第十八話 研究大好き、物好きお爺ちゃん
夜番は一時間おきに二パーティーが交代する形を取り、四方には焚き火を用意して明るく照らしていた。
これでゾンビがいつ来ても、すぐに気づくはずだ。
来ても、多少の数ならばやれるはずだ、そう探求者達は考えていた。
しかし、待っていたのは地獄だ。
眠って一時間と少し、起こされるとそこにいるのは馬鹿みたいな数のゾンビの群れ。
幸い、異能者のゾンビがいないため苦も無く殲滅できた。
夜番を交代して眠りについてさらに二時間後、またもゾンビが襲撃して来る。
探求者達はあまり眠れない夜を過ごし、二日目が訪れた。
朝は朝食と聖水の残りの数を確認し、出発する。
幸いない事に食べ物と水、木はまだかなりの量が残っていて、余裕があった。
問題は、聖水の方である。
ゾンビと戦うには聖水が必要であり、夜の襲撃があったことで少なくないの数の聖水を消費した。
それでもかなりの聖水は残っており、帰りのことも考えるとあと二日分ほどの聖水しか残っていない。
本来なら一週間分を予定して持って来たが、ゾンビの数と襲撃の回数が異常なのだ。
二日目は聖水の残りの数が少ないこともあって、できるだけ戦闘を避けて移動した。
そして夜、またゾンビの襲撃が起きる。
時は戻り一日目、ワンが地下への階段を見つけたという連絡を受けたグルットは、二階は外れか、と考えて来た道を戻ろうとした時、今までいなかった気配を感じた。
そう、ゾンビだ。
「てっきり外れかと思っておったが、違ったようだ」
周り探求者もゾンビの気配を感じ、戦闘準備をする。
武器に聖水を垂らし、いつでも来るように待ち構えていると、それは来た。
無数に等しいゾンビが、奥からこちらに迫って来ている。
「戦闘を開始せよ!」
その一言で、前衛の探求者達は前に駆ける。
グルットの後ろにいる後衛が魔法を唱え、ゾンビの動きを阻害して戦いを有利に進む。
動きが鈍くなるゾンビ達を、前衛の探求者達が倒していく。
彼らの戦いを見ながら、グルットは何もしない。何もできない。
「師匠は戦わないんですか?」
後ろにいる弟子に声を掛けられ、グルットは振り向く。
「吾輩が戦ってもよいが、使えるのは毒魔法だけだぞ。ゾンビ相手には効果がない」
毒魔法は生きている物であれば毒は効き、相手をジワジワと弱らせて死に至らしめる。
しかし、死者であれば既に死んでいるため効果はない。
「だから、戦わんのじゃ」
そう言い、グルットは戦わないと言う。
その事に対して探求者や弟子達は何も言わない。
元々、グルットは気分屋で戦わないことは既に知っていた。
だから探求者達もグルットが戦わずとも、ゾンビをある程度倒せるほどの力量を持つ。
グルットが手伝わずとも、探求者達だけで全てのゾンビを滅ぼした。
ゾンビが出て来たことで、地下に赴こうとしたグルットはこのまま二階を探索を続ける。
既に夜に近い時間帯のため、夜番をする。
ワンの時と違い、グルットの班が夜番をしている時にゾンビが襲って来ることはなかった。
そして二日目、さらに最奥に足を進めた時、ズシンッ! ズシンッ! と地面が揺らぐような低い音がこちらに迫って来る。
その音を聞くだけでどれほど大きい存在か、分かるという物だ。
ただのデカいハリボテじゃなければ良いがのう。
グルットは近づく音の方に目を凝らすと、それは来た。
大きさは三メートルを超えた、男のゾンビだ。
身体は継ぎ接ぎだらけで、複数のゾンビを接合して作られたように思える。
又、身体のあちこちに動物のパーツが繋げられ、自由に動かしているように見えた。
「ほう、面白いのう。研究素材として持ち帰りたいが」
「そんな事言っている暇はないですよ。師匠」
「分かっておる。では皆の者、手筈通りに」
「「「御意!」」」
武器に聖水を垂らした探求者達がゾンビに向かって駆ける。
