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崩壊世界の異能者 ~気づいたら世界が生まれ変わっていました~  作者: 佐藤龍
第一の遺跡 目覚める怨念達≪ゾンビ≫
17/33

第十七話 呪縛の解放とその苦しみ、そして相変わらずのお兄ちゃん

 目の前にいる少年のゾンビの異能を知っている。

 簡単に言えば、地を操る異能だ。

 ただし、ユウの異能の劣化ではなくさらに詳細、地面だけでなく砂や砂鉄なども操れる。

 

 ユウの場合は地、地面や岩しか扱えない。

 広く浅いのがユウの異能で、狭く深いのが少年のゾンビの異能だ。

 それでもユウは倒すことができたのには、勝つ方法を知っているからだ。

 

「お久。元気? もう一回死んで」


 ユウは笑顔で話しかけ、即座に氷の異能を発動する。

 一瞬にしてユウと少年のゾンビ、後衛のいる所まで床、壁、天井が氷で埋め尽くされた。

 

 異能者同士の戦いは初手に相手を妨害し、どれだけ自分に有利な展開を作れるかで決まる。

 少年のゾンビが異能で床を操るが、何も変化は起きない。

 それもそのはずだ。

 既に手は打った。

 氷が床、壁、天井が氷で埋め尽くしたお蔭で操る前に氷を壊さないといけない。

 

 変化しない床に驚きを見せる少年のゾンビに、僅かな隙が生まれる。

 その動きをユウは予測してあり、既に動いていた。

 右足に光属性を込め、顔目掛けて左に向かって蹴ろうとする寸前、少年のゾンビが顔を上げて気づいた。

 

 遅い!!

 

 ユウの思惑通り、光属性の籠った右足が少年のゾンビの頭に当たり、左方向に吹き飛んで壁に激突する。

 

 感触が違う。

 防がれたか。

 

 頭を蹴った感触が異なり、ユウは壁に激突した少年のゾンビに目を向ける。

 そこには顔の左の部分に大きな岩が顔を覆い、蹴りが当たったせいでボロボロと崩れていた。

 

 使い捨てか。

 それでも、防がれたのは痛いな。

 

 床を操れなくても、何もない所から地面や岩を出すことは出来る。

 流石にユウでも出すことは防げないが、一つでも選択肢を減らすことで戦いを有利に運ぶ。

 

 もっとだ。もっと来い。もっと俺を楽しませろ。

 

 命のやり取りをしているせいか、ユウの心を盛り上げる。

 

 右手を握りしめて光属性を込め、間合いを詰めた。

 壁に激突した少年のゾンビがユウを避けようと動こうとするが、それよりも速くユウの方が辿り着くことが分かり、逃げるのをやめて守りに入る。

 

 目の前の床が分厚い氷を破壊し、壁が下から伸びて少年のゾンビの姿を隠す。

 

 無理矢理突き破るか。

 だが。

 

 ユウは動きを止めず、近寄る。

 その間、床に広がる氷が新しく出来上がった壁を侵食していく。

 侵食する時間は片手の指で足りる程度の、僅かな時間。

 

 それだけで雌雄は決した。

 壁の手前で立ち止まり、ユウは光の籠った右手を壁に撃ち込む。

 頑丈そうな壁だが、氷が侵食したことであっさりと貫通して少年のゾンビに突き刺さる。

 

 勝った。

 

 ゾンビに光属性が当たれば一撃で滅することができる。

 そして、今、触れた。

 ユウが勝利に酔っていると、柔らかい氷に侵食された壁は脆く、あっさりと崩れて隠れていた少年のゾンビの姿を晒す。

 

 少年のゾンビは笑っていた。

 穏やかな笑みを浮かべ、こちらを見る。

 そして、口がゆっくりと、だが確実に動く。

 口が動くだけで何を言っているか分からないが、本能が理解した。

 ありがとう、と。

 

 そして、少年のゾンビは湯気となって消えていく。

 

「は?」


 どうしてありがとうと言われる?

 俺は殺したいから殺しただけだ。

 何故お礼を言われる。

 

 ユウは自分が悪いことをしていることを認識している。

 だからこそ、お礼を言われる理由が全く分からなかった。

 

 なんで俺がお礼を言われる?

 俺が殺したくて殺しただけだぞ!

 

 何度も何度も同じ言葉をループする。

 そのことにユウは気づいているが、答えがでずにずっとループしていく。

 

「クソが!」

 

 右足でさっきまで少年のゾンビがいた壁を叩きつける。

 同時に、周りの邪魔な氷を消す。

 ダストのように氷は細かくなり、キラキラと落下していく。

 

 そんな幻想的な中で、ユウはずっと毒を吐き続ける。

 溜まった鬱憤を晴らすように、言葉と一緒に身体が動く。

 

「クソがッ!!」


 壁に触れる右足を蹴って床に戻し、光の異能を発動させる。

 左手を右から左へ横に動かすと、なぞるように光の球体が幾つも生まれる。

 

「駆けろ! 閃光!」


 光の球体は生きているように、複雑な動きで後衛を飛び越え、前線で戦っている者達に辿り着く。

 目の前で戦っていたゾンビの顔に光の球体が貫通し、湯気を上げて消える。

 

 それがいろんな場所で起き、ユウはその光景を見ずに壁に背を預け、ズルズルと落ちていく。

 

「どうしてお礼を言われる? 俺は殺したんだぞ……」


 言葉として吐き出すが、答えは誰も返ってこない。

 

 

 

 

 

 

「無事か?」


 ワンの声に、ユウは顔を上げる。

 

