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崩壊世界の異能者 ~気づいたら世界が生まれ変わっていました~  作者: 佐藤龍
第一の遺跡 目覚める怨念達≪ゾンビ≫
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第十五話 侵入

 中は白く綺麗な状態だ。

 ゾンビがいるとは思えないほどに綺麗で、疑ってしまう。

 三つに分かれた班は、同時に入る。

 探求者達の数は多く、横に広がれば壁にぶつかるため後ろに列ができていた。

 

 戦闘では動きにくく邪魔になるため、班ごとにある程度隙間を空けている。

 戦闘はグルットの班。

 彼らは二階の調査をするため、先頭を移動している。

 

 ワンとテンペストの班は一階の調査であり、最後尾がワンの班だ。

 ただし、ワンの、というよりユウの本命は別にある。

 二階、一階、ではなくさらに下、地下だ。

 

 人に見せたくない物は隠したくなる。

 それ故、地下に危険な物が多く存在しており、ワンはこの事を知らない。

 通信機のヘッドホンにあるスイッチを入れ、マイクを使う。

 

「ワン、聞こえるか?」


 ユウは周りの誰にも聞かれないよう、小声で話す。

 周りの探求者達は、ユウがこの遺跡の関係者だということを知らないため、聞かれたくない。

 

「なんじゃ?」


「本命は地下だ。そこに多分原因が存在すると思う」


「ほう、地下か」


 ユウの言葉を聞き、ワンは獲物を狙う淡々と狙う狩人のような楽しそう声を上げる。

 

「行き方はそれとなく教える」


「頼むぞ」


「ああ」


 通信を切り、ユウはどうやって誘導しようか考える。

 ここで大事なのは、どれだけ自分が関係者だとばれないか、違和感なくそれとなく教えられるか、だ。

 

 さて、どうするか。

 

 行き方、方法は知っている。

 あとは教えられるだけだ。

 

 ユウは考えていると、前が止まった事で歩みを止める。

 止まった理由を考え。耳を澄ませると戦っている音は聞こえない。

 音が聞こえない事から、戦闘で止まっている訳ではないということが分かる。

 そうなると、止まったのはきっと丁字路だろう。

 

 右に行けば、初めにユズハ達とあった場所に辿り着く。

 左に行けば行き止まりだが、地下に行くには左に向かわなければならない。

 

 再び歩き出して進むと、思っていた通りに丁字路にぶつかった。

 ユウが左に行こうと伝える前に、ワンはフィーと少し会話をして躊躇なく左に進みだした。

 まるで、地下の道を知っているような感じだ。

 

「左に進むのか……」


 言わなくても思っていた通りに進み、ユウは驚いているとエンリが近寄る。

 

「ええ、前は右に行ったから。今回はその反対に行こうという話になったのよ」


「なるほど」


 エンリの言葉を聞き、ユウは納得する。

 グルットとテンペストの班は右に進んだようで、ある程度の広さを確保できたことで全体的に広がる。

 

 左の道に進んでも、ゾンビに襲われることはない。

 それが不自然で不快で、ゾンビがいないのではないか、という思考により未だゾンビを見たことない探求者達に油断を広げていく。

 

 そもそも、全てのゾンビが上位個体という信じられない話が嘘出任せではないのか、と思い始める者いる始末。

 

 ユウは一切の緩みを見せず、警戒している。

 ここには良い思い出は一つもない。

 起きれば実験と殺し合い、寝てまた起きれば実験と殺し合いの日々。

 永遠と続く地獄に、良い思い出があるわけがない。

 

 進むと両側の壁に扉があるが、入るにはカードキーが必要で入ることはできない。

 それに、今回の目的はゾンビの原因を調査、撃滅である。

 物色している暇はない。

 

 ゾンビのいない道を罠がないかも警戒しながらゆっくりと歩き、やっと行き止まりに辿り着いた。

 そこは後ろ以外の周りが白い壁で、前には手が入るほどの長方形の黒いタブレットがある、違和感しかない袋小路だ。

 

 前方の壁にあるタブレットの指紋認証で、扉がスライドして地下に行くことができる。

 ユウは皆に地下への行き方をそれとなく教えようと前に出ている時、フィーが真剣な目で床を見つめていた。

 

 気づいてる? なら。

 

 それに気づき、ユウは教えるやり方を変える。

 

「フィー、どうした?」


 知らないように、ユウはさり気なく尋ねる。

 

「ちょっと、空気の流れが少しおかしいな、って」

 

 地下への扉の隙間が漏れ出ている風に気づいているのか……。

 

 ユウはまだワンにしか、地下室のことを教えていない。

 なのに、既に気づく一歩手前にまで行っているフィーにユウは驚きを隠しきれなかった。

 

「そ、そうか。なら下になにかあるのかもな」

 

 ユウはしゃがみ、床に右手をペタペタと触れ始める。

 他の探求者達も、フィーの言葉を聞いてユウと同じように風が漏れている場所を探す。

 

 確かここ辺り……あった!

