感じならが、当たり障りのない事実を頭の中で考えながら話す。

 

「どうして、と言われてもバイトであそこにいたんだ」


「バイトとはなんだ?」


 眉間に皺を寄せて質問するユズハに、ユウはようやく、ん? と疑問を浮かべ始めた。

 バイトを知らず、フリッサという知らない町、この二つでユウは一つの情報が思う浮かぶ。

 知らない世界、と。

 

 思えば、ゾンビというファンタジーな生き物がいるだけでもおかしいのだ。

 ここに来てようやく、あの研究所の出来事全てを思い出し始める。

 

 白衣のゾンビ、ということは研究者どもの慣れの果てか。そうなると、どうして俺は生きてる? 俺もゾンビになるはずだろう?

 そして、この知らない世界は何だ?

 俺が憶えている最後の記憶は隕石が降ってきた所。

 

 そうなると、世界が生まれ変わったのか?

 恐竜もそういえば隕石で滅びたんだし、もしいきなり現れたら、ここどこ? て驚くな。

 

「おい! 質問に答えろ!」

 

 一つ一つ情報を洗い出ししていると、ユズハの言葉で現実に引き戻される。

 

「すまん。バイトはあ~……少しの間働くことだ」


「働く、ね。それでどうしてあの遺跡にいたんだ? ゾンビも大勢いた」


 その質問の直後、三人から鋭い視線を送られてユウはやっと自分が疑われている事に気づく。

 遺跡には上位種たるゾンビが大量に存在し、中にはユウが一人。

 疑われるのは必然だ。

 答えようによっては、町を滅ぼそうとする人間、ということになる。

 

 その気配を感じながら、ユウは内心開き直り始めていた。

 

 襲って来るならかかってこい。何もないこんな世界で生きていくのはまっぴらゴメンだ。

 

 不治の病である妹を助けるためにモルモットである事も耐えてきたユウには、妹がいるか知らないこんな世界で生きる理由はなかった。

 

 ユウは何も答えず、返答は沈黙に加えて睨みつけられ、空気がピリピリとして一触即発であり、ほんの少し動けば戦闘になるのではないかというほどであったが、御者台にいるエンリの言葉にそれは掻き消える。

 

「ごめんけど、目の前でちょっとやばいことが起きているんだけど」


 その一言で、三人は荷台から御者台へと顔を出して外を覗く。

 そこでは馬車に詰まった商品を守る数人の探求者がいた。

 馬車にいる商人は魔物に怯えて震え、守るように探求者が円になって魔物と戦っている。

 

 探求者の数は十人と多いようには見えるが、それよりも魔物の数が多い。

 魔物は緑の肌をしたゴブリンに、狼が囲んでいる。

 比率的には狼の方が多く、基本はゴブリンが動物と共存するのは不可能だが、一緒にいるという事はゴブリンの中に魔物を使役する変異種がいるのだろう。

 

 数が多く囲まれている探求者十名に、ユズハ達は動き出す。

 

「あの数は流石に無理だね。それに、動きを見ればまだそれなりの経験もなさそうだ」


 動きがどことなくぎこちないことから、ユズハはまだなったばかりと推測した。

 

「そうね、援護に行きましょう。フィーは商人の避難させて。ユズハは突破口を。リリーはユズハの援護。私はフィーの援護をします。あなたは……」


「俺は見とくよ」


 エンリがユウの方を向くと、彼は素っ気ないことを言った。

 もし心優しい人間であれば、ここで手助けするはずだ。

 しかしユウはそんな心はなく、又、それには理由があった。

 

「まだ信用してもらってないからね。邪魔をしちゃいけない」


 敵とみなされかけているユウが一緒に戦えば、必然的にユウに注意が向く。

 その結果弱い魔物に遅れをとってしまうかもしれないし、彼らはパーティーだ。

 ユウがいれば彼らの邪魔をし、足を引っ張ってしまうかもしれない。

 そういうことも考え、ユウは残ることを決めた。

 

 それを聞いて、エンリはどこか安心したような顔を浮かべる。

 

「そう、分かったわ。なら、そこで待ってて」


 四人は己の武器を持ち、役割を果たすために動き出す。

 初撃はユズハだ。

 グレイモルによる炎を鞭のように動かし、魔物を一掃した。

 

 炎でゴブリンと狼は燃え上がって動くなり、一つの穴が開く。

 そこにユズハとエンリ、フィーの三人が中央にいる十名の冒険者に加勢する。

 フィーが商人と商品が乗った馬車を逃そうとし、その経路をエンリが作ろうとしていた。

 

 魔法で炎の波を作り、狼とゴブリンを襲う。

 狼とゴブリンは炎の波から逃げようと動き、できた穴から馬車を逃そうとする。

 逃げる馬車を追うように命令するゴブリンだが、ユズハの剣で駆逐されていき、襲おうとする狼にはリリーの銃撃により命を落とす。

 

 練度も違ければ、経験も違う。

 ここまで圧倒的であれば、逆にゴブリンの方を応援したくなる。

 戦闘の行く先は既に見えており、ユウは暇そうな顔に変わった。

 馬車を襲っていたゴブリンや狼の数は次第に減っていき、逃げようと背を向ければリリーの正確な射撃により倒されていく。

 

 その光景を眺めている生き物が一体、存在した。

 戦場の上空を見下ろすように、空を悠然と背から生える対の翼を動かして浮かぶ、鷹の翼と上半身にライオンの下半身を持つ四足の生物、グリフォンが。

 グリフォンの身体は綺麗な茶色の毛皮で、見た者は恐怖と絶望に叩き落とす。

 それほどまでに強力で強烈で凶悪な魔物だ。

 

 上空に浮かぶグリフォンを見て、ユウは立ち上がる。

 その顔はさっきまで浮かべていただらしのない顔ではなく、怒りと殺意と執念、怨念などなど、負の感情を浮かべていた。

 それもそのはず、ユウはあの魔物を知っているのだ。

 ただし、それはグリフォンとは呼ばれていなかった。

 

「キマイラが……!」


 研究所でユウは幾度となく、空に浮かぶ魔物と似た生き物と実験という名目で殺し合いを続けてきた。

 それ故に、ユウは怒りと恨み、負の感情が存在する。

 科学者の命令一つで殺しに来る化け物に。

 

 ユウは彼女達を助けよう、なんて殊勝なことは考えていない。

 ただ己のために、守るべきがない世界でユウは初めて、妹を助けるために生きていたユウは初めて、自分のために動く。

 その中には未だ消え切れていないユウの優しい心、彼女達の恩義を返す事も含まれていた。

お約束の盗賊やゴブリンではなく、グリフォン登場。


次回はグリフォン倒して町に向かいます

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