「酷い顔じゃな。初陣で初めて人を殺した新兵のような顔じゃ」


「そんな場所に出くわしたのか?」

 

「まあの。それで、どうしてそんな酷い面構えをしているんじゃ」


 ワンはユウの隣に座り、話を聞く。

 それが凄く有り難かった。


「お礼を言われた」

 

「お礼?」


「ああ。俺が殺したのに、ありがとう、って」


「そうか。お主はまず、ゾンビという魔物のことを知らない駄目じゃな」


「ゾンビ? それは既に聞いたぞ」


 一度、ワンの家でエンリから聞いた覚えがユウにはある。

 

「それはただのゾンビじゃ。今回は上位種のゾンビの話をしよう。普通のゾンビと比べて、上位種のゾンビは自己がある」


「自己? 意思が存在するということか?」


 その言葉を聞いて、ユウの顔色が良くなり始める。


「うむ。意思というより、記憶じゃな。それに基づいて動いている」


「なるほど。だけど、どうしてあそこでお礼を言う?」


「解放したからじゃろう」


「解放? 俺が?」


「そうじゃ。ゾンビというのは、なりたくてなるものじゃない。この地下でずっと動いている意識はあったんじゃろう。死んでも尚身体に縛り付けられて、やっと解き放ってくれた。だから、お礼を言ったんじゃろう」


「なるほど。だからお礼を言ったのか」


 ワンに教えられ、ユウはやっと礼を言われた理由に気づく。

 もし、同じ状況だったらユウもお礼を言っていただろう。

 しかし、


「それでも俺は、お礼を言われるような人間じゃない」


 ユウは否定する。

 自分でも理解している。

 妹のアスカを助けるために、この両手を赤く汚してきた。

 その屍の上に立ち、そんな状況で楽しんでいた。

 善人なんかではない。

 

「なら、次はお礼を言われる人間になればいい」


 ワンの言葉に鎖で縛り付けられた、ユウの心が揺れ動く。

 

「お主が何人殺したのか分からん。なら、次はその数だけ救えばいい。それだけ、お主は犠牲にしてきたんじゃろう?」


「ああ、そうだな。俺は犠牲にしてきた。何かも」


 全てはアスカを救うため。

 アスカを救うために行って来た。

 

 そうだ、俺はすっかり忘れてた。

 アスカを救うためにここまでやって来たんだ。

 戦いを楽しむためではなく、アスカを救うために。

 

 娯楽のない研究所で楽しみは戦いしかなかった。

 それはユウにとって偽りの求めるものであり、本来の求めるものは妹の安否と安全、救いだ。

 そのことにユウは気づく事ができた。

 

 俺がお礼を言われる人間じゃないのは、既に分かり切ったことだろう。

 他人のことなんてどうもでいい。

 アスカに誇られるような兄になろう。

 

「よし! 俺はアスカにお礼を誇られるように頑張ろう!」


 ユウが立ち上がって右手をグッと握りしめると、ワンは呆けた顔をする。

 

「どうしてそうなるか分からんが……立ち直ったのならまあ良い」


 てっきり、皆にお礼を言われるように頑張る、という答えを待っていたワンはそんな風にユウの答えが出るとは考えておらず、ユウに対して何も言わない。

 きっと、自分が思っていたのと別の方向に考えてしまうからだ。

 

「そういえば、皆は?」


 ずっと壁際で座り込んでいたため、あのあとがどうなっているのかユウは知らない。

 

「戦闘は既に終わっとる。怪我人も少しおるが、重症ではないから大丈夫じゃ。今は夜番の準備をしておる。できれば安全な所で取りたいが、そんな場所は知らんからのう。ここで眠ることにした。お主も皆の近くで休むといい」


「もうそんな時間なのか」


 遺跡の中で時間が分からないが、空は既に真っ暗だ。

 探求者達はある程度固まり、焚き火をしながら食事を取っていた。

 ユウが近寄ると、探求者達は口々に礼を言う。

 

「あの時は助かったぜ。ありがとう」


「ワンさんの助っ人だけあって、強いな」


「良ければ俺達のパーティーに加わらないか?」


「ちょっと待て。それはさっきのゲームで誘う順を決めたろ!」


「その前に、ワンさんが断ったでしょ。馬鹿共!」


 どうしてお礼を言われるのか分からず、ユウは笑顔を取り繕う。

 

「ああ、どういたしまして」


 彼の歩みはワンのいる場所、エンリ達が集まている場所だ。

 彼女達は焚き火を囲うようにして夕食をとり、ユウがやって来たのに気づいてお礼を言う。

 

「さっきは助かったよ。ありがとう」


「お礼を言われるのはいいが、どうして言われる?」


 エンリ達が近くにいるからこそ、ユウはやっと本音を言える。

 すると、ユズハは首を傾げる。

 

「どうしてって、僕たちを救ってくれたじゃないか。あの光の球のお蔭でだいぶ助かったよ」


「ああ、あれか」


 思いつきの技。

 

 お礼の理由を理解し、少し恥ずかしくなる。

 あの時、あれは完全に情緒不安定だった。

 それでお礼を言われるとなると、少し恥ずかしくなるし、あの変な技みたいなのも完全に思いつきで、いつもはあんな事を口に出さない。

 

 中二病のようで恥ずかしくなり、ユウも食事は始める。

同類を倒して、自分を思い出したユウ。

ある意味、二つの性格(お兄ちゃんと研究所での戦闘好き)により起きた悩み。

まあ、いつも通り解決したんですけど。


次回は別の班の視点です

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