 

 地下の行き方を知っているユウは他の誰よりもアドバンテージがあり、一早く見つけることができた。

 

「見つけた。全員、下がって」


 ユウの言葉に、周りにいた探求者達は後ろに下がっていく。

 周りに誰もいなくなると、ユウは右腕を振り上げると地の異能を使う。

 右腕を中心に岩が生まれ、モリモリとくっついて巨大な右腕に変わる。

 

 右手を握りしめて振り下すと、床は耐えきれずヒビが入って破壊した。

 その大きさは人一人が入れるほどの大きさで、地下に続く階段に壊れた床が転がっている。

 

 ユウは異能を解いて右腕に張り付く岩が消え、何も言わずに地下に進んでいく。

 

「ちょっ!」


 盗賊を置いて先に進むユウに、探求者達は慌てて後を追う。

 初めての遺跡で、罠を確認せず進む探求者は自殺志願者と変わりない。

 それ故に、彼らは慌てていた。

 

 その後ろで、ワンは通信機でギルドマスターに連絡を入れる。

 

「地下への道を見つけた。ルートは左右の分かれる道で左に行けば辿り着ける」






 ワンの声が機械のスピーカーから聞こえた。

 

「だそうですよ。ギルドマスター」


 そう言うのは不真面目で仕事しないギルドマスターの保護者の、ギルドの女性職員だ。

 鋭い目に眼鏡で黒髪はキッチリと固められてお堅い印象があり、それが原因で今まで付き合った相手はいない。

 その理由は、隣で寝転んでいる人間に付き合っているのも一つの原因だ。

 

「そう、見つけたのかー」


 折り畳みの椅子三つを使って横になりながら、ギルドマスターはワンの声を聞いていた。

 両手を頭の後ろに置いて枕代わりにし、足を組む姿には女性のおしとやかさは全くない。

 どちらかというおっさんくさい。

 

「他の二つの班に伝えて。地下の道を」


「はい」


 近くにいた男性職員がマイクを使い、ワンを除いた二つの班に連絡を入れる。

 その裏で、ギルドマスターは不敵に笑う。

 

「すぐに見つかったのは上々。ゾンビの被害の連絡もないことからゾンビはでてきていないのかしら? まあ、それはあとでいいか。まずは原因。それさえ知ればやりようはいくらでもある」


 その姿は今までのやる気のないギルドマスターを見れば、目が飛び出るほどの違いで、残念なことにこの姿を見た者はあまりいないことだ。

 しっかりとした姿に、ギルドマスターの保護者であるお堅い職員は深いため息を吐いた。

 

「どうしていつもこの調子じゃないのかしら」


「ちょっとー!! それはここのが広い私でも聞き逃せないよ!!」


 途端にギルドマスターの雰囲気は変わり、子供のようにぷんぷんと怒り出した。

 

 

 

 

 

 地下は真っ暗で、地獄そのものだった。

 一番初めの歓迎は、ゾンビのハグだ。

 四方八方からハグして来ようとするゾンビ達に、ユウは光の異能を使う。

 

 全方位に眩い光が放ち、視界を塗りつぶす。

 人が喰らえば一時的に目が使い物にならなくなるが、ゾンビは目で相手を狙っているため効きはしない。

 だが、光を近くで浴びたゾンビ達は苦しみだす。

 その身体は湯気がゆらゆらと上って身体が燃えているように見え、効果があることが理解できた。

 

「地下に来るのを待っていたのか。なら褒美だ、受け取れ」


 ゾンビに対抗できる手段があると知れて、ユウは今までの恨みや鬱憤を晴らすべく強者の顔に変わる。

 頭上に幾つもの棒状の光の槍が生まれ、間髪入れず一発ずつ放つ。

 全方位に放たれる光の槍はゾンビの腹に光の槍が当たり、触れた部分から広がるように身体が消えていく。

 

 身体が再生するゾンビでも、きちんと弱点を突けば倒すことができた。

 もしこれが前と同じように炎や氷で攻撃しようものなら、今頃ゾンビの海に飲み込まれて熱い抱擁を受けて身体がぐちゃぐちゃにミンチになっている所だろう。

 

 辺りからゾンビが消え、ユウは光の球体を一つ、二つと生み出して浮上させ、辺りを確認するために散らばせる。

 周りにはゾンビいない。

 そして、何も変わらない。

 一階と変わらず白い壁だが、所々暗い赤い汚れが壁一面に広がり、巨大な生き物が爪で引っ掻いたような傷もある。

 

 本当に、何も、変わらない。

 それだけで、ユウはワン達と一緒にいたぬるま湯の気分から冷水を浴びせさせられたような、元に戻されたような気分だ。

 

「懐かしいよ。全く」


 吐き気がする、とユウが溢すと階段から探求者達がやってきた。

 

「とっとと探索を始めよう」


 こんな所に長くいたくないユウは、平静を装う。

 もし装わなければ、明らかに異常だとばれてしまう。

 何故なら、こんな地獄で尚、笑っているからだ。

地下に入ったらゾンビの熱い歓迎を受けたユウ。


次回は同類と会います。

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