第二話 遺跡からの脱出
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真っ暗な道を歩くユウは、進行方向から音が聞こえた。
その音がゾンビと戦う音だと分かると、先手必勝とばかりに、壁の中からゾンビに攻撃しようとした時に気づく。
ゾンビと戦う音が聞こえたとなると、誰かが戦っているということだ。
そうなると、人に間違えて攻撃してしまえば事故につながってしまう。
どうしようか考え、決めた。
どうでもいい、と。
そして、目の前の壁を発射した。
気づけば、ゾンビに挟まれて絶体絶命の少女がいた。
同時に、焼いたようなキツイ匂いが鼻を刺激する。
炎を使ったか。効いた様子もないし、別の攻撃手段を使うか。
一番近いゾンビ、ユズハの視線の先にいるゾンビに顔を向ける。
悪いが、手早く済まさせてもらうぞ。
頭痛に苦しみながらも、左手をゾンビに向けて伸ばす。
「凍れ」
その一言で一気に周りの気温が下がり、ゾンビの身体を凍らせて身動きを封じる。
ゾンビが動けない間に動こうとした時、後ろから右腕を掴まれて引き止められた。
そちらに目を向けると、ユズハ安心しきった顔で口を動かして何かを言っている。
しかし、その言葉は初めて英語を聞いたようにチンプンカンプンで、何を言っているのか全く分からないが、お礼を言っているように見えた。
ユウはどうしようか戸惑っていると、ユズハの奥に動くゾンビが目に映る。
凍らせたのは片方だけゾンビで、もう片方、ユズハの後ろのゾンビは凍らせていない。
もし凍らせようとすれば、ユズハを巻き込んでしまうからだ。
頭痛で悩んでいる今、範囲を工夫する力はない。
動くゾンビを知らせるために左手でユズハの背後を指差すと、ユズハは指差した方を見てさっきまでの安心しきった顔から引き締まった顔に一変する。
顎で凍り付いたゾンビの方を指すと、その意味を読み取って頷いた。
頭痛で顔が苦痛に歪み、痛みはより激しく痛み、苦しみならがらも前に進む。
「ぐっ!」
足の進みは遅くなるが、着実に、確実に進んでいく。
その背中をユズハが押してくれる。
チラリ、とユウが押してくれるユズハの顔を見ると、彼女は心配そうな顔をして口を動かしていた。
言葉は分からないがありがとう、と心の中でお礼を言って凍りついたゾンビ達の間を縫うようにして進む。
凍り付いたゾンビは傍から見ればまるで氷像のようだと感じていると、ピキッ! という何かがひび割れる音が聞こえた。
横目で音のした方を見ると、ゾンビの氷像に小さな亀裂が走っている。
まさか、動くのか?
凍らせても……。
氷像にして凍らせても動こうとして、人を追い続けるゾンビの執念、性質にユウは心の奥をゾッと震わせた。
と同時に、思考を切り替える。
ユズハも動くゾンビに気づいて、背中を押す力が強くなった。
置いて行けばいいのに、とユウは現実的なことが思い浮ぶ。
足手纏いのユウを置いて行けば、ユズハは助かるだろう。
ユウだったら、置いて行く。
しかし、ユズハはユウのことを見捨てず助けようとしていた。
それだけで、荒んでいたユウの心が温かい何かに包まったような気がする。
裏切りと嘘に溢れたこの短期間のバイトで変わった心を、変化させるようなそんな気がした。
それだけで、助けるには十分な気がした。
ユウは立ち止まって頭痛に堪えながら風の異能を使い、異能の力をなんとか調整する。
二人を包むように風が巻き起こり、消えた。
調整、完了!