グルットは班は前衛よりで、前衛で戦う者が多い。
その理由はグルットが戦わないこともあるが、強力なゾンビが出て来た場合に魔法を使って全てを決めるからだ。
それ故にこの班の戦闘方針は、前衛と後衛が時間を稼いでグルットが全て倒す。
グルットは心を落ち着かせ、魔法を発動させる準備をする。
今から使う魔法は、かなり集中しなければ使えない代物だ。
その間、前衛は場を引っ掻き回して互いにサポートし合う。
時間を稼ぐために、負傷して味方に負担させる訳にはいかないため、後衛も妨害する。
彼らの心は一つ、グルットが魔法を発動させるまでの時間を稼ぐ事。
聖水に垂らされた武器で継ぎ接ぎだらけのゾンビを斬り裂いても、湯気となって消えるのは継ぎ接ぎの部分だけ。
全ては湯気に戻らず、一部分だけ湯気になって再び再生する。
「ほう。あの継ぎ接ぎは別々の身体を無理矢理くっ付けているのか。面白い、研究素材に欲しいな」
「そんなこと言ってないで、師匠は準備をしてください」
「安心せい。もうじきできる」
啖呵を切ったものの、グルットは倒し切れるか少し悩む。
あの身体、一部分を消してもまた再生される。
なら、倒すに同時に攻撃しなければならない。
そんなこと、ここにいる探求者達では不可能。
そう、グルットを除いて。
負傷しながらも、探求者達は戦い続ける。
そして、その時は来た。
「後退せよ」
その一言で、前にでていた探求者達が後ろに下がる。
「顕現せよ、四天毒龍」
杖の石突きを地面に突くとカンッ! と高い音が鳴り、石突きからべとべとした紫色の液体をした四体の毒龍が突如として現れ、継ぎ接ぎのゾンビに襲い掛かる。
毒龍の身体は細長く、締め付けるように動きながら身体に噛みつく。
身体そのものが毒であり、触れればタダでは済まない。
しかし、相手がゾンビということもあって効果はなく、時間を稼ぐ前衛がいなくなったことで継ぎ接ぎのゾンビは進む。
それに呼応するように、探求者達がグルットの前にでて壁になろうとし、グルットはその行動をやめさせた。
「やめい。もう終わる」
そのグルットの言葉に探求者達はグルットの方を見て首を傾げる。
さっきまで、ゾンビに対して効果が全くなかったのに、何故? と。
もう一度、継ぎ接ぎのゾンビに目を向けるとそこには動きの止まった継ぎ接ぎのゾンビがいた。
その足は膝の部分までしかなく、再生しようとするが毒龍の身体が触れていることで再生しても、すぐに溶かされてしまう。
「毒といっても、身体の内側からジワジワと弱らせる物が全てじゃない。外側から溶かす毒だってある、ということだ」
毒龍に触れた部分から溶かされていく継ぎ接ぎのゾンビは、締め付けるように動かれていたことで、外側から徐々に溶かされていく。
頭だけは唯一生き残って苦しむような表情を浮かべ、毒龍を捕まえようにもその身体は液体、掴むことは甚だ不可能であった。
仕舞いには身体の中心部まで辿り着き、心臓である赤いコア、魔石を溶かしきると再生は終わった。
直後、毒龍は消えてボトッ! と生き残った頭だけが床に落下する。
「ほう、魔石が心臓だったか。たしかに、その継ぎ接ぎだけを再生させるに魔石がなければ、再生することは不可能であろうな」
そう言ってグルットは残った頭のほうに近寄ると、弟子が目を鋭くさせる。
「師匠、どうしました? 行きますよ」
「ちょっと待て。この研究素材を持ち帰ろう」
「ふざけないでください!! 行きますよ!!」
弟子がグルットを羽交い締めにして連れて行こうとすると、グルットは手足を暴れさせて必死の抵抗を見せる。
「待て! それを持ち帰る!」
「ダメです! 帰りますよ!!」
「待てって、いっているだろう!!」
弟子の苦労は続く。
ゾンビを回収しようとするが、弟子に阻まれるグルット。
グルットは持ち帰ることができるのだろうか!
次回、テンペストのお話