ユウは左手でユズハの身体を抱きしめ、身体に寄せる。
いきなりのことで、ユズハは顔を赤くしてユウから離れようと抵抗して何度も殴った。
その威力は女とは思えないほどの強さで、一瞬だけ異能を使うのに遅れる。
その僅かな隙が一刻を争う。
外側の氷が壊れ、ゾンビ達が動き出したのだ。
動き始めるゾンビにユズハは驚き、一瞬だけ殴りかかるのをやめた。
その隙を狙ってユウは異能を発動する。
後ろから人を吹き飛ばすほどの強風に襲われ、二人は前方に吹き飛ぶ。
普通ならばゾンビも巻き込まれる所だが、ユウが調整したことでゾンビは巻き込まれず、二人だけ飛ぶことが出来た。
しかし、まだ前には動き始めたゾンビが大勢いる。
左手を動かそうとし、ユズハを引き寄せているために使っていると気付き、頭痛で頭を押さえていた右手を離し、前に向けて伸ばす。
右手を中心に風が回転するように吹き、それはドリルのような形に変わる。
風のドリルはゾンビの身体を、氷を削って前に進む。
後ろからの風が後押しをしているからこそ、ユウはゾンビの身体を削ってでも進むことができた。
ゾンビを削って進んでいると、三人の人間が見える。
勿論、生きた人間だ。
彼女の仲間だ、と気づいた時にはもう使わなくていい、と頭痛に苦しんでいたユウは異能の力が抜けた。
異能は消えても、風で身体を押す力はまだ残っている。
最後の力を振り絞り、消えかける意識の中、ユズハを守るようにユウは包み込んで背を床に向け、身代わりになった。
後ろからの風で投げ出されるように吹き飛ばされ、ユウは床をこするようにして流されていく。
力を振り絞ったユウは限界により、気を失った。
「何が起きたの!?」
見知らぬ男と一緒にいるユズハに、エンリが問い詰める。
ゾンビ達が凍り付いたと思ったら、ユズハが見知らぬ男と現れたのだ。
誰だって困惑するに決まっている。
「後で説明するよ」
守るように抱きしめられたユズハは、ユウの中からなんとか抜け出た。
その顔はどこか焦っているような顔だ。
「まずはここから出ないか? 凍っていてもゾンビ達が動き出した」
「そうなの?」
こちら側のゾンビは、まだヒビが入っておらず動いない。
「んん~?」
フィーが目を狭めて奥を見つめると、一瞬にして驚いた表情に変わる。
「本当です。ゾンビが動いているのが見えます」
「……確かに、動いているのが見える」
フィーの他に、リリーがゴーグルを下して見ていた。
「そう、なら動きましょう。って、ユズハ! その人を助けるの?」
ユズハがユウに肩を貸して移動しているのを見て、エンリは驚く。
この状況で、気を失った人を助けて移動する時間はない。
それも、相手は男性だ。
女性の身としては、移動するのにかなりの時間がかかる。
「うん。僕は彼に救ってもらった。だからその恩を返したいんだ」
ユウからすれば、背中を押してくれたユズハの恩返しのために助けただけのことだ。
それにユズハは恩を感じていた。
「ああ、もう!」
生き残るのなら、その少年は見捨てたほうが良いに決まっている。
そう考えるエンリだったが、決して諦めないユズハを見て自暴自棄のような声をだして、ユズハが貸したの反対側の肩を貸す。
「一人よりは二人のほうがいいでしょ!」
「ああ、そうだね」
心の中でお礼を言って、ユズハとエンリはユウに肩を貸して遺跡からでようとする。
しかし、それを阻む存在がいた。
氷像に変わっていたゾンビ達を阻む氷が消え、五人を追い始めたのだ。
「ゾンビ達が動き出しました!」
いち早く気づいたフィーが下がりながら知らせると、エンリが指示を出す。
「リリー。足止めをお願い」
「……了解」
氷のマガジンに入れ替えて装填し、狙いを定める。
もし狙いを外して他のゾンビに当たり、早く氷のヒビが割れると考えると撃つのを躊躇ってしまうが、リリーは気にしない。
下がりながら引き金を引く。
普通の銃ならば弾丸を発射すると反動があるが、魔法銃になったことで反動が一切なくなった。
氷の弾丸は射程ギリギリということもあり、僅かに逸れて他のゾンビや床に当たる。
ゾンビや床に氷の弾丸が当たると、その一部に薄い氷の膜が広がるだけで、問題なく動き出す。
だが地面の一部が凍ったことで、そこを通ろうとしたゾンビが滑って転倒し、後続にも影響を与えて時間稼ぎはできた。
ゾンビは目が見えず、生きた人間を追いかける性質があり、障害物を用意すれば身動きを封じることが出来る。
ただし、移動を阻む窓や壁にぶち当たると壊す性質もあるため注意が必要だ。
時間稼ぎをしている間、フィーはユズハとエンリ、ユウの三人より先行してゾンビがいないか確かめながら進む。
助けを求めに行った時、そこにはいなかったはずのゾンビが現れた。
そういう理由もあって、又ゾンビが襲って来る可能性も考慮して確認する。
リリーの射撃での時間稼ぎとフィーの偵察によりゾンビに襲われず、遺跡から出ることができた。
遺跡から無事に脱出することができました。
次回は町に帰ろうとします。